2014
10.17

スボレキサント(ベルソムラ®)は安全なのか

 スボレキサント(ベルソムラ®)という新しい睡眠薬が2014年の11月下旬くらい(もっと遅い?)に発売されます。これはオレキシン受容体拮抗薬でして、全く新しい機序。オレキシンは覚醒と睡眠を調節する神経ペプチドで、ざっくりと言うとオレキシンが多いと目が覚めて少ないと眠くなるという感じ。ナルコレプシーという疾患はオレキシンが不足することで発症します。

 このお薬ですが、名前の由来がbelle(フランス語で美人や美しいという意味)とsom(睡眠)で”美しい睡眠”や”良い睡眠”を意味することから来ています。効果のほどは非力な部類で、寝るまでの時間がプラセボと比較して6分くらい短縮したという程度のようです(Citrome L. Suvorexant for insomnia: a systematic review of the efficacy and safety profile for this newly approved hypnotic - what is the number needed to treat, number needed to harm and likelihood to be helped or harmed? Int J Clin Pract. 2014 Sep 18. doi: 10.1111/ijcp.12568. [Epub ahead of print])。うーん…。

 安全性については懸念が残り、FDAがちょっと気をつけるようにと言っています(ここ重要)。

 高用量では安全ではなく、日本で販売されるものは15mg錠と20mg錠ですが、15mgは安全に使用できる投与量とは言い難いとのこと。Phase 2でのデータでは、10mgで有効な可能性があり、10mg以下では研究が行われていないがおそらくは有効だろうとしています。

 安全ではないというと具体的にはどんなことがあるのでしょう。副作用を挙げてみます。

・日中の眠気(それも突然にやってくることがある)
・運転への支障
・睡眠時行動異常(寝ながら動きまわったりご飯食べたり)
・希死念慮
・他のナルコレプシー関連事象(睡眠麻痺、入眠時幻覚、軽度の情動脱力発作)

 おぉ、結構怖いですな…。深刻な副作用は用量依存性になっています。併存疾患のある場合や他の薬剤を服用している患者さんでのデータは乏しいようです。

 30mgや40mgは安全ではない可能性が高く、20mgでは運転に支障をきたします。肥満の女性やCYP3A4を阻害する薬剤を服用している場合は、15mgであっても30mgと同等の作用/副作用をもたらしてしまうかもしれません。肥満の男性、やや肥満がちな女性、他に薬剤を服用している場合などでは15mgは多いかも、と。

 FDAは「基本的には10mgじゃないの?」と言っています。しかもこのお薬、珍しいことに日本が世界で最も早く発売になるんです。日本では通常投与量が20mg(高齢者には15mg)になっており、ちょっと多いような気もします。添付文書には、CYP3A4を強く阻害する薬剤との併用は禁忌と記載あり。

 CYP3A4を強く阻害するものとして有名なのが、よくクリニックの先生があまり考えもしないで”風邪薬”として出してしまっているクラリスロマイシン(クラリス®/クラリシッド®)です。患者さんは複数のクリニックに通うこともあるでしょうし、クラリス®とベルソムラ®が別々のところで出るなんてこともありえます。そうなると禁忌の組み合わせ。危ないですよねぇ。こういう組み合わせって、お薬手帳があってもスルーしちゃうことが多くて多くて。このクラリスロマイシンが他のクリニックで出されてしまい、それによって向精神薬の作用が強く出てどれだけこっちが迷惑しているか…。抗菌薬をぽいぽい出すのって、ホントやめて欲しい(いわゆる”風邪”に抗菌薬は効きませんよ)。他にもCYP3A4を強くはなくとも阻害する薬剤はゴマンとあるため、polypharmacyになりやすい日本の医療では危険な香りがします。

 うーん、使う気起きないですなぁ。。。CYPのことを抜きにしてもちょっとねぇ。新薬って予期せぬ副作用の報告が出てくるので、概して市場に出てからしばらくは使わない方が無難です。もちろんこれがないとQOLや予後に著しく影響を与えると言うのなら話は別ですが…。SGLT2阻害薬もそれ見たことかっていう感じでしたし、あんまりホイホイ飛びつかないのが懸命でしょう。

 ベンゾとは異なり依存性も離脱症状もないというのをメーカーは売りにしてくるんでしょうけど、自分は一歩ひいておきます。概して臨床試験っていうのはリアルワールドとは異なる部分も大きく、例えば基礎疾患によっては除外になったり、他にお薬を飲んでいると除外になったり。そんなこんなで試験で用いる薬剤にとって不利な面を極力除こうとする傾向がありますから、市場に出た後の状況とかなり違います。よって、自分はしばらく静観しておこうと思っています。
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コメント
なぜ 日本がいち早く発売になるのでしょうか。何か思惑があるのでしょうか笑

なんだか 恐ろしい眠剤のようなきもしますが^^;

クラリスって 小児からオトナまで幅広く使われてますけど、あぶない抗生剤なのでしょうか?
あさがおdot 2014.10.17 19:52 | 編集
基本的に精神科のお薬使ってる場合は、バランスの主導権を精神科医が持たないとダメなんじゃないかと思うのですよね。一番副作用出てきた時に怖いので。
お薬手帳の段階でとめて欲しいのですが、そこ難しいですね。
私は余程の救急事例ではない限り精神科担当医にのみ合わせを確認して飲みますし他受診の場合はそこから照会してもらってます。そこまですると精神科の負担が増えますので全適用は難しいですよね。
薬剤師さんに頑張って欲しい領域です。

さてこの眠剤…試してみようかなと思う自分は強者。
もちろん10からなぜ日本先行なのかは不思議ですね。
大麻の許可の方が先じゃないかな?

