2014
01.28

皆さんに統合失調症を知ってもらうための本

Category: ★本のお話
 統合失調症は精神医学の抱える大きなテーマの1つであります。

 近代社会に入りその記述が多くなされるようになり、精神科医が様々な治療法を考え(その中には残虐なものがあったことは反省すべき歴史です)、また原因についても多くのことが言われました。

 精神病理学では中井久夫先生の微分回路的認知、木村敏先生のante festum、笠原嘉先生の出立の病など、統合失調症患者さんの”存在”や”生き方”を中心とした解釈があったことはつとに有名ですし、精神病理学の1つの到達点だと自分は考えています。しかし、従来は精神科医により診断が異なってしまうことが多く、現代精神医学は病因論をいったん棚上げにして症状レベルでの診断とし、精神科医間での診断一致率を高めています。それでも異なることは往々にしてありますが。

 生物学的な機序として現段階では、慢性炎症など何らかの原因によって、GABAニューロンの活性低下やグルタミン酸神経伝達障害、nAch受容体のα7サブユニットの障害などが起こるとされています。その多く(全てではないでしょう)は辺縁系のドパミン過剰へと結びつくとされ、それがドパミン仮説として一応広く受け入れられ、それに基づき抗精神病薬がつくられています。

 しかし、抗精神病薬がスッと効いて楽になる患者さんがいる一方、何をどうしても効かない患者さんがいることも事実。ドパミン仮説はあくまで仮説であり、確たる論拠を持つわけではありません。最も治療効果の高い抗精神病薬であるクロザピンはD2受容体を阻害する力が非常に弱く、ドパミン受容体以外の様々な受容体に結合するということもそれを支持するかもしれません。それについて、統合失調症という疾患それ自体が単一の疾患ではなく症候群であることを指摘しておかねばなりません。古くはビンスワンガーが言うように「百人の分裂病者がいれば百様の分裂病がある」のです。これは今の精神科診断学がほぼ患者さんの症状のみによって疾患をグルーピングせざるを得ないという実情を反映しているでしょう。今、私たちが診断している”統合失調症”はあくまで症候群であり、その根幹のメカニズムはドパミン仮説以外のものが多くあるはずです。それが抗精神病薬への反応の違いにもつながっていると考えられます。糸川昌成先生が提唱した”カルボニルストレス統合失調症”も好例です。また、ナイアシンなど他のビタミンも効果があるかもしれません(Hoffer LJ. Vitamin therapy in schizophrenia. Isr J Psychiatry Relat Sci. 2008;45(1):3-10.)。ビタミンB12と葉酸の合わせ技が陰性症状に効く患者さんもいるようですが、これは遺伝的な問題が絡んでいると言われます(Roffman JL, et al. Randomized multicenter investigation of folate plus vitamin B12 supplementation in schizophrenia. JAMA Psychiatry. 2013 May;70(5):481-9.)。大事なのは、繰り返しになりますが、全ての統合失調症がビタミンなどの栄養素で解決するわけではないということ。このJAMAの文献がそれを示しているように、効く患者さんもいれば効かない患者さんもいます。

 抗精神病薬が主な効果を示す統合失調症やピリドキサミンが主な効果を示す統合失調症、他のビタミンが効果を示す統合失調症など、様々な統合失調症が存在するはずです。薬剤による治療を考慮すると、今までの”統合失調症”概念を一度解体するような大きな改変が必要でしょうし、その1つがゲノムレベルでの研究といえるかもしれません。自分はゲノムが苦手で研究も全く違うことをしていますが、症状で分類することは他科から見ると未熟な方法です。更に、機序も不明であり仮説に則って治療せざるを得ないという現状があります。精神医学の研究には賛否両論ありますが、今の段階からは1つ抜け出なければならない時期に来ていると思います。

 以上のような話はありますが、精神疾患は”社会”との関連を外してはいけません。特に統合失調症は社会による偏見がついて回ります。ということで、ここで訂正をしましょう。最初「統合失調症は精神医学の抱える大きなテーマの1つであります」としましたが、正確には、統合失調症は現代社会の抱える大きなテーマの1つ、とします。

