2014
02.18

虫垂炎はなんともはや

 今日は救急の勉強会でした。虫垂炎の患者さんについての話し合い。

 虫垂炎(一般的には”盲腸”と呼ばれます)は侮れない疾患です。コモンなのになかなかうまく診断できないという不思議さがあります。勉強会では以前にまとめた虫垂炎資料をベースにして話をしましたが、ここでも挙げてみます。

 虫垂炎は10-30歳代に多く、食欲不振は症状として良く見られます。嘔気も見られ、多くは痛み→嘔気嘔吐の順にやってきます。ただ、軽度の”気持ち悪さ”を嘔気と捉える患者さんだと、はっきりと痛み→嘔気の順には来ない可能性もあります。常々言われる上腹部→右下腹部への痛みの移動ですが、実は半数ほどの患者さんにしか見られず、LR+3.2、LR-0.5となっています。発症後24時間以内の悪寒は少なく、熱は24時間以内に微熱程度が出てきて、破裂すると高熱になると言われています。虫垂炎は症状のバラエティが豊か。これは、虫垂の場所が人によってバラバラなことが原因(下図)。ひょろっと長くて直腸なんかに接していたら、虫垂炎でも下痢という症状が出てきますし、尿管とか膀胱に触れていたら、無菌性膿尿などがあることも。こういう、医者を惑わす症状形成が診断率の低さに結びついているんだと思います。

虫垂位置
(クリックで拡大)

 あと、虫垂炎にかぎらず穿孔するといったん痛みが軽くなることもあります。内圧が上がって消化管壁の虚血や炎症が高まるんですが、穴が空くとふっとその圧が弱まります。脳出血の脳室穿破なんてのもそうです。脳室に血液が抜け出ることで、頭蓋内圧が下がるんです。そういったので痛みが軽快するということが起こりまして、「痛みが軽くなったから軽症だ」ということには必ずしもなりません。これ注意。

 診察については、特に初期の虫垂炎は診察で除外が出来ません。虫垂炎含め骨盤内病変を疑ったら、診察では感度は低いもののobturator signとpsoas signの2つを行うべきです。また、患者さんがベッドに寝た際に右足を少し屈曲していることがあります。これは足を伸展させたら痛いためであり、psoas signに近いものと知っておきましょう。McGee先生はこの2つのsignは有用性が低いと言っておりますが、他の文献では有用としているのもあります。お腹の深い位置の病変はなかなか診察でつかまらないんです。そういう時は上記の診察事項を加えるのは必須と考えておきましょう。

 右下腹部圧痛はLR+7.3、LR-0.1なので、大事ですね。ただこの所見がないことだって少数ですがあり得ます。McBurney点とするよりは右下腹部と広く構えた方が感度は良いようです(当然ですね)。RigidityはLR+3.76、LR-0.82で、あれば少し有用、GuardingはLR+1.65-1.78、LR-0-0.54なので幅は見られるものの、なければ少し有用くらいに考えておきましょう。Heel drop testは、つま先立ちから踵を落として腹痛が出現した時を陽性とします。最近の論文では虫垂炎に対する感度85.4%、特異度30%とされており、LR+1.2、LR-0.5ほど(The Importance of Heel Drop Physical Examination Sign in Diagnosis of Acute Appendicitis; Eur J Surg Sci 2010;1(3):77-82)。除外の参考程度にはなるかもしれませんし、腹膜炎にまで波及しているかを知るためであれば、感度はかなり上昇すると思われます。Cope先生も腹膜炎の患者さんにおけるこの検査の有用性を述べています(急性腹症の早期診断; MEDSi (2004/05))。また、患者さんが腰を曲げてそろそろ歩いて診察室に来たら、この所見をとらずとも陽性だろうという察しがつきます。すでにベッドに寝ている患者さんでは、脚を持って足の裏をドンドン叩きましょう。それで痛くなれば陽性と判定します。

