2014
11.22

PPI長期処方のリスク

 PPI(プロトンポンプインヒビター)は胃酸を抑えるお薬で、良く処方されます。医者の処方閾値はだいぶ低い部類で、手軽に気軽にぽいっと出す。日本では、オメプラゾール(オメプラール®/オメプラゾン®)、ラベプラゾール(パリエット®)、ランソプラゾール(タケプロン®)、エソメプラゾール(ネキシウム®:オメプラゾールの光学異性体)の4つが今のところ出ています。

 そんなPPIですが、やはりお薬なだけあって副作用も当然あります。あまり気にせず漫然と処方している医者も多いので、ちょっとここでしっかりと見てみましょう。

1) Vakil N. Prescribing proton pump inhibitors: is it time to pause and rethink? Drugs. 2012 Mar 5;72(4):437-45.
2) Heidelbaugh JJ. Proton pump inhibitors and risk of vitamin and mineral deficiency: evidence and clinical implications. Ther Adv Drug Saf. 2013 Jun;4(3):125-33.

 主に上記の2文献から。ただ1つめの論文の著者は、今回の論文では資金提供はありませんが、アストラゼネカやタケダなどのコンサルタントであり、またアストラゼネカなどからサポートを受けた研究を行なっているそうです(これは論文に明記されていました)。

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☆低Mg血症
 低Mg血症は最も見逃されている電解質異常とも言われます。症状はテタニーやけいれん、混乱、不整脈などがあり、またMgが低いことでジギタリスへの感受性がアップしたり、他の電解質異常(低K血症や低Ca血症)の原因になったりもします。正確な機序は不明ではあるものの、PPIは低Mg血症を引き起こす可能性があるとされています。1年以上の長期治療、不整脈のある患者さん、低Mg血症を引き起こしうる他の薬剤(利尿薬など)との併用、血清Mg濃度によって影響を受ける薬剤(ジゴキシンなど)との併用などにおいては確認すべきでしょう。FDAは低Mg血症を引き起こしうることについて注意を促しています。

☆骨粗鬆症と骨折
 胃酸はミネラルの吸収に必要であり、PPIはその胃酸を抑えることでミネラル吸収を阻害するのではないか、と言われます。Ca吸収については胃酸と近位十二指腸のわずかな酸性環境が重要なようですから、PPIによってCaが吸収されにくくなり骨粗鬆症や骨折につながるのかもしれない、と示唆されます。しかし、臨床試験のデータはかなり対立しており、一致をみていません。FDAは注意を促しており、1年以上内服している、高用量(OTCの用量を超えたもの)の使用、といったものがあれば、骨折のハイリスクと考えられるかもしれません。

☆ビタミンB12欠乏
 ビタミンB12がしっかりと吸収されるにも胃酸が必要です。ビタミンB12欠乏は高齢者の20%に見られるそうでして、貧血や認知機能低下の原因にもなります。ただ、PPIとビタミンB12欠乏との関連はいくつかのデータが示しているものの、それは小規模であったり無作為化されていなかったりケースレポートであったりと、堂々と「エビデンスはありまぁす!」とはちょっと言い切れないレベルだそうです。でもJAMAでは投与量が多くなるとやはりビタミンB12欠乏のリスクになるという報告がなされておりまして(Lam JR et al. Proton pump inhibitor and histamine 2 receptor antagonist use and vitamin B12 deficiency. JAMA. 2013 Dec 11;310(22):2435-42.)。やっぱり関係性はなんとなくありそうな感じ。自分の臨床では、PPIが処方されていてもいなくても認知機能低下や抑うつ状態や貧血があるのなら、ビタミンB12と葉酸の値を測っています。

☆鉄欠乏
 鉄は食べ物の中にノンヘム鉄(66%)やヘム鉄(32%)として存在し、このノンヘム鉄の吸収が胃酸によって促進されます。鉄欠乏とPPIとの関連もまた小規模な試験に留まっているようです。更なる研究は必要ですが、長期投与がなされている患者さんで貧血がある場合は、しっかりとフェリチンを測定することが大切でしょう。精神科領域でも「だるい、疲れる」としてやってきた患者さんが実は鉄欠乏性貧血だったり、貧血がなくともフェリチンが低かったりすることがあります。その際は鉄を補充し、PPIが処方されていたらそれも止めてもらっています。フェリチンが回復してくると倦怠感も改善しますよ。そういった報告をしている論文もいくつかあり、それを参考に自分は倦怠感の強い患者さんではフェリチンを測るようにしており、15未満なら鉄剤投与を行ないます(Vaucher P, et al. Effect of iron supplementation on fatigue in nonanemic menstruating women with low ferritin: a randomized controlled trial. CMAJ. 2012 Aug 7;184(11):1247-54.   Krayenbuehl PA, et al. Intravenous iron for the treatment of fatigue in nonanemic, premenopausal women with low serum ferritin concentration. Blood. 2011 Sep 22;118(12):3222-7.)。

☆間質性腎炎
 稀ではありますが、副作用に間質性腎炎があります。予見することは困難であり、説明のつかない間質性腎炎を見たら、PPIの副作用なんじゃないか? と思いつくことが最も重要になります。自分は見たことないですが。

