2014
02.06

認知症を理解するための本

Category: ★本のお話
 高齢社会ということもあり、認知症患者さんはこれからもどんどん増えてくると思います。今の日本は、認知症の半分がアルツハイマー型、20%くらいがレビー小体型、同じく20%ほどが脳血管性、残りの10%を他の認知症(前頭側頭型など)が占めると言われています。ただ、前頭側頭型認知症は20代での発症もあり、その時点では統合失調症や双極性障害や境界性パーソナリティ障害などと誤診されることも多いようで、それを考えるともうちょっと多いのかもしれません。

 そんな認知症は「ボケれば何も分からなくなるから良い」と誤解されることもあります。酷い言葉を浴びせたり、排泄の介助もしなかったり、虐待じゃないかと思ってしまうようなことをされる患者さんも残念ながらいます。でも、患者さんがたは”何も分からない”なんてことは決してありません。確かに、具体的な「いつ誰と何をしたか」という認識の概念は崩れていくことが多いのですが、感情的な部分はしっかり残ります。

 娘さんと旅行に行ったことを忘れても、こころのレベルでは何かが残ります。人と人の間にただよう空気と言うか雰囲気と言うか、それは彼らの中にも生きています。それを理解しながら認知症のかたとお付き合いしていくのが重要です。

 同じく、いわゆる周辺症状も”単なる問題行動”ではなく、彼らの”やむにやまれぬコーピング(対処行動)”という視点を持つことがとても大事になってきます。彼らがどう生きてきたか、そして今どう生きているか、それを含めたその人固有名詞のコーピングです。現実の彼らの能力と「こうしたいんだ」という理想との間には、大きな隔たりがあるでしょう。その隔たりを埋めようとあがく仕草が周辺行動として現れます。でも悲しいことに、その対処はなかなか対処になってくれず、周りから”問題”と認識されます。

 更に、介護するご家族はかなり疲弊しています。介護は決してきれいごとではなく、周辺症状をコーピングと理解してもそれで重しがすべてなくなるわけではありません。でもほんの少し、少しでも「そういう事情があるのだろうか」と思えたら、これまた少し目線が変わってくるかもしれません。その少しがひょっとしたら患者さんを取り巻く”人と人との間”を柔らかにしてくれるかもしれません。

 医者を含め医療従事者はそれを”技術”として身につける必要があります。周辺行動を必要以上のお薬で抑え込むことは彼らのあがきを挫き、生きる意欲まで収縮させてしまうかもしれません(お薬自体を否定しているわけではありません。大量に使うことを否定しています)。

 彼らの生きてきた道や現在の状況をとらえ、今の行動の由来を考える。この様な見方がスタッフには求められましょう。ということで、その道の先駆者であった小澤勲先生の本は、認知症に携わる医療者なら必ず読んでおくべきものと思っています。画像なんかの本も大事だけれど、私たちが診るのは認知症を抱えた、固有名詞としての患者さんです。「痴呆老人からみた世界はどのようなものなのだろうか。彼らは何を見、何を思い、どう感じているのだろうか。そして、彼らはどのような不自由を生きているのだろうか」ということをトコトン考えた先生。

 読みやすいものとして岩波新書の『痴呆を生きるということ』があります。来し方を見ながら患者さんのケアに当たる姿は一読に値します。その続編が『物語としての痴呆ケア』でして、この2冊は是非。医療者は必読。文系的な医者なら『痴呆老人からみた世界』をしっかりと読みましょう(これらは痴呆→認知症の用語改正がなされる前の本なので”痴呆”という言葉になっています)。

 また、実は当事者用の本も編集されていて『認知症と診断されたあなたへ』というのもあります。患者さんへの説明としても非常に優れているため、医者はこれも読んで”伝え方”を知っておくことをお勧めします。黒川由紀子先生が寄せた最終章は、じんと来てしまいます。他にも2冊出版されていますが、どれも読みやすいので全部読んじゃうのもアリ。

 そのような態度は大前提として、薬剤についても正しい使い方が求められます。高齢者はかなり少量の抗精神病薬でも副作用が出ますし、抗認知症薬の怖さも知って使わないと大損害をもたらします。エビデンス的にはコリンエステラーゼ阻害薬はどれも似たり寄ったりとされていますが、臨床経験的にドネペジル(アリセプト®)は非常にクセのある薬剤です。患者さんを興奮させますし、錐体外路症状も出やすいし。これを知らないと副作用を副作用と思わずに症状像悪と考えてしまいます。ドネペジルで興奮して、それを症状が悪くなったと思ってリスペリドン(リスパダール®)で抑え込もうとしたら副作用で転んで大腿骨折ったり飲み込みが悪くなって誤嚥性肺炎になったり…。そこまで行かずともリスペリドンの副作用を軽くしようと今度はビペリデン(アキネトン®)を使って認知機能低下に拍車がかかることも。ドネペジル使ってビペリデンも使うとか、もう何をしたいのか分からないヘンテコ処方です。

 薬剤の適切な使用は肝に銘じなければいけません。脳に作用する薬剤を使う訳ですから、中途半端な知識では弊害を生みだしてしまいます。暴れてどうしようもないからという理由で精神科病院に送られる認知症患者さんもいますが、自分がまず行うのは薬剤の中止です。特にドネペジルが入っていたら優先的に切ります。それで改善することも実に多い。

 そういったお薬の専門的な使い方は小澤先生の本に書かれていませんが(認知症の本を書かれたのが1998-2006年なので。小澤先生は2008年に亡くなられています)、ケアの本質を貫いた姿を見ることができますし、それこそ医療の原点なのだろうと感じます。

 繰り返しですが、認知症診療に携わる医療従事者なら必ず読むべき本と考えています。学生さんも是非! 若いうちからケアの温かさに触れておくことは、今後の医者人生に豊かさをもたらしてくれるでしょう。

痴呆を生きるということ (岩波新書)痴呆を生きるということ (岩波新書)
(2003/07/19)
小澤 勲

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物語としての痴呆ケア物語としての痴呆ケア
(2004/09)
小澤 勲、土本 亜理子 他

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認知症と診断されたあなたへ認知症と診断されたあなたへ
(2006/01)
小澤 勲、黒川 由紀子 他

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コメント
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。

理解するとは言ってみたものの、それはひょっとしたら理解した気になっているだけなのかもしれず、おこがましいのではないかとも思ったりしています。なかなか難しいですね。
自分も外来では数分で切り上げなければ患者さんが大渋滞してしまうことも多々ありまして。医者1人当たりの患者さんの数が多いと、どうしても割ける時間が少なくなってしまい、そこが悩むところであります。
ただ、少ない時間でも素晴らしい治療をされている先生も多いと聞きます。そこはさすがだなーと感心してしまいますね。
自分はまだまだ若手なので、経験不足をカバーするには1人当たりの時間を増やすことと思ってはいるのですが、現在のところそれは叶わない状況です。患者さんから見るとずいぶん落ち着かない診療になっているのだろうな、と思います。
こちらも愚痴になってしまいました。。。
m03a076ddot 2014.02.10 19:42 | 編集
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