2012
09.28

キャラクターシリーズ:やっつけ仕事人

Category: ★精神科生活
 パロキセチン(パキシル®)は日本では2番目に登場したSSRIです。これまでの三環系から重い副作用を軽くして、よりうつに関与していると言われるセロトニンに作用する薬剤として、新規抗うつ薬のフルボキサミン(デプロメール®/ルボックス®)は期待を以て迎えられました。しかし、残念ながらその効果は期待はずれで、たしかに重い副作用は少なくなったけれども抗うつ効果は思ったほど見込めず。。。

 その新規抗うつ薬として2番手に登場したパキシルは薬剤開発の巨人とも言えるグラクソスミスクライン(GSK)から日本では2000年に発売されたのです。その時世界ではフルオキセチン(プロザック®←日本未発売)、サートラリン(ゾロフト®:日本ではジェイゾロフト®として後に発売)、パロキセチン(パキシル)の三兄弟が一時代を築いており、その中のパキシルが日本で発売される!この事実はドラクエIV発売前夜の胸の高まりにも似た期待があったのでした。また、SSRIという言葉も実はパキシルで初めて使われた用語で、セロトニンに選択的というイメージは何か新しい時代の幕開けを予感させるものでもありました。

 実際に使ってみると、その抗うつ効果たるやデプロメールをはるかに凌ぐ。”パキシル凄ぇ!”と当時の精神科医はパキシル信仰みたいな状況にまでなりました。「うつ?はいパキシル!」という感じだったので、ジェイゾロフトやサインバルタ®など他の抗鬱薬が色々出てはきたものの、今でも抗うつ薬といえばパキシルばかりを処方する医者は多いですね。開業医さん(内科然り、心療内科然り)は特にその傾向が強いかと。

 さてそのパキシルですが、一言で言うとクセが強い。SSRIはもともと煽りみたいな特性を持ち、妙に焦燥感を強めることがあります(セロトニンを不釣り合いに高めてしまう悪さ)。その中でもパキシルは血中濃度の上昇が直線ではなく指数関数的とも言えるもので、この急激な上昇がその煽りの部分を強く出しかねません。指数関数的に血中濃度が上昇するというのは、理由としてパキシルを分解するCYP2D6という酵素を阻害する働きをパキシル自身が持つためというのが1つ挙げられます。急にガガッと上がってしまうのはよろしくない。

 またパキシルはやめる時も一苦労。服用量を減らすと血中濃度の落ち込みも激しく、中断症状に患者さんが耐えられないこともあります。また抗コリン作用も持つため、服用量を下げるとコリンリバウンドが比較的生じやすいというのもありましょう。そのため上手くやめられずダラダラと服用が続いていて「それで売上が凄いんじゃない?」と皮肉られることもあるのでした。

 そういうことを考慮してか、グラクソさんは5mg錠というのを日本でのみ発売してくれました。薬への反応が敏感な日本人がやめる時にも細かな段階を踏んでもらうようにという優しさもありながら、特許の関連やら他の抗うつ薬の出現などという危惧もその5mg錠の出現に一枚噛んでいたのでしょう。自分が「パキシルで治療を開始しろ」と言われたらこの5mg錠で細かく調節しながら行きたいですね。やめる時だけじゃなくて増やす時もパキシルには相応の配慮が必要だと思います。ちなみに神田橋條治先生はパキシルについて「永遠にパキシル界の住人になるから使わない(やめることが非常に難しいことを意味しています)」と仰っています。自分もあえてこれを選ぶことはしません。

 そんなこんなでSSRIのフラッグシップとして日本で永らく頑張ってきて、そのせいか副作用についての批判も一身に引き受けてしまった感が強いパキシル。副作用の多くはSSRIが共通して持つものですが、なにぶん他のSSRIがなかなか発売されなかったというのが「パキシル=悪」というレッテルを貼られた一つの要因かもしれません。確かにクセは強く使いづらさも存在しますが、パキシルじゃないとうつが晴れてこないという患者さんがいるのも事実でございます。

 さて、そんなパキシルの嫌なイメージを何とか払拭したいグラクソさんは、パキシルCR錠というパチンコ機の様な名前のものを発売しました。パキシルの徐放剤でして、血中濃度の上昇を穏やかにして副作用を軽減させたもの、という説明です。色々頑張ってるんだな、とは思いますが、パキシルCR錠の発売日とパキシルのジェネリックの発売日とが全くの同一(2012年6月22日)というところからして、やっぱりジェネリック対策という一面もチラチラと見え隠れします。しかも適応が”うつ”だけで、従来のパキシルが持っていた”社会不安障害”や”パニック障害”はナシになっています。後から取るんでしょうかね???

