2014
11.12

過ぎたるは及ばざるがごとし

Category: ★精神科生活
 高齢の患者さん。双極性障害のうつ病相で食事が全然できなくなって近くの精神科クリニックから紹介されて入院しました。双極性障害という診断は本人とご家族からの話で再確認してあります。双極性障害は高齢になっても大きな波が残る時があって、特に躁病相は全く衰えずものすごいのがやってくることもあります。

 そのお薬手帳を見てびっくり。紹介元の精神科クリニック以外に何ヶ所か通院していたんですが、そこで出ていたお薬を合計すると、降圧薬やら利尿薬やらビタミン剤やら鉄剤やら胃薬やらめまいのお薬やらNSAIDsやら睡眠薬やら抗認知症薬やら…。


全部で15種類!


 うーん、これはこれは。お薬手帳があってもこんな状態ですか…。紹介元の精神科クリニックのお薬を合わせると20種類になります(ベンゾも4種類…)。副作用が出ていてそれを抑えるために(もしくはそれを副作用と思わず”症状”ととらえてしまって)お薬を使っているかもしれませんし、薬剤相互作用もしっちゃかめっちゃかですな。

 前者の例を見てみましょう。抗認知症薬にはコリンエステラーゼ阻害薬というのが含まれるんですが、コリンが増えることから徐脈という副作用があり、それでふらつくと訴える患者さんもいます。降圧薬とか利尿薬で血圧が下がり過ぎてもふらつきますし、睡眠薬が朝に残ってもふらつきます。双極性障害の治療薬であるリチウム(リーマス®)もふらついてしまいます。そういったことで「めまいがする」という表現になって、めまいのお薬が出ていたりして…。この患者さんがそうなのか分かりませんが。あと、NSAIDsとコリンエステラーゼ阻害薬は一緒に使うと胃が痛くなることが多いです。どちらもその副作用があり、お互いそれを高め合ってしまう。だから胃薬も出てるのかね…。

 後者の例も。双極性障害では上述のようにリーマス®が良く処方されますが、これは降圧薬(ACEIとARB)や利尿薬やNSAIDsなんかと併用すると、血中濃度が上がってしまいます。リチウムは治療域が狭く、更に中毒域と近接しているため、このように複数の医療機関を受診していると相互作用が見落とされることがあります。この患者さんはもともと処方されているリーマス®がほんの少しだったので事なきを得ましたが(しかもほんの少しの量ならあまり効かないという…)。中にはリーマス®服用中に整形外科などでロキソニン®が1日3回とかで漫然と出ていると、リチウム中毒で足をすくわれかねない事態にも。こわいこわい。

 入院後はカオスなお薬たちをざざっと整理しました。この患者さん認知症じゃないし現段階で血圧はむしろ低めだしフェリチンも200超えてたし…。不必要なお薬は容赦なくどんどん切っていきますよ。こんな時は内科の勉強をしていて良かったなととても思います。結局はクリニックで処方されていた精神科の薬剤もすべて中止することになり、処方薬はクエチアピンとラモトリギンと少量のサイアザイドのみに(20→3種類!)。すごくすっきりしましたね。状態も改善して無事に退院しました。ちなみに、クリニックではコリンエステラーゼ阻害薬が乱発されている気がします。MCI(軽度認知障害)の段階でもぽいっと出してしまってかえって錐体外路症状や徐脈などの副作用に患者さんが悩むこともあります。MCIにドネペジルなどのコリンエステラーゼ阻害薬は効果がないということが明らかになっております。ただ、アルツハイマー型認知症の前駆状態が確定なら話は別かもしれませんが。また、認知機能低下じゃないかと考えても、抑うつの思考抑制を間違って「認知症だ!」と思っちゃあいけません。処方の閾値が低すぎるんですよねぇ…。こうも考えない医者が多いのだろうか。

 1つの病院に固定しない患者さんもちょっと「うーん」と思ってしまいますし病院大好きお薬大好きな患者さんも確かにいますが、病院側もお薬手帳があるんだから確認くらいはしたいところ。高齢患者さんに20種類のお薬は本当にお薬になってくれているのか…。税金ももったいないですよね。中には要らないお薬を切っていくだけで改善してきてしまう患者さんもいます。こういうのを見ると悲しくなりますね…。 

 10種類以上のお薬というのは、高齢患者さんだと結構眼にします。持っている疾患が複数で、かつ複数の科の領域にまたがることは確かに年齢が高くなると納得。通う医療機関も複数になってしまうのは分からないでもありません。でもね、お薬手帳があってもこんな状態だとどうして良いか…。ものすごくもったいないですし、保険制度も見直した方が良いんじゃないだろうか…。患者さんだけじゃなく、医者側もどの病院でどんなお薬が出ているかちゃんと見ないと。将来的には複数の医療機関と薬局で処方をパソコン上で見られるようにきちんとデータベース化されればなぁと思います。

 そう言えば薬局では現在どうなんでしょう? 薬剤師の先生が医者に「他の病院でこれ処方されていて相互作用ヤバいっすよ!」とか注意してくれることは多いのでしょうか? 中にはふんぞり返ってる医者もいるので、なかなか言いづらいのかも。でもそうやってお薬のプロフェッショナルである薬剤師の先生と意思疎通を密に図ることが患者さんの利益につながっていきますよね。薬剤師の先生と日常的に議論と言うか意見交換ができると(建設的にね)、患者さんにとって良いことこの上ないのでは。
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コメント
先生 おはようございます。

