2014
01.17

牛車腎気丸は選んで使う

 中医学的な”腎”と解剖用語の”腎(kidney)”とは異なる概念とされ、前者は筋骨格系や神経系も含んでます。ただ、後者の腎(kidney)についても慢性腎臓病(CKD)になると腎性貧血という貧血になったり骨粗鬆症になったりということがあり、あながち両者が全く異なるとも言えないような気もします。

 そして牛車腎気丸は中医学的な腎の”陽陰両虚”に用いる漢方薬。最近は抗がん剤による末梢神経障害に頻用されてきている漢方薬ですが、盲目的に


”抗がん剤による末梢神経障害なら牛車腎気丸”


 と言うような使い方には注意が必要だ!と思っています。以前に小柴胡湯で間質性肺炎の報告があって医学界が揺れましたが、病態を考えて使わないとちょっと同じようなことの繰り返しになりはしないかと不安。なぜそんな風に思っているのか? ちょっと生薬レベルで振り返ってみましょう。

 ”腎”に焦点を当てた漢方でエキス製剤になって医者が使うものとしては六味丸、八味地黄丸、そして牛車腎気丸が代表例。

 子ども用に作られた六味丸は、八味地黄丸から桂枝と附子という温める生薬を抜いて作られました。陰陽のバランスがちょっと崩れて”陰虚”になっている時に用います。漢方的には、陽は気を含み、陰は血を含みますから、陰虚っていうと相対的に陽が盛んになっており、エネルギーの代謝が亢進してます。かつ、血が虚するということもあり、陰虚は”血虚+熱”という風に解釈することが出来ましょう。

 そんな前提を踏まえた上で、六味丸に含まれる生薬を見てみましょう。

山茱萸、山薬、沢瀉、茯苓、牡丹皮、地黄

 以上の6つ。地黄が神経反射を改善し、山茱萸は地黄の手助けをします。牡丹皮が抗炎症作用を持っており、虚熱を冷ましてくれます。沢瀉と茯苓は過剰な水分を除く作用を持ちますが、山茱萸と地黄は潤いを保つ働きがあり、全体としては潤いの方に向く方剤。

 八味地黄丸は略して八味丸とも言われますが、適応は”陽陰両虚”、すなわち陽も陰も虚してしまっている時。これは”老化による生理機能や物質の衰え”と考えていいでしょう。エネルギーの合成も代謝も落ちている状態。生薬は”六味丸の生薬+桂枝と附子”でして、この桂枝と附子は温める方に向かうため陰虚で虚熱があるような人には向きません。陽も虚している人が適応です。これを間違うとよろしくなくて、何でもかんでも八味丸というのはまずい。お年寄りでも寒さに強くて火照ったりのぼせたりしているような、そんな人に使うのは間違っています。ここ注意。「年寄りには何でも八味丸やっとけ!」っていう乱暴なことをやると痛いしっぺ返しが待っています。副作用報告もこの八味丸は漢方の中で最も多いと言われていますよ。

 さて、そして牛車腎気丸。これは八味丸の生薬に牛膝と車前子を加えたもの。ということは、”腎”用の有名三剤は、以下のように整理できます。

・六味丸=八味丸-(桂枝+附子)
・牛車腎気丸=八味丸+(牛膝+車前子)

 この牛膝と車前子はどのような働きをしているのか?というのがポイントです。いくつかの働きがあるんですが、メインは利水作用。水はけを良くしてくれる、と考えましょう。六味丸や八味丸はやや潤わせる方向でしたが、牛膝と車前子の加わった牛車腎気丸はいわゆる”燥性”でして、乾かす方向です。だからこそ、使用目標は”むくみ”が大切。もちろん陽陰両虚であることは言うまでもありません。

 末梢神経障害があるからすぐに牛車腎気丸、というのでは中医学的にやっぱり困ります。きちんと冷えとか寒さとかがあるかを配慮して(桂枝と附子が入ってますからね)、かつむくみがあるかを確認しましょう(牛膝と車前子が入ってますよ)。カッサカサな人に長期連用するとよろしくない、と思います。牛車腎気丸にも間質性肺炎の報告が上がってますし、最低限のことは調べて使わないと。

