2013
05.31

アリピプラゾール増強

Category: ★精神科生活
 大塚製薬が開発してアメリカで爆発的なヒットとなったアリピプラゾール(エビリファイ®)。

 ドパミンのパーシャルアゴニストという、遮断一辺倒だけではないのが特徴。特に低用量では賦活する側面を持ちます。低用量で賦活というのは抗精神病薬全般に言えることではありますが、非定型、特にこのエビリファイはその傾向が強いと感じます。

 もちろん統合失調症用のお薬ですが、統合失調症にこれ単剤で挑むと途中で失敗することがあり、特に慢性期だとゆっくりゆっくりスイッチングする必要性が最近言われています(ドパミン過感受性精神病という概念)。普通に切り替えるなら、最初からドカンと高用量を入れた方が良いでしょう。ドパミン受容体への強い親和性から、極端な言い方をすればオランザピン(ジプレキサ®)15mgが持つ受容体占拠の力をエビリファイたった6mgが押しのけてしまうということにもなりかねません。ジプレキサ15mgでなんとかかんとか抑えていたような症状は、エビリファイ6mgで収まるはずもなく、大爆発。エビリファイはパーシャルアゴニストという点と受容体占拠の強さという点から、中途半端な量を使うのがもっとも最も怖い薬剤です。初発ならエビリファイ単剤でも割と良い状態に持っていけます。概して、エビリファイを使うならクエチアピン(セロクエル®)や、気分安定薬のバルプロ酸(デパケン®/セレニカ®)みたいな鎮静系を少し噛ませると安定してきますね。

 良くも悪くも鎮静系ではないので、合う合わないがはっきりと出て来やすいかなと思っています。鎮静系なら、見た目上”効いてる”と思われることもあります。中核症状に鎮静で蓋をするような。エビリファイはその蓋の作用が弱いので、中核に効く効かないが分かりやすいといえるかもしれません。

 このパーシャルアゴニストという側面とセロトニンへの配慮から、うつ病(大うつ病性障害)の増強として用いられることがあります。適応も2013年6月には取れるらしいですよ。文献も今年のものをいくつか見てみましたが、効果はかなり高いと考えて良いと考えられています。

 この増強は自分もかなりやっていまして、実に切れ味が良いなと思っています。特に低用量で行っていて、1.5-3mgで十分な効果を示すことも。用量を多くしたからと言ってそれに比例して増強効果が出るわけではありません。せいぜい9mgくらいでしょうか、自分が増強として使うのは。再取り込み阻害系と相性が良いような印象はあります。

 双極性障害のうつ病相(bipolar depression)には、残念ながらプラセボと8週時点で有意差なく、適応が取れませんでした。6週までは有意差あったんですけどね。個人的には、もうちょっと低い用量でやっていたら何とかなったんじゃなかろうかと勝手に考えています。何故かというと、これもエビデンスではなくて自分の経験なんですが、エビリファイ1.5mgとか3mgとかでうつ病相から抜け出した患者さんがいまして、それも複数人。抜け出せなくても、うつ病相が強くて毎年入院していた患者さんがエビリファイ3mgで何とか入院せずに外来でやってこれたというのもありました。だから、うつに対して使うには低めの量でというのがポイントだと思います。ちなみにですが、何故か葉酸とビタミンB12で双極性障害のうつ病相から抜けた患者さんもいました。一部の統合失調症の陰性症状に効果がある、という論文を見て使ってみたんですが、ちょっとびっくり。これはプラセボ効果??精神科はプラセボがどの科にもまして威力を発揮しますからね。論文見ても製薬会社のMRさんが「有意差ついてます!」と自信ありげに言いますが、自分は「付いてるっちゃ付いてるけど、プラセボでもこんなに下がるんですよねー」とちょっと攻撃してみたりしてます←意地悪

 エビリファイの肩を持つわけではありませんが、ジプレキサは単剤で双極性障害のうつ病相への適応を(今のところ日本だけで)取っているものの怪しげです、これ。実は、ジプレキサ単剤だとMADRSやHAM-Dといった評価尺度の”不眠””食欲不振”のところだけ明確に改善しており、他の中核的なところは有意差がプラセボとほとんど付いていません。ジプレキサの副作用を上手く利用してその症状だけ改善させて、評価尺度の総合点のみで見ると有意差あり。これはまやかしと考えてもおかしくない。評価尺度は総合点ではなく項目別でしっかりと見ましょう。そういうこともあり、自分は双極性障害うつ病相へのジプレキサというのを信用していません。ただ、有意差がないということは差がないということを意味はしません。実際に、周りにはジプレキサでうつ病相から脱したという患者さんを経験する医者もいます。使用する価値はあるかもしれませんし、やっぱり少量を用いると言うのがここでもポイントかしら。

