2014
10.27

血圧下げるは何のため?

 カンデサルタン(ブロプレス®)やオルメサルタン(オルメテック®)などのARBは良く処方されている降圧薬で、レニン‐アンジオテンシン系を攻めるタイプ。レニンとアンジオテンシンの関係は、以下の様になっています。

 アンジオテンシノゲンがレニンによってアンジオテンシンIになり、そのアンジオテンシンIがACEによってアンジオテンシンIIになります。このアンジオテンシンIIが多くなりすぎて余分に受容体へペタペタくっつくと、血圧が上がったり様々な臓器に障害が起きたりする、と言われます。懐かしい生理学ですね…。”アンジオテンシノゲン”なんて単語、久々にパソコンで打ちましたよ。

 さ、そのARBは、アンジオテンシンIIが受容体にくっつくのを邪魔することで降圧効果と臓器保護効果を産む、とされています。同じ系に作用するタイプとして、ACE阻害薬というお薬があります。ARBよりも先につくられた古参で、ACEを邪魔することでアンジオテンシンIがアンジオテンシンIIになるのを防ぎます。ACE阻害薬にはエナラプリル(レニベース®)やカプトプリル(カプトリル®)などがあります。

 ということは「おや、両方似たようなもんじゃないか。なら、ARBとACE阻害薬のどちらが良いの?」という疑問も出てきましょう。

 降圧そのものについては、ACE阻害薬はなぜか日本の添付文書では用量が低く抑えられており、通常量では十分な降圧が出来ない患者さんが確かにいます。対してARBは添付文書の用量が欧米と同じ。そうなると、添付文書に記載されている量を使うとARBの方が血圧が下がり、医者は「やっぱACE阻害薬は降圧効果弱いなぁ」と判断してしまいます。初期設定でパワーを50%しか出せないようにされたお薬と100%最初から出せるお薬とを比較したら、そりゃ結果は異なりますよ。ちょっと日本の添付文書はおかしい。だから自分はACE阻害薬を出す時は添付文書に設定された通常量を上回って出すこともあります。

 いわゆる臓器保護効果についてですが、これは心筋梗塞や脳卒中を防ぐことなどが挙げられます。ARBはそれらを防ぐんだと一時期言われましたが、これは有名になってしまったバルサルタン(ディオバン®)のKYOTO Heart StudyやJikei Heart Studyによるもの。これらの論文は不正があったため撤回されたのは記憶に新しいですね。この臓器保護効果については様々なメタアナリシスが行なわれ、ほぼACE阻害薬が勝るということで白黒ついております。

 例えばこの論文(Cheng J, et al. Effect of angiotensin-converting enzyme inhibitors and angiotensin II receptor blockers on all-cause mortality, cardiovascular deaths, and cardiovascular events in patients with diabetes mellitus: a meta-analysis. JAMA Intern Med. 2014 May;174(5):773-85.)。これは糖尿病患者さんにおいて、全原因死亡、心血管死亡、心血管リスクなどでACE阻害薬とARBのどちらが優れているかというのを見たもの。結果、ACE阻害薬は全原因死亡率、心血管死亡率、心血管リスクいずれも減少させました。対してARBはそのような効果はなく、心不全のリスクを30%ほど低下させた程度。脳卒中単独の発症リスクはどちらも低下させなかったとしています。

 そしてこちら(Savarese G, et al. A meta-analysis reporting effects of angiotensin-converting enzyme inhibitors and angiotensin receptor blockers in patients without heart failure. J Am Coll Cardiol. 2013 Jan 15;61(2):131-42.)。心不全をまだ合併していない患者さんでの比較。そこでは、ARBは心血管死亡、心筋梗塞、全原因死亡、心不全発症を減少させませんでした。ACE阻害薬はこれらを減少させましたが、心血管死亡では有意差が付かなかったとのこと。

 こういったことを見ると、ARBがACE阻害薬に完全に勝っているということはなく、むしろ劣っている。患者さんの病態を鑑みても、同等になるのは限られた状況になるんじゃないかなと思います。臨床試験結果が多く出されているにもかかわらずARBばかり日本の医者が出しているのは、製薬会社のマーケティングが成功してしまって、かつ自ら処方する根拠を探し求めない態度にあるのかもしれません。学会があまり正常に機能してこなかったというのもあるでしょう。確かにACE阻害薬は空咳の副作用は多く、稀ですが血管浮腫というのも生じます。ですが、心臓や脳を守る、ひいては患者さんをより良い生活に導きやすいという、降圧+αを考慮するならば、どちらをまず使うかは明らかなはず。ARBはACE阻害薬が使えないという際の次善の策とも言えますね。今回は他の降圧薬はちょっと置いておいてACE阻害薬とARBの比較でしたが、もちろん血圧がめちゃくちゃ高い場合は、まず降圧そのものが臓器の保護につながるという観点から切れ味のいいCa拮抗薬を最初に使うこともあるでしょう。

 お薬というのは、処方の延長線上に”患者さんが長く健康で幸せに暮らせる”ということをイメージして使われるべきです。糖尿病についても同じで、HbA1cを下げるだけならアカンのです。日本の糖尿病治療は+αの部分をしっかりもっているメトホルミンを使わずにSU薬ばかり処方してきた経緯があります(SU薬の方が薬価が高くて製薬会社が儲かる)。そして、今度はDPP-IV阻害薬が出たらすぐそれを最初から使う(DPP-IV阻害薬もお高いですよ)。そんな治療は乱暴です。患者さんの生活/人生を考えた治療を行なわなければいけません。

 あ、ちなみにARBとACE阻害薬の併用はダメダメです。有害事象ばっかり増えて良いことありません(Nikolaidou B, et al. Combined angiotensin inhibition in diabetic nephropathy. N Engl J Med. 2014 Feb 20;370(8):778-9.   Makani H, et al. Efficacy and safety of dual blockade of the renin-angiotensin system: meta-analysis of randomised trials. BMJ. 2013 Jan 28;346:f360.など)。添付文書にも記載されるようになりましたしね。
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