2013
02.08

統合失調症の生物学的研究

Category: ★精神科生活
 統合失調症について、以前は精神病理学的に見てみましたが、今回は生物学的な方向からのまとめ。現在、画像研究や死後脳研究をもとに、遺伝子研究と遺伝子改変マウスを用いた仮説の検証が行われています。

 画像研究により、統合失調症患者さんでは側脳室の拡大、大脳灰白質体積の減少、海馬・扁桃体体積の減少、基底核体積の増加などが見られるということが分かっています。死後脳研究からは、細胞レベルの変化としてグリオーシスを伴わない錐体細胞のサイズ/樹状突起棘密度の減少、GABA作動性ニューロン数の減少などが報告されています。よって、脳内の微細な神経発達の障害が最終的に統合失調症特有の神経回路の異常となり、発症に導くというのが有力です(神経発達障害仮説)。

 統合失調症において、線条体のドパミン神経が過活動になっていることはご存知だと思います。前頭前野におけるドパミン神経活動低下についてはデータ不一致も多いようで、統合失調症に特異的なものではない、と言われます。うつ病患者さんでも前頭前野の機能低下は良く話題になりますね。治療する側としてはここのドパミンを増やしてあげたいな、と思うところ。

 ニューロンの話題では、特に皮質の抑制性ニューロンの活動低下が最終的に線条体ドパミン神経の過活動に結びついているのではないか?と言われています。死後脳研究では抑制性ニューロンの減少とGABA遺伝子発現低下が繰り返し確認されてきており、抑制性ニューロンにおけるNMDA受容体からのグルタミン酸シグナルやα7ニコチン性アセチルコリン受容体などの機能低下も関連性が示唆されています。

 ということで、統合失調症においては線条体ドパミン神経の異常、グルタミン酸シグナルの変化、抑制性ニューロンの活動低下、ニコチン性アセチルコリン受容体の機能低下など、さまざまな起点から最終的に線条体におけるドパミン神経過活動に辿り着き、精神病症状を呈すると考えられています。現在の抗精神病薬は、基本的には一番最後のところを抑えているだけなので、根っこの部分をカバーできるお薬も欲しい。そういった意味を込めて、抗てんかん薬や高用量のメマンチンを補助として併用することもあります(メマンチンはあんまり効かないですが、投与量を多くすると何とかという報告も)。

 これらの異常には、遺伝因子が強く関与していることが明らかになってきました。最近はこれまで検出できなかったCNV(Copy Number Variation)が検出できるようになり、稀なCNVや弱い効果を持つありふれたCNVが関与していることが示されています。次世代シークエンサーの開発により、CNVではない稀な変異の同定も進むことが期待されています(INDELsなど)。

 統合失調症の発症には複数の遺伝子が関与しているため単純には行かないものの、これら遺伝子変異が実際に疾患を発症させるのか、マウスの遺伝子を改変して検証を行います。また、遺伝子改変マウスでは遺伝子変異がどのように発症につながる変化を起こすのか、メカニズムを明らかにできるかもしれません。

 また、統合失調症の病態にグリア細胞、特にミエリン形成に重要なオリゴデンドロサイトが関与していることも明らかになってきています。ミエリン形成はシナプスの神経伝達に重要な役割を果たし、注意、記憶と学習などの認知既往に関わっています。更にこれらの障害がドパミンやグルタミン酸回路の変化に重要であることも示されています。ミクログリアもLPSやIFN-γなどによって異常に活性化され、TNF-αやIL-6などのサイトカインやNOなどのフリーラジカルの産生を高め、それらがモノアミンやグルタミン酸の神経伝達、糖質コルチコイド受容体や海馬の神経新生などに影響を与えてしまうことが分かってきました。

 そうなると、薬剤的にはモノアミンだけ動かしていても不十分ですよね。現在ある薬剤では抗てんかん薬はグルタミン酸経路に作用するのでやっぱり使う価値はあるかと思います。神経保護作用を持つ薬剤もあるにはありますが(亜鉛とかミノサイクリンとかリチウムとか)、もう少し作用のはっきりしたものがほしいところ。全体的にはまだまだ開発途上の感は否めません。