 エビリファイに話を戻すと、自分は良く強迫性障害の増強にも使います。うつ病と同じような使い方。結構治療抵抗性の強迫性障害って多いんですが、エビリファイで雪が一気に溶けるような治り方をする患者さんも多いです。色んなSSRI使ってもダメで、結局エスシタロプラム(レクサプロ®)にエビリファイを3mg噛ませたらめちゃくちゃ良くなった経験もあります。その時は、患者さんが診察室に入った時の表情が全く違ったのを覚えています。晴れやかになっていて、口に出さずとも「良くなったんだなー」と思えました。強迫には、あとはプレガバリン(リリカ®)も使います。「え!?」て思うかもしれませんが、リリカは不安障害や統合失調症の不安症状に結構効いてくれるんですよ。単なる末梢神経障害の治療薬ではありません。脳内のGABA濃度を上昇させるらしく、それが効いてるんじゃないかと。

 エビリファイ増強の問題点としては、副作用です。吐き気と不眠とアカシジア。吐き気は頑固で、プリンぺラン®やナウゼリン®くらいの嘔吐中枢ドパミン遮断じゃエビリファイのドパミン受容体親和性相手に太刀打ち出来ないことが多いです。なので、ドパミン以外からも制吐に働くジプレキサを噛ませることがあります。不眠については睡眠導入薬で何とかカバー(そういうのもあって、自分は統合失調症にはセロクエルを噛ませることが多いです)。アカシジアは厄介で、発現率も高いです。焦燥(agitation)と区別が付きづらいですが、「こころと身体、どっちがよりそわそわしますか??」と聞くと、明らかなアカシジアの時は「身体です!!」と即答してくれます。微妙な時も多いですが。このアカシジアに対しては、ミルタザピン(リフレックス®/レメロン®)を少し噛ませたり、後は抗ヒスタミン薬のプロメタジン(ピレチア®/ヒベルナ®)やβブロッカーのプロプラノロール(インデラル®)を入れると収まります。これらの副作用については、増強前にしっかりと説明しておきましょう。パーシャルアゴニストの特性か、副作用が出た時には用量を”上げる”と、逆に良くなることもあります。不思議な薬剤ですね。

 ということで、アリピプラゾール増強のお話でした。もちろん、患者さんが良くなるには薬剤と同時に支持的な精神療法も必要です。車の両輪と考えて良いでしょう。特に最近は薬剤偏重で、薬剤が効かないとすぐ「治療抵抗性だ!」という風潮。そうではなくて、もう1つの車輪の方にもしっかりと配慮しなければならないと思います。薬剤には、薬剤たる部分とプラセボによる部分の両方があります。プラセボ的な利点を最大限生かすには、治療者のこころを込めるのが大事。バファリン®ではないですが、お薬の半分は優しさでできている、そう思います。




☆参考文献
Spielmans GI, et al. Adjunctive atypical antipsychotic treatment for major depressive disorder: a meta-analysis of depression, quality of life, and safety outcomes. PLoS Med. 2013;10(3):e1001403.
Wright BM, et al. Augmentation with atypical antipsychotics for depression: a review of evidence-based support from the medical literature. Pharmacotherapy. 2013 Mar;33(3):344-59.
Arbaizar B, et al. Aripiprazole in major depression and mania: meta-analyses of randomized placebo-controlled trials. Gen Hosp Psychiatry. 2009 Sep-Oct;31(5):478-83.
Masi G, et al. Aripiprazole augmentation in 39 adolescents with medication-resistant obsessive-compulsive disorder. J Clin Psychopharmacol. 2010 Dec;30(6):688-93.
Sayyah M, et al. Effects of aripiprazole augmentation in treatment-resistant obsessive-compulsive disorder (a double blind clinical trial). Depress Anxiety. 2012 Oct;29(10):850-4.
Muscatello MR, et al. Effect of aripiprazole augmentation of serotonin reuptake inhibitors or clomipramine in treatment-resistant obsessive-compulsive disorder: a double-blind, placebo-controlled study. J Clin Psychopharmacol. 2011 Apr;31(2):174-9.
トラックバックURL
http://m03a076d.blog.fc2.com/tb.php/1625-0b981166
トラックバック
コメント
こんばんはm(_ _)m

昨日 漢字について教えていただきありがとうございますo(^-^)o


エビリファイは 気分安定薬だったでしょうか?

