2013
04.06

産後の悪露尽きず、と言いまして

Category: ★精神科生活
 産褥期は、出産後に母体の生理的変化が非妊娠時の状態に回復するまでの期間でして、6-8週間の長さと言われます。

 女性はうつ病発症率が男性の2倍と言われ、女性ホルモンのバランス変化が一因として挙げられます。産後は身体的にも精神的にも非常に揺れ動くものでして、精神科が介入を要することもしばしば。産褥期精神障害はこの時期に発症するもので、いわゆるマタニティ・ブルーズ、産褥期うつ病(産後うつ)、不安障害、産褥期精神病などがあります。また、治っていたはずの精神疾患が再発する時期でもあります。身体疾患も産後は結構出てきます。気管支喘息やら蕁麻疹やら。なんちゃって漢方医の自分としては、漢方的に治療するならこういった病態にはやはり瘀血(おけつ)とか気血両虚が絡んでいると考えられるため、駆瘀血薬とか補気剤・補血剤なんか(代表的なものは芎帰調血飲など)を使うことが必要と思っています。後は病態に合わせて合方を。ただ、産褥期精神病はやはり抗精神病薬をしっかりと。産褥期うつ病も症状が強ければきちんと向精神薬を使います。漢方でゴリ押しは危険。

 マタニティ・ブルーズの発症頻度は日本で15-35%ほどのようです。分娩後3-10日で発症し短期間に改善。抑うつ気分や情動の不安定さなどが出ますが、ほとんどが自然軽快します。産褥期うつ病との関連性は不明ですが、移行することもあるようで経過には注意が必要です。

 産褥期うつ病の発症頻度は10%くらい。産後数週間から数カ月以内で発症します。大体は半年以内で軽快するんですが、なかには長引く人も。未治療というのは決して良くなく、子供にも影響しますし、最悪な事態には”母子心中”があります。また、産褥期うつ病はGhaemiの提唱するBipolar Spectrum Disorder診断基準のD基準の1つに入っていることから分かるように、双極性障害のはじまりとなっている可能性も示唆されます(でも双極性障害の過剰診断には気をつけましょう)。

 産褥期精神病は比較的少なく、頻度は0.1-0.2%くらい。出産後数週間した後に突如として発症します。子供に対する妄想や不安が出てきて、興奮・錯乱となることも。殺児念慮を持つこともあるので、しっかりと治療。

 原因ですが、分析を主体として取り組む先生方は患者さんの母親や配偶者、義理の母との関係性を取り上げる傾向にあります。生物学的には上述のように、特に気分障害においては内分泌系の調節異常が関与しているだろうと言われております。エストロゲン・プロゲステロンの急激な減少がモノアミン系やHPA系に異常をもたらすことが分かっています。他には、細胞膜内の神経伝達物質受容体を調節したりMAP2への作用を介して微小管のダイナミクスを変化させたりするという神経活性ステロイドの関与も示唆されます。この神経活性ステロイドはエストロゲンやプロゲステロンのレベルによって変動して感情変化をもたらし、またGABA A受容体のアロステリックモジュレーターとして機能し、その抑制作用を増強して神経細胞の興奮性を弱めます。こういったことから、性ホルモンの影響を受ける神経活性ステロイドの平衡障害はうつ病の病態生理にかかわるのではないかと言われます。オキシトシン、アルギニンバソプレシン、甲状腺ホルモン、DHAなども関与があるかも?とされます。

 遺伝子的な部分では、産褥期うつ病の患者さんは遺伝子の転写が低下していることが分かっています。これまで盛んに研究されてきたSNVやCNVに加えて、エピジェネティックな変化が注目されており、グルココルチコイド受容体のプロモーター領域のメチル化頻度が妊産婦の感じる将来への不安と関連性があることも示されています。

 産褥期うつ病は、うつ病全体の中でも発症のきっかけが妊娠・出産・育児という共通点があり、昨今入り乱れている”うつ病”の中では均一性が高いと考えられます。そもそも”うつ病”や”統合失調症”なんていうのは症候群と言っても良いくらいのものですから、遺伝子やバイオマーカーを調べようとしても色々なのが出てきて確定的なものが見つかりません。これには現在診断に用いられているDSMが症状レベルで疾患をラベリングしていることも一因かと思います。その中で”産褥期うつ病”は割と定義しやすく均一性の高い疾患ですから、研究対象とするには他の精神疾患よりもマシでしょう。しかも病前から発症まで比較的短期間でデータ収集が可能で、継続的に検討することもできます。これで生物学的な因子を同定できれば、心理社会的な因子と併せることで産後うつの診断がしやすくなりますし、それからうつ病一般に広げていくことも可能かもしれません。
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