2013
05.14

糖尿病診療を確かなものに

Category: ★本のお話
 糖尿病の治療は一般内科でも必須の知識と言えましょう。脂質異常症や高血圧症はススッと上手くいくことが多いですが、糖尿病はワンランク上な感じが勝手ながらしています。

 しかも最近はやたらめったら新しいお薬が出てきましたね! そうです、インクレチン関連薬です。なかなか知識が追いつかなくて困ってはいますが、大事なのは新しい薬剤にすぐ手を出すのではなく、既存の薬剤をどう上手く使えるか、だと思います。手持ちの武器をしっかりと使えてはじめて新薬の意味も出てくるというものでしょうか。しかも価格が高いしね…。

 製薬会社は高価なインクレチン関連薬を少しでも多く売りたい(儲けたい)でしょうから、MRさんは「こんなエビデンスありますよー、効きますよー」と言うでしょう。でもMRさんの情報はその製薬会社の情報ですから、かなりバイアスがかかっていると言えます。そんなのにだまされてホイホイ出すような医者にはなりたくないものですね。

 インクレチン関連薬でいうと、2013年9月のNEJMでは、サキサグリプチン(オングリザ®)はプラセボと比べて血糖値は下げますが心血管イベントを予防できず、全体の死亡率は上昇傾向になってしまい、更に心不全での入院は有意に増加。同じDPP-IV阻害薬のアログリプチン(ネシーナ®)も、心血管イベントの発生率はプラセボと同等。前者はSAVOR-TIMI 53 Clinical Trialsという試験で、後者はEXAMINE Clinical Trialsという試験(Scirica BM, et al. Saxagliptin and Cardiovascular Outcomes in Patients with Type 2 Diabetes Mellitus. N Engl J Med. 2013 Sep 2. White WB, et al. Alogliptin after Acute Coronary Syndrome in Patients with Type 2 Diabetes. N Engl J Med. 2013 Sep 2.)。こんなのが売れてるっておかしいですよねー。

 どう薬剤を使っていくか、ということをしっかり考えて治療に当たるのが望ましいでしょう。その点では、実践的な糖尿病関連の本があると助かります。

 ということで、今回は能登洋先生の書かれた『糖尿病診療(秘伝)ポケットガイド』を紹介します。すごく小さくて薄くて、白衣のポケットにらくらく入ります。

糖尿病診療〈秘伝〉ポケットガイド糖尿病診療〈秘伝〉ポケットガイド
(2013/11)
能登 洋

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 <秘伝>と記されてはいますが、奇を衒ったような内容ではありません。基本としっかりとしたエビデンスに基づいているので、大ハズレの無い治療が出来るようになります(註:2013年11月に増補版が出ました)。残念ながら表紙はセンス悪いな…と思ってしまいます。

 きちんとスライディングスケールの悪さも書かれていますし、ピオグリタゾン(アクトス®)の大血管予防は立証されていないと明記されています。良いなぁと思うのは、薬剤治療の第一選択にビグアナイド系が載っていることでしょうか。

 世界的にはそれを選ぶのが当然なんですが、日本は何故か値段の高い薬剤(SU薬)をさっさと使ってしまう医者がまだいますね。アレは膵臓を殴ってインスリンを出させるようなものなので、最初から使うのはどうかなと思います。しっかりと患者さんを選んでいるのなら最初に使用するのも良いでしょうが(この本も第一選択のBにSU薬を示しています)、あんまり考えずにSU薬を出すのはいかんです。製薬会社に汚染された結果かもしれませんが(日本の糖尿病学会は製薬会社とくっつきすぎ。ホームページに製薬会社の名前がずらずら載っているのは変な気持ちにさせます)。

 ビグアナイド系は何と言っても安いのが特徴。そして世界的には昔から使われて効果が確認されているのが強みです。これを使いこなすことが、糖尿病診療の第一歩。

 この本の注意点としては、糖尿病神経障害の治療でプレガバリン(リリカ®)が記載されていますが、150-600mg分2となっています。添付文書上はそうなのですが、150mgから開始すると結構フラフラしたり眠くなったりする人がいるので、50mg分2や、高齢者なら25mg分1あたりから始めるのがコツかもしれません。精神科なのでそこが気になってしまった。

 本から離れて、食事については、糖質制限が話題ですね。学会は否定的なコメントを出していますし、論文は肯定的なものもあれば否定的なものもあります(ポケットガイドの著書の能登洋先生は否定的な立場です)。個人的には良い治療法だと思いますが、炭水化物の誘惑は大きいですね…。ご飯おいしい。でも血糖降下薬を服用するよりも先にこの糖質制限を行うべきでしょう。単純に「血糖値高いなら摂取する糖分減らしなさいよ」と思います。

 タイトすぎる糖質制限よりは、ゆるやかにするくらいが継続の秘訣かもしれません。ずっと糖質を摂っている人がいきなりゼロにすると気分が悪くなるでしょうし食事内容がガラッと変わることもあるので、自分は患者さんに「夕ご飯の白米をお豆腐にすることから始めてみませんか」と言います。じわじわと切り崩す作戦。「やだ!」と言われたら次に「じゃあ麺類をやめてみませんかね?」とちょっと妥協しますが、それでも無理な患者さんもいます。麺類美味しいしね。時間がない時はいったん諦めますが、少し話せるなら「食事はすべての基本です。食事が乱れていては効くお薬も効きません。私はお薬を工夫するから、あなたも食事で頑張りましょう。あなたの身体なんですから、治療する主役はあなた自身ですよ。わたしとお薬は松葉杖みたいなもんです。しっかりとあなたが歩こうという勇気を持ってくれれば、松葉杖も役に立てます」と、ちょっと厳かな感じでお伝えしています。折に触れて「主体は患者さん自身である」というメッセージを出すのは、気長につきあっていかざるを得ない病気の時は特に大事になってくると思います。ちなみに自分はプチ糖質制限(夕食の主食なし)。

 何か本以外の愚痴が多くなってしまいましたが、偏ったエビデンスに基づいた妙な治療、自分はこれを勝手にEBM(Evidence "Biased" Medicine)と呼んでますが、それに引っ張られること無く、世界標準的な治療を研修医の皆さんには目指してもらいたい、と思っています。糖尿病内科医に限りませんが、高価で、でも役に立つかどうかわからないようなお薬を使う医者は往々にして存在します。そんな医者にならないように、しっかりとお勉強を。
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