 グラクソさんはせっかく作ったCR錠を売り込んではいますが、ジェネリック対策が見えてきてしまうのと、もともとパキシルが好きではないという2つの理由から、自分は新たに使用することはありません。ごめんなさいね。

 そして、パキシルだろうがCRだろうが肝酵素の阻害は一緒。やはりそれを考えると自分の行なっているコンサルテーション・リエゾンでは使いづらいものです。エスシタロプラム(レクサプロ®)やミルタザピン(リフレックス®)、次点としてデュロキセチン(サインバルタ®)などと比べるとやはりそういう点では見劣りすると言わざるを得ません。2010年にはパキシルがタモキシフェンの分解を阻害することで乳がん患者さんの死亡リスクが上がるという報告もありました(Selective serotonin reuptake inhibitors and breast cancer mortality in women receiving tamoxifen: a population based cohort study; BMJ 2010; 340)。更にはP糖タンパク(P-glycoprotein:PGP)という、薬物の排出を促すトランスポーターがあるのですが、それをパキシルはがちっと阻害してしまいます。この阻害はサートラリン(ジェイゾロフト®)と並んで向精神薬の中では2トップ。タクロリムスの血中濃度に影響する可能性が指摘されています。

 そんな不遇のパキシルですが、以下のことが言えると思います。

処方慣れしている医師がコントロールし、かつあまり他に薬剤を使用しないという患者さんであれば切れ味の良いお薬。クセがあるということは、それを知って使いさえすれば素晴らしい働きをしてくれるものです。

 自分は食わず嫌い的な部分が大きいため、今回の記事もグラクソさんが見ると「何てこと書いてるんだ!」とお怒りかと思います。良いところ悪いところを含めてしっかりと理解して使うべき時には使うというのが、長年SSRIの先頭で頑張ってきたパキシルへの恩返し?かもしれません。

 で、ここからが本題だったのですが、今回のキャラクターはパキシルさん(仮名)。



 何といっていいのやら、「早くキャラ作れ!」と上司に急かされて5分くらいで完成させた感が異様に強いです。捻りを感じさせないこの人は何なんでしょう?あまりにもあんまりな、顔面からしてSSRIでございます。しかも最近はすっかり見ないです。出てきて早々にリストラされたんでしょうか?

 このマグネットは外勤先のホワイトボードにひっそりとくっついていたのですが、年代モノかもしれませんよ。旅行バッグを携えて帽子を取って挨拶。「日本にやってきましたよ、どうも」というセリフが似合いそうです。パキシルが日本に登場した時のものかしら?

 でも今見ると「私の役は終わりましたか。。。日本の皆さんさようなら。後はリフレッ○ス君やサイ○バルタ君とかに任せます」と言って去っていくように見えなくもない、か。

 こんなことばかり書いているとグラクソさんからお怒りの襲撃を医局前で受けそうなので、そろそろ撤退をいたします。あ、ラモトリギン(ラミクタール®)はたくさん使ってますよ。よろしく。


