2014
10.07

うつ病・躁うつ病の入門に

Category: ★本のお話
 今回はうつ病と躁うつ病について、患者さんやご家族用の本を紹介してみます。

 ”うつ病”は概念が実に広がってきており、どこからどこまでうつ病なのかが良く分からないとも言えてしまいます。ただ、実際にうつ病の患者さんを診ていると、お薬だけではなかなか上手く行かず、いわゆる”養生”が必要であることは言うにあらずだなぁと感じます。しかも色んな情報があふれていて、患者さんやご家族も「どうすればいいんだろう?」と思い悩み、また抗うつ薬の悪い側面のみを強調するような発言もちらほら見ます。

 なので、まずはしっかりとした理解というのがやっぱり重要だと思います。「よし、じゃあ本でも読んで勉強しよう」と思って本屋さんに行ったりAmazonで検索してみると、うつ病に関する本は乱立という言葉では足りないくらいたくさんあります。選ぶのも一苦労。そんな中で自分の感覚としては、患者さんやご家族にとって読みやすさを考慮するとこちらが良いでしょうか。

入門 うつ病のことがよくわかる本 (健康ライブラリーイラスト版)入門 うつ病のことがよくわかる本 (健康ライブラリーイラスト版)
(2010/07/10)
野村 総一郎

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 説明もしつこすぎず、広く浅くですが見ることが出来ます。

 物事の考え方に注目したものですと、新書のこちらを。

「うつ」を治す (PHP新書)「うつ」を治す (PHP新書)
(2000/04)
大野 裕

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 認知行動療法を日本に導入した大野裕先生の本。お薬のことにも触れられていて、バランスがとれています。

 患者さんのご家族の体験記である本も実に有用です。

ツレがうつになりまして。ツレがうつになりまして。
(2006/03)
細川 貂々

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 有名なマンガで続編も出ていますね。やはり患者さんやご家族の声というのは、医者のものとは違って説得力があります。

 また、これまでの記事でもお話ししていましたが、自分は



うつ病は”抑うつ症候群”である



 と考えています。抗うつ薬がスッと効くうつ病もあれば、以前記事にしたような慢性炎症がメインのうつ病も、そしてグルタミン酸過剰状態が主だった機序のうつ病もあるでしょう。そして、栄養がポイントになるうつ病も存在すると考えています。どれか1つだけでなくこういったのが混ざり合ってるんでしょうけど、どの色合いが最も強いかという違いはあると思ってます。

 栄養については胡散臭く感じる人もいるかもしれませんが、精神疾患とは切っても切れないくらいに大事だと考えています。例えば亜鉛。処方するお薬ではポラプレジンク(プロマック®)という胃薬があり、それだと確か1錠に17mg入ってます。亜鉛はNMDA受容体を阻害するなんて言われていますが、他にも作用するところがある様子。血清Zn値の低さと抑うつ症状が関連しているというメタアナリシスもあり(Swardfager W, et al. Zinc in Depression: A Meta-Analysis. Biol Psychiatry. 2013 Jun 24. pii: S0006-3223(13)00451-4.)、馬鹿にはできません。

 ω3脂肪酸もちょろっと言われております。これは抗炎症的な視点ですが、個人的にはっきり効いたような感じは今のところ持てていません。しかし、IFN-αによるC型肝炎治療にはうつ病の副作用がありますが、この予防にω3脂肪酸が効くかもしれないと言われています(Su KP, et al. Omega-3 Fatty acids in the prevention of interferon-alpha-induced depression: results from a randomized, controlled trial. Biol Psychiatry. 2014 Oct 1;76(7):559-66.)。

