2013
10.26

覚書その6~防衛機制って何なんだ?

Category: ★精神科生活
 前章はブラックジャックになってしまいました。。。前にちょろっと防衛機制のことをお話しましたが、それは抑圧を基礎とした高次の防衛機制と分裂を基礎とした低次の防衛機制とに大きく分かれますよ、というものでした。今回はこれを少し詳しく見て行きましょう。この覚書では、精神分析の知識について発達理論、防衛機制、人格構造、転移/逆転移を主に取り上げています。これらは相まって患者さんを理解するための知識となりますから、堅苦しいでしょうがお勉強。精神科やるなら臨床に役立つものとしてこれくらいは知っておきたい、というものをピックアップしています。

==========

 防衛機制は“あいだ”がほどよくない時、抱えられないものに対する意識的/無意識的なコーピングととらえることが出来るでしょう。その抱えられないものをどう処理するか?というのが防衛機制によって異なります。ここではそれぞれの防衛機制の説明はしませんが、基礎となる分裂抑圧の説明をしましょう。

防衛機制

 前者は、悪いところも良いところも含めて1つの関係性なんですよ、というのを認識できなくなること。そのため、“良い”“悪い”という2つにパキッと分裂させて物事を判断しちゃいます。この説明は前にも見たことがあると思いますが、この分裂を基本とする“低次”というのは、早期の乳幼児の発達段階で働いている防衛機制であることを意味し“原始的”とも表現されます。投影同一視、原始的理想化、脱価値、攻撃化などなど。ということは“高次”というのは発達が進んだ防衛機制ということですね。後者の抑圧は、嫌なものを無意識の中によいしょと押しこむ防衛機制で、これは理解しやすい。

 低次のものは概して行動や言葉でも稚拙なものに現れます。上手く伝えられず、行動や稚拙な言葉として嫌なものを追い出すということ。子どもはそもそも追い出しをする存在。その追い出しにお母さんが試行錯誤してverbalとvocalで返してあげる事で、追い出しはコミュニケーションになります。でもお母さんがそれを出来なかったり子ども側で受け取れなかったりすると、追い出しは追い出しのまま。嫌なものを出す手段として、“低次”の防衛機制として残ってしまいます。特に“投影同一視”という防衛機制は重要視されています。これは嫌なものを相手に押し込めて、相手にその嫌なものがあるような感情を抱かせることを指します。自身の嫌な“あいだ”に相手を引きずり込んでしまう感じですね。実際の精神科臨床を理解するために大切な概念。

 高次なら良いのかって言われると、そうでもないのが困っちゃうところ。防衛機制は高次のものを上手に使いこなせば良いんですが、低次のものを連発するとか高次のものでも1つだけをどんな時にも使っちゃうなど柔軟性に欠けて硬直しているとかだと、一時的には患者を守るものの長期的には厳しいものになってしまうことが多いです。ひずみが生じ、コーピングとして用いているはずがいつの間にか不適応となってしまうんです。でも患者さんはそれに頼らざるを得ず、悲しい努力の表れでもありますね。。。

 防衛機制の種類や分類は様々ありますが、ここではヴァイラント先生の分類を覗いてみましょう。彼は防衛機制を4つのレベルに分けています。細かい説明はしません。低次から高次に進んでいくんだなと漠然と思っておきましょう。

 レベル1が精神病的防衛。最も原始的で5歳くらいまでの子どもなら普通に用いるもの。分裂はもちろんのこと、否認や歪曲や投影(投影同一視)や原始的理想化などなど。

 レベル2が未熟的防衛。3-15歳くらいの子どもが良く用いるもの。心気症、行動化、解離、退行、取り入れ、理想化などなど。

 レベル3が神経症的防衛。成人でも使われます。抑圧をベースとして置き換え、反動形成、知性化、合理化、身体化などなど。

 レベル4を持ってきたのがヴァイラント先生の特色だと思っています。このレベル4は成熟的防衛と言われ、健常人、多くは12歳以降に見られます。この防衛は“意識して”行われるもので“社会の中での自身”を見据えていくために重要なものであります。またレベル1-3を制御する役目も果たします。これを上手く使いこなしていくことが、心身ともに健康に過ごすためのキーとなりましょう。抱えられない辛い出来事がある時、意識してこのレベル4を使わないとレベル1-3に下がってしまって、コーピングが非適応に転じてしまいます。私たちの現実的な目標としては、このレベル4を使えるようになるということと言っても良いかもしれません。

