2014
01.14

神経障害性疼痛における免疫系の役割

 神経障害性疼痛は、体性感覚神経系の障害や疾患によって引き起こされる疼痛と定義されます。感覚異常と関連があり、痛みが続くことやparaesthesia、そして刺激への反応の変化(allodyniaやhyperalgesiaや感覚消失)などが見られます。

 これがなかなか厄介。患者さんも辛いし医者も有効な手立てが乏しいし。器質的な異常はない!との理由で精神科に流れ着く患者さんも実に多いのです。患者さんからすると「何で精神科!?私の気のせいだっていうの??」という思いでしょうが、決してそうではなく、昔から心身一如と言いますし、かつ精神科で用いる薬剤の中には痛みに有効なものもあり、精神科医が使い慣れているということもあります。

 今回はこの神経障害性疼痛のメカニズムを、参考文献1を主軸にして少し細かく見て行きましょう。免疫系が強く関与しているというのがポイントです。

 まずは痛みの経路を図示します(参考文献3より)。

痛み経路
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 痛み刺激は1次上行ニューロンから脳幹、中脳、視床を経て皮質と辺縁系に到達します。辺縁系からは下行性のニューロンが、中脳周囲灰白質、青斑核、吻側延髄腹内側部を通って脊髄の後角に伸びます。この下行性ニューロンは痛みを調節する役割を持ちます。痛み経路はこの様になっていることをまずは確認しましょう。

 そして、本題の神経障害性疼痛について。神経障害は1次感覚ニューロンと中枢への投射経路の機能を変えるだけでなく、ほとんどすべてのレベルにおける体性感覚系での強固な免疫反応とも関連があります。障害された神経やグリア細胞が免疫細胞を活性化させる因子を放出し、その免疫細胞からサイトカインやらケモカインやらがたくさん出てしまいます。その結果、感覚ニューロンの支配域、神経幹、後根神経節(DRG)、脊髄後角の神経終末といったところでの侵害情報の伝達が変化してしまいます。

 このサイトカインがにっくき相手。こいつは神経系で産生され神経系に作用し、慢性的な過興奮や遺伝子発現の変化をもたらし、痛みシグナルの異常な処理に関わり、痛みの状態の増強に向かいます。これが痛みが慢性的に続いてしまう大きな要因と言われます。

 神経が障害されると、皮膚ではランゲルハンス細胞が増殖し活性化して、マスト細胞はサイトカインをドンドン産生していきます。障害部位の神経ではワーラー変性が生じ、炎症細胞が集まってサイトカインが産生されます。神経の周りでは様々なToll-like receptor(TLR)を持つシュワン細胞が増殖し、ケモカインを産生。するとマクロファージやリンパ球といった免疫細胞が引き寄せられます。先鞭としてはやはり自然免疫のマクロファージなどで、リンパ球は少し遅れてからやって参ります。これらが炎症メディエーターを放出し、障害された神経のみならず周囲にある無傷の神経にも影響を与えてしまいます。いい迷惑ですな。DRGではどうなるかと言うと、そこでは免疫細胞、衛星細胞、DRGニューロンが炎症性サイトカインとその受容体の発現をどんどこ増やし、炎症メディエーターが神経興奮を強めていきます。ここまでを図にすると以下のようになります(参考文献1より)。

抹消炎症
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 脊髄後角ではミクログリアとアストロサイトの活性化が示されていますし、更には、もっと離れた視床や視床下部、吻側延髄腹側部、中脳中心灰白質においてもミクログリアの活性化が指摘されています。ミクログリアの動員と活性化は、侵害刺激やメディエーター(neuregulin-1、MMP-9、CCL2、fractalkine、ATPなど)によってなされます。ミクログリアからもサイトカインが放出され、中枢の感作をもたらします。例えばTNFαはグルタミン酸による興奮の強さを増幅し、IL-1βは興奮性シナプス伝達を強めて逆に抑制系を弱めます。ミクログリアは更にTリンパ球の動員にも関わります。Tリンパ球は神経障害性疼痛の維持に関与しており、炎症性メディエーターを分泌し、アストロサイトの活性化にも一役買っているのではと言われています。アストロサイトはIL-1βやcyclooxygenase-2やCCL2などの発現を高めます。活性化したミクログリアはIL-18を分泌し、アストロサイトはその受容体をたくさんつくります。これによってこれらグリア細胞間でのコミュニケーションがなされる可能性が言われています。

