2014
09.22

白血球とCRPとベンゾジアゼピン

Category: ★精神科生活
 この3つに医学的関連があるわけではありませんが。

 さて、自分は後輩など研修医の先生と救急外来や感染症についてディスカッションする時、白血球とCRPを外してみるように言うことがありました。今はそうやって話し合う機会も激減してしまっており、月に1回の勉強会でもそんなに突っ込んで話せるほどの時間が持てなくなってしまっております。自分はまだまだ研修医レベルの内科知識を保っていたいのですが(本音は上回りたい)、本だけではやっぱり臨床実感が伴わないのでちょっと悲しくなってきます。

 白血球とCRP。この2つは便利です。経過を追う時にこれらは一定の役割を果たしてくれまして、自分の経過予想と同じように動いてくれたら安心しますし、どんどん乖離していったら「おや?」と思って病歴や診察などをもう一度取りなおそうと言う気にさせてくれます。パッと見では患者さんの状態は変わらなそうでもCRPがどんどん上昇していけば、やっぱり真剣に見直します。それで救われたこともありますし。若い時は「白血球とCRPなんて役に立たない!」なんて思ってあえて無視して診療をしていましたし、それが本道とも思っておりました。でもある程度は参考になるし、この”ある程度”が分かるとちょっと大局的に見ることが出来るようになると言うか何と言うか。この2つの指標に振り回されないようにと意識すると、実は他の指標についてもしっかりと考えることが出来るようになります。言ってしまうと、この白血球とCRPをどう見るか、というのが研修医の勉強度合いを知る良い目安にもなるんですよ(実はそれに一番役立ったり…)。

 そんな白血球とCRPを上手く使うためには、いったんそれらに眼を瞑ることが大切。特に初期研修のうちはこれらを使わずにプレゼンをすることを想像してみると良いでしょう。そうすると、他の所見を一生懸命探すようになります。例えば臓器非特異的な所見として、患者さんの入院生活そのものを診るようにもなります。横になっている時間が減った、トイレにも自分1人で立って歩いて行けるようになった、食事の量が増えた/美味しいと言えるようになった、新聞や本などを読むようになった、天気や季節の変化を話すようになった、診察でも表情が柔らかくなった、などなど。そういった生活的な面を診ることは、患者さん1人1人を良く診ることにもつながりますね。患者さんに優雅さ(グラツィエ)が徐々に戻ってくると、それは改善のしるし。優雅さと述べましたが、患者さんの色合いが豊かになってくるとも表現できるでしょうか。そういった部分やもちろん臓器特異的な所見にも鋭敏になってから、眼を瞑っていた白血球とCRPを再び見てみる。そうすると、全体の一部としてそれらを上手く使えるようになるはず。

 便利なものに最初から頼ると、それしか見なくなる。他の所見をとるのがいい加減になって、実力が伸びなくなります。たまに落とし穴に落ちてしまうことだってありますしね(どんな検査所見も万能ではありません)。

 さて、科は著しく変わって精神科。この領域ではベンゾジアゼピンという便利な抗不安/睡眠の作用を持つお薬の一群があります。即効性もあり、服用したその日から効果が出てきます。いっぽう使い過ぎには警鐘をもっともっともっと鳴らすべきで、依存や離脱症状などは大変。

 このベンゾジアゼピンは、上述した白血球やCRPとちょっと似たところがあります。どちらも便利で、かつそれ以上に共通しているのが


それに頼ると他の技術が疎かになる


 という点です。あくまでも持論ですけど。

 ベンゾジアゼピンは医者にとってすごく便利。「不安だ」「眠れない」と患者さんが言ったらそれを出せば当座のところしのげてしまう。だから、この便利さに溺れてしまうと、これをどんどこ使ってしまいます。頓用として使ったりあくまでも短期的な使用にとどめたらそれほど悪いことも起きませんしそれで助かる患者さんも多いでしょう。でもベンゾジアゼピンに医者が頼りきると、ばんばんそれを処方。1人の患者さんにデパス®とワイパックス®とダルメート®とロヒプノール®が出ている、なんてのは決して稀ではない。そうなると、患者さんはベンゾジアゼピンへの依存、耐性、離脱症状に苦しみます。ふらつきから転倒するのも怖いし、認知機能低下になるのもちょっとイヤ。

 だからこそ、若手のうちは以下の様な縛りを設けてみることをお勧めします。



ベンゾジアゼピンを出来るだけ使わない



 そうすると、患者さんの症状に対して、他のアプローチを探さねばなりません。それが医者としての勉強につながります。患者さんから状況をより聞くことにもなるでしょうし、一緒に対策を考えることにもなります。そこから精神療法まではもう遠くありません。