抗うつ剤に効果が感じられなかったときに
飲んでみたいなぁって思ったことはあります…

こんひゅすぱいdot 2013.06.02 03:58 | 編集
>こんひゅすぱいさん

どういたしまして。
エビリファイはいわゆる抗精神病薬でして、統合失調症に用いられるお薬です。しかし、抗うつ薬に少しだけスパイスとして加えることで、抗うつ薬の作用を助けてくれます。量を例えば18mgとか24mgとかの多めにすると、躁うつ病の躁の状態にも使用されます。
なので、患者さんに処方する時は「これは統合失調症用のお薬だけれども、うつ病に少し使うことでその効果が示されています。これをアナタに使うからと言って、アナタが統合失調症というわけではないですよ。うつ病の治療のスパイスとして使います」と説明しています。精神科のお薬は適応外の使用が多いのですが、エビリファイはそろそろうつ病に対する適応が取れるので、その点については説明しやすくなるかと少し思っています。
コメントありがとうございました。
m03a076ddot 2013.06.02 07:01 | 編集
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。

確かにオランザピンは用量が多いとややぼーっとした感じが出てきます。
エビリファイに変更する際は、患者さんによっては7.5mgという量でやや不安定になることがあります。
ただ、今症状が落ち着いているのでしたらその可能性は低いかもしれません(ゼロとは自信を持って言えませんが…)。
双極性障害は維持期に入れば気分安定薬(リチウムやバルプロ酸など)単剤にしたいところです。仮に抗精神病薬が入るにしてもやはり用量を下げることが大事です。
急性期と維持期とでは抗精神病薬に対する患者さんの反応が異なります(維持期は少ない用量で十分な効果が見込めます)。オランザピン10mgをそのまま続けるのはいわゆる”過鎮静”を起こすので、選択肢としては

・気分安定薬単剤
・オランザピン減量(例えば5mgなど)
・エビリファイなど鎮静のかかりづらい薬剤へ切り替え

があります。主治医の先生は3番目を選ばれたのでしょう。
切り替え中は先述の通り少し病状がぶれる患者さんも中にはいらっしゃるので、「お?」と思ったら病院に連絡できるようにしておくのが好ましいかと思います。
m03a076ddot 2014.05.25 23:23 | 編集
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。

身体の病気が否定されているという前提でお話をします。
ちょっと昔の考え方ですが、躁というのは心のエネルギーをたくさん使うので、それが終ったあとは脳がすごく疲れた状態になります。そうなると、一時的に健忘になったり身体も疲れやすくなってお布団に入ることが多くなったりということがあります。単発の抑うつでどれだけ海馬が傷つくかというのは現在の脳科学では残念ながら分かりません。
あとは、2.5mgのエビリファイでも記憶障害が出ることもあります(向精神薬はほぼすべて少なからずその作用があります)。エビリファイがゼロになって記憶力がどう改善するかを見るのも方法かと思いますし、しっかりと睡眠をとって心のエネルギーがたまるのを見てみるのも大事です。
ダニエル・アーメン先生はバリバリの画像研究者ですね。精神科は発展途上な学問であり、この先生のことを否定できるほど成熟はしていないと思います。ただ、渡米は大きな決断です。国を変えることがお子さんへの新たなストレスにならないかはちょっと心配なところがあります(再発しないかどうか)。
m03a076ddot 2014.06.12 08:25 | 編集
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。

双極性障害もそうですが、精神科の疾患は睡眠というのがやはり重要になります。統合失調症では”不安、不眠、過労、孤立”が幻聴悪化の4要素と言われますが、これは精神科の疾患すべてに当てはまると思います。
睡眠に関しては、2日で収支を合わせられるのであれば大丈夫です(1日寝られなくても次の日に寝られる)。しかし、寝られないのが2-3日続くことは黄色信号と思いますので、睡眠のお薬は大切です。
精神科は現在画像の研究が進んできています。早く臨床に還元できるような研究結果が出ることを、自分も望んでいます。
m03a076ddot 2014.06.15 21:29 | 編集
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。

まずは主治医の先生から、双極性障害についての説明を受けるのが良いかと思います。患者さんやご家族用の本がお住まいの地で売られているのであれば、それを購入して読んでみるのも良いかもしれません。日本語で読みやすいものでは、『「双極性障害」ってどんな病気? 「躁うつ病」への正しい理解と治療法』という薄い本が良いかと思います。
躁状態やうつ状態からの回復は人によるところも多いのですが、どこか”疲れ感”が残るのは半年くらい続くというかたもいらっしゃいます。それでも日常生活は送れるというのがほとんどです。
最初はどうしても試行錯誤が必要になり、それをくぐりぬけることで個々の患者さんの回復度合いや彼らに合った養生方法が生まれてくるものと思います。
また、大きな決めごとは必ず主治医の先生やカウンセリングの先生などと相談してみましょう。
m03a076ddot 2014.06.18 08:45 | 編集
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。