 脊髄後角でのグリア細胞の働きを図にしましょう(参考文献1より)。

脊髄後角
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 こんな感じなんですね。ただ、すべての神経障害性疼痛がこのような大規模な免疫反応を惹起するわけではないようです。また、神経障害を受けた患者さん全員が慢性的な疼痛に悩むということでもありません。どういった患者さんが神経障害性疼痛へと発展するかの予測はなかなか難しいようです。神経の障害された範囲、パーソナリティ、病前の感覚閾値、遺伝因子などが指摘されており、慢性痛は多因子的であるようです。

 これまでのまとめ的な図を出しましょう(参考文献2より)。今回の記事では細かいシグナル伝達を省いているので、気になる方用ということで。

neuronglia.jpg
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 治療としては、現段階で私たちの使えるお薬は抗うつ薬、オピオイド、抗てんかん薬がメイン。サイトカインやそのシグナル伝達、他にはグリア細胞なんかをターゲットにした薬剤の開発が期待されています。

 抗うつ薬としてはデュロキセチン(サインバルタ®)が有名ですが、SSRIや四環系のマプロチリン(ルジオミール®)だって疼痛に効果はあります(デュロキセチンに少し劣るとはいえ)。そして、がっちりと効くのはやはり三環系。特にアミトリプチリン(トリプタノール®)は抗うつ薬の中で最も効果が高いです。デュロキセチンはモノアミンを主に動かしますが、三環系は炎症を抑える作用もあるので、そこが強み。用量については、デュロキセチンは40mgでも60mgでも効果はあまり変わらないと言われます(純粋な用量依存的ではない)。40mgでぴくりとも動かなければ、60mgでも負け戦的。アミトリプチリンも用量依存的とは言いづらく、50mg程度とそれ以上とを比較してもそんなに効果に違いはないとされます。でもこれに関しては50mgで全然効果なかった患者さんが100mg前後でぐぐっと良くなることを経験するので、忍容性を見ながら増量することにちょっとした意義があるのかもしれません。

 オピオイドとしてはトラムセット®(トラマドールとアセトアミノフェンの合剤)が麻薬処方箋なしで出せるので使いやすいのですが、そうは言ってもオピオイド。副作用にしっかり配慮しましょう。初期のものには嘔気嘔吐や傾眠がありますね。ずっと続くものには便秘で、これは結構頑固。成分のトラマドールはオピオイドの作用とSNRI的な作用を併せ持つので、セロトニン再取り込み阻害のお薬(SSRIやSNRI)と併用することでセロトニン症候群をきたす可能性は無きにしもあらず。文献的にも報告がいくつかなされています。

 抗てんかん薬ではカルバマゼピン(テグレトール®)やトピラマート(トピナ®)などが経験的に用いられますが、ガバペンチンの類似体であるプレガバリン(リリカ®)が証左あり、良く使われます。ただこのプレガバリンはふらつきの副作用がかなり強い。最初は若年なら50mg/dayくらい、高齢者なら25mg/dayくらいから始めましょう。添付文書の150mg/dayから開始するとかなりな頻度でふらふらします。このプレガバリン、精神科的には抗不安を期待して使うこともあります。他の副作用は、認知機能低下と心不全と複視など。

 個人的には漢方薬を頻用します。慢性的な痛みは寒に向かうことが多いので、そこの配慮が重要。後は瘀血と風湿をどう解決するかという点でしょうか。自分はどうにもならない患者さんの視床痛が疎経活血湯で著明に改善した経験があり、ちょっと感動モノでした。他にも抑肝散、五積散、大防風湯、五苓散、桂枝加朮附湯などなど、使える武器は多いです。附子がアストロサイトの活性化を抑える作用を持つなんていう報告もあり(まじっ!?)、やはり漢方は勉強しておいて損はないかと。でも間違った方剤は出さないようにきちんと学ばないとダメだと思います。炎症バリバリで熱を持っているような部位の痛みに桂枝加朮附湯出したら改善するどころか悪化しますよ。それと、漢方にも副作用もしっかりありますしね。

 ”痛み”はつらいものです。だからこそ、適切な治療が必要。もちろん多剤併用になるのもいけませんが、使うべきものは必要量を必要期間使う。それが大事。ただ、病態は徐々に分かってきているものの薬剤がなかなか…。免疫を調節するような作用のものが待たれます。




☆参考文献
1) Margarita Calvo, et al. The role of the immune system in the generation of neuropathic pain. Lancet Neurol 2012;11:629–42
2) Benarroch EE. Central neuron-glia interactions and neuropathic pain: overview of recent concepts and clinical implications. Neurology. 2010;75(3):273-8.
3) White FA, et al. Chemokines and the pathophysiology of neuropathic pain. Proc Natl Acad Sci U S A. 2007;104(51):20151-8.
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