やはり,総合的な診方のできる“かかりつけのお医者さま”があらまほしきことなり,です。
「お薬のプロフェッショナルである薬剤師の先生と意思疎通を密に図」り建設的な議論がなされると,とてもとても安心だなぁ。

こちらも秋めいてなんとな~く切ないような・・・
annedot 2014.11.14 07:24 | 編集
1年ほど前にレキソタンの減薬でアドバイス頂いたものです。その節はとても励まされ前に進む事が出来ました。
それから断薬出来たものの両足の痺れと耳鳴り頭鳴?は断薬から1年経過しても継続しています。これらの症状は最後まで残り易いとされているみたいで私はたまたま該当してしまったと半ば諦めています。
本日の相談なのですが
食後の急な眠気、意識が遠のく感じが何度もあり、また甘いものの依存がひどく
機能性低血糖症に当てはまるのでは?
と10月から糖質制限食をはじめました。
すると一週間したころ足の痺れと耳鳴りが明らかにましになったのです。
反対に諸事情で糖質をとりましたらこれまた明らかに症状が悪化します、、、
糖質と離脱症状に明らかに何か法則があるようなのです。
もしかしたら私が糖尿病で単に足の末梢神経がやられ痺れてたのが改善したのかもしれませんが、、、
自分で想像出来るのは砂糖などの炭水化物には依存性があり、麻薬のような快楽があるということ。現に私は酷い炭水化物中毒でした。
ベンゾジアゼピンを断薬したところに
砂糖という別の依存物質が入ってきて
脳が誤作動して離脱症状が悪化する可能性は
凄く変な質問で申し訳ありませんが
宜しくお願いします。
ときたまごdot 2014.11.14 17:15 | 編集
>anneさん

ありがとうございます。
クリニック全体のレベルアップが必要ですね。
医者も専門外のお薬の相互作用には疎いこともあり、そういったところで薬剤師の先生は大活躍していただきたいなと思っています。
めっきりとこちらは寒くなってきました。秋ですね。
m03a076ddot 2014.11.15 11:08 | 編集
>ときたまごさん

ありがとうございます。
糖質に関しては確かに制限することで体調やこころの調子も良くなる患者さんがいます(全員ではありません)。依存性についても一部で研究がなされてはいます(白黒はついていないようですが)。
それがベンゾの離脱症状と関連していたかは何とも分かりかねますが、仮にそうでなくとも糖質をやや抑えめにしたことが全体的な調子の上向きに一役買っていた可能性はあります。
糖質制限そのものを徹底的にすることの安全性は今後の研究を待たねばなりませんが、プチ制限はしてみても悪くはないのではないでしょうか。それで明らかに悪化したら普通のスタイルに戻し、何となく良ければ続けてみるのが現実的かもしれません。
m03a076ddot 2014.11.15 11:22 | 編集
おはようございます。
先月入院中に先生のこのブログを発見してよろこんでいた者です。

無事退院し、強迫の確認行為をエビリファイで抑えつつ生活しております。
エビリファイってすごくいいおくすりですね・・・
いまは24mgODを飲んでいるのですが、飲みやすいですし、
なにより確認行為がほんとにひどくて処方されはじめた当初、
3mgでもあっという間に効きました!

わたしの先生は漢方にとてもお詳しいようで、薬剤師さんに漢方講座を定期的にひらいていらっしゃるそうです。
先生が持っている患者さんは、だいたい漢方を飲んでいます。
わたし自身は胃腸が昔から弱く、いまはシギャクサンを飲んでなんとかやっています。
漢方も合うときはほんとに合いますよね!

お薬手帳を他科にもっていくと、「睡眠薬やめられるといいな」と言われるのですが(>-<)
なかなかそういうわけにもいかないです。。
婦人科なので、ハルラックの副作用で奇形うまれるよと注意され。。
子供作る気もまったくなくてピルをもらいにいっているのに
毎回言われてすごく凹みます。。
カウンセリングも同時進行で受けて10年になりました。
主治医の先生とカウンセリングの先生で一致している診断はPTSDによるうつです。
いまは食事がつくれず、夫に頼っています・・・。

わたしも三重の北部に住んでいるので、コメダ珈琲店は身近な存在です。
名古屋もしょっちゅうあそびに行きます。
ついつい自分語りをしてしまって申し訳ないです;
いつもブログ拝見しております。
これからもたのしみにしてます(^-^*)
なな。dot 2014.11.17 07:51 | 編集
>なな。さん

ありがとうございます。
エビリファイは効く患者さんにはスパッと効いてくれる印象を持ちます。
退院もされ、家での生活にゆとりを持って取り組むことが重要になってきますね。
こころを柔らかにして暮らすことをイメージしてみると良いかもしれません。
m03a076ddot 2014.11.19 06:41 | 編集
 15~20種類も!!

 とてつもなくすごい量…(@ ̄□ ̄@;)!!

 私、こんな量飲めない(><;)。

 高齢の患者さんは「お医者さんの言うことを聞いていればいい」という方が多い印象があり、また患者自身も受け身で何から何までお医者さん任せになってしまってるところがあると思うので、それも多剤投与の温床になっているのかなと感じています。
朧月夜dot 2015.11.02 11:41 | 編集
>朧月夜さん

ありがとうございます。
複数のクリニックに通っていると、それぞれで出されて合わせ技一本のような状態になる患者さんも結構います…。
あとは、特に高齢患者さんが多いのですが、「あそこの病院は薬をくれないからダメだ!」と文句を言ってしまうのもあります。
医者だけの問題ではないのが、根深さを感じますね…。
m03a076ddot 2015.11.05 16:23 | 編集
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