2013
08.05

補中益気湯で躁転?

Category: ★精神科生活
 自分は精神科医ではあるんですが、なんちゃって漢方屋でもあります。なので患者さんに漢方薬を使うこともままあります。酸棗仁湯のパルス療法(ツムラさんのですが、6包/day使うことを自分は勝手にそう呼んでいます)はベンゾや抗精神病薬なんかを使ってもなかなか眠れない、特に”疲れていても眠れない”患者さんに使って好評価。これを使うことで他の薬剤をガンガン減らすこともできます。イライラピリピリしている患者さんには四逆散をベースに構えます。良いですよ、四逆散。腹証にこだわっていてはあんまり出番がないかもしれませんが、一度腹証からは離れて使ってみて下さい。黄芩なんかも入っていないから使いやすいです。

 外来で良く目にするのは、抗うつ薬を使っていてもだるい感じが続いてスッとしない患者さん。特にSSRIで多いですね。三環系ならもうちょっと良い感じに仕上がるんでしょうけど、SSRIだとどこか不全感があるというか。彼らには診察室でこう聞きます。




そこにお布団があったらすぐ入りたい気分?




 その問いにYesと答えたら、補中益気湯を使うことが多いです。ちなみに自分もすぐ横になりたい。。。

 ただ、補中益気湯でも「飲みづらい」「お腹がムカムカ」という患者さんもいます。なので、上述の質問にYesでも食欲ががっつり落ちているなら、六君子湯にします。六君子湯は食欲アップの胃薬と思われていますが決してそうではなく、補気剤なんですよ。脾胃の気を満たして元気にしてくれる。また、冷え性で下痢気味というような状態が上乗せされていたら真武湯を使うことも。

 そんな補中益気湯ですが、免疫調節作用があるため、脳の慢性炎症としてのうつ病という視点からは、いい働きをするんじゃないかと密かに思っています。ま、効かんって言う患者さんも多いですが…。

 ただ、最近は「??」と感じることも。

 躁うつ病の患者さんです。彼らのうつ病相に補中益気湯を使って何と



躁転



 したことがあるんです。


・・・マジ?


 マジです、マジ。しかも2人。natural courseじゃない?と言われたら否定はできませんが、補中益気湯を飲み始めて2週間くらいですかね、元気が出て多弁になって患者さんやご家族も「ちょっと躁に入ったかも」と。そういう時はすぐに補中益気湯を中止にします。そうするとまたちょろっとうつっぽくなっていくのであります…。なんだなんだ、そんなにすごいの?補中益気湯。そこまでの力はなかろうと思っていたんですけどね…。やっぱり黄耆の力なんでしょうか。

 なので、躁うつ病で使うなら1包/dayくらいからにしてます。

 躁うつ病の患者さんは糖尿病を併発していたら確たるエビデンスのあるクエチアピン(セロクエル®)が使えないため、うつ病相への薬剤選択肢がぐぐっと限られるんですよね…。軽躁/躁病相なら結構手数はあるんですが…。頻用するのはうつ病相そのものには効果は弱いもののラモトリギン(ラミクタール®)と、エビデンスはないものの少量のアリピプラゾール(エビリファイ® 少量ってのが大事)でしょうか。リチウム(リーマス®)の血中濃度を0.8以上に持って行くことも有効です。後は甲状腺ホルモン(特にチロナミン®)やプラミペキソール(ビ・シフロール®)は選択肢ですね。オランザピン(ジプレキサ®)は適応を取っていますが、ちょっと信頼に足りないと個人的には思っています。MADRSなんかの各項目を見ても、何とか中核症状でも有意差は付いてますが、その改善は微々たるもの。何とかこぎつけたという感じがしてなりません…。また、双極I型なら特に抗うつ薬は慎重にならざるを得ません。補中益気湯も最近は少量からにしています。黄耆のない六君子湯や四君子湯ならどうなんでしょうね。