 ビタミンさんもきちんと報告もあり、葉酸を800μg/dayとビタミンB12を1mg/dayとを併せて投与したら、うつが良くなったよ!という報告だってあります(Coppen A, et al. Treatment of depression: time to consider folic acid and vitamin B12. J Psychopharmacol. 2005 Jan;19(1):59-65.)。他にもラクナ梗塞後の患者さんを対象として、ビタミンB12欠乏と疲労感/抑うつとが相関しておりビタミンB12投与で改善したなんてのも(Huijts M, et al. Association of vitamin B12 deficiency with fatigue and depression after lacunar stroke. PLoS One. 2012;7(1):e30519.)。面白いのは、ビタミンB12の血中濃度が正常範囲でもやや低め(190-300)であれば、ビタミンB12を抗うつ薬に加えると抗うつ効果が増強されるというもの(Syed EU, et al. Vitamin B12 supplementation in treating major depressive disorder: a randomized controlled trial. Open Neurol J. 2013;7:44-8.)。

 糖質はしっかりとしたエビデンスはないものの、やっぱりうつや不安に悪影響だと考えています。そういった意味では、軽めの糖質制限食はうつ病の患者さんや不安の強い患者さんには良いんじゃないかなと思って勧めています。

 そういったうつ病への栄養療法については、この2冊なんかいかがでしょう。

今ある「うつ」が消えていく食事 (うつ病の人に足りない栄養素がわかった! )今ある「うつ」が消えていく食事 (うつ病の人に足りない栄養素がわかった! )
(2014/02/01)
功刀 浩

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図解でわかる最新栄養医学 「うつ」は食べ物が原因だった!図解でわかる最新栄養医学 「うつ」は食べ物が原因だった!
(2011/09/30)
溝口 徹

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 ただ、注意したいのは、往々にして「うつの原因は食事だ!」と言いきってしまう極論。これは注意しましょう。本というのは、売れるためには極論を持ちだす傾向があります。読む方もスパッと言ってもらった方が分かりやすいので、なおさら断言しちゃう方が売れます。もちろん食事改善が絶大なる効果を持つうつ病もあるでしょう。でも、そっちが本態ではなくて抗うつ薬を中心とした精神科治療が効果のある患者さんもいます。”両極端ではなく、柔軟な思考”が大事。盲信はいけません。医療者としては、抗うつ薬による治療でもうひと押し欲しい時に亜鉛やビタミンを測ってみる(自分は初診で抑うつのある患者さん全員で測ってます)とか、糖質の摂り過ぎ状態があればそれを是正してみるとか。そういう視点も大切。

 また、こういう本を読んで患者さんやご家族が自ら実践するという主体性そのものが治療的に働く要素も大きいと思います。これは精神科的な考え方ですが、結構重要なんじゃないかなと。自分で取り組むという姿勢が改善につながる一歩でございます。でもゆっくりと地道にね。3歩進んで2歩下がったって良いんです。

 さて、躁うつ病(双極性障害)はこれもスペクトラムと言われて診断のラインが難しいんですが、明らかな躁うつ病はうつ病とは経過や治療が異なります。その点を患者さんとご家族には分かっていてほしいので、この本を自分はお勧めしています。

「双極性障害」ってどんな病気?  「躁うつ病」への正しい理解と治療法 (心のお医者さんに聞いてみよう)「双極性障害」ってどんな病気? 「躁うつ病」への正しい理解と治療法 (心のお医者さんに聞いてみよう)
(2012/09/15)
加藤忠史

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 そして、名古屋大学医学部附属病院の尾崎教授が編集された患者さんとご家族用のパンフレットもあるので、プリントアウトしてお渡し(PDFのリンク→コチラ)。

 うつ病と異なり躁うつ病ではなかなか栄養療法はエビデンスとして出てこないです(Sarris J, et al. Adjunctive nutraceuticals with standard pharmacotherapies in bipolar disorder: a systematic review of clinical trials. Bipolar Disord. 2011; 13(5-6): 454-65. Rakofsky JJ, et al. Rakofsky JJ, et al. Review of nutritional supplements for the treatment of bipolar depression. Depress Anxiety. 2014 May;31(5):379-90. など)。ただし、治療に当たってはそういった栄養療法の価値から目を逸らさずにいることも大事ではありますが。

