2012
04.07

栄養療法 Starter & Booster:第4回~栄養の投与配分

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 前回までで、投与するエネルギー量が決まりました。ここで実際にどんな栄養をどのくらい入れるのかを考えてみましょう。普通のご飯をたべることが出来る人なら良いんですが、そうでない人はこちらが栄養メニューを考えて提供します。色々と脇道に逸れながらお話しするので、何回か見返してみてください。。。基本的に、中心静脈栄養のメニューを組むというのを前提としてお話しします。

 いわゆる3大栄養素と言われる炭水化物、たんぱく質、脂質。カロリーはこの3つのバランスで成されます。それぞれ1gが4kcal、4kcal、9kcalというのは覚えておきましょう。電解質だって大事。他に重要なのは、微量元素とビタミンですね。3大栄養素・電解質・微量元素・ビタミン。これらを考えながら、患者さんへの栄養を作っていきます。

 微量元素は生きていくために欠かせない元素のうち体内に備蓄されている量が比較的少ない元素のこと。長期となりがちな中心静脈栄養では常に考えます。微量元素には鉄、亜鉛、銅、マンガン、ヨウ素、モリブデン、セレン、クロム、コバルトが含まれ、亜鉛とセレンは欠乏しやすいことが知られています。亜鉛は早ければ2週間、セレンは1ヶ月くらいで欠乏してくると言われます。微量元素を補うエレメンミック®やミネラリン®などが静脈栄養用の製剤としてありますが、謎なことにモリブデン、セレン、クロム、コバルトが入ってません。何でなんでしょうね???だから長期の中心静脈栄養では微量元素の欠乏が問題になりやすいのです。中心静脈栄養を始めたと同時に、微量元素切れのタイマーが始動すると言っても良いでしょう。皮肉なことに、全てをカバーする微量元素製剤が無いと言うことは、経腸栄養の重要性を知らしめてくれるものですね。。。

 ビタミン欠乏も怖いところ。歴史的にはB1欠乏の脚気やC欠乏の壊血症がありました。頻度は高くないですが、B12欠乏によるWernicke脳症は入院がん患者さんの意識障害の原因として鑑別に挙げておく必要があります。ただ、ビタミンというのはたっぷりあげれば良いというわけではありません。水溶性でもそれは同じ。抗酸化物質(アンチオキシダント)と酸化促進物質(プロオキシダント)はコインの裏表、この言葉を忘れずに。安全の代表格であるビタミンCですら、500mg/dayで酸化促進に働くのでは?と言われています(The nature of prooxidant activity of vitamin C. Life Sci. 1999;64(23):PL 273-8)。

 さて、これらを前提として、患者さんにどんな分配で栄養素を届ければ良いのでしょう。普通の食事は炭水化物60%、たんぱく質15%、脂質25%の比率のようです。じゃあこれに則って考えれば良いんじゃないか?と思うかも知れませんが、入院患者さんで食事の取れない人は、色んなストレスがかかっています。それによって、たんぱく質(アミノ酸)の投与量を変える必要がある、とされています。更に、この3大栄養素は全部大事ではありますが、身体の材料として最も重要なのがたんぱく質なのです。なので、最初に考えるのはたんぱく質!

 たんぱく質、これからはアミノ酸と言いますが、このアミノ酸の補給量は、以下を目安として決められています。

・ストレスなし(0.6-1.0g/kg/day)
・軽度ストレス(1.0-1.2g/kg/day)
・中等度ストレス(1.2-1.5g/kg/day)
・高度ストレス(1.5-2.0g/kg/day)

 これが絶対的に正しいのかと言われると難しいところ。。。前に述べたことを持ちだすと、高度ストレスのかかるCritically ill patientでは、たんぱくの投与量を増やしても異化を防ぐことは出来ません。ただし、たんぱくを作る上で、その基質を供給するのは大事なこと。それを考慮に入れると、重症患者さんにおける初期補給量は1.0-1.5g/kg/dayが望ましく、それ以上は多すぎるという意見があります(Optimal protein requirements during the first 2 weeks after the onset of critical illness. Crit Care Med 26:1529–1535, 1998.)。なので、この“高度ストレス”での投与量は適切ではないかも知れません(個人的には、不適切だと思っています)。

 もちろん急性肝不全では肝性昏睡を防ぐために少なめにしますし、腎不全では窒素代謝物の排泄が低下するので、必要最低限の必須アミノ酸の投与にしておきます(透析してない時)。

