2013
05.28

定型抗精神病薬と非定型抗精神病薬

Category: ★精神科生活
 現在、統合失調症の治療薬はオランザピン(ジプレキサ®)やアリピプラゾール(エビリファイ®)といった非定型抗精神病薬が主役。ハロペリドール(セレネース®/リントン®)やクロルプロマジン(コントミン®/ウィンタミン®)に代表される定型抗精神病薬はちょっと脇役になりつつあり、若手の精神科医はこれで統合失調症の治療を開始するということはあまりないです。それに伴い、治療にかかるお金がどんどん増えています。非定型はめちゃくちゃ値段が高くて、負担になりますね(自立支援や精神保健福祉手帳などでずいぶんと患者さんの負担は軽くできますが)。製薬会社は開発にかなりつぎ込んでいるため、それを回収するためにも価格設定が高くなるんだと思います。そういうこともあって、彼らの非定型抗精神病薬のプッシュはすさまじい。中枢神経領域の新薬開発は停滞しており、製薬会社にとってはリスクを負って開発研究をしている状況になっています。某ファ○ザーや某グラ○ソは「もう作りたくねぇよ!」と言っている始末。

 さて、そんな抗精神病薬ですが、使い過ぎれば当然のことながら副作用が出ます。PETの研究では、線条体ドパミンD2受容体の占拠率が70%を少し越えだすと錐体外路症状(EPS)が出やすくなるとされます。寛緩期の維持療法に必要な占拠率は50%ちょっとで良いという意見も。これで全てを説明できるかと言われると難しいでしょうけど、ある程度の根拠を持つ投与量設定になります(絶対視はダメだと思います)。

 そこで、定型の代表格たるハロペリドールを見てみましょう。発症初期の患者を対象とした試験では、ハロペリドールが60-75%のドパミンD2受容体を占拠するにはたった1-3mgで良い!ということが分かっています(de Haan L, et al. Subjective experience and D2 receptor occupancy in patients with recent-onset schizophrenia treated with low-dose olanzapine or haloperidol: a randomized, double-blind study. Am J Psychiatry. 2003; 160(2): 303-9.など)。そうかそうか、と思うかもしれませんが、精神科医の中には「めっちゃ少なくね?」と思う人もかなりいるはず。それだけ、この量でそんなに受容体を抑えられるのかと意外なのでございます。これまでの精神科医のハロペリドール処方量は、D2遮断というところだけを見るとずいぶん多かったのです。

 こういった事実を踏まえて、非定型抗精神病薬と定型抗精神病薬との比較試験を見てみます。こういうのは大抵、非定型を売り出す製薬会社がスポンサーになっています(そうじゃないのも多いですよ)。ということは、試験を行う研究者は非定型寄りの結果を求められますし、「やべっ」ていう結果になった試験は公表されずに闇に葬られることだってありえます。そういう試験において、比較対象となる定型に選ばれるものは上述のハロペリドールが圧倒的に多いですね。ハロペリドールはEPSが非常に出やすいタイプで、また試験では設定される投与量が多いのです。行われる試験の半数以上が設定を10mg以上にしている、とも言われます。更に、EPSを抑えるための抗コリン薬の併用が認められない試験も多い。

 かなりハロペリドールにとって不利な条件であることはお分かりかと思います。そんなこんなで、試験の結果を解析すると非定型は定型よりも効果が高いし副作用も軽いし何より継続率も高いし、みんなどんどん使ってね!そして会社を潤わせてね(心の声)!となります。ま、こういうのは精神科の試験に限らず何だってそうですが。。。医者はそういうのにだまされない姿勢が大切。

 では、投与量を下げてみるとどうでしょう?ハロペリドールの投与量は12mgを境にして、それ以上なら非定型が効果や副作用の少なさで優るけれども、それ以下なら差はほとんどないという結果があります(Geddes J, et al. Atypical antipsychotics in the treatment of schizophrenia: systematic overview and meta-regression analysis. BMJ. 2000; 321(7273): 1371-6.)。つまりは、非定型の利点は比較対象である定型が高用量だった時のみではないか?とも考えられます。これについては様々な意見があり、用量を下げてもやっぱり非定型の方がEPS出にくかった、とする論文も多いです。

 更に、非定型がハロペリドールに勝るのは抗コリン薬の併用がない時のみで、それがあるとハロペリドールが勝るとする論文も(Rosenheck RA. Open forum: effectiveness versus efficacy of second-generation antipsychotics: haloperidol without anticholinergics as a comparator. Psychiatr Serv. 2005; 56(1): 85-92.)。ここまで来たら何が何やら。ま、抗コリン薬は使い続けると認知機能に悪影響が出るので、出来るだけ長期間使いたくは無いですが。