 近代社会から記述が多くなった、とも言いました。これは近代において発症が多くなったこともあるかもしれませんが、社会の要請により統合失調症という診断名が出来たという側面もあるでしょう。自分は統合失調症という疾患がないとは言いません。ただし、社会の枠が厳格になり、そこから逸脱した人々に対し因果の1つとして統合失調症という疾患が出現/増加する必要性があったことは事実だと思いますし、自閉症もその1つでしょう。

 近代以前、シャーマニズムやいわゆる職人が活躍していた頃は、社会の枠はより広くファジイであったでしょう。時代が進み、産業の発展や効率化により、枠はより狭く硬くなりました。その中に適応できず枠から切り取られた人々が存在します。一般とは生活を異にする人は、厳格な枠から弾かれてしまい孤立します。その人に対して、社会の人間は因果を求めます。「なぜ社会に適応できないのか」「なぜ考えが違うのか」という疑問は原因を求め、それが医学の介入を要請します。診断名というレッテルが貼られることで因果がなされ、多くの人々は「病気だからなのだ」と納得するでしょう。

 繰り返しますが、だからといって自分は精神疾患は存在しないという極論を振り回すことはしませんし、精神医学を否定しません(精神科医ですし)。精神疾患への治療は必要だと思います。しかし近代から現代になり、一時期のような”狂気”への非人間的な対応は激減したとはいえ、いまだ多くの障壁が患者さんの周囲に立ちはだかっています。理想論はいくらでも言えますが、すべてを受容することは不可能であり、日本全国が北海道浦河の”べてるの家”のようにはなれません。しかし、少しの了解で良いのです。社会に正しい理解が少しでも広がることが、不幸にも統合失調症という病を抱えた患者さんをどれだけ楽にすることか。私たちのできることはひょっとしたら絶望的なまでに小さいことかもしれません。でもその小さいところから変化は生まれる、そう信じています。

 もちろん、患者さん自身、そしてその家族にも正しい理解が必要です。往々にして先の見えない不安に駆られ、医療や社会への不信、そして家族内でも不信が生まれるでしょう。この不信は現状に安寧をもたらさず、患者さんの状態を悪化に走らせます。現代医学で症状を根絶せしめることは残念ながらできません。症状と折り合いをつけていく生き方が必要であり、そのためには少しの了解が皆に必要なのです。

 そこで、多くの人に読んでもらいたい本があります。中村ユキさんの描かれた『マンガでわかる!統合失調症』というもの。「ここまで色々と説明してきて紹介するのはマンガか!」と落胆されたかもしれませんが、著者の中村ユキさんはお母様が統合失調症を患っているのです(そのお母様は2013年に急逝されました)。最近は当事者が筆を執って疾患を解説する本もあり(最近ではハウス加賀谷さんの『統合失調症がやってきた』が有名ですね)、その中でも中村ユキさんの本は読みやすく理解しやすいと考えています。社会福祉的な支援のことも説明されており入門には最適で、統合失調症の患者さんやご家族、そして一般の方々にも勧めることが出来ます。

 特にご家族は、この本以外に同じ中村ユキさんが書かれた『わが家の母はビョーキです』『わが家の母はビョーキです 2』を読まれると良いと思います。統合失調症の症状の苦しさも書かれていますが、ご家族がどう対処するかという実践が大きなポイントでしょう。精神科医が言うよりも説得力があり臨場感を伴います。とても重要なのが、語弊があるかもしれませんが、ユーモアの存在。患者さん(中村ユキさんのお母様)のユーモア、共に暮らすご家族のユーモアがあることで、当事者が読んでも「明日も何とか生きていこう」と思えます。精神科医フランクルは、症状や疾患を対象化するためにはユーモアが必要だと言いました。1つまみのユーモアを加えることで、少し距離が出来ます。もちろん「そんな余裕はない」や「不謹慎だ」という意見もあるでしょうが、統合失調症を生きていくことについて考えるためにも読まれてはいかがでしょうか。

