2012
07.06

痛みに対する向精神薬

Category: ★精神科生活
 どんな性質のものであれ、痛みというのはやってられないものです。自分は慢性的な頭痛を抱えているので、イブプロフェンが手放せません。頭が痛いと動けないし、QOLがガタ落ちです。

 その痛みについてはNSAIDsに代表されるCOX阻害薬やオピオイドが使われますが、精神科で処方する薬剤にも有効なものがあります。代表的なお薬は、抗うつ薬です。なぜ抗うつ薬が鎮痛薬として働くのか?これの説明に”Antidepressants and pain; Trends in Pharmacological Sciences, Volume 27, Issue 7, 348-354, 1 July 2006”という論文の図を引用してみます。

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 これによると、モノアミン再取り込み阻害が下降性の抑制ニューロンを助けることで痛みを抑えているのが分かります。他に、大脳で痛みの感覚や情動の部分にも働いていますね。モノアミン再取り込み以外にも、内因性オピオイドシステムの活性化にも抗うつ薬は一役買っています。最近は”痛みを抑える抗うつ薬=デュロキセチン(サインバルタ®)”と判で押したように覚えられていますが、別にサインバルタでなくてもSNRI、SSRI、NaSSA、三環系含めて、抗うつ薬全般に程度の差こそあれ疼痛抑制効果はあります。SSRIだから痛みに対して無力ということは決してありません。ただし、効果と忍容性というのを考えるとサインバルタはやはり有用性が高いように見えます。

 効果のみで考えれば、サインバルタなんか目じゃないのが三環系抗うつ薬。昔ながらのお薬ですね。特にアミトリプチリン(トリプタノール®)は切れ味鋭いです。三環系抗うつ薬はモノアミン取り込み阻害以外にも様々な作用が知られており、上記のオピオイド活性以外にも例えばNaチャネルの阻害、Kチャネルの活性化、Caイオン取り込み阻害、アデノシン受容体の活性化やアデノシン放出作用、NMDA受容体の抑制、GABA-B受容体の機能活性化、サブスタンスP産生抑制、P2X受容体の末梢での阻害、プロスタグランジンE2様活性の抑制、NO放出抑制、マクロファージの遊走抑制、TNFαの産生低下などがあるとされています。こういう奥行きが三環系の魅力。SSRI以降の新規抗うつ薬の効かないうつ病患者さんにはこの三環系をトライすることも重要です(抗炎症の視点を含めて)。以下の図は”Antidepressants for the Treatment of Chronic Pain; Drugs 2008; 68 (18): 2611-2632”から抜粋してます。

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(クリックでほんの少し拡大)

 ATP受容体については、三環系以外の新規抗うつ薬も作用します。パロキセチン(パキシル®)はP2X4受容体の最強の阻害薬として働きます。サインバルタはノルアドレナリン再取り込み阻害によりβ1/2受容体を刺激します。それがPKA活性を強めて、P2Y12受容体刺激により発現されるp38の働きを阻害します。要は間接的にP2Y12受容体の働きをブロック。これらのATP受容体は、脊髄後角の活性化ミクログリアにあり、受容体が刺激されることで炎症性サイトカインをばんばん出してしまって痛みを慢性化すると言われます。P2Y12受容体と言えば抗血小板薬のクロピドグレル(プラビックス®)がその阻害薬ですね。ひょっとしたら効くかも?

