2014
02.21

精神疾患にもたらされる慢性炎症の視点

Category: ★精神科生活
 今回は”炎症”という点から精神科を眺めてみたいと思います。結構ホットな話題、というか自分の趣味で気になっている話題です。

 肥満から糖尿病、心不全、そしてがんといった慢性疾患に“炎症”が関与していると言われています。炎症というと怪我とか感染症とかでCRPがスパーンと上がって熱が出て、という“急性炎症”を想像しがちですが、慢性疾患に関わる炎症は“慢性炎症”というもので、プロセスはかなり複雑なもの。言葉だけ見ると急性炎症が遷延化して慢性炎症になる、と思われがちですが、決してそうは言えないのです。もちろんその場合もあるんですが、急性炎症を示さずにくすぶるような感じでだらだらと続く場合もあって、やっぱり急性炎症とは質的に違うんじゃない?と言われております。

●サイトカイン登場
 急性炎症は治まるべき時にサイトカインが大人しく退いてくれるんですが、慢性炎症ではストライキのようにサイトカインが居座ってしまうような。その結果、組織リモデリングという、血管新生やら免疫細胞の浸潤やら組織の線維化やら臓器の機能障害などの経時変化が起こってしまいます。サイトカインがそうやって居座っちゃう原因は不明なんですが、炎症を促進する系統が反乱を起こしているのか、制御性T細胞のような炎症を抑制する系統がサボってしまうのか、何か炎症をおこすようなストレスが消えないのか、炎症で新しくストレスが出てきてずっと続くのか…。はてはて。

 そんな慢性炎症ですが、何と精神疾患もこれが大きく関与しているのではないか!?とされています。言うなれば“脳の慢性炎症”でして、中でもうつ病が良く研究されております。C型肝炎に対するインターフェロン治療の副作用に抑うつがあるのは有名。更には慢性炎症の代表であるがん患者さんでは、うつ病の併存が3割近くで認められます(これは心理的な色合いも強いと思いますが)。また純粋なうつ病の患者さんの血液を調べてみると、IL-6やTNF-αといった炎症性サイトカインが、一部の患者さんで上昇していることがあるんです! こういった炎症を示すファクターが、症状の重症度(睡眠障害、認知機能低下、疲労など)と相関しているという研究も出てきて、炎症が強いと治療抵抗性を示すんじゃないかとも示唆されています。話はドンドン広がって、幼少期に虐待を経験しているとうつ病になった際の炎症度合いが強くなるかもしれないという疫学データも。

 主な慢性炎症の因子としては、心理社会的なストレスや人生初期でのストレスがまず挙げられますが、食事や肥満もありまして、食事ではω3脂肪酸の摂取を高くすることが大事かもしれません。肥満だと脂肪細胞がMCP-1を産生してマクロファージを呼び寄せ、炎症性サイトカインなどが出てきてしまいます。医食同源ですね。IFN-αによる肝硬変治療ではうつ病誘発が副作用としてありますが、ω3脂肪酸(EPA)の投与がそれを予防できたとする論文も出ました(Kuan-Pin Su, et al. Omega-3 fatty acids in the prevention of interferon-alpha-induced depression Results from a randomized, controlled trial. Biol Psychiatry. 2014 Available online Jan 24)。

肥満と慢性炎症
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他にはT細胞の機能不全が挙げられます。制御性T細胞やTh17といったエフェクターT細胞などが注目されています。制御性T細胞は抗炎症性サイトカインであるIL-10とTGF-βを産生します。この2つのサイトカインは炎症を鎮める重要な役目を果たすんですが、うつ病ではこれらの働きが弱まっていることが示唆されています。IL-17を産生するTh17は、炎症性疾患において基礎となる病態生理学的役割を持つとされています。IL-6やIL-23やIL-1βが、ナイーブT細胞にIL-17を発現させます。制御性T細胞の働きが弱まりTh17の働きが強くなることが、慢性炎症の中心的な役割であるかもしれません。

