2013
05.09

陰と陽、バランスが大事。

 漢方には陰と陽という概念があります。気虚や血虚と関連してくるもので、これを知っておくと随分と漢方的な目線が出てくるんじゃないかな、と思います。

 陰・陽という胡散臭いものは何なのか?引用の引用になりますが、琉球大学の日比谷健司先生のスライド(『中医の病態の捉え方ー病態を把握する物差しとは?ー』)がこの様に教えてくれています。

陰と陽

 人間のホメオスタシスを表すのが陰と陽。まずは陽虚から。

 陽とは、熱や火であります。また、気は陽に含まれます。陽が虚するということは、陰陽のバランスが崩れてしまって、熱産生が上手く行かず寒の症状が現れてきます。つまり、陽虚というのは”気虚+寒”と言えます。

 ということは、症状としてはどのようなものがあるのか。山本巌先生のテキストを参考に。


気虚の症状に加えて次のような症状が現れる。
・よく寒がる、四肢が冷たい、寒さに弱い、冷えると悪化
・顔色が蒼白い
・口は渇かない、よだれが多い
・尿量が多く、色は薄い
・大便は柔らかくてベタベタ、色も淡く臭いも少ない
・舌は湿潤、白苔がつく、歯痕がつくことも
・脈は遅く、力が弱い


 あぁ、不健康そうだ…という感じですよね、イメージすると。気虚がワンランク進んだような。日比谷先生のスライドと合わせて考えると、エネルギー代謝がダウンして、陰が相対的に大きくなります。ということは水分が多くなりますね。よだれが多いとか尿量が多いとか便がベタベタなどは、水分が多いんだなという解釈でまとめられそうです。

 更に陽虚は、五臓で言うと心・脾・腎と関わってきます。それぞれにおいて”機能低下と冷え”という感じ。特に腎の陽虚は八味地黄丸という有名な漢方との関係もあり知っておくべき事項でございます。

 脾陽虚は、食欲不振や消化不良、下痢や腹痛など。腹痛は温めると良くなる傾向にあります。

 心陽虚は、心不全を想像しましょう。労作時呼吸困難や起座呼吸、浮腫などなど。

 腎陽虚は、手足の冷えや背中が寒い、足腰が弱い、腰がだるくて痛い、動きが鈍い、夜間頻尿、尿失禁、動作時呼吸困難、手足の浮腫、ぼーっとする、無気力などなど。中医学で言う”腎”というのは西洋医学で言う腎臓(kidney)よりも幅広い概念なので、症状はそれだけ多くなります。でもCKDのステージが進んだ感じと表現しても何となくイメージはつくかもしれません。

 陽虚の治療には、補陽作用、すなわち気虚と寒を治す薬をメインにした補陽剤や陰陽双補剤を使います。

 附子とか人参とか乾姜とか白朮とか茯苓とか桂枝とか、、、そんなのを含むのが補陽剤。なので、真武湯ですとかね、後は人参湯に附子と桂枝を加えた桂附理中湯とか、苓姜朮甘湯に附子を加えた苓姜朮甘湯加附子など。茯苓四逆湯という、エキス製剤では人参湯と真武湯を合わせたものもここに入るでしょう。陰陽双補剤ですと八味地黄丸が代表例。

 苓姜朮甘湯加附子は下腿浮腫があって腰から下が冷えて重だるい時に。附子が入ることで各生薬の巡りを良くして、温める作用と利水作用も強めています。

 桂附人参湯は、人参湯に桂枝と附子を足したもの。人参湯は中焦(脾胃)を温める方剤でして、白朮で下痢に対処し、人参と甘草で腹痛に対処、乾姜で温めます。それに桂枝と附子を加えているので、血行が良くなって温め作用が強くなっています。桂枝はお腹も皮膚も温めて、腎臓への血流を上げて利尿作用ももたらしてくれます。人参湯だけだと利尿作用が乏しいので、人参湯そのものは尿量の少ない人が対象にはなりません。逆に浮腫となることがあるくらいですから。

 真武湯は人参湯よりも利尿作用が強くなっています。白朮に加えて茯苓が入ってますからね。附子や芍薬も加わっており、温めてかつ腹痛にも配慮。腹痛のある水様性下痢が主な症状で、尿量減少とか手足の重だるさがポイント。全体がカラッカラというわけではなく、体内の水分がうまく尿として出て行かないんです。いわゆる水滞ですから、身体が重くてめまいがしたり、こむら返りにも良いですね。浮腫にも効きます。でも、熱証で炎症がすさまじい場合はもちろん向かないですよ。末期の患者さんでは熱証となるような元気もありません。触ると冷たくて腎不全を起こして尿量も少なくなり浮腫になって、下痢ばかり出てしまっている。そんな時は真武湯がきっと役に立ってくれます。人参湯と合わせると茯苓四逆湯という方剤に近づきます。これらが合わさるとパワーアップと簡単に考えると良いかもしれません。

 八味地黄丸(八味丸)は地黄と山茱萸と牡丹皮が入っているので、次に述べる陰虚にも対応しています。いわゆる老化現象に八味丸、と宣伝されているお薬。腰が曲がって痛くなって、眼も見えなくなってきて耳も遠くなって、味もよく分からなくなる。歩くのも覚束ない。尿失禁なんかにも使用されますが、主に神経反射の悪いタイプですね。同じ尿失禁でも括約筋が弱くて、という人は補中益気湯。また、地黄と山茱萸は血中に水を蓄えるので、それを考慮するとよく言われる”多尿の口渇”にも良いですよ。糖尿病に見られますよね。ただ、漢方の中で副作用の報告が最も多いのがこの八味丸なので、注意して使いましょう。附子と桂枝が入っていることもあり、陰虚で虚熱があるような人には向きません。陽も虚している人が適応です。これを間違うとよろしくない。何でもかんでも八味丸というのはまずいです。