 もう1冊紹介しますが、夏苅郁子先生の『心病む母が遺してくれたもの:精神科医の回復への道のり』です。これはマンガではありません。夏苅郁子先生は精神科医で、10歳の頃にお母様が統合失調症を発症しています。この本はご家族やご自身の悲惨な人生が綴られているものですが、決してペシミスティック一辺倒ではありません。そこには強靭なしなやかさがあり、人と人との関係の強さを感じずにはいられません。

 マンガではない本をあと2冊挙げておきます。統合失調症の症状や経過や関わり方などが真剣に書かれているものとして、糸川昌成先生の『統合失調症からの回復を早める本』です。統合失調症関連の本は極論的なものが意外とあり、ご家族も治療がうまく行っていないとそういうものに飛びついてしまうことがあります。そういう心情は確かにおありでしょうが、まずは地に足をつけてじっくりと取り組むことが重要。そういった意味で、これを隅々まで読んでみると良いと思います。しっかりと書かれており、非常に真面目な本です。残りの1冊は『家族が知りたい 統合失調症への対応Q&A』です。ご家族が困っていることへの1つの回答を示しており、患者さんとの関わり方に苦しんでいる方々には読んでもらいたい1冊。お風呂にほとんど入ろうとしないとか、金銭管理をどのようにさせるといいのかとか、強制的に入院させたことを恨んでいて責められそうで怖いとか…。ご家族や医療者はぜひ読んでください。

 患者さん、ご家族、社会、精神科医。それぞれが少しばかりの了解を得ること。その少しの積み重ねが大きな変化へと続くでしょう。それを願って上記の本を紹介させてもらいました。

マンガでわかる!統合失調症マンガでわかる!統合失調症
(2011/05/27)
中村 ユキ、当事者のみなさん 他

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わが家の母はビョーキですわが家の母はビョーキです
(2008/11/18)
中村 ユキ

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わが家の母はビョーキです 2  家族の絆編わが家の母はビョーキです 2 家族の絆編
(2010/05/24)
中村 ユキ

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心病む母が遺してくれたもの: 精神科医の回復への道のり心病む母が遺してくれたもの: 精神科医の回復への道のり
(2012/08/20)
夏苅郁子

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「統合失調症」からの回復を早める本「統合失調症」からの回復を早める本
(2013/02/18)
糸川 昌成

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家族が知りたい統合失調症への対応Q&A家族が知りたい統合失調症への対応Q&A
(2009/03/11)
高森 信子

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コメント
症状と折り合いをつける そこまでいくのに時間がかかりました。 まずは周りにいる家族が折り合いをつけないといけませんね。
統合失調症であれ 自閉症であれ その時々の症状に折り合いをつける 本当にその通りですね。
笠原先生の「精神病」 を初めて読んだのは8年前ですが何かあるたびに何度も繰り返し読みました。 ずいぶん助けてもらいました。 先生のような精神科医の方が一人でも多くなる事を願ってやみません。 ありがとうございます。
マリンdot 2014.01.29 08:18 | 編集
>マリンさん

ありがとうございます。
笠原先生の『精神病』は精神科医が読んでもとても勉強になる本だと思います。
折り合いをつけるのは、言うは易く行うは難し、ですね。
人のこころはそもそも不自由なもので、その不自由を前提にして「色々苦しいこともあるけれど、何とか明日も生きてみよう」と思って前を向けるようになることが大事だと考えています。
苦しみは回り道であり良いことはないと思われがちですが、その回り道も見方を変えればいつもの道とはちがった景色がそこにはあります。そういう気づきを得るのは非常に難しく、綺麗事で全て済むことでもありませんが、それが可能になるのを信じて進んでいくことが重要なのかもしれません。
m03a076ddot 2014.01.29 17:55 | 編集
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