寒くなってきましたね。先生も温かくして下さいね。
うたdot 2014.10.18 13:51 | 編集
>あさがおさん

ありがとうございます。
日本が最初の販売国っていうのが自分も不思議でなりません…。
クラリスは、必要な時はもちろん使うべきです(マイコプラズマ感染症など)。
しかし、クリニックの先生は何でも「熱があるからクラリス」「咳があるからクラリス」と出し過ぎです。おかげで耐性菌が増えてしまっているのが現状です。ウイルスに抗菌薬は効果がありませんし。
あと、クラリスは他のお薬とちょっと喧嘩しやすい部類に入ります。他のお薬の分解を妨げるので、きちんと考えて出してほしいなぁと思っています。
m03a076ddot 2014.10.19 07:56 | 編集
>うたさん

ありがとうございます。
精神科医も他の科の薬剤に疎い事が多く、相互作用まで気を配りきれない部分もあります。
向精神薬以外でも、例えばワーファリンとか糖尿病のお薬など、相互作用でかなり怖いお薬も結構多いです。
やはりお薬のプロである薬剤師の先生にチェックをして欲しい、と思ってしまいます。
自分でも出来るだけ確認していますがどうにもすり抜けることもありそうで…。
なかなか難しいところですね。
m03a076ddot 2014.10.19 08:02 | 編集
先生こんにちは。ベンゾの減薬で過去このサイトで相談に乗って頂いた者です。その時のお礼も兼ねて情報共有です。

ベンゾの減薬は現在セルシン15mg→1mgまで減薬進んでいます。

その流れで先日ベルゾラムを処方してもらいました。不眠になるかもって配慮でした。

以下私に起こった事です。

1.御薬手帳に別の病院からクラリス処方がされているのに医師薬剤師とも禁止にもかかわらず何の注意もなく処方。当然不快を含めた身体症状が出る。

2.服用の翌朝ナルコレプシーの症状というか突然数分意識がなくなる(怖

まさに先生が予見されている事がそのまま現実に…

普段クルマで会社に通勤していますがクラリスの不快な症状と睡眠不足と体調不良が数日続いていたので(禁止の薬数日飲めばそうなるしっ!!)タクシーで出勤したので突然意識がなくなりましたが一大事にならずに済みました。

いくらベンゾに比べ依存がないと精神科の先生や薬剤師に売り込んでいても肝心の注意事項含め浸透させてない製薬会社には呆れます。

結果人柱となってしまいましたが先生や患者様にも静観というか様子見がまさによろしかと思いました。

大学院のほうは順調ですか?ご健勝をお祈り致します。
太陽dot 2015.10.19 17:11 | 編集
>太陽さん

ありがとうございます。
ベルソムラの併用禁忌は添付文書にも書かれてあり製薬会社も薬剤説明会などで注意を喚起しているので、医療者側がもっと勉強すべき事項かもしれませんね。
医者は他院で出ているお薬まで把握できないことが多く、その時間がない時もあるため、ここは調剤薬局の薬剤師の先生にもしっかりとガードしてもらうと有り難いです(だからと言って医者が何も考えなくて良いわけではありませんが)。
また、ベルソムラは投与量の問題もあるかと思います。日本で認可されている量よりも少なめが無難なのかなと感じています。
大学院のこともありがとうございます。研究のための血液検体が目標数までたまるのを、現在ひたすら待っているという不思議な状態になっております。
m03a076ddot 2015.10.21 09:41 | 編集
先生お返事ありがとうございます。

確かに薬剤の管理は大変ですよね。お薬手帳もその為にもっているはずなんですがね…。
診察の中では全ての患者さんの投薬情報まで理解して診察投薬して頂ける先生は皆無に近いですよね(否定しているのではなく現状です。お忙しいのもありますしね)
また薬剤師もコンピュータで投薬管理していますがその薬局企業どまりかと…。
お薬手帳に代わるスマホなどを使ったサービスもお年寄りや端末の関係で徹底管理できませんよね。

投薬データの一元管理運用の道はかなり遠いい感じですね…↓

それこそ悪評の使えないマイナンバー制度を活用してデータ医療関係者が見れると便利になると思いませんか??笑
飲み合わせはコンピュータが自動で判断できればっ!!
それがスコープに入っていると少しは国民の事考えてくれてる気がしますが今のままだと税金だけって感じですよね…。

話逸れましたが、投与量半分ぐらいがいいかもしれません
投与量に調整は推奨されてないとあったような気がしますがようは寝れればいい訳なのでそうするのも新薬未知の副作用含めた防衛策かもしれませんねっ

素人意見ばかり申し上げまして恐縮です。

ではベンゾやめたら御礼の挨拶にまた参ります^^

太陽dot 2015.10.23 12:05 | 編集
>太陽さん

ありがとうございます。
自分も、各病院や薬局で患者さんのお薬情報をネットワーク上で共有した方が良いのではと思っています(クラウド管理など)。
ベンゾがいろんなところで処方されていないか、併用禁忌な薬剤はないかなど。
他にも他の病院で受けた検査なんかも分かるとありがたいのですが。
ただ、個人情報が云々や、もちろんお金もかかるので、すぐには難しいんでしょうね…。
ベルソムラの投与量についても、現時点の日本の添付文書は柔軟性がなさすぎるのが問題だと思っています。
今後は調節可能になっていくでしょうし、そうするのが適切だと感じています。
m03a076ddot 2015.10.24 09:48 | 編集
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