2013
10.04

患者さんに知ってもらう努力を、患者さんも知る努力を

Formoso G, et al. Feasibility and effectiveness of a low cost campaign on antibiotic prescribing in Italy: community level, controlled, non-randomised trial. BMJ. 2013 Sep 12;347:f5391.

 本日は抗菌薬の処方について、上記の論文を紹介したいと思います。

 抗菌薬は本当に必要な場合はもちろん使いますが、いらない時は出さないのが鉄則。でも外来では患者さんが


「風邪なのになんで抗生物質出してくれないんですか!?」


 とか、説明しても果てには


「風邪って言い切れるんですか!? 先生の言うバイキンが悪さする病気だったらどう責任とってくれるんですか!?」


 みたいなことを言うのが決して珍しいものではなく…。自分はそこまで食い下がる患者さんに会ったことはないですが、救急外来などでは良く耳にする出来事です。でも悪いのは患者さんだけではありません。医者側も勉強しない人もそりゃおりまして、細菌感染かどうかを調べることもなくぽいっと簡単に第三世代のセフェム(メイアクト®とかフロモックス®とか…)を出したり、ひどいのになると経口キノロン(クラビット®やジェニナック®)や経口カルバペネム(オラペネム®)を出したりなんかしてます。開業医さんに多いですね…。

 経口の第三世代セフェムはバイオアベイラビリティが異様に低く(大体20%前後)、添付文書の常用量では全く意味を成さないんじゃないかと思います。経口のキノロンが出番になるなんてことは、フツーないですよ。緑膿菌いるの?結核否定できる?経口のカルバペネムに至ってはもう何でこんなのつくっちゃったのとしか言いようがない…。無駄に出すことは耐性菌を産み、更には腸内細菌叢も崩します。もちろんこれらは風邪の原因であるウィルスに効きません。

 仮に細菌感染でも、原因菌を調べる努力もせずに広域を出してしまうというのはもう何と言って良いのか…。もし出してる先生がいたら、しっかりと感染症の勉強をしましょう。昔(と言っては失礼ですが)は感染症について教わる機会が非常に乏しかったようですから、おじいちゃん先生だとしょうがないのかなーとも思ってしまいますが、だからこそ若手がばしっと勉強してこれからの感染症治療を盛り上げていかないとダメですね。幸い良い教科書がたっくさんありますし、現代日本には。若手が頑張ると、中堅の医者もおちおちできません。意見すると「生意気だ」と言う上級医もいるかもしれませんが、ここは絶対に譲れない。それくらいの知識を身に付けて、下っ端から頑張りましょう。

 患者さんへの周知不足、医者の勉強不足、そして製薬会社のゴリ押し宣伝。これらが相まって悪い結果を産みます。製薬会社のMRさんの話なんて信じたらいかんですよ。大規模臨床試験だって製薬会社の資金提供がありますから、まさに批判的に見ないとダメ。世の中には色んな馬鹿馬鹿しい試験があります。

 ちなみにですが、糖尿病の治療薬もおかしいことだらけ。日本ではメトホルミンがあんまり使われてこなかったし、DPP-IV阻害薬が今ものすごく売れてしまってますが、これは不必要なことも多いです。この売上が多いというのが、糖尿病治療がいかに製薬会社に乗っ取られているかを示す好例でしょうね…。2013年9月のNEJMにて、サキサグリプチン(オングリザ®)はプラセボと比べて血糖値は下げますが心血管イベントを予防できず、全体の死亡率は上昇傾向になってしまい、更に心不全での入院は有意に増加。同じDPP-IV阻害薬のアログリプチン(ネシーナ®)も、心血管イベントの発生率はプラセボと同等。前者はSAVOR-TIMI 53 Clinical Trialsという試験で、後者はEXAMINE Clinical Trialsという試験(Scirica BM, et al. Saxagliptin and Cardiovascular Outcomes in Patients with Type 2 Diabetes Mellitus. N Engl J Med. 2013 Sep 2. White WB, et al. Alogliptin after Acute Coronary Syndrome in Patients with Type 2 Diabetes. N Engl J Med. 2013 Sep 2.)。こんなのが売れてるっておかしいでしょ。新薬だからって飛びつかない!製薬会社の提供するデータを信じない!