 少し後で述べますが、アミノ酸が効率良くたんぱく質になってくれるかを見るには、NPC/N比というややこしいものを見なければいけません。十分なエネルギーの投与がないと、いくらアミノ酸を入れてもそれが使われてしまうだけなんです。アミノ酸をガンガン入れればそれだけ筋肉になるわけではないんですね。NPC/N比は、投与したアミノ酸以外の栄養素、つまりは糖質と脂肪によるエネルギー量を、投与したアミノ酸に含まれる窒素量(g)で割った比のこと。

 そして、日々の栄養できちんとたんぱく質が適切な量になっているかな?とチェックするには、窒素バランスというものを用いることがあります。成人では±0が正常ですが、重症患者さんの回復期や子どもなどは正の値を、病態の勢いが強くて蛋白が消耗されていたり摂取エネルギー不足だったりしたら、負の値を示します。アミノ酸は大体16%の窒素を含んでいるので、投与したアミノ酸に入っている窒素量(g)は,アミノ酸投与量(g)×0.16(あるいは÷6.25)で出てきます。

 ということで、窒素バランスの式は以下になります。

窒素バランス
アミノ酸投与量(g/day)×0.16-尿中尿素窒素(g/day)×1.25

 筋肉がきちんと作られているのか、それとも筋肉を削ってエネルギーを作らざるを得ない状況なのか、これを考えていきましょう。

 アミノ酸の中で注目されているのはアルギニンとグルタミン。アルギニンには免疫強化や創傷治癒促進という作用があります。ただし、Critically ill patientでは、NO過剰産生により炎症を促進してしまうことが指摘されています。あまり投与しない方が良いでしょう。グルタミンは小腸粘膜の重要な栄養素でして、腸管免疫を賦活してくれます。また骨格筋や肝臓での代謝のためにも働きます。

 そして、静脈栄養のアミノ酸製剤はたくさんあり、ビーフリード®、アミカリック®、アミノフリード®、プラスアミノ®などなどなど。また経腸栄養剤は含まれている窒素源として使われているのがたんぱく質(半消化態栄養剤)かペプチド(消化態栄養剤)かアミノ酸(成分栄養剤)かで分類できますが、これは消化のしやすさを考慮に入れたもの。腸に優しいのが、消化する必要のない成分栄養剤で、腸の機能が低下している患者さんは最初にこれを使うというのが定番になっています。

・半消化態栄養剤:経腸栄養剤の多くはこちら。エンシュア®、ラコール®などなど。
・消化態栄養剤:ツインライン®、ペプチーノ®、エンテルード®
・成分栄養剤:エレンタール®、へパン®ED、アミノレバン®EN

 別枠として誤嚥防止のための半固形栄養剤というのがあり、他の経腸栄養剤は液体ですが、これは名前の示すようなもの。短時間で投与することができ、また一般の食事(固形)に近いためより生理的と言えます。液体の経腸栄養剤は24時間持続で流すことがありますが、やっぱり起きている時に栄養が入って、寝ている時は入らない、というのが一番自然だと思います。それに近いのがこの半固形栄養剤。ハイネゼリー®、テルミール®PGソフト、カームソリッド®などがあります。腸はもちろん、胃がきちんと使える患者さんが対象。

 経腸栄養剤は病態別にも分類できます。肝不全用、糖尿病用、腎不全用、腸管リハビリ用などなど。まずは窒素源による分類をして、その後に病態別に考えるのが筋道。

 話を戻して、アミノ酸の投与量が決まったら、次は脂質になります。脂質は何と言っても1gで9kcalも稼げるのが魅力。少ない量で多くのカロリーを生み出せます。静脈栄養のための脂肪乳剤としてイントラリピッド®やイントラリポス®などがあり、10%製剤と20%製剤がありますが、20%製剤では感染を起こしやすいかも?と言われてはいます。10%の脂肪乳剤には0.1g/mLの脂肪が入っていて、計算すると0.9kcal/mLになるんですけど、大体どれも約1.0kcal/mLに調節されているみたい。

 投与量ですが、大体1日に投与するカロリーの20%くらいを脂肪で賄うのが良いのではとされています。1g/kg/dayというのが目安。最大では2.5g/kg/dayくらいまで上げることが出来ますが、過量投与は免疫機能や呼吸機能に異常を来すかもしれないとも指摘されています。

 脂肪乳剤は投与速度も大事でして、0.1g/kg/hrが日本人では適切となっています。HDLにあるアポリポ蛋白と結合するためにはこの速度が良いとのこと。自分には何やら仕組みがさっぱりですが。。。諸外国に眼を向けるとESPENでは0.03-0.125g/kg/hr、ASPENは0.125g/kg/hrを推奨しています。