☆市中肺炎
 胃酸は細菌の繁殖を抑えるという意味もあります。PPIによって胃酸を抑えると細菌が増えて、肺炎や後述の腸炎のリスクになるのではないかと言われています。肺炎についてもオランダやデンマークから関連があるとの報告がなされています。しかし最近の試験ではそうでもないようで、初発症状バイアスが存在しているのではないか、と1つめの論文の著者は述べています。しかし、少し調べてみると、市中肺炎との関連性がメタアナリシスで指摘されていました(Giuliano C, et al. Are proton pump inhibitors associated with the development of community-acquired pneumonia? A meta-analysis. Expert Rev Clin Pharmacol. 2012 May;5(3):337-44.)。高用量や30日未満の投与において、だそうです。やっぱりそういった患者さんでは気をつけたいなぁと思う今日この頃。

☆感染性腸炎
 サルモネラ、カンピロバクター、腸管病原性大腸菌、リステリア、ジアルジアなどなど…。彼らは酸に弱い細菌です。PPIで胃酸を抑えることで、これらによる腸炎のリスクが高まるのではないかとされています。サルモネラについては2014年のClinical Infectious Diseasesでも出ていました(Wu HH, et al. Association between recent use of proton pump inhibitors and nontyphoid salmonellosis: a nested case-control study. Clin Infect Dis. 2014 Dec 1;59(11):1554-8.)。また、胃酸を抑えることでC. difficile感染のリスクが高まります。偽膜性腸炎と言えば抗菌薬治療の最中に生じた不明熱の原因として有名ですが、PPI使用でも発症リスクになることは覚えておきましょう。これ大事。しかし、ちょっと他のメタアナリシスをいくつか見てみたところ、PPIと偽膜性腸炎との関連についてなかなか一致した見解ではありませんでした(Tleyjeh IM, et al. Association between proton pump inhibitor therapy and clostridium difficile infection: a contemporary systematic review and meta-analysis. PLoS One. 2012;7(12):e50836.   Janarthanan S, et al. Clostridium difficile-associated diarrhea and proton pump inhibitor therapy: a meta-analysis. Am J Gastroenterol. 2012 Jul;107(7):1001-10.)。いくつか読んでみて、個人的には出来れば使いたくないなぁと思わせる感じでしたが。ちなみにですが、偽膜性腸炎と言っても必ず下痢をするわけではなく、特にICUに入っている様な重症患者さんだと下痢のない偽膜性腸炎というのが存在します(不思議ですけどね)。CRPが異様な高値を示すので、それがヒントでしょうか。更にどうでも良い知識ですが、自分は研修医の時にカンピロバクター腸炎になりまして、初めて血便というのを体験しました…。「抗菌薬使ったら負け」みたいに思っていて、何とか乗り切りましたよ(かなり痩せた)。近くの焼き鳥屋さんで鶏のお刺身を食べたのが原因でした。

☆クロピドグレルとの併用
 PPIとクロピドグレル(プラビックス®)は併用されることが多い薬剤です。どちらも代謝酵素CYP2C19によって代謝され、それによって効果を発揮するタイプのお薬。両者を一緒に使うとCYP2C19を取り合う感じになります。かつ、PPIはCYP2C19を阻害する作用も持っています。特にオメプラゾールがCYP2C19を好むようでして。そんなことを考慮すると、クロピドグレルの抗血小板作用が十分に発揮されなくなってしまうかもしれません。FDAは、オメプラゾールと光学異性体のエスメプラゾールをクロピドグレル内服患者さんに使わないようにと言っています(Johnson DA, et al. Proton-pump inhibitors in patients requiring antiplatelet therapy: new FDA labeling. Postgrad Med. 2014 May;126(3):239-45.)。でもって日本人はCYP2C19の機能欠損を持つpoor metabolizerが20%ほどいますから、更に事態はよろしくないような気もします。論文もしっかり出てました(Hokimoto S, et al. Impact of CYP2C19 polymorphism and proton pump inhibitors on platelet reactivity to clopidogrel and clinical outcomes following stent implantation. Thromb Res. 2014 Apr;133(4):599-605.)。ちなみに精神科のお薬でこれらのお薬と飲み合わせが最も悪いものはフルボキサミン(デプロメール®/ルボックス®)です。CYP2C19を強く阻害し、かつPPIのもう1つの代謝酵素であるCYP3A4も阻害してしまいます。フルボキサミンは広汎なCYP阻害作用を持つため、他の病院でお薬が出た場合はちょっと大変なことになりかねません。知らないところでワーファリンが出ていたりCa拮抗薬が出ていたりしたら…。ということで、自分はフルボキサミンを使いません。

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 てなもんで、PPIの使用でどんなリスクがあるのかというのを電解質やビタミン、感染、併用薬などの点から見てみました。もちろん他にも血球減少やSIADHや横紋筋融解などなど、見逃してはいけない副作用もあります。高齢患者さんは近くのクリニックで何故かPPIがずーっと処方されているなんてこともありますし(別に高齢には限りませんが)。たぶん、そういうのって不要なことが多いですよね…。もちろん必要で長期に内服しなければならない患者さんもいるでしょう。でもその際は、ちらりと副作用のことを頭に入れておいて先回りで対処できるものはしておく、何らかの症状が出たら副作用ではないかと思いつく、こういったことが良いんじゃないかなと思います。PPIをやめる時も、急ぎでなければ階段状に少なくしていった方が無難。ピタッとやめるとリバウンドとして胃のムカムカが強くなります。
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コメント
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。

お薬は診察なしに「これが良い」とはなかなか言えないものだと考えています。
記事にもありますが、PPIが長期に必要になる患者さんも多くいますし、その恩恵も重要でしょう。
そして、必要であればMgなどの電解質やフェリチン(鉄分の指標)やビタミンB12などを測り不足ないことを確かめて続けていくというのが現実的かもしれません。
m03a076ddot 2014.11.25 13:50 | 編集
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