2013
07.11

覚書その1~精神療法としての”あいだ”

Category: ★精神科生活
 今回から覚書シリーズを始めてみたいと思います。若手の精神科医や精神療法に興味があると言うちょっと変わった(?)他科の先生方に向けて、非侵襲的な心構えのほのかな香りみたいなものをお伝えできれば。

 テクニックなんて大それたものは、自分も教えてほしいくらいで、お示しできませぬ…。自分が勉強したり経験したりした中で、患者さんや家族を傷つけずに何とか外来通院を続けてもらえるような??そんな程度のもの。

 1回目の今回は、全体のまとめ的な感じでさらっと。

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 木村敏先生の思想として“あいだ”というものがあります。これから自分の言う“あいだ”はその本家本元の木村敏先生の様な深みはありません。浅く、個人という認識が生まれ出てくる基盤であるとか、もっとあっさり言うと相互作用とか関係性とかでも良いかもしれません(木村先生はゾーエー的な用い方を現在はしておられますね)。精神科医が行う日々の外来での精神療法を、”あいだ”という考え方を軸にして見てみたいと思います。

 まず、人は因果で考えがちでございます。“原因→結果”というやつですね。それが精神科の土壌に上がると、親が怒る“から”子どもがひねくれた、なんていう論理にもなってしまいます。でも事態はなかなかそう単純でなく、ひょっとしたら子どもがひねくれてる“から”親が怒るのかもしれんですよ。どっちが原因でどっちが結果かというのを考えだすと、責任のなすりつけ合いになってしまうかも。しかも、人は余裕がないと一面的なものの見方しかできなくなります。「あんたが悪いのよ!」「そっちだろ!」の応酬から抜け出せず、それからさらにお互いカッカしてしまう。ありがちなパターンですなぁ…。

 何が言いたいかというと、現実的には、ものごとはお互いに影響している、ということ。ひねくれてりゃ怒るし怒ればひねくれるし。部分は全体に影響を与えますし、全体はもちろん部分に影響を及ぼします。家族の誰かが怒っていたら、やっぱりみんな晴れ晴れとした気分になれません。また、そういう空気に家族全体がなってしまうと、それが嫌で誰かがイライラしてしまうかもしれませんよね。だから、あんまり原因を根詰めて探すのは大きな利益ならないことが多いんです、実は。患者さんに味方しやすい治療者だと相手を一緒に攻撃してしまうかもしれませんし、気に喰わない患者さんだと周りと一緒に患者さんを責めちゃうかもしれません。そのどちらも治療的じゃあないというのは明明白白でございます。

 そこで、私たちは“あいだ”に視点を移すことで単純な因果論から抜け出しましょう、と言いたいのであります。
視点のずらし
 もちろん根深い原因を探ることがいけないってことじゃないんでしょうが、自分の様な若手という身分ではこの場における“あいだ”に眼を向けて、それを安定化させることが最も非侵襲的だと考えています。言ってしまうと、本当の原因と言うのは実際のところ良く分からんですし、複雑に入り組んでいるでしょう。患者さんの症状だって今や複雑な因子の1つかもしれません。となると、原因って言うのは暫定的に患者さんとの合意によって得られたものにしておくのが良いという場合も多いんじゃないかしら。一応そうしておいて、患者さんの置かれている“あいだ”を柔らかくしていくのがポイントだ!と想像しています。

 “あいだ”の安定化は支持的精神療法の骨格になる部分ですし、精神分析的な“転移/逆転移”もお互いの感情のモニタリングとして利用すれば色んな側面から考えることができて患者さんの理解にもつながりますし(解釈するしないは置いておいて)、家族面接も“あいだ”に介入する良い方法。言いたいのは、“あいだ”への着目を促して現時点での患者さんの“あいだ”をゆっくりで構わないから良くしていこうということに凝縮されるっていうこと。患者さんや周りの人に色んな考え方を持ってもらうことが重要。

 上述したように、ゆとりがないとみんな考え方が悪い感じに固まってしまうので、そこが苦しくなる点だと思います。良く用いられる例えではコップに半分入ったお水を見て「半分しか入ってない」と考えるか「半分も残ってる」と考えるか。同じ事象でも、見方によって全然印象が違いますよね。だから、押し付けにならない様に、症状や行動の持つプラスの面を伝えていきましょう。患者さんは、“患者以前”の状態では何とかやって来られたわけです。でも状況が変わって“あいだ”が苦しくなり、それまでのやり方が通用しなくなって、“患者”になってしまっています。症状や行動はそんな苦しい”あいだ”で何とか患者さんなりに生きていくための手段なのかもしれません。でも、暗雲垂れ込める”あいだ”では肯定的に見ることはできず、患者さん自身も“あいだ”の人々もマイナス方向に眼が向いてしまってます。自分、家族、他人、今の状況、過去の状況、色んな事を責めちゃいます。治療者は苦しみを理解して、これまでの患者さんのやり方にプラスの意味を込めて、それを認めていきましょう。その上で、今後の方向としてどうして行こうかを考えていくことが大切なんじゃないかと思っています。リフレーミングなんてのはその代表格でしょうか。家族という1つのシステムを考えるなら、そのシステムの不調により患者さんは症状を呈することになります。よって、まずそのシステムを安定に持ち込むこと、それによって患者さんは症状を手放しても良い状態になる、となります。