 ちなみにですが、統合失調症も単一の疾患ではなく症候群的な色合いを持ちます。治療抵抗性統合失調症の一部は、糸川昌成先生の提唱された”カルボニルストレス性統合失調症”であり、抗精神病薬ではなく活性型ビタミンB6(ピリドキサミン)が有効ではないかと言われています。また、ナイアシンなど他のビタミンも効果があるかもしれません(Hoffer LJ. Vitamin therapy in schizophrenia. Isr J Psychiatry Relat Sci. 2008;45(1):3-10.)。ビタミンB12と葉酸の合わせ技が陰性症状に効く患者さんもいるようですが、これはゲノムの問題が絡んでいると言われます(Roffman JL, et al. Randomized multicenter investigation of folate plus vitamin B12 supplementation in schizophrenia. JAMA Psychiatry. 2013 May;70(5):481-9.)。大事なのは、繰り返しになりますが、全ての統合失調症がビタミンなどの栄養素で解決するわけではないということ。最後のJAMAの文献がそれを示しているように、効く患者さんもいれば効かない患者さんもいます。極端な考えには注意してもしすぎることはないかと思います。治療に難渋すると患者さんやご家族はアヤシゲな理論や治療法に惹かれてしまいます。確かに現状を打破したい・何とかしてあげたいという気持ちは無理もありませんが、そういう方々を付け狙う悪徳な輩も実に多いのです。

 ということで、精神疾患というのは”うつ病”であれ”躁うつ病”であれ”統合失調症”であれ、症候群的な色合いを持つというのは理解しておくべきだと思います。決してそれぞれが単一の疾患ではありません。例えば、うつ病の治療で抗うつ薬が効きにくかったら次の一手としてリチウムや甲状腺ホルモンを噛ませるか、慢性炎症という視点でアスピリンなどを噛ませるか、グルタミン酸調節異常の視点でラモトリギンなどを噛ませるか、ビタミンB12がちょっと低かったらそれを補うか、糖質を摂り過ぎならそれを制限してもらうか。どの影響が最も強いかを考えてみることも悪くはないんじゃないかなと考えています。
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コメント
こんにちは。患者さん自身の勉強も少しは必要ですよね。
確かにうつの食事については聞いた事がありましたが、双極性はないのですね。
まあ、そこが内因性なのかな。自分は勝手になっとう食べてます。気分的に。
双極性の本は難しいものが多いですね。加藤先生の本が読みやすいのかな。
双極II型障害という病 -改訂版うつ病新時代というほんは中級編だと思いますがよかったですね。双極性障害 第2版―病態の理解から治療戦略まで というのも読みました…色々読んだ感想ですけど。まだわからんので上手く付き合おうぜ!!でした。ちゃんちゃん。
うたdot 2014.10.09 20:06 | 編集
>うたさん

ありがとうございます。
双極性障害は結構専門的な本が多いので、患者さんが読むと難しく感じることもあるかと思います。
端的に述べると、おっしゃるように「うまく付き合う」になります。
患者さん自身でどのようにすれば付き合いやすくなるのかを調べることが大事になってくるかと思っています。
m03a076ddot 2014.10.10 17:57 | 編集
こんばんは。

先生、お久しぶりです。
ベンゾの減量は概ね順調で、そろそろジアゼパム換算で0.7mgに到達しそうです。

うつ病の中には気分変調症や非定型うつ病、適応障害(これは別物でしょうか?)などがありますが、これらはどれもほぼ同じような病気なのでしょうか?
また、これらの病気はあまり抗うつ薬が効かないのでしょうか?

自分は不安障害もありますが、この辺の病気も疑っています。
匿名dot 2015.06.17 20:52 | 編集
>匿名さん

ありがとうございます。
抑うつ障害群という大きな括りの中に、うつ病、気分変調症、非定型の特徴を伴ううつ病が入ります。適応障害はまた別物となっています。
一般的に抗うつ薬よりは、生活の調整の方が大きな効力を発揮することが多いでしょう。
m03a076ddot 2015.06.22 20:42 | 編集
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