2012
12.05

ACT-likeな精神療法的面接-1

Category: ★精神科生活
 精神科は投薬以外にも日々の面接で”治療”を行います。言葉というのが最も重要視される科が精神科でございまして、診断の大部も言葉が担っており、もちろん治療にも同じことが言えます。その中身というと、日常的な生活指導から対人関係療法(IPT)、認知行動療法(CBT)、問題解決療法、精神分析、精神分析的精神療法、支持的精神療法などなど、実に様々。認知行動療法と一括りに言っても色んな派閥がありますし、同じく精神分析的精神療法も恐ろしく種類が多い。フィットする患者さんに対してこれらの治療法は大きな効果が認められます。たくさんありますが、みんな最終目標は一緒。患者さんに幸せを見つけてほしいと願っていて、薬剤治療もそれは同じですよ。

 とは言うものの、薬剤以外のこういった治療法は1回1回に時間を結構使うものが多い。ガチガチに精神分析的精神療法をやろうとすると1回に1時間弱かかりますし、それはCBTやIPTにも言えます。数多くの患者さんを外来で診なければならない精神科医にその時間は残念ながらありません。そこでA-T splittingと言って、薬剤は精神科医がいじって精神療法(心理療法)は心理士の先生にお願いするという方法もあります。しかしながら全員にそれが出来るような環境はなかなかない。難しいものです。

 現実的なところとしては、精神分析”的”な目線、CBT”的”な目線、IPT”的”な目線で患者さんを診るといったような、言い方は悪いですが”なんちゃって精神療法”となるような気がします。普段の外来にちょっとそういった知識をブレンドして診ていく。これの最高峰が笠原嘉先生のお話しになる”小精神療法”だと思います(自分のは精神療法にすらなっていないので、なんちゃってを付けました)。普段の短時間外来にそういう目線を加えて患者さんを診る。そうすると、漫然とした投薬作業から抜け出せるかもしれません。薬だけ、またはいわゆる”カウンセリング”だけ、ではなく両方を取り入れるのが短い外来診療で最大の効果を出すポイントかと。

 精神分析の側面から言うと、短時間の面接の中でも患者さんと自分の間に、ひいては患者さんと外の世界との間に何が起こっているかということを患者さんの対象関係を推し量りながらじっくりと知っていくというのは大事なことです。何でも薬を出してはい終了、という訳には行かない。そういう背景をとらえるには、精神分析の知識というのはやっぱり必要になってくるのではないか、と思います。

 精神分析は、精神科を精神科たらしめているものの1つ。患者さんがこの場で抱く感情や行う行動の源泉はどこか?はたまた自分が抱くこの感情はどこから来ているのか?といった事象を理解するためにも、勉強すべきものと考えています。だからといってカウチに寝そべって自由連想を…という本格的なものは精神分析を生業にする精神科医以外にとって現実的ではありません。まずは本をしっかりと読み込んでいくことから始めて、周りに分析に詳しい先生がいたらその人に色々聞く。勉強する本としては、成田善弘先生の書かれた『精神療法の第一歩』や、他には『精神療法家の仕事』などなど。成田先生は分析の知識を初学者にも分かりやすく教えてくれます。そんな知識なんて今の時代に必要あるの?と思うかもしれませんが、精神分析を軽視する精神科医は、患者さんに良いように振り回されて、かつ自分が振り回されていると気付かないという最悪の事態に嵌り込むことが多いです。入院患者さんが看護サイドと医者サイドをスパンとsplittingしてしまって、医者がそれに乗せられて看護師さんと方針などで喧嘩してしまって病棟が険悪なムードになる、、、なんてことも容易に生じてしまいます。分析を学んでおくと、そういうところに自分が入り込みそうだ、という部分に気づけて患者さんの病理像にそれを還元することも可能で臨床的にも役立つ。分析そのものは難しくとも、ささやかな分析”的”な目線は持っていて損はないかと。

 他には、IPT”的”な思考を持って患者さんの問題領域を明らかにして対人関係を眺める、CBT”的”な思考を持って患者さんの認知の歪みや行動の部分に働きかける、などは短時間の外来でも施行可能な部分もあります。1人の患者さんを色んな切り口から眺めて理解していく。そういうのが大事になってくるのではと思い描いています。IPTに関しては水島広子先生の本が抜群に素晴らしいですね(ちょっと著書の数が多すぎるような気もしますが…)。特に摂食障害の患者さんとそのご家族向けに書かれた『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』は、患者さんに勧めて読んでもらったら「心がラクになった。お母さんもすごく分かってくれた」と話してくれました。CBTだと値は張りますが『認知行動療法トレーニングブック 短時間の外来診療編』というのがあります。これもオススメ。

 その中で、自分はACT(Acceptance & Commitment Therapy:アクセプタンス&コミットメント セラピー)を勉強しています。従来のCBTは第2世代と呼ばれ、このACTは第3世代に当たります。新しいから優れている、というわけではありませんが、ACTの考え方は森田療法にも似ていて日本人に馴染みやすいのではと思って勉強中。他にも第3世代にはDBT(弁証法的行動療法)という、BPDに対する効果的な治療法もあります。ただ、この第○世代という言い方は誤解を招きそうであんまり好きではないですが。。。いわゆる第2世代CBTが相対的に劣っている印象をどうしても与えてしまうので…。

 ちょっとACTについてお話しするのがこの記事の主眼。随分と前置きが長くなったため、次回にそのお話を回そうと思います。

 今回紹介した本が以下になります。

新訂増補 精神療法の第一歩新訂増補 精神療法の第一歩
(2007/09/05)
成田 善弘

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精神療法家の仕事―面接と面接者精神療法家の仕事―面接と面接者
(2003/04/18)
成田 善弘

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拒食症・過食症を対人関係療法で治す拒食症・過食症を対人関係療法で治す
(2007/10)
水島 広子

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認知行動療法トレーニングブック 短時間の外来診療編認知行動療法トレーニングブック 短時間の外来診療編
(2011/05)
大野 裕

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コメント
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dot 2015.09.13 14:59 | 編集
管理人用閲覧コメントをくださったかた、ありがとうございます。

どんな治療法もそうですが、効果のある人とない人がいます。
ある人にとっては、仰るような不安の薄れが出てくるでしょう。
m03a076ddot 2015.09.15 09:52 | 編集
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