 精神疾患の研究で難しいのは、標的臓器の生体試料の入手が困難なことです。死後脳にももちろん限界があり、嗅上皮細胞やiPS細胞などの利用も検討されています。実際、iPS細胞による研究も始まっています。一例を出しますと、Brennandらは、統合失調症患者さんの細胞から作製したiPS細胞を3種類のニューロンに分化させました。それにおいて神経突起の成長、シナプスたんぱく質であるPSD-95、グルタミン酸受容体発現の全てのレベルが低下し、ニューロン接合能に欠陥があること、そしてcAMPとWNTシグナル伝達経路に関わる遺伝子群の発現が乱れていることを明らかにしました。更に、抗精神病薬による細胞形態及び遺伝子発現レベルの変化についても指摘しており、様々な治療薬から患者さんに最も効果的な薬を選び出すなど、治療の改善につながるのでは?とされています(Brennand KJ, et al. Modelling schizophrenia using human induced pluripotent stem cells. Nature. 2011; 473(7346): 221-5.)。

 他には、精神疾患の診断そのものの不確かさというのがあるでしょう。肺の小細胞癌とか腎臓ではIgA腎症とか、こういったのは確たる証拠があって診断が付きますが、残念ながら現在の精神科、特にDSMでは”症状”を集めて一定の数をそろえればこの疾患、という診断体系になっています。およそ身体科の診断体系とは似ても似つかないもので、診断と言っていいのか判断と言うべきか。。。そういったグルーピングなので、いくら統合失調症といっても本来ならば様々な疾患が含まれているはずです。つまり、以前の記事でも何度か挙げたように”統合失調症”は”統合失調症候群”ということですね。”大うつ病性障害”も同様のことが言えましょう。これらは単一の疾患でないため、そこでバイオマーカーとか遺伝子とかを調べたとしても共通性のあるものは出てきにくいんじゃないかな、、、と思います。そこを生物学的精神医学はどう解決するのか、それとも頓挫するのか(頓挫することはないでしょうけど)。
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dot 2013.02.09 09:52 | 編集
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dot 2013.02.10 09:34 | 編集
統合失調症について管理人閲覧コメントを下さった方、ありがとうございます。
カルボニルストレス統合失調症は以前の記事にちらっと出させて頂きましたが、知った当時は「活性型ビタミンB6で治るのか…」と大変衝撃的でした。
ミトコンドリア仮説についても文献を見ていたことがあり、統合失調症はますます症候群の色合いが濃くなってきた感じがあります(双極性障害もミトコンドリア機能不全が言われていますね)。
精神疾患の研究は、症候群であるという認識のもと様々な視点を持ちながら行う必要がありますね。症状をピックアップしてグルーピングとして名付けるという現在の診断方法は、非常に前近代的だと思います。その方法に基づいて研究も行われているという点は、絶えず自覚しておく必要があるのでしょう。
精神医学は発展途上であり、まだ問診にほとんどすべてを預けざるを得ない状態です。多角的な研究から、早く合理的な分類や治療法が見つかって欲しい、と切に思います。
m03a076ddot 2013.02.10 10:04 | 編集
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dot 2013.02.11 10:35 | 編集
2/11に下さった管理人閲覧コメント、ありがとうございます。

ミトコンドリアは精神疾患のキーとも言われて注目されていますね。
双極性障害も治療的視野に入っている様で、何かしらのブレイクスルーを期待してしまいます。
ミトコンドリアの産生するATPにGABAの抑制性ニューロンを助けてくれる作用がありますし、そこからも統合失調症までの距離は遠くないのかもしれません。
色んな切り口から精神疾患の治療に結びつくことが出来れば、何よりも患者さんの利益になると考えています。
m03a076ddot 2013.02.11 13:43 | 編集
活性型ビタミンB6の「ピリドキサミン」を、数家族で個人輸入して服用しています。B6の中でピリドキサミンだけが有効なのですが、これは国内で販売されていません。欧米では、糖尿病の治療薬・予防薬として販売されています。
糖尿病家系の方には、有効です。我が家はそうではないのですが、代謝を良くするという効果はいろいろの面で実感しています。
医師の名人芸で治る人、主治医が腕が悪くて(失礼)難治とされてしまった人・・と言うように、あたりはずれで患者・家族の苦難の道が分かれると言う現状が、早く改善されることを願っています。
海がめdot 2013.02.11 18:27 | 編集
>海がめさん 
そうですね。
精神医学はこれまで良くも悪くも形而上学的・現象学的でした。
科学性が高まり、医師個人間のバラつきが出来るだけ少なくなれば、いわゆる”当たり外れ”を最小限のものと出来るかもしれません。
m03a076ddot 2013.02.12 11:04 | 編集
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