2014
08.02

お薬という精神療法

Category: ★精神科生活
 想像を掻き立てられる論文がありました。

Eisenberger NI. The pain of social disconnection: examining the shared neural underpinnings of physical and social pain. Nat Rev Neurosci. 2012 May 3;13(6):421-34.
Dankoski EC, et al. Facilitation of Serotonin Signaling by SSRIs is Attenuated by Social Isolation. Neuropsychopharmacology. 2014 Jul 1. [Epub ahead of print]

 1つ目の論文は、social painとphysical painという2つの痛みを対比させています。前者は人と人とのつながりが社会的に切れてしまった”こころの痛み”であり、後者はいわゆる”身体の痛み”です。これらの痛みを感じる脳の部位は一部オーバーラップしているそうです。主な部位は2つあり、背側前帯状皮質と前部島皮質。これらが、こころの痛みと身体の痛みとをつなげています。悲しみにくれることをheartacheと言いますが、まさに言葉の面でもこころの痛み(悲しみ)と身体の痛み(胸の痛み)とが重なっていることを示していますね。日本語でも”断腸の思い”や”ほぞを噛む”なんてのが思い浮かびます。更に、この背側前帯状皮質と前部島皮質が活性化すると交感神経も賦活され、そこから慢性炎症が生じ身体疾患や精神疾患へと発展していくことが示唆されています。以前に記事にしましたが、精神疾患にも慢性炎症が関与していることが明らかになってきています(→コチラ)。そして、こころの痛みは身体の痛みによってより強くなり、逆もまたしかり。こころの痛みを改善するには社会的なサポートを行なうこと、身体の痛みを軽くすることが挙げられていました。

 2つ目の論文は、抗うつ薬であるSSRIの効果は孤立によって減弱されてしまうということを述べています。ヒトではなくてマウスによるものですが、1匹ではなくペアでいた方がSSRIが良く効いてセロトニンの放出も促進されたそうです。SSRIの効果は現状の環境的な負荷に左右される、ということ。

 これらから、人は社会的なつながりが切れてしまって孤立すると、精神疾患発症/憎悪のリスクになることが考えられます。また、裏を返すとその孤立が治療のターゲットになり得ることも示しています。日常臨床でもよく経験することですね。

 ここでプラセボ(偽薬)の話になります。臨床試験、特に精神疾患の臨床試験では、プラセボは実薬に迫る有効性をはじき出します。うつ病であればHAM-Dというスケール改善がプラセボで10点前後、実薬で13点前後というのが多く、差は3点ほど(3点はわずかな差です)。しかし、実際の臨床現場では実薬の方がはるかに勝ることが多々あります。何故かと言うと、臨床試験では診察の回数が多くなり、治療者側もお薬の副作用などをしっかりと聞きます。その行為が治療的になるという事実があるんです。試験ではなく現場ではそうそう時間はとれず診察回数も試験よりも少なくなるり診察そのものも少し淡白になるため、お薬の効果はやや下がります。言い換えるならば、プラセボ効果の多くはそれを介して他者との”つながりを感じる”ことにより孤立が緩和されるのだと思います。どんなお薬にもプラセボ効果的なものはあり、その純粋な薬理作用以上の効果を引き出すことが、お薬を最大限に利用するポイントであり医者のウデの見せ所だと考えています。

 ということで、上述のように


純粋な薬理作用以上の効果を引き出すこと


 これこそがいわゆる精神療法でしょう。お薬は希望を処方することでもあります。精神科医は、患者さんの診察が他者とのつながりを実感させるものであるように配慮し、また診察室の外でもそのつながりを得てもらうように働きかけます。ただし、そのつながりは質の悪い依存(土居健郎先生の言う”悪い甘え””甘やかし”)にならないように気を付けるのが大事ではあります。