 ”病名漢方”は悪いことではないと思いますし、そうしないと漢方も生き残っていけないでしょう。いつまでも中医学だけの閉鎖的な世界でやっていてはダメ。でも”病名漢方+α”として、寒熱のどちらか、潤性か燥性か、機能低下や機能異常があるのか(気虚や気うつ)、肉体的に枯れてきているのか(血虚)、慢性炎症の結果としての組織リモデリングがあるのか(瘀血)、などなどの因子は必要。それを考慮しないと変な副作用が出てしまうんじゃないかなと思っています。
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コメント
おはようございます。
お忙しい所申し訳ないです。お手透きの時にお返事頂けたら有り難いです。
東京で西洋医学にも精通していて総合的に漢方治療ができるドクターオススメ誰か居たりしますか?(内科系がよいです)

八月から漢方科にいきましたが(天下のK大)一週間は良かったのよね?と体調がおかしくなった処方を又ごり押し+追加原料二剤に(*_*)
ベース(ほちゅうえっきとう)が悪化処方では飲めません、、バカの一つ覚えの医者かと気づき。
提携の薬局ではそれだめだ、漢方も副作用ある、先生はきちんと選ばないと毎回ダメ出し。
別のドクターの元で働いている方推薦で選んだのにがっくし(そのドクターは予約とれず皆さん我慢と(笑)
初診で処方42日分に、見切りをつけるべきでした。

要するにここの科は患者を診れるドクターがいないのでしょうね。
免疫をあげたく逆にすぐ具合悪くなり、数ヶ月ほぼ飲まず液体の重い処分に困るゴミと不快な会話に支払いで、全くアホですね。

所で隣で書記をして学び中のドクター(若い助教授)はやはり、その科の物は主治医と同じ処方回路なのでしょうか?
SATOUdot 2014.01.26 08:57 | 編集
>SATOUさん

ありがとうございます。
自分は漢方を使っているとはいえ個人プレーのため人脈がなく学会にもあまり出ず情報少なく、東京に限らず「この先生が良い!」と言う情報を全く持っておりませんでして。。。
有名どころでは東京女子医科大学東洋医学研究所クリニックでしょうか…。東京ではなく千葉県でもよければ”あきば伝統医学クリニック”の秋葉先生が経験豊かと思います。
漢方も中医学を中心にしてらっしゃる先生と日本漢方の先生とでは処方するもが違っていることもありますし、なかなか難しいところです。
書記をしてらっしゃる先生は、多くは上級医から教えてもらうので、漢方的な見方は同じことが多いでしょうか。ただ、自身で勉強をして上級医の考えと違うということもままあるかと思うので、一概には言えないかもしれません。
あまり答えになっておらずすみません。
m03a076ddot 2014.01.26 16:09 | 編集
おはようございます。凄い参考になりましたよお返事ありがとうございました。
そうなんですね。漢方はなんだか難しそうですね。
特徴ある先生は辺鄙なエリア多い様な。女子医とつくものは止めておきます(笑)機会が有ればあきば先生行ってみようと思います。
又、初心に返りお気に入りのドクターに出会った際に漢方治療も可能か聞くようにします。
先生は中医学と日本の漢方どちらですか?

遙か昔は診察道具が無かったわけで現代のお医者さんには昔の漢方診療は即していない、かなり症例を診ているか閃きがないと当たるのはちょっと無理なんじゃないかなーと思ってきました。
漢方医は長く飲まないと利かないと言いますが、残念だけど所詮お薬で長期に飲むものじゃないかと。外れていた場合いつの間に体が弱りだからなかなか気づかず危ないなと。

SATOUdot 2014.01.27 06:44 | 編集
>SATOUさん

ありがとうございます。
自分は日本漢方の”実証”や”虚証”など、体格で判定する方法は採用していません。なので、例えば日本漢方的には”虚証”の患者さんに大柴胡湯を使うこともままあります。あと、日本漢方は患者さんの病態をすべて傷寒論で説明しようとしすぎているキライがあるかと思っています。
ただ、だからといって中医学一辺倒というわけでもなく。中医学の五臓の考え方はちょっとこじつけ感があり、全面的には信用していません。患者さんの症状と基本的な陰/陽、寒/熱、燥/潤などを考えて、生薬に則った漢方を選んでいます。
漢方薬は、飲んで数日で効く患者さんもいる一方、同じものでも2週間ころで何となく改善してくる患者さんもいます。やはりメカニズムがまだ明らかでないので、効果判定の期間は難しいですね。自分は待てるなら1ヶ月くらいを目安にしています。改善して安定してきたら、あとは患者さん自身で調節をしてもらうことが多いでしょうか。いつまで飲むべきかは一概に言えず難しいですね。
m03a076ddot 2014.01.28 11:48 | 編集
ブログいつも楽しみに見ています(^^)