 躁転した患者さんからは「効きますねー、漢方」って言われましたけど、効きすぎたんですよ…。

 そんなこんなで、隠れた補中益気湯の力?でした。ちょっと注意しようと思います。




c.f. コメントへの返信でも記載しましたが、漢方薬にもしっかりと副作用と言うものがあります。自然のものだから安全!と思っている方も多いんですが、決してそうではないのは注意してもしすぎません。
トラックバックURL
http://m03a076d.blog.fc2.com/tb.php/1635-c0a37aa8
トラックバック
コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2013.08.05 14:04 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2013.08.05 15:49 | 編集
サンソウニントウにも入っている甘草ですが、甘草によるだるさ系の副作用はどれくらいから出るものでしょうか。
また、許容量を検討したい時はどういう感じで増やしていけばよいですか。
何か参考になる書籍などもおありですか。
佐藤dot 2013.08.05 21:45 | 編集
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。

ベンゾジアゼピンの減薬については、以下の2種類があります。

・ロフラゼプ(商品名メイラックス)など長時間型のベンゾジアゼピンをいったん上乗せしてから元々のベンゾを減らす
・トラゾドン(商品名デジレル/レスリン)をいったん上乗せしてから元々のベンゾを減らす

前者は、長時間型という身体の中からゆっくりと出て行くため中止しても離脱症状の少ない薬剤の特徴を利用したものです。これに置き換えて、元々のベンゾを減らして中止したのちに長時間型も減らしてやめていくというものです。記事でご紹介した後者は、ベンゾの中でも睡眠薬として用いられている薬剤を減量する際に用いられることがあります。方法としては前者のほうがメジャーでしょうか。
名古屋大学医学部附属病院の尾崎教授はベンゾが日本で多く処方されていることを問題視しており、上記2種の方法でベンゾを最小限の離脱症状でスムーズに減らす様にとおっしゃっています。
ただ、ベンゾも使い方によっては優れている薬剤です。全てゼロではなく、必要最小限の量で日常生活を行えるという視点も重要だと思います。
m03a076ddot 2013.08.06 13:42 | 編集
>佐藤さん

ありがとうございます。
甘草は仰るように副作用があります。低カリウム血症を生じ、抑肝散を飲んでいた高齢者がそれで心臓に悪い影響が出たという話も聞きます。「漢方=安全」では決してありません。
一般的には、甘草として3gというのを目安にしています。酸棗仁湯はツムラのですと3包で甘草が1.0gと少量になっています。ただもちろん、3gというのは目安であり、それ以下で低カリウム血症を生じる患者さんもいる一方、それ以上でもピンピンしている患者さんも多くいます。ここが漢方薬の落とし穴と言っても良く、なかなか予測がつきません。でも高齢者はやっぱり少なめから、という考えは多くあります。
ある程度は血液検査をしながら副作用をチェックするのが現実的でしょうか。
また、許容量とおっしゃるエキス剤の量ですが、例えば”香蘇散”は有効成分が揮発性なので、エキスにするとかなり少なくなってしまうため多めの方が良いと考えられています。しかし”黄連解毒湯”や”三黄瀉心湯”などはエキスでもしっかりとした効果があるため、あまり多いのも良くないかもしれません。
なかなか一概に言えないところがあり、添付文書でもツムラだと3包/dayが推奨であるため、一般的にはそれをオーバーして処方はあまりされません。しかもたくさん出すと患者さんは飲みたがらない(量が多いので)ため、2-3包/day辺りがやはり無難だと思われます。
効果が感じられない場合でも、患者さん自らの判断で増量するのは危険だと思います。処方せん医薬品であれば、主治医に聞いて判断を仰ぐのが良いのではないでしょうか。
酸棗仁湯については初期に6包をしっかり乗せて血中濃度を早めに高めておき、眠れるようになったら(大体1-2週間で)3-4包くらいまで患者さん自身に減らしてもらい、適切な量を探していくというのを自分は行なっています。
甘草の量については、入江祥史先生の書籍で見た記憶があります。複数書いてらっしゃるので、どれだったか記憶が曖昧ですが…。酸棗仁湯の使い方は大田黒義郎先生の書籍にあります。
m03a076ddot 2013.08.06 14:01 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2013.08.06 14:39 | 編集
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。

