2014
09.19

ダムが決壊すること

Category: ★精神科生活
 お薬は急にやめるとリバウンドが生じます。ベンゾジアゼピン系は比較的知られていますが、今回はドパミンやセロトニンなどの受容体をブロックするお薬についても見てみます。

中断からのリバウンド

 向かって一番右がリバウンドの症状。例えばムスカリンM1受容体を見てみましょう。抗コリン作用(ムスカリン受容体をブロックすること)のある薬剤をいきなり切る(もしくは多く減量する)ことで生じてしまう症状は”コリンリバウンド”とも言われます。それによってこころがそわそわしたり、考えがまとまらなくなったり、不安感が襲ってきたり、眠れなくなったり。新規抗うつ薬だとパロキセチン(パキシル®)が抗コリン作用を強く持ち、これを減らしたり他の抗うつ薬に切り替えたりすると上記の症状が出てきます。ベンゾジアゼピン系の中にはこの抗コリン作用を持つものもあるとされますね。自分がよく睡眠薬を減らす際に置換として用いるトラゾドン(レスリン®/デジレル®)は抗コリン作用が弱いので、人によってはベンゾを減らした際に軽いコリンリバウンドが生じることもあるでしょう。そういう時は、ヒドロキシジン(アタラックス®)という抗ヒスタミン作用と抗コリン作用を持つものが合うかもしれません。

 精神科領域で重要なのは、ドパミンD2受容体のリバウンド。抑えている薬剤が急になくなることで、頭のなかが騒がしくなる、こころや身体がそわそわする、勝手に身体が動くなどが出てきます。薬剤の切り替えの際は、もともと持っている精神症状なのかこのリバウンドなのか(両方混じることもあるでしょうけど)というのが分かりにくいですね。更には、抗精神病薬の中でも様々な受容体を阻害するもの(日本でMARTAと呼ばれている)があります。これから他の抗精神病薬に切り替える時はD2受容体以外にも注意をせねばなりません。例えばオランザピン(ジプレキサ®)からブロナンセリン(ロナセン®)に切り替えるとします。ブロナンセリンはD2受容体とセロトニン5-HT2A受容体の阻害(そしてD3受容体の阻害)を持ち、それ以外には関与しないというシンプルな構造です。よって、「せーの」で切り替えた際にはコリンのリバウンドやヒスタミンのリバウンドなどが生じる可能性が高いでしょう。かつ、これとは別にD2受容体にくっつく強さというのも関わってきまして、がっしりくっつくアリピプラゾール(エビリファイ®)やブロナンセリンに切り替える時は、最初にこれらをある程度の量使用しなければ状態が不安定になります。クエチアピン(セロクエル®)はこの結合度が弱い代表格で、これからアリピプラゾールに切り替える場合、アリピプラゾールを少しずつ、例えば3mgからちょろちょろ増量していくパターンを取ると、クエチアピンのD2受容体阻害作用を一気に奪い、アリピプラゾール低用量でのパーシャルアゴニスト作用が出てしまいます。また、慢性的な抗精神病薬の使用では受容体がアップレギュレーションしているのではないかという問題も絡んできます。このアップレギュレーションの状態だとちょろっとお薬を退くだけでもリバウンドが強く出ることもあるようで、特に長くお薬を飲んでいる患者さんこそ減量は慎重に。何とも色々なことが絡まって難しいですよね…。大事なのは処方をシンプルに抑えて必要最小限にしておく、という基本的なこと。

 どんな受容体にくっつくのか、そして減量や中止する際はそのリバウンドが出ないかを注意しましょう。そして、特にD2受容体であれば親和性への配慮とアップレギュレーション(ドパミン過感受性)の想定。そういったものに眼を光らせながら調整をします。ただし、こういったリバウンドの症状がどのくらいの期間生じるのかというのはちょっと分からない部分があります。6ヶ月くらい出る人もいるんじゃない? とする意見もありますが、何とも。

 外来をしていると、患者さんの中で「もういいかなと思ってお薬をやめてみたらすぐに落ち着かなくなっちゃった。まだ治ってないんだなって思いました」と言う方々に遭遇します。これは医者側がリバウンドについて説明し忘れていたり、説明していても患者さん側がそれほど大きくとらえていなかったり忘れていたりという状況が背景にあります。「いかんいかん、折にふれて説明しておかないと…」と思う瞬間でもあります。患者さんの中にはこういうリバウンドをもともとの症状が出てきたと解釈して「まだ治ってなかったんやぁ」とちょっとがっかりする方々がおりまして。そんな時は「お薬を急にやめると身体がびっくりするんですよ。今回もそれだと思います。決して治っていないわけではないので、やめる時期が来たらこちらからお話しします。そして、身体がびっくりしないようにゆっくりやめていきましょう」とお伝えします。お薬を使い始める際に説明はするんですが、1回説明してずっと覚えているなんて芸当はなかなか出来ませんもんね。

