2012
04.15

SIRS~サイトカインの嵐として~

 SIRS(systemic inflammatory response syndrome)は外傷や感染症など様々な原因で生じる全身性の炎症で、高サイトカイン血症(hypercytokinemia)とも言えるかと思います。炎症性サイトカインと臓器・血管内皮細胞との相互作用により生じる多臓器不全について、名古屋大学の松田直之教授はAlert cellという概念を導入し説明しています。それを絡めて、SIRSのお話を。

 SIRSは程度が進行すればALI(急性肺障害:補足参照)や循環障害、AKI(急性腎障害)、さらにはDIC(播種性血管内凝固症候群)が引き起こされてしまいますが、これらには言うまでもなくサイトカインが大きく関与しています。DICに関してちょろっと付け加えると、凝固というものは本来生体防御として働くという理解はとっても重要。敗血症では、血小板、好中球、血管内皮細胞の相互作用により凝固が生じ、病原体の除去、そして病原体や炎症性メディエータの拡散を防いでいるんです。炎症と凝固は密接に関係しているという理解は必要。サイトカインストームによりこの炎症と凝固の相互作用の調節が利かなくなってしまったものがDICと言えるでしょう。“凝固=悪”という単純な考えは捨て去らねばいけません。炎症も凝固も、起こるからには何か必要があって起きています。それのタガが外れてしまってコントロール不能になったのがSIRS→DICという流れだと思います。

 さて、上記のような障害が起こることを知るには、Alert cellの存在する部位が重要になってきます。「なんでSIRSでは肺がやられてALI/ARDSになるんですか?」という疑問に答えが詰まる人には役立つ内容だと思います。

 一部の主要臓器や血管内皮細胞の細胞には、特殊な受容体を細胞膜上に発現し、炎症を感知する“警笛”、つまりAlert cellとして働くものがいます。この受容体にはTLRやTNF-R、IL-1Rなど多くのものがあるというのが分かっています。サイトカインが産生されれば炎症局所に留まらず主要臓器のAlert cellが活性化されます。病態が強い場合、non-Alert cellでも受容体発現が高まりAlert cellに変貌することが知られています。

 これで何となくさっきの疑問の答えが推測できそうですね。

 細かく話すと、炎症性リガンドとAlert cellの炎症性受容体との結合により転写因子の活性が上昇し、mRNAの産生亢進が起こり、炎症性サイトカインや血管拡張物質(NOやプロスタノイド)、ケモカイン、凝固活性化物質などが過剰産生されます。転写因子にはNF-κBやAP-1など多くのものがあって、特にNF-κBやAP-1は気管支上皮細胞やII型肺胞上皮細胞、右心房筋細胞、血管内皮細胞、尿細管上皮細胞、肝類洞細胞、腸管上皮細胞などのAlert cellで特に活性化されます。SIRS初期においてはALIや頻脈、心房細動などが生じやすいのですが、これは肺や右心房および動脈側の血管内皮細胞で強くNF-κBが活性化するためなんです。時間の経過に伴いNF-κB に代わり,AP-1が高まる傾向があります。臓器においても、時間が経過するとともに尿細管上皮細胞での活性化が強まってきます。

 AP-1 活性はアポトーシスも促進。Fas-associated death domain(FADD)を介して外因系アポトーシスが進行し、Alert cellの細胞死が早まるとされています。一方、NF-κB 活性はBcl-2やFLIPなどの抗アポトーシス因子の産生を介してアポトーシスを抑制しています。Alert cellのアポトーシス速度が細胞分裂速度を上回ると臓器障害が生じるとされます。

 SIRSの状態においては、Alert cellがサイトカインを大量に産生します。そのため、蛋白の需要が非常に高まってきます。この需要に対し、Alert cellはautophagyにより自らのアミノ酸を他の細胞に渡し、更にAlert cellや血管内皮細胞はサイトカイン活性変化によりアポトーシスを起こします。そして、何と血小板も貪食することで蛋白補充がなされてしまいます。

 また、SIRSの治療にステロイドを使用することがありますが、その限界性も指摘されています。ステロイドの抗炎症作用は主にグルココルチコイド受容体(Glucocorticoid Receptor:GR)との結合によるNF-κB 活性とAP-1の抑制作用を介するもの。ですが、GRは主要臓器や血管内皮のAlert cellに必ずしも発現しているものではなく、またマクロファージなどの白血球系の多くに発現しているわけでもありません。更に、SIRSが進行するとGRの発現が減少する傾向に。これらから、ステロイドによる治療には制限があることが分かるかと思います。これからは、炎症と凝固の過剰な相互作用という視点からSIRSの治療戦略を眺める必要があるでしょう。Alert cellに取り込まれるもの、血管内皮細胞を早期に保護するものが求められることになるのかもしれないと自分は勝手に思っています。炎症を消すのではなく、正常なレベルに持って行き、その炎症の力を借りていくのが未来のSIRS治療?だったりして。

 血管内皮細胞については、今でも輸液や栄養療法というテーマで色々と出ています。輸液もし過ぎると内皮細胞を傷つけてしまって、炎症と凝固の歯止めがかかりにくくなりますし、同じく栄養も過剰栄養(overfeeding)から同様のことが起こります。少し前までは「輸液は多く入れて循環血漿量減少を避けよう!」「栄養はしっかり摂ってもらって力をつけてもらおう!」という流れでしたが、レクチャーシリーズでお話ししているように、最近それを見直す段階に来ています。スタチンやトロンボモジュリンは血管内皮細胞を保護することが知られており、それを利用した薬剤が出来れば素晴らしいこと。

 Alert cellや白血球などの貪食細胞に選択的に取り込まれるミサイル療法的な薬剤も出てきたら凄いですね。静注用のマクロライドはその傾向が強く、抗菌作用以外にもそれによる抗炎症作用が指摘されています。

 今後は血管内皮細胞に作用する薬剤と貪食細胞選択的な薬剤によって、炎症と凝固を抑え込むという視点よりも、安定させるinflammation-coagulation stabilizerといった考えの創薬がなされれば、SIRS治療もしやすくなるのではないでしょうか。急性期治療は大きな転換点にいるのではないかなと感じています。

☆参考文献
Systemic inflammatory response syndrome (SIRS) : Molcular pathophysiology and gene therapy. J Pharmacol Sci 2006; 101: 189-98
全身性炎症反応症候群とToll-like受容体シグナル-Alert Cell Strategy-. 循環制御25:276-284, 2004
炎症性警笛細胞と多臓器不全 Role of Inflammatory Alert Cell in Multiple Organ Failure:Anesthesia 21 Century Vol.12 No.2-37 2010


補足:ARDSの定義が新しくなりました。ALIという概念が無くなり、代わりにARDSがmild, moderate, severeという3段階の重症度に分かれましたね。
Acute Respiratory Distress SyndromeThe Berlin Definition. The ARDS Definition Task Force JAMA. 2012 doi:10.1001/JAMA.2012.5669

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