2014
01.20

動きと呼吸で変化する痛み…?

Category: ★研修医生活
 この前は研修医救急勉強会がありました。自分もちょろちょろっと昔を偲んでいつも参加しております。

 その時のお題は、右上腹部痛。(以下は実際のものを改変してます)

 高齢女性で、10年ほど前に直腸癌手術の既往があり、B型の慢性肝炎もあるという患者さん。夜中、ごろっと寝がえりを打った時にズキッと痛みを感じたそうです。黙っていても痛くて、痛みの強さはあまり時間が経っても変わらず。右側臥位には痛くてなれないとのこと。寝ているよりも立っていた方が少し楽で、深呼吸で痛みが強くなる、という研修医のプレゼンでした。発症から来院までは2時間ほどだったようです。

 研修医の彼は、動きで痛みが変わると言うところから筋骨格系を考えていたと話していました。

 ここで原則を1つ。どのテキストにも書いてますが、突然発症の痛みであれば”破れる・詰まる”をまず考えるというもの。

 この”破れる・詰まる”は血管や腸管などの管腔臓器はもちろんのこと、脾臓や腎臓など実質臓器、そして腫瘍も含まれます(これ忘れがち。自分もふっと忘れちゃうことがあります)。筋骨格系の痛みは動いた時やぶつかった時に出てきて、確かに突然発症ではあります。しかし、緊急性を考えると”破れる・詰まる”をどんな時も第一に考慮しましょう。自分の同期の経験では、よいしょと立ち上がった時に腰が突然痛くなったという患者さんがおり「あーぎっくり腰かな」と軽く考えていたら実は大動脈解離だった!なんてことがありました。

 さてこの患者さん、外観はsickな印象乏しく、バイタルは呼吸数含め問題なし(きちんと呼吸数を計ってるのが素晴らしい)。身体診察では右上腹部の圧痛と肝叩打痛と右のCVA tenndernessが陽性。血液検査ではHbなんかも下がってなくてCRPも上がらず、D-Dimerが少し上昇してるくらい(0.5以下が基準値ですが、1.3でした)。

 その後CTで疾患は分かっちゃうんですが、結局その患者さんは肝細胞癌の破裂だったんです! 血性腹水も結構なもので。

 病歴前で考えてみましょう。一文サマリは”突然発症した右上腹部痛を訴える、直腸癌既往と慢性肝炎のある高齢女性”ということになろうかと。そこからマニュアル的な鑑別の他に上位に挙がるものを考えると、やはり慢性肝炎の存在からひょっとしたら肝臓の悪性腫瘍なんかがあるんじゃない?という思考。その辺りを見逃さんようにやって行こうかな、と病歴前確率をぼんやり思いながら病歴聴取に入ります。

 そこで大事なのが、研修医をミスリードした”動きで痛みが変わる”というもの。これの解釈ですね。もちろん筋骨格系もそうですが、大事なのは



腹水の存在・後腹膜への炎症波及



 です。これを覚えておきましょう。腹水に関しては、仰向けになると腹水がざざざっと後腹膜を這って横隔膜のところまでやってきます。それが刺激になって痛い。腹水が多いと横隔膜への刺激で浅い頻呼吸になることもあります。だからこの患者さんは立っていた方が楽なのでした。後腹膜に関しては、急性膵炎など、後腹膜臓器で炎症が後腹膜に波及すると仰向けだと痛くてうつ伏せで丸まっていたり前かがみに座ったりすると和らぎます。腸腰筋膿瘍とか虫垂炎の炎症波及度合いとかでは”腸腰筋徴候 psoas sign”が陽性になりますね。だから患者さんはお腹を軽く丸めたり脚を伸ばさず少し曲げていたりという姿勢になります。

 そして更に重要なポイントとして”深呼吸で痛みが強くなる”というもの。これは研修医が良くぞ聞いてくれたと思いましたが、この訴えは



横隔膜・腹膜・胸膜の辺りに何かある



 という情報をもたらします。上腹部痛であれば横隔膜膿瘍かもしれないし、今回のように肝臓の病変かもしれない。深く息を吸うと横隔膜が下がるので、その煽りを受けて周辺臓器に病変があれば反応します。だから膵炎も痛みが強くなります。下腹部痛やお腹全体が痛いのなら腹式呼吸でお腹を膨らませると腹膜にテンションがかかるので、腹膜炎になっていたら痛みが増強しますね。もちろん腹部臓器に限ったことではなく、胸部の痛みなら胸郭も膨らむため筋肉や骨が考えられますし、肺だって膨らむので気胸や胸膜炎も痛みが増します。

 今回、深呼吸で右上腹部痛が増したというのは肝臓そのものが呼吸によって押し下げられたためと解釈できるでしょうか。仰向けのままで深呼吸して痛いのなら、腹水による影響もあるかも。

 この深呼吸は、診察の場で実際に患者さんにやってもらうことが大事。深く思いっきり吸ってもらいます。問診だけだと「そんなんないですよ」とスルーされる可能性があります。姿勢での痛みの変化も実際に動いてもらう。うつ伏せになって楽になるか、その場で患者さんにやってもらいましょう。

 ”呼吸”は腹痛にも活かしましょう。実際に深く吸ってもらうというのもそうですし、浅く速い呼吸なら「腹膜をあまり動かしたくない、もしくは腹水で横隔膜が刺激されている」という考えに結びつきます。腹痛とは離れますが、敗血症の初期症状として頻呼吸が真っ先に出てくることもあります。

 今回の診察でCVA tendernessが陽性なのはなぜ?と思うかもしれませんが、このCVA tendernessというのは添えた手の周辺臓器のダメージを表すもので、決して腎盂腎炎に特徴的なものではありません。だから例を挙げると、右なら肝臓や胆嚢や十二指腸の病変もあるでしょうし、左なら脾臓の病変も考えられます。他に膵臓とかめちゃくちゃ下の肺炎とか肋骨骨折とか、結構色々あるもんです。

 検査でHbが下がってないというのは、受診が早かったためでしょうか。急性出血だと、2-3時間ならHbがピクリとも動かないことが結構あります。ただ、基準値内でも以前のHb値があるのならそれと比較して変化を捉えることも大事。D-Dimerが上昇していましたが、これは疾患非特異的。癌そのもので上がっていたかもしれません。

 ということで「動きや呼吸で痛みが変化するからと言って、安易に筋骨格系と決めつけない」というのがtake home messageでございました。

 ちなみに腹痛の場合、その痛みが内臓由来なのか筋骨格由来なのかの診察に”Carnett sign”があります。仰向けになってもらって、医者は痛いところを抑えます。そして、患者さんに”腹筋”をするみたいに少し両肩を浮かせてもらいます。それで痛みが強くなれば陽性で、その痛みは筋骨格系だろうと解釈されます。痛みが変わらなくても筋骨格系っぽい。弱まれば内臓由来かも。生坂先生の『めざせ!外来診療の達人』に書いてありますので、チラッと見てみてください。
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