c.f.グラクソスミスクラインのMRさんから、パキシルさんの本名が「パッキー君」であるとのタレこみ(?)をいただきました。名前すらもやっつけ仕事でございますね。。。どストレートです。現時点で、襲撃は受けずに済んでおります。。。
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コメント
中堅の精神科医です。記事から察するに若手でしょうが、SSRIの怖さを良くご存じですね。勉強熱心だと感心しました。
パキシルは仰るとおりクセが強いですね。はっきりとこの様に怖さを発信するのは重要でしょう。グラクソに刺されないようにお気を付け下さい(笑)
中堅dot 2012.10.03 16:19 | 編集
>中堅精神科医先生 
コメントありがとうございます。
SSRIが合う患者さん合わない患者さんを最初から見分けられれば良いのですが、なかなかそういうわけにも行かず試行錯誤が続いております。
まだ若手中の若手で勉強すべきことはたくさんありますが、これからも励んでいきたいと思います。
グラクソさんにはそろそろ本気で襲撃されそうな感じがしてきました。十分気をつけます。
m03a076ddot 2012.10.04 07:38 | 編集
はじめまして、きよたんと申します。
先生のご意見をお伺いしたく、コメントを投稿させていただきます。

お訊きしたいことは、パキシルとデジレルの関係です。
パキシルは、CYP2D6を阻害するそうですね。

そして、ウィキペディアのこの頁<https://en.wikipedia.org/wiki/Meta-Chlorophenylpiperazine>によれば、トラゾドンの代謝産物の一つとして、メタ・クロロ・フェニル・ピペラジン(m-CPP)があり、これは精神上あまり良くない作用があるようです。そして、このm-CPPは、CYP2D6によって代謝されるようです。
パキシルを服用しつつデジレルも服用した場合、m-CPPの濃度が想像以上に上昇し、無視できない程の精神面に対する悪影響を及ぼすようなことは考えられないでしょうか。
自分は現在パキシル30mgとデジレル150mg(50mgから増量)を服用していますが、増量後なんだか調子が落ちています。デジレルは眠らせてくれるので助かっているのですが、パキシルとの飲み合わせに上記したような不安があります。
先生のご意見・感想等お伺いできれば助かります。
よろしくお願いいたします。
きよたんdot 2016.09.30 19:55 | 編集
>きよたん さん

ありがとうございます。
トラゾドンとその活性代謝物ですが、基本的にはStahl先生が以下に指摘するようなものだと考えると良いかと思います。

(…) plasma and brain levels of mCPP appear to be less than 10% of those of trazodone
itself. Thus, the antagonist actions of trazodone are likely to overwhelm any effects of mCPP
and block any agonist actions that mCPP may have at 5HT2A and 5-HT2c receptors.
(CNS Spectrums. 2009 Oct;14(10):536-546.)

ただ、中にはトラゾドン内服によって偏頭痛が悪化する患者さんもおり、それはmCPPが作用しているのではないかとも言われます(Am J Psychiatry. 1992 May;149(5):712.)。
よって、多くの場合は問題はないでしょうが、稀に「おや?」と思うことがあるかもしれません。
パロキセチンとの飲み合わせがどう作用するかの報告は無く、何となく調子が悪いというのであればトラゾドンそのものの代謝が阻害され、それによって鎮静作用が少し強く出て「頭がはっきりしない」「集中力が続かない」「調子がすぐれない」といったことになると考えるのが無理がないようにも思います(トラゾドンはCYP3A4とCYP2D6によって代謝されるため、パロキセチンはトラゾドンそのものの分解を邪魔する傾向にあります)。
いずれにしても作用が強いなと思うのであれば少し減量することも視野に入れるべきかもしれないので、主治医の先生と相談してみて方針を決めると良いかと思います。
m03a076ddot 2016.10.02 16:43 | 編集
ご回答ありがとうございました。
デジレルからのmCPPについては余り神経質に考えなくてよさそうなことがはっきりしましたので、助かります。

先生がおっしゃるように、『「頭がはっきりしない」「集中力が続かない」「調子がすぐれない」』は全て当て嵌まります(笑)。

今度主治医と、(十分な睡眠が確保できるギリギリの線まで)デジレルを減量する方向で相談してみます。

お忙しい中、本当にありがとうございました。
(と、いいつつ、また相談させていただくかもしれません。その節には懲りずによろしくお願いします。)
きよたんdot 2016.10.09 17:20 | 編集
>きよたんさん

ありがとうございます。
必要な量を見極めることも大事だと思います。
m03a076ddot 2016.10.11 12:49 | 編集
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