 牛車腎気丸は八味丸に利水作用のある牛膝と車前子を配合したもの。利水が強まっているので、八味丸の適応でさらに浮腫やしびれ(神経のむくみ)の強い時が使い時です。もちろんカラカラな人に使うのはダメですよ。

 ちょこちょこ出ていましたが、次は陰虚について。

 陰は血を含みます。また、陽とは熱や火ですから、陰は寒や水です。陰が虚するということは、陰陽のバランスが崩れてしまって、熱が生じてきます。よって、陰虚は”血虚+熱”と言えます。スライドと合わせて考えると、水分の合成ができなくなって熱産生が相対的に大きくなっていきますね。エネルギー代謝が亢進しており、エネルギーが消耗されてしまいます。こういう人に乾かす系のお薬を使うと良くないですね(半夏とか)。

 陰虚の症状は、これまた山本巌先生に従いまして。


血虚に加えて以下の症状が現れる。
・手足がほてる。
・午後に潮熱が出る。
・口渇し、口中が乾燥する。
・尿量は少なく、尿の色も濃い。
・便は乾燥して形がコロコロ。
・舌は乾燥して、舌苔は少ない。
・脈は細くて数である。


 五臓によって症状が分けれられますが、陽虚と異なりちょっとイメージしにくい。

 心陰虚は動悸や不眠、健忘などがあります。中医学の心は脳機能の一部も担っている(心は神を蔵す、なんて言われます)ので、精神神経系の症状も含まれますね。中でも意識水準や覚醒・睡眠系を司ります。

 肝陰虚はめまいや耳鳴、痙攣、多夢など。中医学の肝は肝臓(liver)の他に性格や感情、筋肉など多くに関連します。精神科的なところでいうと、人間の精神には”魄(はく)”と”魂(こん)”というものが中医学では存在します。魄は本能的即物的欲望である陰の働きで、肺に関連します。魂は理性的で崇高な感情である陽の働きで、肝に関連します。精神分析で言う一次過程と二次過程みたいな?

 肺陰虚は咳や寝汗、血痰など。呼吸器系のダメージですね。ただし陰虚なので痰も瑞々しくありません。

 腎陰虚は耳鳴、難聴、めまい、腰痛、性欲減退など。腎は幅広いですね。

 脾陰虚は口渇や空腹、便秘など。これはまだ分かりやすいです。

 陰虚の治療には、補陰作用のある薬をメインにした補陰剤を使います。補陰作用とは陰虚(血虚+熱)と老化に伴う慢性炎症性疾患を治す作用とを含みます。

 地黄、山茱萸、牡丹皮、麦門冬、芍薬なんかが補陰薬で、補陰剤の代表例が六味丸です。他には麦門冬湯とか清心蓮子飲、滋陰降火湯なんかも補陰に属します。血虚+熱ということで、補血と清熱の作用がある温清飲の加減をここに含めても良いでしょう。

 六味丸は子ども用、という認識のされ方があります。八味丸から桂枝と附子を抜いて作られたものですが、この2つを除いたのは、子どもは新陳代謝が盛んで陽気が多く陽を補する必要がないためと言われています。なので、発育不良とかチックのある子どもによく使われます。他には痩せ型でたくさん食べても太らないような人とか、慢性炎症性疾患にも用いられます。ただ、単独で使うことは少ないですね。何かと組み合わせて、というのが多いかと。

 竹筎温胆湯も含めて良いでしょうか。これは温胆湯に柴胡、香附子、桔梗、黄連、麦門冬、人参なんかを加えたもの。温胆湯より痰熱の熱症状がひどいものに、とものの本には書かれています。より冷ます系の生薬が多くなって、理気の作用もプラスされたものと言えるかもしれません。この漢方の中に入っている竹茹というのは精神安定作用も強く、精神科領域での使用が少しずつ広まってきている印象があります。不安とか不眠とか。中医学では、胆は”決断を主る””勇怯を主る”とも言われます。ビクビクして物事を決め切れない人とかは胆が弱っているんですね。

 滋陰降火湯は四物湯の流れをくんで、それに炎症を抑える知母とか黄柏とかが入り、潤す系の麦門冬や天門冬なんかも。痩せていて体の水分が少なく、だらだらと炎症が慢性化したような時に。なかなか痰がすっきりと出てこないような咳ですとか、歯槽膿漏もそうですね。似ている名前の滋陰至宝湯は逍遥散の流れでして、柴胡や香附子が入っています。精神的なストレスへの配慮がなされていますね。直接的に熱を冷ましたり潤したりというのは滋陰降火湯の方が強い。

 虚熱は、炎症は軽いけれども慢性に経過してなかなか治らず、反復して再発を繰り返すもの。外因の作用が強くないのに体質が弱いから少しの外因でも炎症を起こしてしまいます。なので、虚熱が目立つ場合は清熱薬と同時に補陰薬を使います。

 陽と陰というのを考えないと、無茶苦茶冷えている患者さんにもっと冷やすお薬を出してしまったり、暑がりの患者さんに熱を出させるようなお薬を出してしまったり。それはやっぱり苦しいものです。そんなのを防ぐためにも、漢方屋にとっては考えておくべき概念かもしれません。
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