Treg.jpg
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 腸内細菌叢も考えられています。制御性T細胞とTh17の働きに一定の影響を持つようで、2013年のNatureにもそういう論文が出ていましたね(Atarashi K, et al. Treg induction by a rationally selected mixture of Clostridia strains from the human microbiota. Nature. 2013 Jul 10.)また腸管からのbacterial translocationも慢性炎症に寄与している可能性がありますよ。だからプロバイオティクスも何だか期待しちゃうんですよね、個人的に。2013年のCellには、自閉症スペクトラム障害と腸内細菌叢との関連性を示唆した論文がありましたし(Hsiao EY et al. Microbiota modulate behavioral and physiological abnormalities associated with neurodevelopmental disorders. Cell. 2013 Dec 19;155(7):1451-63.)。ちなみに自分はミヤBM®が好きです。

 これらをまとめると、以下の図になります。

慢性炎症ファクター
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 そんなサイトカインは、脳にどのような効果をもたらすんでしょう? サイトカインは結構大きな蛋白でして、それ自体では容易に血液脳関門を突破出来ません。様々な経路が想定されていまして、例えば脈絡叢や脳室周囲器官(CVOs)といった血液脳関門の緩いところから入ってくる経路、迷走神経などの上行性ニューロンを刺激して、シグナルを孤束核(NTS)や最後野に伝える経路、TNF-αが脳内のミクログリアを活性化させ、そのミクログリアがMCP-1を産生し、単球を脳内に連れてくる経路、などなど。

サイトカイン侵入
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 ひとたびサイトカインのシグナルが脳内に入り込むと、豊かなサイトカインネットワークがそこにはあります。ニューロンもそうですが、膠成分として昔は注目されていなかったグリア(アストロサイトやミクログリア)もサイトカインを産生して、サイトカインの受容体を発現します。特に、脳内で最もサイトカインを産生する細胞がミクログリアでして、現在の精神医学はこいつに注目してるんです。実際、気分障害や統合失調症で自殺した患者さんの脳内では、ミクログリアの密度が上昇している部位があるなんて言われてます。

●キヌレニン経路って?
 サイトカインが行動に影響を与える機序で最も研究されているのは、神経伝達物質の代謝についてです。モノアミンから見てみますが、キヌレニン経路を示しましょう。

キヌレニン
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 モノアミンの代謝には、indoleamine-2,3-dioxygenase(IDO)という酵素が大きな役割を持っています。IDOは数多くの細胞にありまして、IFN-γ、TNF-α、IL-1、IL-6などのサイトカイン、そしてSTAT-1やMAPKやNF-κBなどの因子を介して活性化されます。トリプトファンはセロトニンの材料ですが、他にもIDOの存在下でキヌレニンとなり、それが脳内ではミクログリアやアストロサイトによって更に変換されます。

グリアによる代謝
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 中枢神経系では、キヌレニンはキヌレン酸(kynurenic acid: KYNA)とキノリン酸(quinolinic acid: QUIN)と3-ヒドロキシ-L-キヌレニン(3-hydroxy-L-kynurenine: 3-HK)へと代謝されます。QUINと3-HKは主にミクログリアと浸潤したマクロファージで産生され、前者はNMDA受容体に直接結合し、グルタミン酸放出から興奮毒性、神経変性につながります。また、脂質過酸化反応に関係し、酸化ストレスをもたらします。3-HKはNMDA受容体依存的ではなく、フリーラジカル産生によって神経変性をもたらします。

 QUINとは異なり、KYNAはアストロサイトで産生されます。こっちはNMDA受容体、カイニン酸受容体、AMPA受容体を阻害。更にはニコチン性アセチルコリン受容体α7サブユニット(α7nAChR)を阻害し、グルタミン酸の放出を抑制します。これによって神経保護的に働くと言われます。KYNAは認知機能に関わり、過剰産生がグルタミン酸やドパミンやコリンのバランスを乱してしまい、認知機能障害を産みます。中脳ドパミン神経の発火にも関与し、それが線条体や側坐核や前頭前野といった下流への投射に影響を与えます。また、α7nAChRはサイトカインの転写と翻訳の両方を調節する機能も持ってます。