 とは言え、治療者が患者さんと接する時間はあまりにも短いのが日本の実情です(外来はパンク寸前なんです)。患者さんは診察室に来るわずかな時間を除き、日常生活を行なっています。よって、治療者はその日常生活においても”つながり”を得てもらうように配慮をします。ご家族がいたら簡単な本を読んでもらうことも良いでしょう。漫画なら読みやすく、うつ病なら『ツレがうつになりまして。』や、統合失調症なら『わが家の母はビョーキです』『マンガでわかる!統合失調症』など。ご家族が理解を示し、患者さんとの関係性が改善すれば、精神症状も良くなってきます。ご家族に診察室で医者という立場からお話をするのも効果的なこともあります。もし一人暮らしでつながりがないのなら、訪問看護やデイケアなどが有効なことも多いです。何らかの形で患者さんがゆとりをもてるようなつながりをもたらす、これを当座の目標とします。

 世の中にはいろんな精神療法があります。なんたら療法と名のつくものは星の数ほど。しかし、どの様な療法であれ、患者さんが安心してつながりを感じられるものであれば、非常に効果的なものになると考えられます。技法にこだわることをせず、毎回やって来てくれる患者さんとの場を良い色合いにする。これが最も基本的な部分であり重要な核心なのだ、そう思います。それがなければ精神療法の”副作用”が強くなってしまいます。技ばかりに溺れるような治療者になってはいけない。

 精神科医のサリヴァン先生が仰るように、精神療法は診察室の外でも働くように心がけること。患者さんの生活でどのようにつながりを実感していてもらうか、それがやはり忘れてはいけないことだと思います。

 話はまたお薬に戻ります。患者さんは、毎日の生活の中で治療者を思い出すことがあります。それがお薬を飲む時。病院との関わりを実感する時だと思います。よって、治療者はお薬の説明をしっかりと行なう必要があります。どんな副作用が出るのか、効果はいつ頃から出てくるのか、どの様な目的でこのお薬を処方するのか、いつまで飲むべきなのか、どんな味がするのか、などなど。。。診察の度に飲み心地や他の感想を述べてもらい、こちらもお薬の役割について患者さんが納得する様な説明をします。だから、臨床試験のプラセボは強いのだと思います。

 少し広げると、サプリメントも同様のことになりえます。「あんなの意味ないよ、お金の無駄」と医療者は思います。しかし患者さんにとっては孤立している中でコマーシャルに出ている某俳優などが「これは良いですねぇ」なんて言うのを聞いたり、チラシで服用者の声というのを見たり、そんなところからそういった人たちとのつながりを意識的にであれ無意識的にであれ感じたいと願うことでしょう。ここでは、サプリが社会的な意味を帯びるようになりますね。

 連想でいろいろ書いたので散らかっていますが、精神療法の基本、そしてお薬すら精神療法になり得ること、そんなのが上記の論文を読んで再び頭の中を巡っていきました。

 ということで、明日(8/3)から研修会に1週間出かけてきます。特に面白いことはない、はず。
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コメント
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dot 2014.08.02 14:54 | 編集
先生は とても素敵な医師だと思います。

先生の患者さんはきちんと診察してもらって 幸せだと思います

1週間 体調にお気をつけ下さいませ
いってらっしゃーい(^O^)/
あさがおdot 2014.08.02 16:41 | 編集
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。

どんな場であれ、やはり関係性が大事になってくるかと思います。こちらが「ふつうのコトだろう」と思って接していても、相手によってはそれが異世界の様に感じられたり攻撃的に感じられたりすることがあるでしょう。それがおっしゃる二次障害や三次障害につながってくるのだと思います。
技術としての”察し”を学び、少しでもいい関係性を築きたいものですね。
m03a076ddot 2014.08.12 19:32 | 編集
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dot 2015.04.10 21:52 | 編集
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。

お探しの雑誌は、各大学の図書館を検索してみましたが見つかりませんでした。確かに国会図書館にはありましたが。。。
日本の図書館の蔵書を検索できるカーリル(http://calil.jp/)で、お住まいの近くの図書館から探してみてもいいかもしれません(それでも見つからないかもしれませんが…)。
幹から直接咲くのは力強さもありながら、「どーも、出てきちゃいました」というような印象もあり、様々な感じ方がありますね。
m03a076ddot 2015.04.11 10:52 | 編集
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dot 2015.06.25 17:52 | 編集
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