 虫垂炎に限らず腹膜炎を疑った際になされる診察で有名なものにはcough testがあり、患者さんに咳をしてもらって腹痛が惹起されれば陽性とします。感度78%、特異度79%、LR+3.7、LR-0.3ですので、参考程度にはなるかと思います(Use of coughing test to diagnose peritonitis; BMJ. 1994 May 21;308(6940):1336.)。きちんとした追試をした方が良いと言われてますが、簡単なのでやっても損はないかと。ただ、筋肉痛でもこの診察は陽性になるので(触診しかりtappingしかり)、痛みの原因が腹壁か腹腔内かを鑑別するための診察にCarnett signというものがあります。患者さんに仰臥位になってもらって、両腕を胸にクロスさせて置いてもらいます。患者さんの腹部の圧痛点を検者の手で押さえた状態で患者さんに頭部と両肩を少し挙上してもらうと、腹部の筋肉が緊張します。圧痛減弱なら陰性で、腹腔内由来の疼痛を示唆。圧痛不変なら陽性で腹壁性の疼痛を示唆、圧痛増強なら強陽性として腹壁性の疼痛を強く示唆する、と言われています。文献として感度と特異度が明らかになっているのが慢性腹痛の患者さんで、それぞれ78%、88%(LR+6.5、LR-0.25)です(Chronic abdominal wall pain: a frequently overlooked problem. Practical approach to diagnosis and management; Am J Gastroenterol. 2002 Apr;97(4):824-30.)。セッティングが救急外来にやってくる患者さんとは異なりますので、この数字を鵜呑みにせず参考として扱うのが良いと思います。

 虫垂炎に戻りますが、検査値では、好中球優位のWBC上昇と左方移動は多いようです。CRPは上昇までタイムラグがWBCより大きいので、そこを頭に入れて使うのならある程度役に立つと思います。

 そういった検査項目を含めた予測のスコアリングとしては有名なAlvarado scoreがあります。

・右下腹部に移動する腹痛:1 point
・食欲不振:1 point
・嘔気:1 point
・右下腹部の圧痛:2 points
・反跳痛の存在:1 point
・37.3度以上の発熱:1 point
・WBC>10000:2 points
・好中球75%以上の左方移動:1 point

 これは4点以下なら恐らく白、5-7点は灰色、8-10点なら黒にかなり近いというもの。子どもと女性では特異度が下がってしまうようです。5-7点の患者さんにはCTを行っておくべきとする報告が、対象が子どもですがあります(Decreased use of computed tomography with a modified clinical scoring system in diagnosis of pediatric acute appendicitis; Arch Surg. 2011 Jan;146(1):64-7.)。

 エコーについて少し。先述のように、虫垂は人によって長さも走行も随分とバラエティに富んでいるため、それが症状の非典型例の多さと診断の難しさにつながります。エコーもその煽りを受けて、なかなか難しい(CT and US in the diagnosis of appendicitis: an argument for CT; Radiology. 2010 Apr;255(1):3-7.)。特に研修医であれば感度はだだ下がりと意識しておくべし。エコーの診かたを図で示しておきます。

虫垂炎エコー
(クリックで拡大)

 CTは感度特異度共にほぼ90%を超えるようですし、単純CTでもその値を出せるようです(CT and US in the diagnosis of appendicitis: an argument for CT; Radiology. 2010 Apr;255(1):3-7.)。十分な読影技術があれば…だと思いますが。自信がなかったり発症早期であったりという条件なら造影のドアを叩くことに抵抗はあまり感じないかもしれません。でも所見は読めるようにしておきましょう。

 虫垂炎は、実は自分も大学6年の時に発症しまして。根性で治そうと思ってたんですがあまりの痛みに耐え切れず、入院しました…。手術で無事に治りましたよ。不思議なことに術前も術後も全くCRPが上がらなくて、担当の先生はカルテで「謎だ」というようなことを書いてました。ちなみに自分の虫垂炎の原因は


都こんぶ


 でした。。。(恥)

 ちょうど虫垂のところに詰まっちゃったみたいで。それ以来、怖くて都こんぶを食べてません…。

 虫垂炎になった頃は卒試のシーズンで、病棟から神経内科の卒試を受けに教室に点滴棒をガラガラ引っ張りながら行ったのが良い?思い出になってます。
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