 精神医学の世界は現在の生物学的観点からすべて説明できるわけではありません。薬剤も仮説をもとにつくられているため、それのみで全部カタがつくこともありません。しかし、だからと言って日常的に使用する薬剤の知られているメカニズム(作用/副作用/リバウンド)について知らなくて良いということには決してなりません。特にリバウンドについては知名度が低いこともあり、配慮しておくべきでしょう。短期間でお薬をとっかえひっかえしていると、症状なのかリバウンドなのかちょっと分からなくなってしまいますし。

 お薬を使う時は、主な副作用やリバウンドについても知っておく。一歩先を見ながら進むのと五里霧中で歩くのとでは、治療者の心持ちも違いますし、それが治療の場にも影響してくるようにも思います。正しく知ることが正しく使うことへの第一歩。
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コメント
先生、産業医研修ご苦労様でした。

私の主治医も産業医です。
(本業;精神科、副業:一般内科の開業医)
精神保健指定医も持ってます。

企業の嘱託産業医してますが
最近は身体的不調より精神的不調の主訴が多いそうです。

余談ですが、新薬フェチなもんで(苦笑)
以前、レメロン飲みたさにパキシル20mgから0に一気に断薬
主治医にこってり絞られましたW

その割合に離脱症状は2~3日の軽い頭痛で終了
体質か受容体のダウンレギュレーションが亢進し過ぎたんじゃないかと笑い話になりました。
信天翁dot 2014.09.22 09:36 | 編集
>信天翁さん

ありがとうございます。
離脱症状が軽くて良かったですね。パキシルはなかなかやめづらいので…。
しかし、無理はあまりしないのが一番です。主治医の先生もびっくりしたことでしょう。
m03a076ddot 2014.09.25 06:37 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2014.10.10 19:27 | 編集
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。

リスパダールがカバーする受容体はジプレキサもカバーしています。より広いのがジプレキサです。
ぶり返したことや減量のペースなどをしっかりと主治医の先生にお伝えして、作戦を立てなおしてみることが重要だと思います。
m03a076ddot 2014.10.12 11:10 | 編集
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dot 2014.10.18 19:50 | 編集
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。

現在半分の5mgでしたら、1/4にしてみても良いかと思います。粉状にしてもっと段階的に行なっている患者さんもいますし。もしくは5mgを1日おきに服用するなどの方法もあります。
減量は最後ほど慎重に行ったほうがいいでしょう。
m03a076ddot 2014.10.19 08:05 | 編集
はじめまして。抗うつ薬の副作用、特にSSRIによる吐き気を限りなくゼロに
するのは不可能ですか?
レッドブルdot 2015.08.30 20:06 | 編集
>レッドブルさん

ありがとうございます。
副作用を軽減するために、自分は少なめに出すようにしています。
例えばレクサプロなら5mg/dayから、サインバルタなら10mg/dayから、など(添付文書にある開始用量の半分)。
ゼロにするのは難しいですが、最初に始める量を少なくすることで軽くはなります。
m03a076ddot 2015.09.02 00:42 | 編集
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dot 2016.04.30 22:10 | 編集
管理人用閲覧コメントをくださったかた、ありがとうございます。

基本的にはベンゾと同様に、じっくりゆっくりの減量です。
特に内服量が少なくなる時期こそ、落ち着いて少量ずつ減量する必要があるでしょう。
不眠が強くなるようならラメルテオンやスボレキサントを使いながら、少しずつです。
m03a076ddot 2016.05.01 18:44 | 編集
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dot 2016.05.02 07:24 | 編集
管理人用閲覧コメントをくださったかた、ありがとうございます。

ペースは人それぞれなので、一概に早い遅いとは決められません。
ベンゾの元記事やコメントをご覧になって参考にしてみてください(http://m03a076d.blog.fc2.com/blog-entry-1671.html)。基本的な姿勢は同じですので。
2週間ペースで大丈夫という人もいれば4週間かける人もいますし、中には「えいっ」と一気にやめても全く何も問題のないひともいます(おどろきですね)。
自分自身の身体とこころの状態を見ながら、自分なりのペースを見つけていくのが良いでしょう。
漢方も人によって合う合わないがあるので、詳しい医者がいたら相談してみても良いかもしれません。
m03a076ddot 2016.05.04 11:23 | 編集
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