 ただし、焦っちゃいけない。“あいだ”を良くしようと思って、自分の思う考えを患者さんにどんどん言うと「この先生私のこと分かってくれないわ―」となるでしょう。まずは“支持的”であること。そして大事なのは、変に素早くて薄っぺらな共感ではなくて、なるほどなーと思えるところまでは聞いて、その後に「あなたの置かれている状況なら、そうなってしまうのも無理はないかも知れんね」と示す”認証”を持ち出すこと。診察の場としての“あいだ”をまずは安定させましょう。そうすると、患者さんの状態が良くなって例えば家庭での“あいだ”も安定に向かうかもしれません。以下の図では、マイナスやネガティブな方向を黒で、プラスやポジティブな方向を白で示しています。
改善のイメージ

 更に家族面接をすると、家庭での“あいだ”もより速やかに改善するでしょう。また、デイケアなどで居場所が出来たり友人が出来たりすることも“あいだ”を良くします。常に患者さんの“あいだ”に注目して治療を働きかけることが重要ですね。
家族面接プラス

 もちろん改善への階段を何の障害もなく登れると言う事は、残念ながらないんです。さっきの図では①→②→③→④でしたが、実際は①から②に行くまでに時間がかかりますし、②に行ったと思えばまた①に戻ることも多いです。④まで行ってもそれが安定せずに③、②、①と下っていくことも往々にしてあります。それでも私たちは患者さんのレジリエンス(しなやかさ、回復する力)を信じ、“あいだ”の意識を以て接し続けることが扇の要なんじゃないでしょうか。
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コメント
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dot 2015.03.25 21:27 | 編集
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。

陽性転移かも、と思った場合、それを「自分は陽性転移をしているかもしれないな」と認識するだけで良いと思います。陽性転移をしていると考えて対処をガラっと変えると、それはそれでわざとらしさを産みます。
その”気づき”自体が重要でしょう。
患者さんからの転移感情は、自分は解釈することはあまりありません(そこまでの技術がないので)。診察室の雰囲気を少し変える、具体的には少し椅子の高さを変えるとか、患者さんとの物理的な距離を取るとか、話す言葉を丁寧語に意識して変えるなどをします。これが患者さんに作用することを期待します。
1回の診察時間を少し長めにとって長期に診ている患者さんに対しては、確証が得られた時にのみ、親御さんへの気持ちを自分に重ねているのでは、とポツリと話すこともありますが。
m03a076ddot 2015.03.26 09:18 | 編集
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dot 2015.03.26 13:32 | 編集
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dot 2015.03.26 20:12 | 編集
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。

陽性転移はすべてがすべて親に対するものではないような気もします。
ご自身が何となく「こうかな?」と思うような気づきで良いのかもしれません。
4月からは診療の頻度がぐっと落ちて、大学院で療養生活に入ります。
m03a076ddot 2015.03.31 22:36 | 編集
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。

転移については難しく考える必要はないと思います。過去にも記事にしてあるので、そちらをご覧になってみてはいかがでしょうか(http://m03a076d.blog.fc2.com/blog-entry-1710.html)。
m03a076ddot 2015.03.31 23:00 | 編集
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dot 2015.04.01 19:38 | 編集
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。

転移感情は大げさに考え過ぎないことがとても大切です。
患者さん側は、それに気づくことで十分な進展が見られると思います。
「転移感情かも。どうしたら…」と思い悩むより「あ、自分は今こんな感情を持っているんだな」と純粋な気づきを得ることがすべてなのだと考えています。
m03a076ddot 2015.04.04 10:22 | 編集
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dot 2015.07.27 22:19 | 編集
管理人用閲覧コメントをくださったかた、ありがとうございます。

「転移なのかそうなのか」「この転移をどうしたら良いんだ」と考えると、余計に診察室の空気がぎこちなくなると自分は思います。
ふんわりと掴んでおいて、態度はいつもどおりにしておくのが、患者さんと治療者の両者に負担にならないのではないでしょうか。
精神分析をしっかりと行なうセッティングでありそれを患者さんも了解しているのであれば話は別でしょうけれども、転移をとらえて解釈することは患者さんにとって侵襲となることも往々にしてあります。
診察時間についても、自分は変えずにそのままとしています。ただ、それまでの過程で明らかにこちらも患者さんと閉鎖的な関係性になってしまっていると気づけば、少し短くすることもあるでしょう。状況によりけりかと。
逆転移は、転移の治療者バージョンです。
大事なのは、難しく考えないことだと思います。転移も逆転移も大事なその人の感情なので。
m03a076ddot 2015.07.28 10:38 | 編集
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dot 2015.07.28 20:14 | 編集
管理人用閲覧コメントをくださったかた、ありがとうございます。

感情を感情として見つめられることが大切だと思っています。
かき氷機、良いですね。
家族で囲んでつくる風景は、ほんわかとさせてくれそうですね。
m03a076ddot 2015.07.30 19:56 | 編集
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