2014
10.19

再取り込みを防ぐのか、促すのか

Category: ★精神科生活
 抗うつ薬と言えば、モノアミンの再取り込み阻害というのが有名です。この作用機序は多くの抗うつ薬が示すもので、セロトニン(5-HT)やノルアドレナリン(NA)の再取り込みを阻害することで抗うつ効果をもたらす、と言われています。SSRIやSNRIや三環系抗うつ薬などがその代表格。上記のモノアミンがうつ病では減っているという“仮説”があるので、それを増やしてあげましょうという目論見でつくられました。あくまでも“仮説”ですが…。

 うつ病は未だに原因が分かっていません。先ほどのモノアミン仮説(うつ病では脳内モノアミンが減っているという説)はちょっと信憑性に欠けるのではないかと言われ、他にはBDNFという神経の栄養因子が減っている説やグルココルチコイド受容体の機能異常があるという説も存在します。自分の興味は慢性炎症によるグリア細胞の活性化にあります。DSMの“うつ病”も“抑うつ症候群”と言って良いくらいの様々な疾患の集まりではないかと思いますし、そうなると色んな原因が言われて当然かもしれませんね。

 そんな中で、既存の抗うつ薬、特にSSRI以降の新規抗うつ薬の働きは細かい部分では様々な効果が言われているものの、基本的にはモノアミンを増やしてシナプス後部の受容体を刺激し続けるというのが根本的なところでしょうか。そして、結果的に一部の働きとしてBDNFを増やしてあげるということもしています。BDNFがアップすることで神経可塑性が増して症状改善につながります、たぶん。モノアミンそのものを増やすことが重要なのではなくて、受容体を刺激し続けること、そして一部にはBDNFを増やすというのがポイントになっている薬剤が抗うつ薬なのだと考えると良いのではないでしょうか。

抗うつ薬作用機序

 面白い抗うつ薬に、フランス産のtianeptine(チアネプチン)というものがあります。これは

セロトニン再取り込み”促進”薬

 です。「え? 再取り込みを促進しちゃうの?」と思うかもしれません。これまでの抗うつ薬とは全く反対のことをしているわけですから。しかし、「じゃあ今までの抗うつ薬は何だったんだ!」と考えるのはまだ早く、モノアミンを増やすというのではなく、受容体を刺激し続けるという思考を持つと、そんなに不思議ではありません。セロトニンは受容体にくっついて離れて分解される運命にありますが、再取り込みが促進されると、分解される前にシナプス前部に収納されます。そしてまた放出の準備に。

いうなれば、hit and away戦法

 SSRIなどの再取り込み阻害薬が常に前に出て重厚なパンチを繰り出し続けるタイプとすれば、再取り込み促進薬は打っては離れ打っては離れという華麗なモハメド・アリのようなファイトスタイル。

 もちろん他にも知られていない作用を持っているのかもしれませんが、セロトニン再取り込みの”阻害”も”促進”も、狙いは受容体に刺激をいかに乗せて行くかということなのだと思いますし、こういう理解が大事かなと考えております。

 ついでに三環系抗うつ薬についても。現在の治療主流ではありませんが、重症患者さんへの抗うつ効果という点ではやはり三環系。SSRIでは何か最後の最後でスッキリしないところが多く患者さん自身も不全感をもつこともある一方、三環系だと割とまとまってくれる印象を持ちます。

 この効果の違いは何なのか? 以前にも出したことがありますが、ちょっとこの表を見てもらいましょう。

三環系の奥行き

 抗うつ薬は各種痛みへの効果もあり、この表はそれに対する抗うつ薬のメカニズムを示していますが、これを見ても三環系は色んなところにくっつきますね。これこそが、三環系の強みなんです。NMDA受容体阻害作用やTNFα産生を抑制する作用なんかは、グルタミン酸や慢性炎症とグリア細胞との関連などから見てもヨダレがたれてしまうくらいに注目です。こういった部分こそが、三環系の効果の強さを示すものでもあったのであります。

 ただ、副作用としては口渇や心毒性や大量服薬で死んでしまうなど、新規抗うつ薬よりも重度のものは多くなっています。雑味があると効果に深みが出る一方、この様なちょっと重い副作用も出てきてしまう。難しいものです。

 現在は抗うつ薬に抗精神病薬を付加する増強療法というのがありますが、これはトランスポーター以外の様々な受容体をもカバーすることになると言えます。となると、三環系抗うつ薬に近づけることでもありますね。大量服薬されても死なずに、かつ忍容性の高い三環系のイメージを持ってそれに近づけるというのが増強療法なのだと思います。しかし”デュロキセチン+オランザピン+ラモトリギン”などの増強療法でも何ともならなかった患者さんが三環系1つに切り替えて着実に回復していく様を何度も見ている身としては、古いお薬(かつ安い)はとても魅力的に映ります。
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コメント
先生 こんにちは。

精神障害2級の年金というのは うつ病で『とにかく生活に困るので』と 主治医に強くお願いすれば受給できるというのは本当ですか?

