2013
06.05

炎症とRDW

 RDW(red cell distribution width)は赤血球の大きさや形のバラつきを表す指標で、標準偏差の様なものです。この値が大きいと赤血球の大きさや形に均一性がなくて、大小いろいろとありますよというしるし。救急外来的には、正球性貧血でかつMCV正常で、更にRDWが正常範囲であれば「あ、やばいかも…」と思ってしまいます。つまりは急性出血でHbが下がっている!という推測をします。正球かつMCV正常でもRDWが大きければ「鉄欠乏…?」と何となく思います。臨床症状によりますが。

 自分は研修医の時、救急外来をメインにしていました。RDWについては他の活用というのをあまりせず、貧血の原因を追及する時に役立つものだな、という認識くらいでした。

 しかし最近、このいRDWが色んな疾患における予後不良因子になり得ることが分かってきたのです!なんとなんと。

 特に鉄欠乏やビタミン欠乏や葉酸欠乏などがない状態での高値というのが危険。どんな疾患かと言うと、例えばそれは心不全の患者さん、IPF(特発性肺線維症)の患者さん、がん患者さん、グラム陰性桿菌菌血症の患者さん、腎機能障害の患者さん。。。実に多くの疾患において予後を見るためのマーカーとして有用だと言われ始めました。

 さらに、病気をしていない一般の人を対象にした研究でも、RDWが高いことと心血管イベントとの関連性が指摘されています。

 何で赤血球の大きさや形のバラつきがそんなに強力な予後因子になるのか?ということですが、端的に言うと、RDWの高値は


”じりじりとした炎症状態があり、それが赤血球の成熟を阻害してしまう”


 ということを示す様です。先ほど例として出したグラム陰性桿菌菌血症では、死亡の独立した予測因子で、特に72時間時点で計測されたRDWは全死亡を予測するかもしれない、といわれています。ということは、ベースラインでの慢性炎症のみならず急性炎症でもその効力を発揮するのでしょうね。

 いわゆるchronic diseaseには、その根底に”慢性炎症”の関与が指摘されています。それはうつ病の一部でも言われています。うつ病の治療で、フルオキセチンにアスピリンを噛ませたらすごく良くなったよ!という報告もあるくらい。ω-3脂肪酸やスタチンもそうですよね。ひょっとしたらRDWもうつ病の例えば治療抵抗性のマーカーに使えるかも…?ヒマがあったら研究してみたいですね。

 なにはともあれ、慢性炎症というのは現代の疾患を理解するには欠かせないコンセプトです。急性炎症が大事なのは言うまでもありませんが。漢方ではいわゆる”体質改善”という言い方をして気長に飲んでもらうタイプのものがあります。八味地黄丸、温清飲系や防風通聖散(一貫堂処方)、補中益気湯などなど。こういうのは慢性炎症を抑える作用が指摘されていて、昔の体質改善はここをポイントにしていたのかと思っています。

 RDWというのはルーチンで検査室が測ってくれることも多いですが、貧血以外はあんまり見向きされなかったもの。これからはしっかりと見つめて、炎症の度合いを推し量る指標として役に立つかもしれません。

 こういう研究こそ、臨床に直結するものですよね。実行しやすいこと、そして安いこと、さらに昔からあるもの。そこにスポットライトを当てるというのは素晴らしい。新しいマーカーとかはお金もかかるし設備なんか大変なことも多いです。マッシー池田先生(池田正行先生)の意識障害患者さんにおける血圧と脳血管障害との関連性もそうですし、EBV感染症のリンパ球数と総白血球数の比もそうですし、行き渡ったもので予測するというのがとても格好良い。地味に思う人もいるかもしれませんが、これこそ大事にしたいセンスだと感じています。

 

☆参考文献
Nathan SD, et al. The Red Cell Distribution Width as a Prognostic Indicator in IPF. Chest. 2012 Dec 13.
Ku NS, et al. Red blood cell distribution width is an independent predictor of mortality in patients with gram-negative bacteremia. Shock. 2012 Aug; 38(2): 123-7.
Demirkol S, et al. Red cell distribution width: A novel infl ammatory marker in clinical practice. Cardiol J. 2013;20(2):209.
Ujszaszi A,et al. Renal function is independently associated with red cell distribution width in kidney transplant recipients: a potential new auxiliary parameter for the clinical evaluation of patients with chronic kidney disease. Br J Haematol. 2013 Mar 27.
Seretis C, et al. Is red cell distribution width a novel biomarker of breast cancer activity? Data from a pilot study. J Clin Med Res. 2013 Apr;5(2):121-6.
Chen PC, et al. Red blood cell distribution width and risk of cardiovascular events and mortality in a community cohort in Taiwan. Am J Epidemiol. 2010 Jan 15;171(2):214-20.
Ikeda M, et al. Using vital signs to diagnose impaired consciousness: cross sectional observational study. BMJ. 2002 Oct 12;325(7368):800.
Wolf DM, et al. Lymphocyte-white blood cell count ratio: a quickly available screening tool to differentiate acute purulent tonsillitis from glandular fever. Arch Otolaryngol Head Neck Surg. 2007 Jan;133(1):61-4.
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