2014
10.23

初診の初心、忘るべからず

Category: ★本のお話
 北里大学の教授である、宮岡等先生の心得本。

こころを診る技術 精神科面接と初診時対応の基本こころを診る技術 精神科面接と初診時対応の基本
(2014/06/30)
宮岡 等

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 若手の精神科医にはとても良い本だと思います。1つの流派にこだわることなく、薬剤においてはベンゾジアゼピン系への注意喚起もなされており、すべてにおいて冷静な眼を持っている、という印象。でも患者さんを思う気持ちの強さもしっかり出ています。もう少し掘り下げても面白かったんじゃないかとも感じてしまいますが、”ぱっと読んでみる”というページ数を考えるとこれが限界なのかもしれません。精神科医1年目や精神科を目指す研修医の先生に向いている本でしょう。

 以下、ちょっと気になる点を。

 まず、早く診断をつけるべしというところ。状態像でとどめておいて診断は後でしっかりという立場では無いようで、現在与えられた状況で鑑別疾患を挙げて診断を早くつけようとすることが大事と述べておられます。これは宮岡先生くらい熟練した精神科医なら良いかもしれません。若手が急いで診断をつけると、そのラベリングを剥がす勇気を後で持てるかどうか? 宮岡先生は焦って診断することを言っているわけではなく、最大限の情報を集めてその上で冷静に診断を付けるようにということを示したいんだと思いますが、本をペラペラっと表面だけ読むと若手が間違って”拙速”的に診断をしてしまいそうな気もします。一度思い込むと、患者さんの話す症状を無意識に自分に有利なように変換してしまうこともありますから。よって、自分は早めに診断をつけることを否定は全くしませんが、片足はしっかりと退いておくのが大事だと思います。攻める姿勢と守りの姿勢、この両方を持っておくみたいな。だから若手のうちはちょっと留保しておいた方が大きな失敗をしない様にも感じます。これは個人的な意見ですが。

 あと、宮岡先生は本の中でSDM(Shared Decision Making)を薦めていますね。患者さんと一緒にチームを組んで治療するんだという意識の中で生まれたこの考えですが、パターナリズムの反動ではあります。でも、SDMによって統合失調症の入院患者さんがお薬を選んだ時の満足度は高かったものの、退院時にはそうではなかったということも言われていますし、変なことに治療者の満足度は高かったとのこと(Hamann J, et al. Shared decision making for in-patients with schizophrenia. Acta Psychiatr Scand. 2006 Oct;114(4):265-73.)。嫌な言い方をすると自己満足的な結果になりかねません。SDM幻想とも言えてしまうかも。古いかもしれませんが、やはり医者という立場の者が知識とそして責任を持つというスタンスもやっぱり捨てちゃいけない部分だと思っています。「僕が思ってたのと違ったけど患者さんが選んだ治療だし、SDMって言うし、僕の責任じゃないもんね」とか「SDMやってるオレってカッコイイ」という風になってしまってはいけない。SDMというのがひとり歩きしてしまうと、治療がうまく行かなかった時の免罪符になる危険すらある、とも思います。

 他に言うこととしては、プラセボと抗うつ薬の部分。本には

「~薬効のないプラセボでもある程度よくなっています。抗うつ薬を飲んでみますか」が適切な説明であるといえることを示している

 という風に述べられていますが、これってどうでしょう? ご批判を受けるかもしれませんが、「これは薬効のない小麦粉です」と前もって言ってしまうと、それはもうプラセボではなくなるんじゃないかなぁと思っちゃいまして。ただ、片頭痛では「これプラセボよ」って言って渡しても患者さんに良い効果を示したようです(Kam-Hansen S, et al. Altered placebo and drug labeling changes the outcome of episodic migraine attacks. Sci Transl Med. 2014 Jan 8;6(218):218ra5.)。なかなか一筋縄ではいかんですな。。。

 精神科を特殊とするわけではありませんが、患者さんに「これは精神科の医者が私の症状が良くなる手助けとして出してくれたお薬だ。副作用についても話してくれたし、養生もして診察を受けていこう」と思ってもらうこと自体が治療になり、いわゆるプラセボ効果をも産みます。臨床試験においてプラセボが実薬の強敵であるのは、このことと臨床試験ならではの密な診察(一般の診察よりも臨床試験では聞くことが多くなり、診察の間隔も短くなります)ということが事実として外せません。なので、”プラセボvs.抗うつ薬”ではなく”明らかな小麦粉vs.抗うつ薬”で、かつ一般的な診察の枠組みではまったくもって治療効果は異なるんじゃないかなと空想しています。あくまで空想。

 医者が「小麦粉でも良くなるんだけど、抗うつ薬飲む?」と聞いたら治療関係も何だかなぁという感じ。それを聞いた患者さんが「よーし、じゃあ小麦粉飲んで治すぞ」とも思えないでしょうし。あ、でも中には「要は気持ちの持って行き方なのね」と考えて楽になる患者さんも中にはいらっしゃるかもしれんですね。そういう患者さんは病態が浅いのだとは思いますが。とはいえ、本に書かれた表現ではちょろっと誤解があるように思います。もうちょっと詳しめに書かれたほうが良かったのでは。

 上記のように気になる点はありますが、総じて若手が初診や初期診療の際に読むに優れている本です。短時間で読み終えることが出来ますし、ちょっと時間が空いた時に読み返してみるのも良いのではないでしょうか。
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コメント
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。

宮岡先生の本はこちらをはっとさせるような内容が多いですね。大人の発達障害の本もそうですし。
臨床でほんとうに大事なポイントが押さえられているので、若手精神科医が読むとためになると思っております。
鶴舞公園は近所なのでふらふらと出かけることが多いです。季節の移り変わりは色々なところで、ある部分はダイナミックに、そしてある部分は少しずつ、見ることが出来ますね。
m03a076ddot 2014.10.23 19:37 | 編集
管理人用閲覧コメントをくださったかた、ありがとうございます。

初診では確かに色々と話を伺います。
精神科ではこれまでの生活や人間関係に思いを馳せることが治療に重要なので、「嫌だなぁ」と思うようなことも聞く必要がある場合もあります。
ただ、その時は「ちょっと言いにくいことを聞きますけど…」と前置きしますし、「答えづらかったら無理せずに言ってくださいね」とも付け足します。
そのような言葉がなかったのであれば、おっしゃるように不快な気分が強く出たかと思います。
大事なのは、我慢せずに患者さんの方から「ちょっと言いにくい」ということを宣言してもらうことだとおもいます。ご自身を守るためにも。
m03a076ddot 2015.08.18 12:08 | 編集
管理人用閲覧コメントをくださったかた、ありがとうございます。

言いたくないことはお伝えし、担当の先生と気兼ねなく話せるような雰囲気を時間をかけてともに築いていくことを目指すと良いかと思います。
短期で焦らず、長期でゆとりを持って取り組んでいきましょう。
ただ、あまりにもデリカシーに欠ける医者もたまーにいますので、その時は無理をしないようにすることが大切です。
m03a076ddot 2015.08.25 01:29 | 編集
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