私の昔の友だち(本人は自分はうつ病といってましたが)が そう言っていて 年金を受給し
その半分の額を 遊ぶためのお小遣いにしていました。


その子は アナフラニールを飲んでましたが お薬の名前を最初は分かっていなくて
私が聞いたから 処方箋を確認して『アナフラニールって書いてたよ』と 教えてくれた感じでした。


『私は病気やから』っていうのが口癖みたいな人でしたね。

こちらから一方的に縁を切ってしまって そのときに共通の友だちから聞いた話では
死にたいと騒いで 入院するのしないのという騒動になったらしいです。

悪いことをしてしまったと思っています。

こんひゅすぱいdot 2014.10.19 17:36 | 編集
>こんひゅすぱいさん

ありがとうございます。
医者としては患者さんの言うことを信じて診断と治療を行なっている部分もあり、中にはそれを利用して誇張する人もいます。精神にかぎらず難聴や視覚障害でもそれを演じて手帳を得てしまう人もおり、ニュースになったこともありますね。
ほんとうに辛い患者さんのための制度なので、人を裏切る行為はしてほしくないのですが、そのような事実があるのも否定できません。
m03a076ddot 2014.10.21 08:38 | 編集
先生 こんばんわ

先生のおっしゃる様に、作用機序を純化して副作用を少なくすると、重症のうつ病に効能の発現が芳しくないのは本当ですね。

TCAでも効能の発現が新しいタイプの抗うつ剤と引けを取らないアモキサンピンとか古いタイプの抗うつ剤には深みと言うか
何かプラスアルファーあるんでしょう。

私自身は忍容性が高くなく古いタイプは副作用でまくりですが・・・
信天翁dot 2014.10.21 18:14 | 編集
>信天翁さん

ありがとうございます。
純粋なH2Oは美味しくなくて天然水が美味しいというのも良い例えなのかもしれません。
最近はクロミプラミンが良く効く患者さんが結構いらっしゃる印象です。やはり精神科の病院だと新規抗うつ薬で治療がうまくいかなかった患者さんも多いので、必然的に昔の薬の出番が多いのでしょうね。
確かに副作用は解決すべき問題でございます。ごく少量から使うと幾分違う気もしますが。
m03a076ddot 2014.10.23 06:46 | 編集
クロミプラミンは抗うつ剤では唯一、点滴薬があります。
やはり、経口薬より点滴の方が優れてるんでしょうか?
信天翁dot 2014.11.09 13:30 | 編集
>信天翁さん

ありがとうございます。
点滴のクロミプラミンは経口とは別物のような切れ味を持ちます。
ただ、患者さんが気持ち悪くなったり不整脈のリスクになったりと、投与する場合は副作用への慎重さが必要になってくるお薬です。
m03a076ddot 2014.11.10 06:48 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2015.07.25 20:40 | 編集
管理人用閲覧コメントをくださったかた、ありがとうございます。

抗不安薬はあくまでも不安を先送りにする力しかありません。
そればかり使っていると、抗不安薬がなければ何もできなくなるという状況に陥る可能性もあるでしょう。
使うのであればあくまでも頓服として。
薬剤治療をするのであれば、抗うつ薬を使うことが多いです。
しかし、診察によって他のお薬を使うこともあるので、お困りであれば実際に病院に行ってみて医者の意見を聞くのも大事かと思います。
m03a076ddot 2015.07.28 10:18 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2016.01.03 14:44 | 編集
管理人用閲覧コメントをくださったかた、ありがとうございます。

三環系同士の比較は圧倒的に情報が少ないので何とも言えないのですが、アンプリットについても同様に考えた方が良いかと思います。
QT延長はどの三環系でも有意に生じると考えてまず間違いはありません。
心電図で確認するのが一番ですね。
m03a076ddot 2016.01.04 01:30 | 編集
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