 精神疾患や神経疾患では、QUINとKYNAの比が重要なんだと言われます。QUINが多すぎてKYNAが少なすぎると、神経毒性が強まってしまいハンチントン舞踏病やアルツハイマー型認知症などの神経変性疾患に結びつきます。KYNAが多すぎるとNMDA受容体の活性が落ちて統合失調症の病態に寄与するのではないかと言われ、統合失調症患者さんの死後脳でもKYNAが上昇しています。上述のα7nAChR阻害も統合失調症の病態に関与しているとされます。KYNAの上昇は統合失調症の認知機能障害に特に大きく影響するようでございます。

キヌレニンのバランス
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 うつ病については、やはり様々な炎症性サイトカインがIDOを活性化することが中心的な役割を果たしてるんじゃないの?とされてます。うつ病患者さんの死後脳ではミクログリアの活性化とアストロサイトの減少が示されており、QUIN上昇によりNMDA受容体の過活性が見られるのではないかと言われます。NMDA受容体阻害薬であるケタミンによる速やかな抑うつ改善は、これの傍証となるかもしれませんね。ただ、IFN-αを投与された患者さんのCSFではQUINとKYNAの両者が同等に上昇しているみたいで、これは事態が更に複雑であることを示唆しています。よって、うつ病におけるキヌレニン経路の変化というのは、脳の部位特異的かもしれんです。マウスのモデルでは、QUINの前駆体である3-HKが皮質では減少しており線条体や扁桃体では上昇していることが認められています。

●キヌレニン以外のものたち
 モノアミン代謝に影響を及ぼすもう1つの経路は、サイトカインのシグナルによるMAPKの経路です。この経路が刺激されると、セロトニントランスポーターの発現と機能が高まり、更にドパミントランスポーターにも影響が出ます。よって、この経路がサイトカインにより強まることで、セロトニンもドパミンも再取り込みが促進されるという状況になります。他には、テトラヒドロビオプテリン(BH4)っていうものがあります。これは、セロトニンやドパミン、ノルアドレナリンを合成する際の律速酵素であるトリプトファンヒドロキシラーゼとチロシンヒドロキシラーゼの補酵素。また、アルギニンから一酸化窒素(NO)を合成する際に必要なNOSの補酵素でもあります。BH4は非常にもろく、炎症や酸化ストレスでXPH2に変性します。サイトカインがNOや酸化ストレスを通してBH4に影響を与えることで、モノアミンが上手く使えなくなってしまうとされます。

 モノアミン以外では、サイトカインが神経新生や神経内分泌や神経回路に与える影響というのが研究されてます。神経新生ですと、ストレスによって炎症が強まると、IL-1などのサイトカインが放出され、NF-κB活性化などを介して神経新生を阻害すると示唆されています。神経内分泌ですと、うつ病ではHPA-axisが研究されていて、サイトカインが海馬でのグルココルチコイド受容体(GR)の発現や機能を損ねることで、GRを介したフィードバック機能の低下が視床下部のCRH系機能の亢進を生じ、グルココルチコイド抵抗性がもたらされるという研究があります。神経回路では大脳基底核と背側前部帯状回(dACC)が影響を受けるとも言われます。

●まとめ
 うつ病や統合失調症を代表とする精神疾患はサイトカインの影響を強く受けます。特にこの2つの疾患はミクログリアとアストロサイトによるKYNAやQUINの産生が病態に強く結びついていると考えられます。自閉症スペクトラム障害においても脳の多くの部位でミクログリアが活性化していたという報告もあり(Suzuki K, et al. Microglial activation in young adults with autism spectrum disorder. JAMA Psychiatry. 2013 Jan;70(1):49-58.)、これから脳の炎症というのは大きなテーマになってくる、と自分は勝手に考えています。