診察時間の短い中で、どうやって患者さんの言葉に沿っていくか、というのは永遠のテーマなのかもしれませんね。ありがたいお言葉、感謝します。
漢方薬については、精神科には「異常はないよ!」と他の科で言われた”痛み”を持つ患者さんも多く、その痛みを和らげるための大きな武器だと思っています。ただ、副作用もきちんと注意しなければいけませんね…。
m03a076ddot 2013.08.07 08:15 | 編集
酸棗仁湯についてお伺いします。
酸棗仁湯は寝れない時だけ頓服で飲むと言った使い方もできますか?
マイスリーが手元にあるのですが、習慣になってしまうのは嫌なので。
たらこdot 2014.10.17 16:06 | 編集
>たらこさん

ありがとうございます。
頓用として使ってみても良いですが、効果は個人差がかなり大きいです。
飲む量も変わってくるでしょうから、いろいろトライしてみることが重要でしょう。
実際は処方した先生と相談してお決めになってください。
m03a076ddot 2014.10.19 07:51 | 編集
ツムラさんの茯苓飲合半夏厚朴湯を飲んでいますが、体重が
少し増えました。今まで痩せ型で太りにくい体質だったのですが、
この漢方薬を飲んでいるだけで体質が変わり太るということは
あるのですしょうか?
ふれあいdot 2015.02.05 14:22 | 編集
>ふれあいさん

ありがとうございます。
茯苓飲合半夏厚朴湯には、茯苓や朮や人参といった補気薬が含まれているので、その影響で消化吸収能力がひょっとしたらアップしたのかもしれません(何とも言えませんが)。他の生薬は理気薬といって気を巡らすタイプなので、体重が増加する方には結び付かないかと思います。

m03a076ddot 2015.02.06 13:41 | 編集
突然の質問失礼します。
わたしは喘息持ちです。
いま、手元にある漢方薬をネットで調べていてこちらにたどり着きました。
補中益気湯と麦門冬湯です。

補中益気湯は子供の頃から、疲れた時に飲んでいるお薬でヘルペスなどがでたら、ヘルペスのお薬に補中益気湯を追加して飲んだりしていました。
去年から喘息が再発(小児喘息が出なくなって20年以上経っての再発でした)し、麦門冬湯も処方されました。

前置きがながくなってしまいましたが、麦門冬湯は日に6包飲むと言う記事を目にして驚いてしまいました。
わたしは1日3包の処方で、一応効いてる感があるのですが、たまにあともうちょっと!という時があるので、ちょっと増やして飲んでみようと思います。
薬剤師さんに1日6包くらい飲んでも平気ですよって聞いていて、1回量は増やさずに4時間毎に回数を増やして飲むのかなぁって漠然と思っていましたが、1回量を増やして飲むなんて勉強になりました!
最近、咳がつづくので、1回量を増やしてみます!
ありがとうございます!
のんのdot 2017.10.25 05:51 | 編集
>のんのさん

ありがとうございます。
麦門冬湯には甘草という生薬が含まれているので、多い量を飲むとそれによって身体のミネラルが少なくなることもあります。
偽性アルドステロン症と言いますが、それには注意することが必要でしょう。
他にも半夏という生薬は多い量を長期間摂取することで間質性肺炎という病気になることがあります。
薬剤師の先生や処方した先生の意見も大事になさってください。
喘息は麦門冬湯が合う患者さんもいますし、柴朴湯が合う患者さんもいますね。
m03a076ddot 2017.10.28 21:56 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top