 ベンゾジアゼピンが絶対悪で使ってはいけないと言っているわけではありません。使い方次第では安全性も高く有用です。でもその使い方を知るためにも、いったん使用頻度を下げてみる。それが結果的に精神療法の技術に磨きがかかると考えています。これは精神科医に限った話ではなく、他の科の医者も同じ。他科の先生がベンゾジアゼピンをほいほい出していることも問題で、全科で取り組むべき問題だと思っています。

 ということで、便利なものをあえて使わないようにしてみると、それを補うための努力が生まれてきます。それが医者としてのスキルアップにとっても役立つような気がします。
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コメント
ご苦労様です。そうですね。薬物療法よりも決め手は精神療法じゃないかとおもうんですよ。薬は先生の言うように杖で、あとは精神的な治療が問題じゃないかと。私も双極性障害2型を精神療法でほぼ完解してますが、ベンゾを使用していた時期もありました。全然感触が違いますね。ただ、それをやるには医療者の力量と時間と治療者の信頼関係なんでしょう。難しい問題ですが、私は神田林先生の第六感てきな発想は大事だと思うし、精神科の医師ってやはりある意味良い意味でですよ。普通ではない所は必要ではないかと思います。
うたdot 2014.09.23 23:12 | 編集
>うたさん

ありがとうございます。
神田橋先生はもはや超人というか仙人というか、なかなか真似できない境地に達しておられる先生ですね。
あそこまで極められる先生がいるのは何か驚きです。
m03a076ddot 2014.09.25 06:40 | 編集
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。

精神療法と聞くと患者さんは強い期待をします。主治医の先生は、ひょっとしたら患者さん目線での「精神療法」を崩すためにあえてそのように発言されたかもしれませんね。医者に出来る等身大の精神療法をするというのが最も良いのかと思います。
心理士の先生がカウンセリングをしていたら、患者さんが「随分と話を聞いてくれて、楽になりました。で、カウンセリングっていつから始まるんですか?」と聞いてきた、という笑い話になるのかならないのかというような例もあります。患者さんの思うカウンセリングは何か妙な力を持った万能的な治療法というイメージになっていることが多々ありますね。
不眠についてはワークブックが多くを語ってくれているので、記事になるかはちょっと微妙かもしれません。あの本はとても取り組みやすくて良い本だと思います。
m03a076ddot 2014.09.25 06:46 | 編集
先生、メイラックスの断薬の時、ご助言頂き有難うございました。
お陰様で薬を飲まなくなり体調もすこぶる良いです。先生のご助言に感謝しております。そんな状況にもかかわらず、色々な情報が入り、少し悩んでおります。
2年前、医師から処方された短期型ベンゾジアゼピン、マイスリーを一ヶ月の間服用し、その後、服用量を減らしましたら、肩が熱くなり、落ち着かない症状、離脱症状が2ヶ月弱続き、メイラックスでなんとか落ち着きました。
近年、睡眠薬、マイスリーの発がんリスクが論文誌で報告されており、年間、数百mg服用でもそのリスクが上がるようです。
以前、離脱症状が生じていますし、やはり、近い将来、がんになるリスクが高いと考えるべきでしょうか?
先生のご意見を頂ければ幸いに存じます。


DRTdot 2015.08.18 17:31 | 編集
>DRTさん

ありがとうございます。
がんについては、日本人の1/2がかかる疾患であり、原因で最も多いのは”運”だ、とも言われます。
発がん性云々の論文もretrospectiveなもので、またこういう研究は常に様々な交絡因子の存在があります。
ベンゾジアゼピン系の認知機能低下リスクも多くの観察研究で指摘されていましたが、最新のものでは「ベンゾで認知機能低下は見られない」と指摘しています(まだ結論は出ないでしょうけれども)。
なので、論文1つで決めつけることはできないでしょう。
論文というのは「こんなん出ました。検証してみてね」というものであり、それ1本でガラッと常識が変わるということはそうそうありません(国が予算を出す大規模な臨床試験なら話は別ですが)。
よって、今回の件は「がんリスクになるかも…」という不安を抱いて生活することのほうが健康には良くなさそうだと言えそうです。
m03a076ddot 2015.08.21 09:42 | 編集
ご回答頂き有難うございます。論文誌の解釈が難しく、またしても先生のお言葉に救われました。今回も心温まるお言葉に感謝致します。
DRTdot 2015.08.26 08:59 | 編集
>DRTさん

ありがとうございます。
論文を解釈するのはとても難しいものです。1つの論文を絶対視することは避けて、確認のための大きな試験が行われるのを待つのが良いのかもしれません。
発がん物質については、これまで多くのものが候補となり、多くのものが消えていきました。それほどに判明しづらいものだと思います。
m03a076ddot 2015.08.28 09:44 | 編集
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