 抗炎症を考えた際の薬剤はエビデンスがまだまだ弱いながらも、自閉症、統合失調症、双極性障害、うつ病など多くの精神疾患への治療として研究が行われてます。精神疾患は症候群的な色合いが強く、うつ病でも炎症が強く関与しているうつ病もあるでしょうし、あまり関与していなうつ病もあると思います。炎症が関与していると考えられる精神疾患であれば、何らかの効果は期待できる(というか、期待したい)かも。

 使用量として、アスピリンは1000mg/day、セレコキシブは400mg/day、ミノサイクリンは200mg/day、EPAは1-2g/day、N-アセチルシステインは1-3g/day、エストロゲンは0.625mg/dayというのが多いでしょうか。予防的な役割や従来の薬剤では十分な反応が得られない場合の増強としての役割などを有します。困った時の一手として、頭に浮かべてみても悪くはない、かもしれません。改善するって言う保証はなかなかできませんが…。統合失調症についてはアスピリンとエストロゲンとNACが効果ありというのが新しい報告でしょうか(Sommer IE, et al. Efficacy of Anti-inflammatory Agents to Improve Symptoms in Patients With Schizophrenia: An Update. Schizophr Bull. 2014 Jan;40(1):181-91.)。
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コメント
お疲れ様です。
セレコキシブはそんなに使用して胃腸障害やその他副作用は問題ではないのですか?400の場合、飲み方はどんな感じですか?黒色便くらいなら飲み続けて問題なしでしょうか?
SATOUdot 2014.02.22 21:41 | 編集
>SATOUさん

ありがとうございます。
そうなんですよね。セレコキシブを長期にわたって服用しても問題ないのかどうかは気になります。胃腸障害よりも心血管リスクでしょうか、気になるのは。ただ、両者とも生じる可能性があるため、黒色便が出たら即刻中止です。
400mg/dayであれば朝夕食後に200mgずつですが、他の増強療法(抗精神病薬や甲状腺ホルモンなど)と比べると効果は低いように個人的には思います。第一選択の増強としてはあまり考えられません。ただし炎症反応が高いうつ病患者さんなら大きな効果を出す可能性はあります。面白いのは、ビタミンB12の血中濃度が正常範囲でもやや低め(190-300)であれば、ビタミンB12を抗うつ薬に加えると抗うつ効果が増強されるというのがあります(Syed EU, et al. Vitamin B12 supplementation in treating major depressive disorder: a randomized controlled trial. Open Neurol J. 2013 Nov 15;7:44-8.)。そっちのほうが身体に害が少なくていいんじゃないかとも(安いですし)。
m03a076ddot 2014.02.23 07:52 | 編集
回答ありがとうございます。所でCOX3は存在する物でしょうか?せっかくなので黒色便に気を付けつつ、アセトアミノフェンをカットしてセレコキシブ400を試してみようかと思ったのですが。アセトアミノフェン一回500はイマイチ。600で明らかに効果有りでアセトアミノフェンの一体何が良いのか疑問に思いました。(連日使用においてはトラマールより体調が良い様です)
もう一押しが欲しいところです。
アセトアミノフェンは血糖降下作用があるのですね。朝からチョコレートや甘いもの生活に突然なり納得です。
SATOUdot 2014.02.23 10:18 | 編集
>SATOUさん

ありがとうございます。
COX-3についてはCOX-1の仲間で中枢神経系に存在しますが、それがどれだけ炎症に関与しているかなどは何とも言えないでしょうか。アセトアミノフェンも本当にそれに関与しているのかは難しいところです。
アセトアミノフェンは、10mg/kgくらいはなければ十分な効果は出にくいとされます。体重が60kgなら600mgになります。肝毒性には気を付けた方が良いとは思いますが。2g/day以下なら大丈夫と言われますが、それ以下でも肝障害を起こした患者さんもおりますので。
m03a076ddot 2014.02.24 08:42 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2014.02.24 10:18 | 編集
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。
痛みという点ではちょっとビタミンはなかなか効果は難しいかもしれません。
痛み止めはCOXに作用するものやオピオイド、抗てんかん薬、抗うつ薬、漢方など色々あります。その中でも合ったものが見つかればと思っています。
m03a076ddot 2014.02.25 15:49 | 編集
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