 次はハロペリドールではなく、定型の中でもEPSが出にくい低力価のものと比較してみましょう。クロルプロマジン換算で600mg以下の低力価と非定型とを比較すると、EPSの出現は何と同レベルなのでございます(Leucht S, et al. New generation antipsychotics versus low-potency conventional antipsychotics: a systematic review and meta-analysis. Lancet. 2003; 361(9369): 1581-9.)。これは最近行われたいくつかの試験で確認されています。

 有名なCATIE studyでは、定型のペルフェナジン(ピーゼットシー®)と非定型のオランザピン、リスペリドン(リスパダール®)、クエチアピン(セロクエル®)、ジプラシドン(承認予定)との比較をしています(Lieberman JA, et al. Effectiveness of antipsychotic drugs in patients with chronic schizophrenia.N Engl J Med. 2005; 353(12): 1209-23.)。治療継続率や症状改善では、ペルフェナジンはオランザピンを除いた非定型抗精神病薬と同等でした。認知機能では何とペルフェナジンの勝ち。やるじゃん、ペルフェナジン。ただオランザピンの強さも見られます。この試験は、定型にペルフェナジンを選択したシブさと、投与量をちょっと控えめにしたことがこのような結果に結びついた一因でしょう。しかし、この試験はペルフェナジンに若干有利なように組まれているとの指摘があります。

 イギリスのCUtLASSでは、定型の方がQOLと症状の改善に優れているという結果に。イギリスらしく、定型の多くがスルピリド(ドグマチール®/ミラドール®/アビリット®)でした。スルピリドかー。。。これを主剤にする勇気はないですけどね…。

 こうやって考えると、定型、特にハロペリドールはこれまで投与量が多かったんじゃないか?という反省ができます。その多い状態で非定型と比較すると、継続率でどうしても負けてしまう。もちろんドロップアウトしてしまうとその時点で効果判定することが多いですから、EPSによる修飾で効果においても劣勢。製薬会社はこういう事実を知って臨床試験を組んだかどうかは知りませんが、医者の方でも自然と投与量を多くしてしまっていたこともあったでしょう。

 ついでなので、色々な薬剤をザザッと比較したメタアナリシスも見てみましょう(Leucht S, et al. Second-generation versus first-generation antipsychotic drugs for schizophrenia: a metaanalysis. Lancet. 2009; 373(9657): 31-41.)。有効性/陽性症状/陰性症状においては、アリピプラゾール、クエチアピン、セルチンドール(承認なし)、ジプラシドン、ゾテピン(ロドピン®)の5剤は定型より優れているとは言えませんでした。優れているのはアミスルプリド(承認なし)、オランザピン、クロザピン(クロザリル®)、リスペリドンの4剤。抑うつ症状については、アミスルプリド、クロザピン、オランザピン、アリピプラゾール、クエチアピンが定型よりも良い効果で、それ以外はダメ。EPSでは、2つ以上の文献で確認されているものが、クロザピンが低力価に比べて有意に出にくいというもの。非定型といっても様々ですね。

 最近は非定型の代謝系への副作用が問題視されます。オランザピンやクエチアピン、リスペリドンなんかは体重・脂質代謝・糖代謝に影響を与えますから、これが患者さんのQOLを下げかねません。肥満になると、それが慢性炎症につながるので患者さんにもよろしくない。定型は定型で相互作用やQT延長なんかがあって大量服薬されると怖い。なかなか世の中うまくいきません。

 抗精神病薬は少量や中等度の量でその薬らしさが出ます。多く使うと個性がなくなってしまい、副作用の面だけが強く浮き出ます。また、非定型は使用量がちょろっと多くても目に見えるEPSがすぐに出るというのが少なく、ある程度ゆとりがあり、若手の精神科医でも使いやすい面があります。スイートスポットが広い、とも言えますし、ハンドルでいえば”アソビ”みたいなものがあると表現できるかも。定型はもう少しデリケートな扱いが必要でしょう。

 ただし、様々な臨床試験を眺めてみると、一口に定型・非定型と言っても薬剤の性格が各々においてすらかなり異なっていることが分かります。よって、定型・非定型と分けること自体が無意味!とするご意見もあります。それぞれの薬剤のキャラクターを知り使い分けるべき、ということ。自分の所属する精神科の教授に上のような質問(非定型の方が良いとも限らないのでは?という内容)を持っていったところ、そのようなお返事をいただきました。更に教授は、加えて”定型”と称される抗精神病薬の中には臨床・基礎の証左がなく、使用量も間違って設定されているものも多いと、ピモジド(オーラップ®)とスルトプリド(バルネチール®)の例を出して教えてくれました。ということは、古い薬剤も新たな視点で研究し直されれば、それが患者さんにとって安心安全に使えるかもしれません(製薬会社はそれをしないでしょうけど)。

