2012
09.23

漢方悲喜こもごも

Category: ★精神科生活
 精神科になってからというもの、漢方を使う機会が増えています。研修医の頃からちょろちょろ勉強し始め、特にここ最近は精神科の勉強よりも漢方の勉強に費やす時間のほうが多いくらいにまでなりました。このブログでも幾つか記事になっていますね。

 漢方なんて怪しいんじゃないの?と言われると「そうですよねぇ…」としか答えられません。。。ただ「手はまだある!」という事実は非常にこちらにとっても患者さんにとっても希望になってくれます。もちろんすぐその患者さんにとって正しい漢方薬にたどり着くというのは未熟な自分にとって無理な部分も大きいですし、いろいろ使っても良くならず漢方使用を諦めた患者さんも多々います。もっと知識が自分にあればより速く正解に到達できたでしょうし、諦めた患者さんに対してもまだまだ選択肢があったのでしょう。医者の知識不足というのは患者さんにも不幸をもたらします。少しでも患者さんが楽になれるようにしっかり勉強しなければなりませんね。

 そんな中で、自分が代表的な漢方を使って「これは良かったよね」と思えたのを少し紹介してみます。ただし、こういった患者さんの内容には多少変更を加えています(個人情報ですので)。

 双極性障害の女性。前医から引き継いだ時はイライラが強く、ベンゾジアゼピンを頓用で結構使っていました。少し問診すると、イライラは生理中に多く、生理痛も強くて更にイライラしてしまうと。また結構寒がりで、冬場は特に冷えちゃって冷えちゃって、指先なんかもうねぇ、というお返事。ちょっと診察してみます。お腹を触ってみると、ぽよぽよした感じのお腹。両方の臍傍には圧痛あり。脚には少し浮腫があるかな?舌を見せてもらうと、少し白苔があるくらい。脈は微妙な感じ。そこで、最初はブロードに攻めようかなと思って当帰芍薬散を出してみました。3週間後に来てもらうと、イライラが少なくなったと話してくれます。おかげでベンゾジアゼピンを使う回数が減った、と。完全にゼロになったわけではありませんが、それでも少なくなったのは良いことでございます。ちなみに、こうやって当帰芍薬散が上手く当たった患者さん、中でも軽症の中年女性には「当帰芍薬散の芍薬って綺麗なお花なんですよ。だから美人さんに効果あるんですわ」と言うことにしてます。そうしたら「あらもー先生ったら上手いんだから」みたいな感じになってアイスブレーキング。ポイントは当帰芍薬散が”当たった”女性に言うこと。最初に言って効かなかったらヤバイですな。そして、若い女性に言うとセクハラみたいになるので、中年。軽症というのも大事です(ここでの軽症というのは、Kernberg先生の言う境界例ではないことを示します)。このアイスブレーキングを後輩に話したら「先生ホストですやん」て言われました。

 もう1人、強迫性障害の男性。前医からの引き継ぎ時にはSSRIが入っておりました。しかし、まだ強迫は強く診察場面でもcheckingがかなりありました。確かめないと不安で不安で、、、確かめすぎが苦しいのは分かっているんですが…と言います。悪夢もひどく、常に追いかけられている夢や殺される夢などかわいそう。不安と抑うつが前景に立っている様です。診察では臍上悸がはっきりとありました。胸脇苦満はありません。アトピー性皮膚炎もあって肌がカサカサ。そういったところから、気虚・気逆・血虚はまずあろうねと考えて桂枝加竜骨牡蛎湯と十全大補湯の合方を出しました(神田橋処方の変法でもありますが、それを意図したわけではありません)。そうしたら4週間後にはハタ目にもcheckingが減っていて患者さんも「随分楽になりました。悪夢も少なくなって、助かりました」と。アトピーは改善していませんでしたが、精神状態が随分と落ち着いて、同席したお母さんからも「いいお薬を出してもらって」と感謝されました。これは嬉しい。ただ、強迫性障害にはSSRIへの増強としてアリピプラゾール、プレガバリン、ラモトリギンもあります。そういう選択肢も全て患者さんに示して、この患者さんは漢方を選びました。

