2012
10.03

精神疾患と炎症の関係性

Category: ★精神科生活
 うつ病、不安障害、統合失調症、はては発達障害といった精神疾患の病態生理に”炎症(免疫異常)”がある程度関与しているのでは?というのが最近研究でも示唆されています。つまりは、炎症が神経損傷の要素として認識されているとも言えます。まじ?と思うかもしれませんが、大まじめに研究されているトピックなんですよ。

 炎症といえばサイトカインストームですね。そのサイトカインは中枢神経系にも作用することが知られています。1つはミクログリアとの関係。ミクログリアは神経細胞と密に連絡を取り合っており、脳の発達や傷害の際に生じるシナプス形成や神経細胞死のバランスに関わっています。とっても大事な屋台骨でもあり、同時に大工さんとしての働きもしてくれると考えて良いかと思います。決して単なる支持組織ではない。

 その連絡が乱れるとどうなるのか?

 LPSやIFN-γなどによって異常に活性化されたミクログリアがTNF-αやIL-6などのサイトカインやNOなどのフリーラジカルの産生を高め、それらがモノアミンやグルタミン酸の神経伝達、糖質コルチコイド受容体や海馬の神経新生などに影響を与えてしまうことが分かって来ました。

 以下の表は統合失調症をモデルとしています。

schiz???

 他の疾患でも類似のことが起きているのではと言われています。うつ病モデルがこちら。

?????

 この様に炎症・免疫と精神疾患という一見ベツモノと思われる状態の関連性を考えると、当然のことながら炎症の生じる身体疾患と精神疾患の関連も研究されてきています。

 身体疾患において抑うつ症状が見られることは臨床上非常に多く経験し、精神科医がコンサルテーション・リエゾンで介入をする分野でもあります。特に自己免疫の絡んだ病態で抑うつ症状は多いというのが分かっており、多発性硬化症、関節リウマチ、炎症性腸疾患などでは大うつ病性障害と診断のつくものが15%前後もあります。他にも程度は高くないものの炎症の存在する身体疾患、それはがんであったり脳卒中であったり冠動脈疾患であったり、においても大うつ病性障害は多く、関連性が示唆されているのです。

 また、身体疾患そのものの炎症とは別に、サイトカインを疾患の治療に用いることもありますね。代表的なものはC型肝炎に対するIFN-αかと思います。その副作用で抑うつ症状というのは有名ですが、大うつ病性障害の診断がつくものは30%前後にも上る!と言われます。ここからも、サイトカイン、ひいては炎症が精神状態に揺さぶりをかけるということが示されます。

 COX-2阻害薬のcelecoxib(セレコキシブ:セレコックス)やω-3脂肪酸(日本ではエパデール)がうつ病/統合失調症の増強療法としてある程度の効果を示しているのも、それらの抗炎症効果が一役買っている可能性が示されていいます。ミノサイクリン(ミノマイシン)による増強というのも一時期話題になりましたが、これも免疫系を調節して神経保護に働くからと指摘されています。冠動脈疾患に対するスタチン治療でうつ病発症リスクが減少するというのも言われており、これはひょっとしたら近年注目されているスタチンの抗炎症作用がどこかで働いているかも?しれません(これは穿った見方?)。

 でも、もちろんこれらの療法が全く効果を示さない例もとても多く、炎症で精神疾患すべてを語れるものではありません。プライマリーなところではないのでしょうが、セカンダリーな部分で頭に入れておくべき病態かと思います。


☆参考文献
Depression: an inflammatory illness?; J Neurol Neurosurg Psychiatry 2012;83:495e502.
Inflammation in neurological and psychiatric diseases; Inflammopharmacol 2012; 20:103–107
Rett syndrome and other autism spectrum disorders—brain diseases of immune malfunction? Molecular Psychiatry (2010) 15, 355–363
Cytokines and schizophrenia: Microglia hypothesis of schizophrenia; Psychiatry and Clinical Neurosciences 2009; 63: 257–265
Statin Use and Risk of Depression in Patients With Coronary Heart Disease: Longitudinal Data From the Heart and Soul Study; J Clin Psychiatry 73:5, May 2012
トラックバックURL
http://m03a076d.blog.fc2.com/tb.php/1552-2880018c
トラックバック
コメント
管理人用閲覧コメントを下さった先生、ありがとうございます。

精神疾患については新薬の開発が頭打ちになりお金もかかるということで、グラクソ・スミスクラインなどは開発から撤退する方針と言われています。その中で慢性炎症やミクログリアというテーマが出てきたのはタイミングとして臨床家にとってもありがたいと思っています。
リウマチとのからみでは、統合失調症患者さんはリウマチになりにくいというのが疫学的に示されており、興味を惹かれる分野です。
臨床試験においても、インフリキシマブが治療抵抗性うつ病の患者さんに効果があるかというものもあります(Raison CL, et al. A randomized controlled trial of the tumor necrosis factor antagonist infliximab for treatment-resistant depression: the role of baseline inflammatory biomarkers. JAMA Psychiatry. 2013 Jan;70(1):31-41.)。全体的には効果がなかったのですが、炎症反応のある患者さんにおいては効果があったとのことでした。
よって、うつ病にも様々なタイプがあり、炎症が関与していると抗炎症治療が有用ではないか、といったオーダーメイド治療ができるようになるのかもしれない、と少し空想しております。
抗炎症のみにスポットライトを当てるのではなく、同じ疾患の中にも症候群的色合いを見て患者さんに合わせた治療ができればという風に思っております。
貴重なご意見、ありがとうございました。
m03a076ddot 2014.02.25 16:22 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top