 ということで、定型・非定型とズバッと2つに分けてなんちゃら語る、というよりもこれらを同じ土俵に上げて理想的にはそれぞれの薬剤の個性というものを見定めて使う、ということなのですね。ただし、数多ある抗精神病薬全ての個性を知るのは事実上不可能。製薬会社もわざわざ昔の(売れても利益にならない様な安い)抗精神病薬を研究しなおそうという気概はないでしょうし。なので、現時点ではよりデータのしっかりしたいわゆる”非定型”の出番の方が必然的に多くなる、と言えそうです。最近の試験を見てみると、非定型との比較から逆に定型に明かりが当たりつつあるか??と思いますが、様々な理由により定型が抜本的に見直される可能性は低いのかも、と思ってしまいます。以上まとめでした。





 ここからは自分の勝手な話です。エビデンスとは無関係なのであしからず。。。

 治療薬として何が高い効果を持つのか、というのを考えると、もちろん上述の各々の薬剤の特性にもよるのでしょうが、6番バッターの様な、ある程度ソツなくこなすのはオランザピンかなーと思います。。。村上靖彦先生(精神病理学の大御所!)がとある病院で統合失調症患者さんの薬剤治療を行っていたのですが、定型をうんうんと悩み倒して使っても全然良くならない。そこで若手の先生にちょろっと任せたら、彼はオランザピンを5mgだったかしら?それくらい使うことにしたみたいです。当初、村上先生は「はぁ?オランザピン?効くのそれ?」という感じだったようですが、何と何とあっという間に良くなって度肝を抜かされた経験があるそうです。それ以降村上先生も非定型を勉強して使えるようにしたそうですから、さすがオランザピン。

 クロザピンは周知の通り、切り札的な存在。オランザピンもクロザピンも、いろんな受容体に程よくくっ付くというのが治療効果の高さのしるしなのだと思います。それ以外にもよく知られていないメカニズムがあるのでしょうね。ブラックボックス的な?そんな意味ではクロルプロマジンなんか研究対象として見直されても良いかなーとも思ったり。

 そういえばクロルプロマジン換算の話が少し出ましたが、これを絶対視するのが正しいかと聞かれると、違うんだろうなと思います。ドパミンD2受容体の遮断をベースにこの換算は出されていますが、くっつきやすさとか併用した際に純粋に足し算できるのかとか(例えばエビリファイ®24mgにコントミン®200mgを乗せたからといって換算値800mgの効果と言えるか?)、後はドパミンD2受容体以外の受容体の働きとか、そんなのを加味して行かないといかんのでしょうね。大量投与や多剤併用も悪いと言われますが、それをしないと上手くいかない患者さんがいるのも事実。精神病院で自分が担当したとある統合失調症患者さんは複数種類の抗精神病薬が入っており、クロルプロマジン換算では2000mg近くでした。安定もしていたのでちょっと減らそうかなと考え、そこで「これちょっと減らしてみるか。そんな変わらんでしょ」と思ってすこーしだけ抜いたら、何と大爆発しまして。。。「長年の大量処方でそれ用の脳になっていたのではないか?」と思うかもしれませんが、前主治医の意見は「最初は少なめや単剤でやろうとしたが全く歯が立たず、あの処方でやっとうまくまとまった」と。ありゃあ触れちゃいけない処方であったのか。。。絶妙なバランスで、あたかもジェンガのような状態だったのでしょうね。そんな例は至る所にありますから、多剤併用や大量処方が全て絶対的な悪とは言えないかと思います。もちろん少なめや単剤で行ければそれに越したことはないというのは言うに及ばずでありますが。


-----追加記載-----


 こういったジェンガや村上先生の例などについて、最近はドパミン過感受性が言われています。患者さんのドパミン受容体がアップレギュレーションしてしまい、少しでもお薬を退くと症状がすぐに悪化してしまったり、色々とお薬を変えているうちにリバウンド症状が出現してもともとの症状なのか減薬したことによるリバウンドなのか訳が分からなくなってしまったりというのが示唆されています。こういう時は様々な受容体に結合するオランザピンやクロザピンが効果を示します。先のCATIE試験も、オランザピンがリバウンド症状を手堅く抑えたことを示しているとも言えますね。
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コメント
定型薬と非定型薬の比較がとても面白かったです。
もう少し定型薬を見なおして欲しいと思いますが、製薬会社はもうからないからやらないんでしょうね。
浮釣木dot 2016.03.19 11:47 | 編集
>浮釣木さん

ありがとうございます。
製薬会社も会社なので利益を出さねばならず、様々な定型薬をまた研究し直すのは難しいかもしれません。
こればかりは仕方がないかなと思って諦めています。
m03a076ddot 2016.03.23 00:15 | 編集
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