 最後は、いわゆる”不定愁訴”の女性。結構強い剣幕であっちが痛い、こっちが重い、ドキドキする、と話が止まりません。だるいだるいと言いますが、そんなガンガン話せるのにだるいのだろうか…と疑問を持ってしまいますし、こっちもイライラしてきます(この”こっちもイライラ”というのが精神医学的に重要)。あ、こりゃ加味逍遥散だわ、と思ってまずは出してみたらなんとクリーンヒットしてくれました。「いや先生楽になったわー」と相変わらず話は長いのですが、こっちも心のゆとりを持って接することが出来るようになりました。

 他にも、神田橋処方純法(四物湯+桂枝加芍薬湯)でフラッシュバックが本当に軽くなった患者さんもいますし、香蘇散で抑うつが改善した高齢患者さんもいます。自分は”プチうつ”になって全然やる気が出なくてだるい時には香蘇散を飲んで凌いでいます。

 こういうのだけ書いていると「お、何かすごいじゃん」と思われそうですが、そういう成功の裏にはそれを上回る数多くの不応例がございます。。。全くイライラの良くならなかった患者さん、物凄い生理痛がちっとも軽くならなかった患者さん、心因性と言われた筋肉のピクつきが改善しなかった患者さん、下痢がちっとも治まらなかった患者さん。。。自分に知識がもっとあれば結果は変わっていたのかも知れませんが、残念ですよね。中には「いろいろ先生がやってくれたから満足してますよ」と声をかけてくれる患者さんもいますが、やっぱりここは症状を軽くしてあげたいところでございました。

 漢方薬は、1つが効かなかったらまた生薬レベルで考えなおしてコレ、また効かなかったら考えなおしてコレ、と試行錯誤ながらも選択肢は多いです。そうがちゃがちゃ長い間やっていると殊勝な患者さんの中には「先生がお薬を考えて一生懸命やってくれてるから、それを見てると良くならなきゃと思って頑張れるようになってきた」と言ってくれる人も。それで気合入れて専門学校とかに通ってくれて。どっちが治療者なんだか???結果オーライなのかもしれませんが。医者が頑張る姿そのものが治療的とも言えそうです。

 後は、漢方だけで何とかしようと思わないことも大事。漢方の眼しか持たなくなることが最も怖いところですね。きちんと向精神薬も必要なときにはばしっと使い、その補佐として漢方を使ってみる。あくまでも精神科では主役は向精神薬だと思います。ちっちゃい子どもとか高齢者には漢方主体で組んでますけど。

 副作用も理解しましょう。副作用がないと思っている患者さんも多いですが、これはしっかりと強調。漢方薬も漢方”薬”なのですから、処方する医者として意識を高めるべきものと思っています。

 漢方を勉強することは、違った切り口で患者さんを診ること。そして、違った切り口の治療薬を手に入れること。向精神薬の知識が疎かではお話になりませんが、それがある程度使えるようになった上でのもう一声として良いものではないかなと日々感じています。
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コメント
漢方の事 お尋ねしようと思ったら こんなに古い日記にコメ書くことになりました。
すみません^^;

いま、半夏厚朴湯と 桂枝加竜骨牡蛎湯飲んでます。
漢方の調整中なのですが、
桂枝加竜骨牡蛎湯は ベースが桂枝湯なので 風邪薬みたいなものですよね?
それが 竜骨牡蛎加えるだけで、なぜメンタルの方にも効くといわれてるのか 不思議なのです。
(めまいから不安が増したのをきっかけに自律神経が崩れたようで 漢方色々ためしています。
柴胡加竜骨牡蛎湯も飲んでました。)

 
あさがおdot 2014.11.15 10:40 | 編集
>あさがおさん

ありがとうございます。
桂枝加竜骨牡蛎湯は、桂枝湯の中の芍薬を増量した桂枝加芍薬湯というものに竜骨と牡蛎が加わったものです。
桂枝湯に含まれる芍薬は量が少なく、増量することで筋肉と神経の緊張をほぐします。よって、桂枝加芍薬湯も精神的な面に作用します。
また、竜骨と牡蛎は安神作用といって、ドキドキやビクビクに効果を示します。
ということで、増量した芍薬・竜骨・牡蛎の3者によって精神面にシフトしていきます。
m03a076ddot 2014.11.15 11:34 | 編集
ツムラの飲んでいるのですが 芍薬の量 桂枝湯と 同じなのですがメーカーによって違うのでしょうか(゜o゜;