 このレベル4には抑制、利他主義、ユーモア、予想(感情を伴ったリハーサル)、昇華、禁欲、友好、自己洞察、自己表現、補償、同定と取り込み、気分転換があります。少し説明すると、抑制というのは我慢のこと。「おもちゃ欲しい、でも我慢我慢」と、意識に上った状態で自ら抑えること。無意識に行われる抑圧とは異なります。予想(感情を伴ったリハーサル)はイメージトレーニングの様なものと考えておきましょう。禁欲は性的なものに限ったことではなくて、諦めるべき時に諦めるというもの。補償は自身の足りない部分を認識して、他の部分を伸ばしてカバーすること。同定と取り込みは「良いな、素晴らしい」と思ったものを見習うこと。これらも1つだけではなくて、色んなものを上手く使いこなすことが重要です。

 繰り返しですが、防衛機制は抱えられないものに対するコーピング。低次のものが悪いというわけではなく、私たちもそれを使います。ただ、溺れてはいないということ。低次のものばっかり使うのは、後に述べる精神病的人格構造や境界的人格構造の持ち主です。また、高次のものを使っていてもバラエティに富んでいないのなら神経症的であり、いずれ破綻するでしょう。苦しくてもそれに頼らざるをえない様な状況になってしまいます。現実的な目標として、レベル4のものを組み合わせて使えるように練習することが最も大事ということになります。

ヴァイラント

トラックバックURL
http://m03a076d.blog.fc2.com/tb.php/1669-1b7c1f13
トラックバック
管理人の承認後に表示されます
- dot dot 2016.10.28 22:56
コメント
はじめまして、私は心理学を独学している者です。「投影同一化(投影同一視)」の定義についてお聞きしたいことがあります。

m03a076d先生は「投影同一化」を「投影された側が、その投影内容を実際に持ってしまうこと」と定義されていると思います。
しかし、他の専門家にはこれとは異なる定義をしている方がいます。
異なる定義には2種類あり、
・投影する側が、投影された側を同一化する
・投影する側が、投影された側に投影内容を実際に持つように働きかける
というものです。(詳細はURLをご参照ください)

結局のところどの定義が正しいのかを、よろしければお教えください。
むぎdot 2016.11.06 23:44 | 編集
>むぎさん

ありがとうございます。
精神分析の用語は時代や学派によって少しずつ変わってくるので、1つに決めようとするとかえってこんがらがってしまうかもしれませんね。
フロイトも自分の言っていることをどんどん変えていったので、どの時代のものを読むかで理解も変わってきます。
投影同一視については、投げ入れる人に注目するか、投げ入れられる人にも注目するか、によって少しとらえ方が違うと感じています。
更には、投げ入れる人や投げ入れられる人の能動性や受動性を考えることで、定義が分かれてくると考えると良いかもしれません。
どの定義が正しいか、というよりは、誰に重きをおくかで細かい意味は変わってくるのだと考えると良いでしょう。
m03a076ddot 2016.11.10 22:48 | 編集
m03a076d先生、お教え下さりありがとうございます。
どの定義が正しいとは一概に言えないということですね。
ただ、議論をする上では用語に対する定義が明確でないと困りますね…。
むぎdot 2016.11.12 01:55 | 編集
>むぎさん

ありがとうございます。
定義が明らかでないものって結構多くて、例えば超有名な”転移”や”逆転移”も1つに定まっていないのが現状です。
もちろん”心理療法”の定義も実は曖昧でして。
それでも何とかなっているのが面白いところではありますが。
m03a076ddot 2016.11.14 22:07 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top