2012
08.24

ダーティを再考する

Category: ★精神科生活
 精神科には”ダーティドラッグ”なんて言われ方をするお薬があります。混じりっけあり、とでも言い換えられるものでして、代表格が抗うつ薬の三環系。彼らは様々な薬理作用を持ち、そのおかげで副作用が強く出てしまいます。ダーティという表現は、純粋な抗うつの薬理作用以外の雑多な作用を持ってしまっている、という考えからのもの。なので、SSRIは薬理作用が絞られているためクリーンなんて言われます。クリーンの最たるものがエスシタロプラム(レクサプロ®)でしょうか。

 このダーティという表現はマイナスな印象しか読む者に与えません。確かに三環系は副作用が強いです。しかし、作用という点では、色んなものを持つ三環系はやはり奥行きがあり、クリーンな薬剤でどうにもならない時は三環系をトライすると改善することだって多々あります。色んな作用の中にはNMDA受容体に作用したり抗炎症効果を示したりと、最新のうつ病治療に欠かせないトピックが絡んでいるのです。ここが三環系の強み。STAR*-Dという試験でもノルトリプチリン(ノリトレン®)の効果がクローズアップされていましたね。

 このダーティが優れていることを示す例としては、うつ病の増強療法があるかと思います。抗うつ薬にアリピプラゾール(エビリファイ®)やらリチウム(リーマス®)やらT3製剤(チロナミン®)やらを付加すると、治療効果がアップするという奴です。SNRIであるデュロキセチン(サインバルタ®)とNaSSAであるミルタザピン(リフレックス®)を併せたカリフォルニアロケット燃料なんていう方法もあります。

 クリーンを追求していった精神科薬物治療ですが、増強するということは薬理作用を複雑にするということでもあります。これは意図的にダーティ、より副作用の少ないダーティを目指していると言えるでしょうね。

 抗精神病薬に目を向けてみましょう。最も優れているというクロザピン(クロザリル®)の受容体プロフィールを一度見てみて下さい。ドパミン受容体にはそれほどくっ付かず、また恐ろしいほどに色んな受容体にくっ付きます。これもダーティですよね。

 抗精神病薬は単剤が理想的と言われますが、世の中にはやっぱり複数のお薬を併用しなきゃどうにもならないこともあり、また複数使うことで逆にCP換算が低くなることもあります。卑近な例で言うと、エビリファイ18mgで治療していた患者さん。心の焦りみたいなものが良くならず、上限の30mgに増量。それでもダメ。そこで、エビリファイを元の18mgに下げて、クエチアピン(セロクエル®)を100mg追加。そうすると震えていた心がストンと落ち着きました。もちろん全員こう上手く行くことはないですが、薬理作用を散らすということをここではしたのです。ダーティを作り出したと言えます。

 理想的には、クロザピンの薬理プロフィールに近づけることなのでしょう。これも自分の経験した例ですが、オランザピン(ジプレキサ®)15mgで治療していた患者さん。陰性症状が強く、無為自閉。一時期20mgまで増量してみたもののぴくりともしない。何とかしたいなと思い、気分安定薬のラモトリギン(ラミクタール®)と抗うつ薬のミルタザピン(リフレックス®/レメロン®)を追加しました。そうすると、ぐぐっととは行きませんでしたが、作業療法にもぼちぼち参加するようになって活動度がアップしてくれました。ラミクタールという選択が正しかったかは分かりませんが、ジプレキサにリフレックスを追加するのは、クロザピンが持っていてジプレキサに欠けているα2受容体阻害作用を狙ったもの。それが患者さんに効いてくれたのでしょう。エビデンスはあるのか!?と言われると厳しいですけどね。。。

 少し脱線ですが、精神病院にいる慢性の統合失調症患者さんの中にはFTD(前頭側頭型認知症)が紛れ込んでいる可能性があります。その患者さんに新たにリフレックスなどの抗うつ薬を不用意に使うと大爆発を起こしますので、慎重に参りましょう。

 さて、ダーティドラッグというのは、本当に色んなところに作用します。今さら三環系?と思う人もいるでしょうが、故きを温ねて新しきを知るという諺があるように、複雑な薬理作用の持つ奥行きを知るのはとても大切なことだと思っています。多剤併用には害悪があるというのは十分承知しています。何でもかんでも盛れば良いってもんじゃない。でも、単剤で押し切るのもどうなのかなと思っています(世の流れと逆なので恐縮ですが)。目指すべきは、副作用のより少ないダーティ化なのかもしれません。

 そこで、自分が興味を持っているのが漢方なんです。未熟者で使える漢方は恐らく40もないのですが、あと一押しが必要な患者さんや、向精神薬を本格的に使いたくないなぁと思う患者さんにちょろっと出しています。あれは色んな生薬から成っていまして、例えば頻用する桂枝加竜骨牡蛎湯に含まれている生薬は以下。

桂枝、竜骨、牡蛎、芍薬、生姜、大棗、甘草

 他に柴胡桂枝乾姜湯も良く使います。これには以下のものが含まれています。

柴胡、桂枝、括呂根、黄芩、牡蛎、乾姜、甘草

 これを見るだけでもダーティですよね。かつ、この生薬1つを取り上げても化学的には色んな成分が入ってますし、かつその代謝産物が作用することもあるようですし、生薬同士が作用を助け合っているという、もうダーティの極み。というかカオスに近いんじゃないかと思います。カオスドラッグですね。

 非常に面白いですよ、漢方は。体系的に勉強しだすと分からなくなってくるのがまた不思議ですが。まずは1つか2つしっかりと使えるものを覚えておくと良いような気がします。

 ただ、副作用には注意です。漢方は安全だというイメージがあるかもしれませんが、肝機能障害、間質性肺炎、低カリウム血症など、注意すべきポイントはたくさんあります。ヘロヘロな患者さんに大柴胡湯なんか出したら恐ろしいでしょうし、舌がカラッカラに乾いている患者さんに小柴胡湯なんてのも禁忌に等しい。芍薬甘草湯や甘麦大棗湯を何も考えずに1日3回ずーっと続けていたら低カリウム血症は必発と言って良いでしょうし、それでTdPになったという症例報告もあります。自分は大建中湯で肝機能障害を出してしまい、早めに血液検査を入れていたので早期に見つかって即中止に出来ました。本当にびっくりしました、あの時は。証を間違わなければ副作用なんて無い!という漢方の先生もいらっしゃいますが、その証っていうのもはっきりとした定義がないですし、難しい。適度に採血をして、漢方服用後に出てきた咳にも注意して処方するという姿勢が大事になります。

 ということで、ダーティというのは決して悪いだけではありません。モノアミン仮説も、やっぱり仮説なんです。今のところ出回っている向精神薬はそれに基づいて作られているのがほとんど。仮説を参考にして作って、その仮説をどんどん推し進めていたわけです。仮説を補佐してくれる担当が、ダーティな部分と考えても良いかもしれません。見えない奥行きが、精神疾患の治療に味わいをもたらしてくれるんじゃないかと考えています。いずれは研究が進んでグルタミン酸系と免疫系をもしっかりとカバーした薬剤ができるんでしょうね。
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コメント
管理人用閲覧コメントをくださったかた、ありがとうございます。

テトラミドとリフレックスは構造上そっくりですが、効果は別物です。
不安への効果をリフレックスは持ちますが、SSRIには劣るという印象です。
もちろんいろんな症状を総合して薬剤を選ぶので、不安のある患者さんに絶対リフレックスを用いないということはありません。
m03a076ddot 2015.07.16 18:07 | 編集
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