2014
08.31

チックの治療を考える

Category: ★精神科生活
 チックは子ども時代に経験する方が結構いまして、多くの場合治療しなくても過ぎ去っていきます。でも日常生活を邪魔する様な状態が続くと、それはやはり治療したほうが良かろう、ということに。運動と音声との2種類がありますが、両方組み合わさったものが長く続くとトゥレット症候群と言われます(運動と音声とが同時期に存在するとは限りません)。

 原因としては、遺伝素因(生来の”なりやすさ”)に何らかのストレスが組み合わさることが一般には言われておりますね。ただ、子どもの場合は想定外のことがストレスになることもあるため、環境的な原因を明らかにできない時もあります。基本的には、何らかの心的な負荷に対する患者さんなりの無意識の対処行動、という視線。

 病態の1つに、基底核部でのドパミン活性の低下とそれによるドパミン受容体の過感受性が挙げられているそうです。よって、受容体の過感受性を目標に少量の抗精神病薬を使用したり、逆ではありますが、ドパミン活性低下を考えてl-dopaなどの抗パーキンソン病薬を使用することもあります。ロピニロール(レキップ®)というドパミンアゴニストがトゥレット症候群に効いたという小規模な試験もありました(Anca MH, et al. Ropinirole in Gilles de la Tourette syndrome. Neurology. 2004 May 11;62(9):1626-7.)。そういうのを考えると、ドパミンパーシャルアゴニストのアリピプラゾール(エビリファイ®)は理に適っていると考えられますし、有用とする報告も結構あります(Yoo HK, et al A multicenter, randomized, double-blind, placebo-controlled study of aripiprazole in children and adolescents with Tourette's disorder. J Clin Psychiatry. 2013 Aug;74(8):e772-80.  Ghanizadeh A. Systemic review of aripiprazole for the treatment of children and adolescents with tic disorders. Neurosciences (Riyadh). 2012 Jul;17(3):200-4.など)。運動が優位であり衝動性や攻撃性を何とかしたいなら、αアゴニストのクロニジン(カタプレス®)も使用されますね。

 自分は一般的な精神科医でして、もともと子どもを診ること自体が少なくてですね、チックの治療を日常的に行なってはいません。ただ、偶然にも遭遇することがちょろっとありまして、そういう場合は職業柄というかなんというか、まず漢方薬でどうにかならんかなと思って対処してます。ストレスや緊張を和らげようと考えるので、それを目指した生薬が含まれる漢方を。よって、ほぼ盲目的(?)に抑肝散加陳皮半夏(2-4包)と甘麦大棗湯(2包)を合わせて出します。抑肝散加陳皮半夏には釣藤鈎と柴胡という生薬が含まれているのが特徴で、それらには軽い鎮静作用があります(釣藤鈎は不眠に最適)。甘麦大棗湯というのは、大雑把に表現すると脳の電気的興奮を抑える漢方。昔は柴胡桂枝湯などと合わせて”てんかん”にも使ったんですよ。ただ、甘草の量が多いので偽性アルドステロン症に注意です。

 これで様子を見て頑張っているとだんだんと良くなる。ま、自然経過なのかもしれませんが…。しかし、中には待てど暮らせど改善しない患者さんもおりまして、そういう時は、柴胡をもう少し増やして更に芍薬を付加する方法を採ります。芍薬も柴胡や甘草と同様に鎮静作用を持つため、例えば抑肝散(芍薬が入ってません)を効かせたいときには芍薬を加えるというのが漢方のコツとしてもあります。ということで、自分は抑肝散加陳皮半夏(2-4包)に四逆散(2-4包)を合わせます。四逆散は柴胡の他に枳実と芍薬と甘草が含まれる漢方で、生薬を見ても緊張をほぐすために作られている感じ。陰虚と考えられる患者さんなら、抑肝散加陳皮半夏に六味丸を加える事も方法の1つでしょう。

 運動優位なら、興奮を鎮める黄芩の含まれる大柴胡湯(1-4包)や、ちょっと衝動性が強いようなら黄連と黄芩の入る黄連解毒湯(1-2包)などを抑肝散加陳皮半夏に加えます。黄連解毒湯を使いたい患者さんで便秘気味なら、三黄瀉心湯(1-2包)に変えます。音声チックなら咽頭の気滞と考えて半夏厚朴湯(2-4包)を抑肝散加陳皮半夏に併せることも。自分はトゥレット症候群を診たことはありませんが、慢性化しているのであれば駆瘀血剤を使うことも選択肢だろうなと思います。でも漢方がなかなか効かないなら、諦めて抗精神病薬に移った方が良いんじゃないかなと思います。自分も四逆散合抑肝散加陳皮半夏で全然ダメだった患者さんがアリピプラゾール1.5mg/dayですっと良くなったことも経験しました。漢方にこだわり過ぎも良くない。

 後は、非薬物療法としてフランクル的な”逆説志向”を組み合わせることでしょうか。例えば音声チックなら「もっと自分から声を出してごらんなさい。みんなに聞かせてあげようというくらいの気持ちでいた方が良い」とお伝え。抑えよう抑えようとすると更に悪化することもあるので、ここはひとつ逆転の発想で。




註:今回挙げた方剤の組み合わせを見て「なんだこりゃ…」と思う漢方の先生もいらっしゃるかもしれません。特に黄連解毒湯と抑肝散加陳皮半夏を合わせるというのは「??」と思われるかもしれません。が、それは、自分が日本漢方の言う”実証・虚証”という考え方をしていないためだと思います。陰陽・寒熱・燥潤・気血・風湿を見て、後は生薬の作用から選ぶことをしています。先の併用ですと、抑肝散加陳皮半夏はいわゆる”虚証”用の漢方で、黄連解毒湯は”実証”用の漢方。正反対ですよね。でも生薬で考えると、陳皮を予め入れておくことで、黄連や黄芩の冷やしすぎる作用をマイルドにしているという認識になります。
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コメント
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。

最近は患者さん用の本も出ているので、それに眼を通してみてはいかがでしょうか。
また、精神科受診も必要に応じてお考えいただければと思います。
m03a076ddot 2014.09.03 07:12 | 編集
先生、漢方使いこなしてますね
すごいです

チック、割と周りにいます
瞬き、口舐めるが多いと思います
気にすればするほど やってしまう
無意識にしてしまうと言ってました

あさがおdot 2014.09.03 14:53 | 編集
>あさがおさん

ありがとうございます。
漢方は「粉飲めない…」ということで継続できない患者さんも多々おりまして。。。
チックは結構多いですね。
気にすればするほど、止めようと思えば思うほど出てしまうのでお困りのかたもいらっしゃいます。
m03a076ddot 2014.09.06 08:40 | 編集
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