2012
04.14

栄養療法 Starter & Booster:第6回~重症患者さんへの栄養

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 今回が最終回ですが、敗血症を代表とするCritically ill patientへの栄養。これまでもちょこちょこと述べていましたが、ここでまとめてお話しします。

 Critically ill patientではストレスホルモンやサイトカインがばんばん出ています。これにより異化という内因性のエネルギー供給システムが作動します。これまでの栄養療法はこの異化を完全に無視して、外から与える栄養で全ての必要エネルギーを賄おうとしてきました。結果、過剰栄養(overfeeding)を産みだしてきたんです。過剰栄養では何が起こるのか?

 1つは高血糖。これによりミトコンドリアで酸化ストレスが生じ、また炎症反応に拍車もかかります。

 もう1つが栄養ストレスというもの。余った糖から脂肪が作られ、またインスリンが上昇、その調節のためにカテコラミンが放出。。。これらからREEが増加し、CO2産生も増えます。骨格筋の分解が進み、浮腫も増悪。感染も助長するんじゃないだろうかと言われています。

 こういったことが起こってしまうんです。良かれと思ってやっていた栄養療法がまさか患者さんを痛めつけることになろうとは。。。

 大事なポイントは、栄養療法によって外からエネルギーを与えても、この内因性エネルギー供給はなかなか抑えられん、ということ。この内因性のものはストレスホルモンとサイトカインによって行われるので、ここを調節しない限りは進んでしまうんです。侵襲が強ければ強いほど、内因性エネルギー供給は大きくなります。

 困りましたね。。。理論的には、内因性エネルギー供給(異化)と外因性エネルギー供給(栄養療法)との合計がちょうどREEになれば良いはず。しかし残念なことに、内因性エネルギーがどのくらいもたらされるのかが分からない!じゃあ急性期の栄養療法って一体何なんだ。。。そう思ってしまいます。

 急性期の極期には15kcal/kg/dayを上限とするのが良い、とする論文があります(Stapleton RD, Jones N, Heyland DK. Feeding critically ill patients: What is the optimal amount of energy? Crit Care Med 35:S535-S540, 2007.)。これを上限とするカロリーであれば、外因性エネルギー供給がREEを上回ることはないと思います。極期を過ぎたらもう少し上げていっても良いんでしょうね。

 こういった見解を元に、筑波大学の寺島先生は以下のような指針を出しています。

・急性期極期:6-9kcal/kg/dayから15kcal/kg/day
・一般的な急性期:6-9kcal/kg/dayから20-25kcal/kg/day
・回復期:25-30kcal/kg/day
・重症病態が慢性期に移行:6-9kcal/kg/dayから25(-30)kcal/kg/day

 炎症著しい患者さんでは、内因性エネルギー供給という視点を常に持ち、決して栄養療法による外因性エネルギー供給だけで必要エネルギーを賄おうとしてはいけません。上手く手を取り合って、過少栄養(underfeeding)と過剰栄養(overfeeding)を避けるというのが大事になって来ます。“過ぎたるは何たら”ということわざを前に述べましたが、これまでの栄養療法はまさに“過ぎていた”状態を作り出していたんですね。

 有名な試験にEPaNIC trialというものがあります。これは、ICUに入室したらすぐ経腸栄養に経静脈栄養を補助すべきとするヨーロッパ(ESPEN)と、8病日まで補助しない北米(ASPEN/SCCM)との争いに決着を出すために行われました(Early versus Late Parenteral Nutrition in Critically Ill Adults. Michael P. Casaer et. al. N Engl. J Med. June 29, 2011.)。結果は、経静脈栄養の開始を遅らせると、低血糖発生件数はやや増えるものの、身体機能の悪化はなく、人工呼吸期間と腎代替療法実施期間が短くなり、ICU在室日数も短縮し、さらに医療費も削減になりました。

 これは純粋に経腸栄養が純粋に良いというものではなく、早めに必要なエネルギー量を外因性エネルギーのみで賄おうという立場のESPENが敗れたと解釈すべきでしょうね。経静脈栄養でも栄養を抑え気味で行っていたら、これほどまでの差は付かなかったと思います。経静脈栄養はダイレクトに身体の中に入りますから、入れた分がエネルギーになり過剰栄養になりやすいとされます。経腸栄養であれば、いらない分は消化されずに下痢などで出てきますし、より自然な形態といえます。

 更に、EDEN trialを見てみます(Initial trophic vs full enteral feeding in patients with acute lung injury: the EDEN randomized trial. JAMA. 2012 Feb 22;307(8):795-803. Epub 2012 Feb 5.)。早期に経腸栄養を開始するにしても、どのくらいの量が良いのかしら?というのを考えた論文。Trophic feedingのグループは最初の6日を約400kcal/dayの経腸栄養にセーブしてます。対してfull-feedingのグループは目標カロリーの80%である約1300kcal/dayを目指して攻め込んでます。結果、primary outcomeに設定された人工呼吸管理期間は有意差なし。60日死亡率や感染症の合併も変わりませんでした。特記事項としては、full-feedingのグループで蠕動促進薬が多く使われていたにも関わらず有意に嘔吐(2.2% vs. 1.7%)、胃管排液増加(4.9% vs. 2.2%)、便秘(3.1% vs. 2.1%)が多かったとしています。また、インスリン使用率と血糖もどちらもfull-feedingのグループで高かったそうです。

 このEDEN trialではBMIの低い患者さんは除外していることは付記しておきます(内因性エネルギー供給の力が弱い)。ですが、これだけ外因性のエネルギー供給を抑えても大丈夫なんですね。急性期の栄養管理というのは、やっと世の中が最近「今まで栄養やりすぎてたんじゃね?」と反省してきています。でもまだまだ重症患者さんにはどんどん栄養あげて元気にさせなきゃ!と思っている先生も多い(気持ちは十分すぎるほど分かりますが)。適切にカロリー設定が出来て内因性エネルギー供給の量も分かれば、よりスマートな栄養療法がなされることでしょう。「急性期だからたくさん栄養あげてなきゃダメなんだ」という考えから抜け出せれば、必要以上にインスリンをばんばか打つこともなくなるでしょうし。ただ、残念ながら現段階では内因性エネルギー供給によるカロリーを正確に知ることが出来ません。間接熱量計があれば、呼吸商を見ながら過剰栄養になってはいないかを確認するというのが1つの方法かも。手探り状態である、というのはもどかしいかもしれませんが、これから新しい知見がどんどん出てくるんでしょうね。

 これで栄養療法の総論的なレクチャーはお仕舞いですが、急性期を眺めることで、栄養療法の立ち位置が少し見えてきたかも知れません。全編通じて強調しているのは、栄養療法は未完成!ということ。完成されている分野なんてないでしょうけど、他の分野と比べても特に栄養療法は遅れていると思っています。最近のPermissive underfeeding(ここで言うunderfeedingは、外因性エネルギー供給のみで目標カロリーに達さないことを示しています)という考え方が、異化によるエネルギー供給を意識したもので、これにより大きな変化が生まれている真っ最中。ストレス下では、栄養どんどん増やして患者さん元気にしよう!という旧来の考えから、特にここ数年はもともと身体に備わっている供給システムを考慮して栄養をあげすぎないようにしよう、という考えにシフトしつつあります。1つ1つを分解して見るのではなく、全体の総和を生理的に見ていこうとするのが良いのかも知れませんね。

 大きなパラダイムシフトの中にいる栄養療法。根本を抑えて、かつ現在の流れを知るということが最も重要なところかと思います。
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