ご本人とご家族が適切な病気の知識を得て、かつ養生の仕方を学んでいくのが最も大事です。
双極性障害については、名古屋大学の尾崎紀夫教授が中心になって作られた患者さん用のパンフレットがあります。PDFですが良かったらご覧ください。

双極性障害とつきあうために⇒http://www.secretariat.ne.jp/jsmd/sokyoku/pdf/bd_kaisetsu.pdf
m03a076ddot 2014.06.24 09:38 | 編集
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。

コンサータやストラテラといったお薬は、あくまでもADHDの患者さんに使うもの、と自分は思います。お子さんが小さい時の様子も鑑みて明らかにADHDであれば使用の価値はあるでしょうが、それ以外の患者さんに使うのは何とも難しく思ってしまいます。双極性障害が確定であるのなら、個人的にはちょっと処方は怖い印象です。あくまでも個人的な見解ですが。
リーマス900mg+オランザピンという状況で意欲の低下や倦怠感など出現しているのであれば、リチウムの血中濃度を測定する、甲状腺機能を見てみる(リーマスは甲状腺機能を低下させる副作用があります)というのが大事でしょうか。抗精神病薬のオランザピンの量が多いと過鎮静になることもあるので、用量を徐々に落とすことも選択肢だと思います。もしくは、抗精神病薬をクエチアピンに変更する、などでしょうか。
m03a076ddot 2014.09.12 19:26 | 編集
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。

双極性障害は適切にお薬を使っていても再発が多い疾患とされています。
病相によってお薬の量や種類を変えていく柔軟さが必要になってきますし、ご提示のようにお薬以外も大切なことがあります。
うまく組み合わせて取り組んでみてください。
m03a076ddot 2014.09.16 23:32 | 編集
管理人用閲覧コメントをくださったかた、ありがとうございます。

エビリファイの作用は独特なので、詳しく知りたいのであればやっぱり専門書を見ていただくのがベストだと思います。
かなり長々になってしまうので…。
そして、エビリファイが合うかどうかも人によってとても異なります。
どんな用量が適切か、どんな振る舞いをするのか、これは千差万別とも言えそうです。
使用するのであれば、主治医の先生とよく相談し、何か不都合な状態が出てくれば服用をストップする・早めに受診するなどのことを合意しておくといいかもしれません。
m03a076ddot 2017.03.23 20:18 | 編集
管理人用閲覧コメントをくださったかた、ありがとうございます。

エビリファイのみの薬理作用を解説した本はないのですが、精神科の薬剤全般を説明しているものがあり、その中にエビリファイが含まれています。値段も結構高いので、立ち読みとかで良いかと。
おくすりの作用は患者さんによってかなり変わり、同じ用量でもまったく異なる効果ということもあるほどです。
なので、やっぱり実際の主治医の先生との相談、そして飲むならその自分に起こる反応を大切にすべきと思います。
m03a076ddot 2017.03.26 11:04 | 編集
管理人用閲覧コメントをくださったかた、ありがとうございます。

お薬を飲むのは患者さんなので、どんなお薬なのか、飲んだ時の感じ方などはコミュニケーションで伝えることも必要だと思います。
一度にたくさん伝えようとしても外来の時間が限られているので難しいでしょうが、少しずつ話してみるところから始めるのが良いのではないでしょうか。
m03a076ddot 2017.03.29 11:02 | 編集
管理人用コメントをくださったかた、ありがとうございます。

エビリファイは太りにくいタイプの薬剤ですが、確かに中には体重が増えてしまう患者さんもいます。
デパケンとリーマスの組み合わせもかなり体重増加につながりますが、エビリファイと一緒にデパケンとリーマスも抜いていたら、そっちが原因かもしれません。
注射だと身体をめぐる濃度が安定するので確かに副作用は若干少ないという印象はあります。
どこまでそれが体重に影響するかは何とも言えませんが。
薬剤がとてもフィットしているけど体重が増加するという患者さんの場合、私は食事でプチ糖質制限を導入してもらっています。
それでだいぶ増加に歯止めがかかるので、それも方法かもしれません。
m03a076ddot 2017.07.18 16:28 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top