 さて、そんな前置きをしたうえで今回紹介する論文。これはイタリアで行われた試験です。住民440万人を対象にしたもので、医者と薬剤師さん向けのニュースレターに加えて一般市民の皆様にポスターやら小冊子やら広告やらで「抗菌薬を正しく使おう」と訴えたキャンペーン。イタリアってヨーロッパだから抗菌薬正しく使ってるんじゃない?と思ったら大間違い。ラテンのノリかどうかは知りませんが、結構惨憺たるもんです。同じくアメリカもひどいですよ。”欧米”という幻想は捨てましょう。オランダやドイツはさすがの一流国で、しっかりしてます。

 そんな介入したところ、外来患者さんへの抗菌薬処方率が減少したとの結果(-4.3%)。ただ、住民の抗菌薬適正使用に関する知識は増えなかったようです(なんだそれ)。 とはいえ、処方が減ったのは良いこと。

 ということで、日本ももっと医者側や国側から国民の皆様に向けてドンドン知らせるべき。そして、処方される側の皆さんもきちんと調べる。そういう建設的なお勉強が、良い結果を産むんだと思います。ただ世の中には反医学的な本やサイトもあり、これは混乱を招いてしまいますね…。調べる側も大変だと思います。日本人は国民性かどうかは知りませんが、こういう極論じみたことに無批判にホイホイ乗ってしまう傾向があります。自らしっかりと批判的に色々調べることがとても重要。

 特に反精神医学の本とかサイトとかは、極論を一般論としてとうとうと述べてしまいますね。これを見てると「あらら…」と思っちゃいますし、またそういう本が売れるんですよね。でも火のないところに煙は立たないと言われますから、精神科医も「なぜ反精神医学が跳梁跋扈しているか」を真摯に受け止めねばいかんでしょう。

 それはそうと、適切な判断のもと、抗菌薬を出さないというのはもっともっと評価されるべきこと。人間、勉強しなくなったら衰退は速いですよ。勉強ってのは、他人に騙されないためにするもんです。
トラックバックURL
http://m03a076d.blog.fc2.com/tb.php/1664-7e17f48f
トラックバック
コメント
仰る通りですね。 お医者に行くと だいたいどんな場合も 抗菌薬が出されますね。 私など痛み止めも飲まないので それもどうかと思う事もありますが。 お年寄りは 薬の種類や数量等で 話に花を咲かせていますしね。やはり数の多い方が安心みたいです。 やはり 患者の側の問題は大きいと思います。
マリンdot 2013.10.05 11:03 | 編集
ピアスの穴が調子悪いときは何か飲み薬は出されますか?
出すとしたらどの程度なら出すものでしょうか。
佐藤dot 2013.10.05 22:30 | 編集
わかります。うちの病院でも「風邪=抗菌薬」を希望し来院される患者様が多く、特に若いドクターは「若い」というだけでゴリ押しされ結局処方する運命なのですが、結局効果がでないと、続けて来院され「若い先生はアカンから経験のある先生にかかりたい…」と窓口で。。。
で、経験あるドクターから「必要ない」と言われれば、「若いドクターは誤診か?」などと失礼きまわりないというか。今の時代電子カルテは便利なのかどうなのか?若いドクターは患者様との外来での状況をすべて記載されているので、「若い」=「できない医者」となるのです。

「熱=抗菌剤について患者側の正しい情報」をもっと発信してほしいです。
love-prindot 2013.10.06 03:56 | 編集
>マリンさん

ありがとうございます。
高齢患者さんは山のようなお薬を飲んでいることがありますよね。。。
それがご飯みたいになっていることも。
ご指摘のように、数が多くて困っている方もいれば、たくさん出してもらった方が安心するという方もいます。
中には、あんまりお薬を出さない病院は「親切じゃない」と言うことで行かないという患者さんも…。
医療者側から、国民の皆様に根気強くアピールしていかなきゃならんのでしょうけど、なかなか骨が折れる仕事でございます。
m03a076ddot 2013.10.06 20:47 | 編集
>佐藤さん

ありがとうございます。
状態にもよりますが、自分なら夏井睦先生の提唱する湿潤療法で様子を見てもらうことが多いです(主婦の友社から出ている『キズ・ヤケドは消毒してはいけない』などは非常に役立ちます)。
赤くなって腫れて熱を持っているという状態だと感染が示唆されるので、出すなら可能な限りあまり多くの細菌に関与しない、いわゆる”狭域”の抗菌薬を出します。
一般的な皮膚の感染だと黄色ブドウ球菌やレンサ球菌なので、それらのみをターゲットにした”第一世代のセフェム系”を処方します。大体は、ケフラール®、ケフレックス®、ドルセファン®といったものです。しかも処方量は多めにして、しっかりと効かせます。
ここで、もうちょっと多くの菌をターゲットにする第三世代のセフェム(メイアクト®やフロモックス®)などを出すのはあまり賢いと言えません。
m03a076ddot 2013.10.06 21:02 | 編集
>love-prinさん

