2013
01.15

ゲノムと発達

Category: ★精神科生活
 最近は精神疾患のゲノム関連も勉強せねばならず、基礎知識のない自分にはかなりきつい作業。恥ずかしながら専門用語もちょっとまだ馴れてないです。。。

 ここで、読んだ日本語文献(久島周 他. 発達期精神障害-発達障害を中心に. BRAIN and NERVE. 2012; 64(2): 139-47)の内容を忘れない様に少しまとめておこうかと思って記事にしました。が、知らない分野というのはどこが重要なのかが分からないので、まとまらないですね…。

 まとめる前に。。。良いか悪いかは別として、発達障害、特に高機能自閉症/アスペルガー症候群は昨今ずいぶんと診断されている傾向にありますね。やっぱり診断は難しいと思います。定型発達と発達障害は連続したものですから、どこからどこまでが、と言いづらいところがあります。社会的な要請によって線引きが変わってしまうこともありましょう。また、青木省三先生がおっしゃるように、異なった文化を持っている異質性という視点も必要です。青木先生は光を例にとって、光は本来連続したスペクトラムだけれども、私たちの目には赤、青、黄などと異なった色として自覚されます。連続という視点と異質という視点が相容れないものではない、そして両者の視点が必要であるという、分かりやすい例えですね。

 また、増えた増えたと言うものの、目立ってきたと表現する方が適切なのかもしれません。対人能力や社会的な適応能力が問われるこのご時世、こういった人々が「障害」として浮き上がってきたことも可能性としてはあるかと思います。また、子育てが手厚くなり、早期の療育的なケアがなされるようになった結果、”軽度”の遅れにとどまる傾向になっていった、ということも高機能自閉症/アスペルガー症候群の診断増加につながっていることも推測されます。

 彼らは知的にはそれほど遅れはないので適応は良いはずなのに、対人関係や社会性の遅れがつまづきを産んでしまっております。ただ大事なのは、診断を付けることだけではないはず。滝川一廣先生のおっしゃる通り、「診断名」「障害名」のなかに子どもはいません。その子のどんな精神世界から学級内などでのトラブルやパニックが起きてくるのか、その子はどんな体験を生きているのか、それを理解する必要性がありましょう。
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 ここから上記文献のまとめを。

 発達障害は、脳機能の違いが認知や行動面に反映され、そのため日常生活が困難になってしまう状態。他の精神疾患よりも遺伝の影響が色濃いのですが、環境因子の関与もあり、その2つの相互作用と言われます。環境因子が生物学的なところに入り込むことの分子基盤としては遺伝子のエピジェネティックな変化というのが注目されています。

 そういった視点もさることながら、生物学的なところから攻める診断技術が出来れば、それはそれで有用。また、発達障害は相互に併存しやすいことが知られています。広汎性発達障害の多くにADHD症状が見られ、逆もまたしかり。双生児研究では、共通する遺伝因子の存在が言われていますし、DSM-5では両者の併存診断を認める方向にあります。他には発達性協調運動障害、チック障害もこれら2つの障害と共通の遺伝因子が存在することが言われています。

 発達障害の認知行動特性は成人期にも基本的には持続します。広汎性発達障害の援助は成人における就労や地域生活も含めた生活自立へと拡大しており、ADHDの半数は成人期には診断基準を満たさなくなるものの診断閾値下の特性は多く見られ、日常生活に支障がないと思われる患者さんは1割に過ぎないとも報告されています。成人になって不適応となり、精神科医の問診によって「発達障害があるんじゃないか…?」と考えられる患者さんも多いです(その全てが発達障害だとは言いませんが)。発達期精神障害と成人期精神障害との連続性を支持する知見もあり、成人期精神障害の発症前に同様の小児期精神障害が先行する(同型連続性)だけではなく、異なる発達期精神障害が先行する(異型連続性)ことも確認されています。

 ゲノムのある領域のコピー数が変化するCNVは、ゲノムの多様性を生み出します。SNPsなどの塩基置換とは異なり、さまざまなメカニズムにより生じダイナミックな変化。更に変異率も100-10000倍高いとされ、子どもの代に初めて生じるde novoの場合があります。一卵性双生児間でも異なることがあり、その個体の中においても、組織間で異なる遺伝的モザイク(個体の中で遺伝的に均一でない)を形成する可能性があると言われます。よって、稀であるものの発症への寄与が高いCNVが散発的に集まることで、疾患群を形成するのではないかと指摘されています。現に、これまで同定されたCNVから、自閉症スペクトラム障害や精神遅滞が成人期発症の統合失調症と遺伝因子を共有していることが明らかになってきており、これは統合失調症の発症前に様々な発達障害が前駆するという臨床研究と一致し、統合失調症の病因・病態に神経発達異常を想定する”神経発達障害仮説”を支持する所見です。ただ、同一のCNVがこの様な多様な表現系を生み出す多面発現的効果(pleiotropic effect)がどのようなメカニズムで起こるかは不明で、ほかの遺伝子変異や環境的な影響が推定されているにとどまっていることも事実です。

