2014
12.10

臨床のワンフレーズ(1):神経が疲れた

Category: ★精神科生活
 今回から不定期に、自分が臨床で使っているフレーズをちょこちょこと挙げていこうと思っています。というのも最近忘れっぽくてですね、備忘録的な…。患者さんにかける一言というのは結構大事なもので、適切なタイミングで放たれた言葉は患者さんのこころにぐっと来るようです。中には「先生があの時に言ってくれたあの一言が良かったです」と話してくれる患者さんもいますが、自分は「あれ、そんなこと言ったっけな」と思いながらも、うんうんと頷いているのでした(おい)。

 自分の使う言葉は、メタファー(比喩)が多めでしょうか。ちょっと記憶に残りやすいような感じがしていて、診察室の外の日常生活でも患者さんに働きかけてくれることを期待して用いています。同じ内容を異なる言い回しで複数回伝えるというのも良いですよね。精神分析的な見方をして転移解釈とか直面化とかを行なうというのはほとんどありません(というか、出来ない…)。誰でもできる、患者さんを勇気づけて「人生いろいろあるけど何とか生きていこう」と思ってもらえるようなフレーズ。それを目指して診療をしてます。

 誰でもできる/言える、というのがポイントで、小難しいことは抜きです。もちろん薬剤治療を行なうというのを前提としていますから、大きな効果を狙ってはいません。

 ということで、今日は”神経”という言葉。日本語の”神経”はnerveの訳語ではありますが、意味となるとちょっと異なってくるようにも思います。もちろん専門用語としての”神経”はnerveに対応してますし、精神科的には”神経細胞”のneuronを思い浮かべます。

 しかし、日常語の”神経”はどうでしょう? 診察の中で自分が使って患者さんにも納得してもらえる表現は


神経が疲れた感じ


 というもの。うつ病の患者さんや統合失調症の急性期が過ぎた消耗期の患者さんにこの言葉を使って聞くと、とても納得してもらえます。他にも「神経がすり減る」「神経が参っちゃう」「神経が緊張する」とか、良くなってきた表現として「神経がほぐれる」「神経が休まる」「神経が楽になる」などなど。”神経”を使った表現は患者さん側にストンと来るものがあるようです。統合失調症の消耗気の患者さんを例に出すと

自分「どうですか?」
患者さん「いやぁ、ちょっとやる気が出なくて部屋で横になってることが多くて…」
自分「ちょっと神経が疲れたような感じでしょうかね」
患者さん「あ~、そう、そんな感じだ」
自分「あの時は逆に神経がピーンと張ってましたでしょ。頭の中が忙しくて」
患者さん「うん。大変だった」
自分「それだけ緊張してたんですから、今は神経が疲れる方が自然だと思いますよ」
患者さん「そうかい?」
自分「そんな気がします。だから疲れた神経を休めるのが大事。お部屋で横になるのは良いことかなと」
患者さん「そうかぁ」
自分「神経の疲れが取れてきたら、また少しずつですね」
患者さん「分かった。ありがとう」

 こんな感じ。統合失調症の急性期は”頭の中が騒がしい””頭の中が忙しい”とも表現されます。神経が張る/緊張するというのを同列にして、そこから神経が疲れるのは自然の成り行きであるとつなげて、消耗期はその疲れを取るために心身ともに休むことを肯定します。

 この”神経”でふと思ったんですが、日常語の”神経”は、器質の代表格である”脳”と、とらえどころがないけれどもみんな持っている機能としての”こころ”の中間にある存在ではないかな、と。自分が脳とこころを分ける二元論を推奨しているわけではありません。ただ、一般的には”脳とこころは共通しているところとどこか別なところがある”というイメージがあるのではないでしょうか。

 ”神経”という日常語は、ちょうどその両方の意味を持つというか、脳とこころの重なり部分であるような印象を持っているんです。だからとても患者さんに説明しやすく、患者さんもこのファジイな言葉を受け止めやすいんじゃないかなと想像。もちろん、個々の患者さんでその比率は異なるでしょうし、人によっては”神経”と聞くと完全に”気”とか”こころ”と同一視しているかたもいらっしゃるのは事実。そこは注意が必要でしょう。

 そんなこんなで多用しているんですが、「ははぁ」と思ったのが、この”神経”という言葉そのもの。これは杉田玄白先生たちが解体新書を翻訳する時に、”神気”と”経脈”とを合わせてつくったnerveの訳語なんでございます。だからこそ、物質も気も流れるイメージがしっくり来るんですね。そこから”脳”と”こころ”の両者にまたがる感覚があるのでしょうか。

 ということで、”神経”という言葉を診察で使うと患者さんと理解の共有がしやすくなる場面に遭遇します。
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コメント
いつも楽しく拝見させて頂いてます。たしかに神経という単語には特別な意味合いを感じますね。逆に、外国ではnerveに同じような意味合いは無いということでしょうか?
dot 2014.12.11 10:01 | 編集
名無しでコメントを下さったかた、ありがとうございます。

英語のnerveにも感情面を含んだ意味があります。ナーバス(nervous)という単語もありますし。
ただ、イライラやパワーと言った、膨れ上がる様な印象を持ちます。
日本語の神経は曖昧さが強く、英語のnerveよりも辺縁がクリアではありません。その分、様々な意味を込めることができるのかもしれませんね。
m03a076ddot 2014.12.12 08:00 | 編集
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