 抗うつ薬以外にも、カルバマゼピン(テグレトール®)などの抗てんかん薬、その中でもガバペンチン(ガバペン®)やその発展系とも言えるプレガバリン(リリカ®)が疼痛に有効と言われています。Caチャネルにα2δリガンドとして結合し、神経細胞内にCaが流入するのを抑え、グルタミン酸などの神経伝達物質の放出を妨げることで疼痛を抑制すると言われています。更に、機序は不明ですが脳内のGABA濃度を上昇させるようです。ただし、糖尿病性末梢神経障害の疼痛に関する試験とHIVによる神経障害性疼痛に関する試験の2つにおいて、リリカは効果を認めなかったとする報告がされており、ちょっと現場は「??」と思っております。でも痛みを持つ患者さんに処方している身としては、効く印象が強いですけどね。もちろん全員ではないですし、リリカよりもサインバルタの方が効く気がします。選択肢の1つとしてリリカをとらえましょう。副作用はめまいや傾眠が有名ですが、浮腫や心不全もありますから要注意。

 線維筋痛症に対してサインバルタ、トレドミン®、リリカの3つを比べた下の図では、サインバルタの方が有効性が高く出ています(Comparative Efficacy and Harms of Duloxetine, Milnacipran, and Pregabalin in Fibromyalgia Syndrome; The Journal of Pain, Vol 11, No 6 (June), 2010: pp 505-521)。ただし、リリカは疲労感や不安、強迫にも効果があると言われており、その部分の増強治療としての方法もあります。

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(クリックでほんの少し拡大)

 リリカに関する論文は自分も数多く読んだとは決して言えないので、先の神経障害性疼痛に効果がないとする報告は無視できないと思います。ですが、疼痛に対する色々な角度からの戦法という意味で、リリカは知っておいて損はないでしょう。リリカ礼賛、ではなくしっかりと批判的な意見も考えて使うべきでしょうね。使用する際は、腎機能正常の患者さんにおいて150mg/dayから開始すると添付文書に記載があります。ですが、結構副作用でます、この量から始めると。傾眠、ふらつき、複視など。。。なので、自分は50mg/dayや、高齢者では25mg/dayから始めることにしています。注意力が散漫になるので、車の運転はしちゃいけませんと伝えておくことを忘れずに。

 最近はトピラマート(トピナ®)も疼痛に効果があるのでは?と言われます。トピナは色んなメカニズムを有するので、定型的な治療が効かなかった時には使ってみる価値はあると思います。衝動性を抑える方向に向くので、それのある患者さんには向くかも。ただ、確実に認知機能は落としますね。。。頭痛もあるし精神症状は良い方向にも悪い方向にも振れる。ちょっと展開が読めないです。使うなら25mg/day以下からゆっくりと増やすのが良いかと思います。

 他には漢方も疼痛に対して用いることがあります。自分は冷えで憎悪するような痛みには桂枝加苓朮附湯を処方することが比較的多いです。”冷えるとダメ/温めると楽”つまりは寒証というのがポイントですが、附子が入っているためでしょう。でもこの附子には注意しておきましょう。いくら減毒化しているとはいえ、安易に増量したり使いすぎたりするのはちょっと怖いですね。また、痛みであってもその背景に”怒り”が感じられるようなら、言い換えれば怒りの身体化ではないかと感じられたら、抑肝散を用いることも1つの方法です。これで腰痛が良くなることもままあります。他、精神的なものから来る腰とか頚とかの痛みには桂枝湯と麻黄附子細辛湯の合方(桂姜棗草黄辛附湯になります)が奏功することも。女性の下腹部の痛みにはまず当期芍薬散や当帰四逆加呉茱萸生姜湯を使ってみます。大建中湯を使う時も当期芍薬散と合わせることが個人的には多いです。これらも寒証向き。これらの多くは利水の作用があります。天気が悪くなると悪化するなんて患者さんにも向きますね。こういうのが強い患者さんでは五苓散を更に足してみても良いでしょう。

 サインバルタも使った、リリカも使った、トピナだって試した、トラムセット®(トラマドールとアセトアミノフェンの合剤)も使った、でもあと一押しほしい!という時に漢方は打開策になってくれます。

 ということで、精神科の処方する薬剤には疼痛に効果のある薬剤があるのでした。更に、慢性疼痛はうつ病のリスクにもなりますし、痛みを軽減することはうつ病の改善にもつながることが示されています。軽んじずにしっかりと治療しましょう。
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