 これまでの研究では、同定できるCNVは大規模なものに限られていました。現在は高解像度の解析が可能になっており、比較的小さなCNVやそれより小さなINDELsの同定も盛んになっています。技術革新により細部を知ることができ始めており、精神障害の遺伝的な基盤をより詳細に明らかにする研究がより重要になってくると思われます。ただしこういったCNVなどは浸透率の問題もあります。CNVを持っていても発症につながらない例も数多くありましょう。これを解析することでどういった養育環境が保護的に働くのかを見ることができます。

 画像研究については、自閉症では脳発達のスピードが健常児と比較して変化していることが言われています。脳体積が小児期早期では健常児よりも大きく、後期で正常範囲内に戻ります。扁桃体の体積も同様のパターンをとる傾向にあるようです。ADHDでは脳皮質の厚みの軌跡が遅延するとの報告があり、厚みのピークを迎えるのが3歳ほど遅れるとのこと。COS(Child Onset Schizophrenia)では側脳室の拡大、大脳灰白質体積の減少、海馬・扁桃体体積の減少、基底核体積の増加などが青年期から進行することが示唆されています。
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 こんなまとめでした。とある文献(Craddock N, et al. The Kraepelinian dichotomy - going, going... but still not gone. Br J Psychiatry. 2010; 196(2):92-5.)には、生物学的な基盤を考慮した精神疾患定義の再編成の試みが述べられています。1つの図が掲載されており、以下に掲載。将来的にはやはりこういった方向性になっていくんでしょうね。この図を見るたびに、自分はアンリ・エーを思い浮かべてしまいます。

re-definition.jpg
(クリックで拡大)

 ただ、発達障害に限らず精神疾患の診断というのはしっかりとケアに結び付けて行わなければいけません。前述のように発症の基礎となる遺伝子変異を有していても発症しないことも多いでしょうし、逆もまたしかりと考えられます。特に軽度発達障害はコンテイナーとしての社会のキャパシティによって診断されるかされないかということもあるでしょうから、遺伝子変異があるからあなた発達障害よ、ないから違うよということだけでは、不必要なレッテルを貼られる・必要なケアを受けられないという人々も出てくるはずです。そういった事態に陥らない様にせねばなりません。

 精神発達というのは正規分布しますし、その平均水準を大きく下回ると発達障害とされてしまいます。それに加えて、発達を遅らせるような非特異的な負荷があれば、関係の発達に遅れが出やすくなります。今まで見つかっている様々な所見というのは、遺伝子的なものも含め1つが多大な影響を持つものではなく、あくまで非特異的なものなんじゃないかと思います(その所見を持っていても発達障害にならない子も多いわけですし)。非特異的な負荷がいくつか重なって、関係性を築くことの足をずるずると引っ張ってしまうんじゃと考えています。発達そのものが正規分布するということも踏まえると、自閉症の中でスペクトラムと言うのではなく、大きい視野で”発達のスペクトラム”とすべきものなのではないでしょうか。精神遅滞だって同じ事ですよね。

かけっこだって、よーいドンで走ったら足の速い子もいれば遅い子もいます。足におもりが付いていればそれだけ走るのも遅くなりましょう。たくさんのおもりならより遅くなるでしょう。それと同じ事と思います。精神発達だってよーいドンで生まれると発達の速い子もいれば遅い子も。そして遺伝子やら何やらが、おもりと言えるでしょう。大したことのないおもりもあれば、単独でクリティカルなほどの大きさのおもりもあります。精神も発達することである以上、ばらつきはあります。自閉症や高機能発達障害とラベリングするなとは言いませんが、一所懸命に走っている、発達し続けているという子どもの面をしっかりと見つめなければ、それは弊害しか生まないような気がします。

 最後にまた滝川先生の言葉を引いておきます。


『まず「精神遅滞」(知的障害)とか「自閉症」とか、診断名(障害名)は必要ないのですよ、ほんとうは。その子が、こころのはたらきのうち、どんなところがどう遅れているのか、なにが不得手でなにが得手で、いまどういうところでつまづいており、どんな配慮をしてあげればよいのか、そういう具体的・個別的なことが必要なのですね。診断名とは抽象化で、そこにはその子はいないのです。』
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