2012
04.17

双極性障害のうつ症状にオランザピンの効果は乏しい(かもしれない)

Category: ★精神科生活
 イーライリリーの誇るオランザピン(ジプレキサ®)は優秀な薬剤で、統合失調症では他の薬剤で上手くいかない時、クロザピンをトライする前にジプレキサを使ってみることがモーズレイのガイドラインでも記載されています。陽性症状も陰性症状もバランス良く改善してくれて、良い感じの治り方に持って行ってくれますね。合わない患者さんは逆に悪化することもありますが。。。

 個人的なイメージとしてジプレキサは”重い薬剤”というか”複雑な絡み方をする薬剤”というのが漠然としてあるので、受容体的に敏感な発達障害に使うのは躊躇われます。クエチアピン(セロクエル®)も複雑な絡み方をしますが、受容体にはライトなくっつき方なのでマシかもしれないですね。発達障害にはアリピプラゾール(エビリファイ®)、ペロスピロン(ルーラン®)、ブロナンセリン(ロナセン®)辺りがフィットしやすい。ロナセン?と思うかもしれませんが、幻聴とかがなくても発達障害患者さんに使うと性格の拡がりというか、柔和になるようです(自分は使ったことないですよ)。でもロナセンは中盤で失速してしまって色々被せなきゃいかん時も。。。ロナセンの失速感はどうしたら良いんでしょう??

 このジプレキサ、副作用は有名なのが体重増加。この体重増加は”投与量に依存しない”らしいです。すなわち、5mgだろうが15mgだろうが20mgだろうが増える人は増えるし増加割合も一緒。でも臨床的にはやっぱり違う印象はありますね。。。ジプレキサが合っているけどこの体重増加を何とかしたい、そんな患者さんにはトピラマート(トピナ®)を併用することで何とか抑えられることも。ただトピナは精神症状にも影響する(良い方向にも悪い方向にも)ので、そこは注意。他の副作用としては、代謝系への作用と眠気も挙げられます。

 体重増加(食欲亢進)と眠気は、これを狙って処方しますし、他には制吐作用を持っているため、それを期待して処方もします。特に化学療法による悪心や嘔吐に使用することが多い。飲み込みづらくてもザイディス錠だと甘い上にすぐ口の中で溶けます。これらのことから、コンサルテーション・リエゾン領域での活躍も見られます。ただし糖尿病に使用が禁忌というのが何とも痛い。

 さてそんなジプレキサですが、2012年の2月、適応に”双極性障害のうつ症状”が加わりました。ですが、自分はかなり懐疑的。躁症状には確かに効果はありますし、統合失調症には文句なし。ただこの双極性障害のうつ症状にはどうも「????」としか思えず。同じ糖尿病禁忌の抗精神病薬ならクエチアピン(セロクエル®)の方が超優秀。

 双極性障害のうつ症状にも効くよ、という発端の論文は”Efficacy of Olanzapine and Olanzapine-Fluoxetine Combination in the Treatment of Bipolar I Depression. Arch Gen Psychiatry. 2003;60:1079-1088.”というものです。

 これを見ると、主要評価項目となっているMADRS(マドラスって言います)の総得点は治療開始8週時点でプラセボと有意差ありです。しかしP=0.02でしてちょっと悲しい。大事なのが項目別。P<0.001となっているのは睡眠減少と食欲減退のみ。これは上記の体重増加と眠気という副作用によるものですよね。いわゆるうつ症状をとらえている

”外見に表出される悲しみ(Apparent sadness)”
”言葉で表現された悲しみ(Reported sadness)”
”自殺念慮(Suicidal thorghts)”

なんかはそれぞれP=0.08、P=0.14、P=0.09でして、こんなのはお話になりません。

”感情の消失(Inability to feel)”
”倦怠感(Lassitude)”

は壮絶のP=0.90、P=0.99でして、差が認められません。

 うちの教授も良く注意を促していますが、この評価尺度であるMADRSとHAMDは、睡眠と食欲が改善するだけでも得点が改善します。ミルタザピン(リフレックス®)についても意地の悪い言い方をすれば、この2つで評価尺度上は改善させることが出来てしまいます。製薬会社はこういうところを熟知していて、睡眠誘発・食事摂取増加の作用を持つ薬剤についてはこの評価尺度を好んで用います。

 評価尺度はきちんと項目別に眺めなければいけません。今回のジプレキサは確かに得点上は改善(それも少しですけど)してますが、それは副作用で得たもの。中核である抑うつ気分や制止というところには大きくかかわっていないんです。こういう薬剤が”双極性障害のうつ症状”に適応を取ってしまって大宣伝されて、ほいほいっと使う精神科医が増えるというのは問題が大きいように思います。もちろん、有意差がないことは差がないことではありません。患者さんの中にはジプレキサがフィットしてくれる人もいるでしょう。しかし、処方する医者は「適応取ったから有効なんだな。何だジプレキサ万能じゃん!」と単純に考えるのではなく、この薬剤がどういう内容の試験でどのくらい有意差を出したのか、カラクリを知っておかねばなりません。

 自分は評価尺度が好きではないのでほとんど行わないのですが、そうであっても良いところ悪いところを知っておくべきでしょう。

 こういう臨床試験の論文を読んでると、性格悪くなりますね。。。粗探しをまずしてやろうと考えてしまいます。でも疑いのマナコでじっくり読むのが大切(特にFundingで製薬会社がついている時とか)。
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コメント
管理人用閲覧コメントを下さったかた、ありがとうございます。

デパケンやドグマチール、ジプレキサ、リフレックスは体重増加の副作用が確かにあります。
薬剤歴からすると、追加されたリフレックスで体重が増えたのかもしれません。
しかし、自分がここで「どんな処方をするか」というのはお答えできません。簡単に決まるものではなく、診察を重ねたうえでご自身に合ったものが見つかってくるものと思います。
また、こういった向精神薬は内科さんではなく精神科で出してもらうべきものとも思っています。
知識量が圧倒的に異なりますし、消化器内科の先生も次の手などをすぐに打つことが難しかったので、ちょっと待つようにとお答えになったのかもしれません。
なので、個人的には精神科受診をお勧めします。前医との関係性が悪かったのであれば、転医しても良いかと思っています。ただし、お薬を出し過ぎるようなクリニックは避けた方が良いと思います。様々お調べになって決めてみてはいかがでしょうか。
m03a076ddot 2014.02.28 08:32 | 編集
先生、ご迷惑なしつもんをしてしまい申し訳ございませんでした。でも、よろしければ、漢方のことについても質問したいのですが、よろしいでしょうか?
百式dot 2014.03.01 01:43 | 編集
>百武さん

ありがとうございます。
漢方薬も”薬”ですし、処方などはやはり診察を実際にしないと決めることが出来ないのが実情です。
処方以外の一般的なこと(他のかたのコメントにもあった用量のことなど)しかお答えできず、なかなか具体的なところまではお力になれません。
記事にしている漢方処方も患者さんを診察した上でのことなので、それが「この症状ならこの漢方」とは言い難いところがあります。それが漢方治療の短所でもあり長所でもあるかもしれません。
現在のお困り事が漢方薬で緩和されるかもしれないとお思いであれば、漢方外来を開いている病院や漢方薬局で相談されてみるのが良いかと思います。
m03a076ddot 2014.03.01 08:45 | 編集
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