漢方の事でお尋ねあります

わたしは今不安障害で漢方治療しています。

漢方にも副作用はあります

医師によって満量で投与する医師と
副作用の事や頓服使用も考えて減量投与が良いという医師
満量でないと効果なしという医師と
少量でも効果あるという医師がおられます。

先生はどのようなお考えですか?
あさがおdot 2014.07.13 16:32 | 編集
>あさがおさん

ありがとうございます。
漢方については、適量というのが個人によってかなりバラつきがあると感じています。
しかし、総じてエキス製剤は量が少ないと思っています。
ツムラさんのものは多くが3包/dayというのが添付文書で示されていますが、自分はそれを上回る量で出しています。自分にとっては4-6包/dayが標準量です。
一方、黄連解毒湯などは1-2包/dayでも十分な効果が期待できます。これを6包/dayで出すことはしません。
頓用として使うものもありますし、特に甘草の量が多いものはそんなに多くは出せません。例えば芍薬甘草湯や甘麦大棗湯は3包/dayでも多いと思っています。
m03a076ddot 2014.07.15 07:58 | 編集
早速のお返事ありがとうございます(^^)
わたしは、なぜかツムラさんのは合わなくて。。。^^;
今は柴胡湯をメインに飲んでます
この間まで竜骨牡蛎はいってるものだったのですが。
ベンゾが身体に合わないので それがいいのか悪いのか笑
あさがおdot 2014.07.15 08:17 | 編集
>あさがおさん

ありがとうございます。
漢方薬はその人に合ったものが個人個人で異なるので、なかなか画一的なものって少ないですね。
そこが興味深いところでもあり悩むところでもありますが。。。
m03a076ddot 2014.07.18 22:27 | 編集
管理人用閲覧コメントをくださったかた、ありがとうございます。

牛車腎気丸は陽陰両虚でかつ水滞が見られた時の諸症状に使用します(概念の説明は長ったらしいので省きます)。
クリニックの先生はそのように判断したので処方したかもしれません。
ただ、漢方は使う医者によって随分と考え方が異なるというのが実情であり、実際は処方した先生に理由を聞くのが確実だと思います。
m03a076ddot 2015.11.01 11:11 | 編集
お忙しいところ、ご回答ありがとうございました。
むくみがあったので処方されたのかもしれないですね。
牛車腎気丸は合わないようなので、担当医へ相談してみます。
参考になり、感謝しております。
別件で申し訳ないのですが、この漢方薬を飲み始めてから、息苦しさを感じるようになりました。これは副作用の可能性があるのでしょうか。参考までにご意見をいただけますと助かります。
dot 2015.11.03 07:26 | 編集
名無しでコメントをくださったかた、ありがとうございます。

漢方薬の副作用は予測が付きにくい事が多く、また漢方薬のどの成分が悪さをしているかもわかりづらいです。
ひょっとしたらですが、牛車腎気丸に含まれる附子が肺を温めすぎて苦しくなっているのかもしれません。
日本漢方は無闇矢鱈に患者さんを温める傾向があり、その結果、肺(中医学的な肺です)が熱にやられてしまうこともあります。
ただ、今回の息苦しさが本当にそれなのかは残念ながら分かりません。
服用を中止して改善するのであれば、その可能性もあるでしょうけれども。
m03a076ddot 2015.11.05 16:43 | 編集
度々すみません。「附子」の件も含めて、かかりつけ医に相談する予定です。本当にありがとうございました。
dot 2015.11.06 20:06 | 編集
管理人用閲覧コメントをくださったかた、ありがとうございます。

牛車腎気丸の副作用ではないとのことで、こちらも安心しました。
ご自身で行動を起こしたことで方向性が見えてきたことに変わりはありませんので、良い一歩になったのではないでしょうか。
m03a076ddot 2015.11.09 16:08 | 編集
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