更にわたし一日2包しか飲んでないので効果薄いでしょうか。。
3かけの指示なのですが 時間間隔が短くなるのと そんなに飲んでいいのか躊躇してしまって。
あさがおdot 2014.11.16 19:23 | 編集
>あさがおさん

ありがとうございます。
芍薬の量ですが、桂枝加芍薬湯は桂枝湯の1.5倍になっているはずですが…。ツムラ医療用のものの添付文書も見てみましたが、1.5倍になっていましたよ。
何包で効果があるかというのは個人差が強いです(中には1包で効いたという患者さんもいます)。自分は添付文書の通常量よりも多めに飲んでもらいますが。
例えば1日4包で1日2回(1回2包)や、1日6包にすることもあります。ただ副作用もあるのでそこは慎重さが大事だと思います。
m03a076ddot 2014.11.17 07:17 | 編集
芍薬両方共4.0となってたのを見たのですが 違うのを見てしまったのでしょうか^^;

副作用とは 甘草によるものでしょうか。。。

あさがおdot 2014.11.17 08:16 | 編集
桂枝加竜骨牡蛎湯と桂枝湯の、芍薬が4.0でした(^^)
あさがおdot 2014.11.17 22:47 | 編集
>あさがおさん

ありがとうございます。
そうでしたね。桂枝加竜骨牡蛎湯は桂枝湯に竜骨と牡蛎を足したものでした。自分のコメントでも桂枝加芍薬湯に足したと書いてしまっていました。。。
副作用は多くは甘草によるものです。だるい感じや筋肉痛、身体のカリウムが少なくなるなどです。あとは桂枝による発疹もポツポツ見られます。温める作用もあるので、ちょっとのぼせることも患者さんによってはあるでしょう。
m03a076ddot 2014.11.19 07:00 | 編集
ポツポツ出てきた場合は 中止になるのでしょうか

のぼせる。。。
そーなると 頭に気が上ってる人は合わないということに繋がるのでしょうか。。。
目眩、頭痛あるので 飲んでても大丈夫なものでしょうか^^;
あさがおdot 2014.11.19 10:46 | 編集
>あさがおさん

ありがとうございます。
ポツポツが出た場合はシナモンによる皮膚症状でしょうから、それが含まれるものは飲まないほうが安全だと考えています。
のぼせることと気が上ることは必ずしもイコールではないので、飲んでみての判断になろうかと思います。
m03a076ddot 2014.11.22 14:05 | 編集
管理人用閲覧コメントをくださったかた、ありがとうございます。

漢方薬は患者さんによって合うものがまったく異なることが多いため、もしトライしてみたいのであれば、漢方が得意な病院や漢方薬局でしっかりと診てもらい、その上で出してもらったほうが良いでしょう。
ただ、1回でピタリと当たることは少なく、何回か違うものをトライすることも非常に多いです。
m03a076ddot 2015.06.17 09:46 | 編集
はじめまして.
漢方について質問させてください.

長年の顎関節症からパニック障害を発症してしまい,半夏厚朴湯と芍薬甘草湯を服用しています.
出来れば1度で服用したいのですが,2種類をお湯に混ぜて溶くのは効果が落ちてしまうでしょうか.

顎関節症に効くと思われる漢方についても教えていただけると助かります.
りすdot 2015.07.04 17:48 | 編集
>りすさん

ありがとうございます。
2種類を混ぜても大丈夫だと個人的には思います。
ただ、漢方は処方する治療者のこだわりが強く出るので、もし処方されたものを飲んでいるのであれば、一度聞いてみるのが良いかと思います。自分は結構いい加減なので…。
また、患者さんによって選ぶものが異なってくるので、”○○という病気に効く漢方”というのは、残念ながらお答えできません。ご了承ください。
m03a076ddot 2015.07.08 09:32 | 編集
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