2013
06.18

アスピリンでうつ病予防?

Category: ★精神科生活
 研修医向けの輸液レクチャーでもお話ししましたが、血管内皮細胞を守るというのは炎症を考える上で欠かせない概念です。この内皮細胞が障害されることで炎症性サイトカインがどんどこ産生されて、炎症が炎症を呼んでしまいます。この炎症というのは、厄介なものです。

 そして、炎症は精神疾患にも関わってきます。特にうつ病は急性炎症とは異なる脳の”慢性炎症”によるタイプがあるのではないかと言われていまして、C型肝炎に対するインターフェロンによる治療でうつ病になる患者さんもいます。実際、うつ病の患者さんでは、炎症性サイトカインの血中濃度が上昇しているというデータも。

 炎症を防ごう、という観点での治療選択肢として、例えばω-3脂肪酸(エパデール®)の増強があります。スタチン系はうつ病の予防に働く可能性が示唆されており、それは血管内皮細胞の保護をしてくれるためではないかとも考えられています。個人的には血管内皮細胞を守るというのは、炎症を和らげるという意味である群のうつ病に対しては予防や治療にも働くのではないかと考えています。サルポグレラート(アンプラーグ®)とかベラプロスト(ドルナー®/プロサイリン®)の増強なんかやってみると面白いんじゃなかろうか。比較試験を行なってみたいですね。統合失調症は、昔からその患者さんはリウマチになりにくいと言われており、免疫異常が大きな役割を果たしていると考えられています。脳という一部分の免疫異常が、身体全体の免疫異常を防いでいるのかもしれません。

 そしてちょっと前ですが、アスピリンがうつ病の予防になるのではないかという論文が出ました。

Almeida OP et al. Aspirin decreases the risk of depression in older men with high plasma homocysteine. Transl Psychiatry 2012 Aug 14; 2:e151.

 これは血管内皮細胞が障害された時のマーカーとして考えられている血漿中総ホモシステイン(tHcy)に着目しています。tHcyの高値は、心血管疾患や脳卒中、そしてうつ病のリスクと関係があるのではないか?と言われておりまして、今回の論文は高齢男性に対してアスピリンとビタミンBの使用、うつ病、tHcy値との横断的な関係性を調べています。

 結果、tHcy高値はうつ病のリスク上昇でした(OR 1.60)。ただ、tHcyが高くてもアスピリンを服用していた人ではうつ病のリスクが低かったとのことです(OR 0.57)。ビタミンBは意味がなかったようです。

 ”tHcyが高くてもアスピリンを服用していた人ではうつ病のリスクが低かった”というのが解釈として難しいところです。tHcyが本当に血管内皮細胞の障害を直接的に見ているのか、という疑問もあるでしょう。また、tHcyが高くてもアスピリンが何らかの作用でその下流をブロックすれば、血管内皮細胞は守れます。後は、血管内皮細胞が障害されても、そこからの炎症に歯止めをかけているとも考えられるでしょうか。

 NSAIDsは色んな報告があります。効くと言うのもあれば効かないというのも。アスピリンはNSAIDsとは異なり、体内で分解されたサリチル酸が転写因子のNF-κBを抑制すると言われているんです。なんと。他にもICAM-1の発現や平滑筋細胞の増殖を抑制し、T細胞の内皮細胞への接着、そしてT細胞上のL-セレクチン発現も抑制しちゃいます。また、血管内皮細胞に発現される受容体LOX-1は、血管内皮細胞の障害や炎症、血栓の形成を押し進めます。アスピリンは驚いたことにLOX-1 mRNAとLOX-1の蛋白レベルを抑制しちゃいます。何このアスピリン無双。やっぱこれかしらね。このブラックボックスな感じが興味をそそります。

 アスピリンは抗血小板作用に加えて血管内皮細胞保護、ひいては広汎な抗炎症作用で効いてくるんじゃないか、と邪推しております。

 アスピリンは昔々の薬で、知られていない作用がまだ沢山あるのではないでしょうか。COXに依存しない作用でがんの抑制にも効果があるというのが最近話題になりましたし(Borthwick GM, et al. Therapeutic levels of aspirin and salicylate directly inhibit a model of angiogenesis through a Cox-independent mechanism. FASEB J. 2006 Oct;20(12):2009-16.など)、うつ病を慢性炎症という視点で捉えるならば、アスピリンを始めとする炎症をマイルドにする薬剤は今後治療において何らかのキーとなってくれるのでは、そう思っています。昔の薬、という点では三環系抗うつ薬も同じといえるかもしれません。最近のSSRIとは異なる不可思議な作用により、三環系は今でも治療抵抗性うつ病の治療には使われます。その作用の1つにはサイトカインを抑制するメカニズムも知られているんですよ。

 精神疾患治療の時代は慢性炎症の抑制!と考えています。統合失調症は免疫異常と思っていますが、その連鎖の先にはアストロサイトやミクログリアの異常が示唆されており、脳内で慢性炎症があると考えられています。抗精神病薬にCOX-2阻害薬の増強をかけるというのもありましたね。ミノサイクリンの増強も神経保護や抗炎症作用という点から行われます。精神疾患の原因の1つとして炎症をきちんと意識したい、と考えています。
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コメント
先生、トラムセットも鬱?意欲の低下?に効果あるのでしょうか?

数年前、歯科の激痛でトラムセットが出た時は(朝晩各二錠)痛みがおさまってもだるさが酷く机にへばりつき状態。
今回帯状疱疹の三叉神経で(朝昼晩各一錠)
飲んで一時間経たない内に変化有り。
テンション上がる↗とか、そこまでではないですが。
(身体的には足先まで血が巡る様な感覚有り。)



佐藤dot 2013.06.22 15:54 | 編集
>佐藤さん

トラムセットはトラマドールとアセトアミノフェンの合剤になっています。
トラマドールはオピオイドに分類されています。オピオイドというとモルヒネが代表ですが、トラマドールはオピオイドながら麻薬指定はされていないため、色んな医者が気軽に出せるお薬。でもやはり麻薬ではないとはいえオピオイドなので、飲んだら数日から1周間は眠気や吐き気、倦怠感が出てきます。時間が経てば軽くなることが多いですが。
また、SNRIという抗うつ薬に似た作用を持ちます。なので、抗うつ作用は軽度ながら持ちます。
”トラマドール=オピオイド+SNRI”と考えると良いかもしれません。
ただし、抑うつの副作用も出ることがあり、なかなか一筋縄では行かないですね。
m03a076ddot 2013.06.22 19:59 | 編集
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