ありがとうございます。
日本の患者さんは世界一恵まれているのに全くそのことに気づかない点で、世界で最も贅沢な患者さんですね…。もちろんこれは医療者側からそういう事実を伝えてこなかったことや、昔ながらのパターナリズムの反動で患者さんたちを”お客様”扱いしてしまったことによる部分が大きいのだと思います。
患者さんからは「もっと時間をかけて診てほしい」と「待ち時間が長すぎる」という2つの訴えは良く聞きますが、この2つはお互い矛盾したものだということに多くの患者さんが気づきません。しかも日本は医療機関の受診回数が世界トップですし、かつ医者の数はご存知のように異様に少ないです。
こういう実情なので、医者側からは「もうどないせいっちゅうんじゃ!」と叫びたくなるのが本音でしょうか…。
こういうところで愚痴っても仕方ないのですが、まずはやはり国が音頭を取って正式にコマーシャルをするべきだと思っています。機会あるごとに医療の実情を患者さんたちに伝えていく、そして抗菌薬のこともしっかりと話していく。
地道な一歩が大事なのでしょうね。
m03a076ddot 2013.10.06 21:10 | 編集
抗生物質は必要ですか?
飼い猫や犬など毎回飲んでいたら耐性菌になってしまうのでしょうか。
佐藤dot 2013.10.20 21:38 | 編集
>佐藤さん

ありがとうございます。
猫や犬に噛まれて救急外来にやってくる患者さんには、抗菌薬を投与していました。
見た目には浅くても数日経ってから腫れてくることもあり、なかなか「これくらいの傷なら抗菌薬は不要!」と言いづらい点があります。
いわゆる”甘咬み”なら大丈夫な場合が多いんですが、明確に線引は難しいのが現状です。。。
患者さんが「抗菌薬いらない」といった場合は、腫れたり熱を持ってきたりした時には必ず内服する必要があることを伝えてから帰宅してもらうのが定石でした。
2週間などといった長期内服はする必要がほとんどなく、大体は5日くらいで終了します。
耐性菌はたしかに問題となる可能性もありますが、動物咬傷は命取りになることがあり、ベネフィットが確実に勝ると考えられます。
m03a076ddot 2013.10.21 08:59 | 編集
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。
動物が噛んだことによる傷(動物咬傷)の処置は、夏井睦先生の方法を参考にしています。URLはこちらですが、ちょっと生々しい傷の写真がありますのでご了承ください(http://www.wound-treatment.jp/next/case/462.htm)。傷の中にはバイ菌がたくさんいるので、ドレナージという、バイ菌を外に出す処置を行います。
加えて、感染徴候がある場合、抗菌薬を使います。
自分の使う抗菌薬はオーグメンチン®という、2つのお薬が合わさったものです(アモキシシリンとクラブラン酸が混ぜ合わさったもの)。日本の抗菌薬の添付文書は、一般的に処方量を少なく書いています。それを鵜呑みにして中途半端に出すと感染が良くならないことがあるため、出す時はフルスロットル。
オーグメンチンなら、250mg錠を1回2錠、1日3回になります(合計6錠)。感染症に詳しくない医者がこの量を見ると「多い!」と言うかもしれませんが、これが適量です。
問題点としては、日本のオーグメンチンには”下痢”の副作用が結構あることです。
マニアックな話になりますが、実は日本のオーグメンチンと外国のオーグメンチンはちょっと異なり、成分である2つの抗菌薬の配合比が違うんです。

・日本のオーグメンチン~アモキシシリン:クラブラン酸=2:1
・外国のオーグメンチン~アモキシシリン:クラブラン酸=4:1もしくは7:1

これを見ると、日本はクラブラン酸の配合量が相対的に多いですね。これが下痢の副作用を頻回にしている原因。
よって、感染症に詳しい医者は外国のオーグメンチンに近づけるため、日本のオーグメンチン®250mg1錠に対し、サワシリン®(アモキシシリン)250mgを2錠使います。そうすると、アモキシシリンとクラブラン酸との比が7:1に近づきます。
その場合は、『オーグメンチン250mg+サワシリン500mg』を1回にして、1日2回投与です。クラブラン酸が少なくなっているため、下痢の副作用は少なくなります(ゼロではないです)。
もちろん腎臓の機能によって量を調節する必要はありますが。
という、かなりディープな抗菌薬のお話でした。
m03a076ddot 2013.10.31 17:45 | 編集
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。

咬傷の治療含め、外傷の治療であれば夏井睦先生の『ドクター夏井の外傷治療「裏」マニュアル』や一般向けでより分かりやすいのが『キズ・ヤケドは消毒してはいけない―治療の新常識「湿潤療法」のすべて』が最も良いかと思います。
咬傷はやはりドレナージを効かせないと治るまで時間がかかってしまいます。抗菌薬も、やめて悪化してまた飲み始めて…という繰り返しをすると菌が耐性化しやすいと言われますので、いったん中止せずに治るまではきちんと飲むことが必要です(もちろん、傷によってはドレナージが最優先ですが)。
”反射性交感神経ジストロフィー”は複合性局所疼痛症候群(CRPS)の1つですね。それに対する治療という本であれば、専門書ですが『複合性局所疼痛症候群CRPS―complex regional pain syndrome』という、まんまな名前の本があります。原因から治療まで詳しく書かれています。鎮痛のガイドラインとしては治療者用として『神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン』が出版されています。
m03a076ddot 2013.11.05 07:41 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top