 脂肪の中でもω-3脂肪酸は抗炎症作用があるため、つい最近までSIRS患者さんには積極的にこれを強化していこうという流れがありました。しかし、2011年JAMAに掲載されたOMEGA studyという、ALI(急性肺障害)の患者さんにω-3脂肪酸を強化した群としない群とに分けて行われた試験では、意外なことに強化群の方の敗北。人工呼吸管理日数が長くなり、死亡率も高くなってしまいました(Enteral Omega-3 Fatty Acid, γ-Linolenic Acid and Antioxidant Supplementation in Acute Lung Injury. JAMA. Published online October 5, 2011.)。あれれ、鳴り物入りで参入してきたオキシーパTMちゃん…?(´・ω・`)

 でもこの試験だけで白黒はつかないと思います。これまでの試験との違いとして、投与方法やコントロール群の製剤の組成などがあるので。オキシーパTM(ω-3を多く含みます)は良いかもしれないけど少し待っておこうか、くらいの立場にしておきましょうか。

 ちなみに、ω-3脂肪酸を薬剤にしたのがEPA製剤のエパデール®です。これは心血管疾患を既往に持つ患者さんでは心血管イベントの2次予防に有効という結果が出たJELIS試験が有名。ですが、この試験はPROBE法というデザインで行っています。PROBE法ではエンドポイントに介入行為を入れないというのが約束(情報バイアスがかかります)。ですが、この試験ではそれが破られていて、介入群に有利になりやすい。困ったものです。そうしたら、2012年4月にJELIS試験の結果をひっくり返すような論文が出ました(Efficacy of Omega-3 Fatty Acid Supplements (Eicosapentaenoic Acid and Docosahexaenoic Acid) in the Secondary Prevention of Cardiovascular Disease. A Meta-analysis of Randomized, Double-blind, Placebo-Controlled Trials. Arch Intern Med. Published online April 9, 2012.)。2次予防の効果は不充分、とのこと。更に、女性においてはω-3脂肪酸をたくさん摂ると”がんリスク”に!という論文も(B Vitamin and/or -3 Fatty Acid Supplementation and Cancer. Arch Intern Med. 2012;172(7):540-547.)。これらの結果は急性期とは事情が異なるため一概にω-3脂肪酸を全患者に用いてはいけないとは言えないと思いますが、健康な人がサプリメントとして摂るのは推奨できません。というか、サプリメント自体に否定的です、自分は。普通に食べてれば必要ないですわ。

 さて、脂肪酸の中でも、ω-6脂肪酸は炎症反応を惹起し、免疫能を低下させると言われています。これを多く含むのがプルモケア®という製剤。オキシーパやプルモケアという経腸栄養財は呼吸商を考慮して脂質を多く含んでおり、CO2を貯めず肺に優しいのではないかと言われています。だからプルモ(肺)をケアしてくれる、という名称。しかしプルモケアはω-6脂肪酸を多く含むため、いくら肺に優しいとはいえALIになってしまっているような患者さんに用いると炎症を助長してしまい良くありません。

 ビタミンもアミノ酸もそうでしたが、過ぎたるは何たらというやつでしょうか。。。栄養関連の研究では、これ良いんじゃね?って言われたものをドカンと強化して良い結果→他でやり直したらやっぱり駄目だったということを繰り返していますが、結局は“ほどほど”に落ち着くような気がしてならないですね。。。

 さてさて、アミノ酸と脂肪を入れたら、残りのカロリーを糖質で賄います。ブドウ糖液というのを使いますが、含有率でいくつかに分かれています。上述のように、ブドウ糖はたんぱく質と同じように1gが4kcalです。なので、50%ブドウ糖液は0.5 g/mLのブドウ糖、ということは2 kcal/mLで計算。20%、10%、5%のブドウ糖液も同様にして計算しましょう。

・50%ブドウ糖液:2kcal/mL
・20%ブドウ糖液:0.8kcal/mL
・10%ブドウ糖液:0.4kcal/mL
・5%ブドウ糖液:0.2kcal/mL

 ブドウ糖と言えば血糖値。ICUに入るような重症患者さんでは、その血糖値をどこに置くか、がポイントです。血糖値が高いと好中球の機能が低下して、ミトコンドリアも傷ついてしまいます。一時期は強化インスリン療法によるタイトな血糖コントロールが流行しましたが、今はそれほど厳格でなくても良いだろうと言われています。インスリンを外から打って血糖値を下げても、多くの糖は筋肉内に押し込まれるだけ。こんなことされたら筋肉の変性が進んでしまいます。ただし、血糖値が200を上回るとさすがにやばいと言われているので、それよりも下、140-200くらいにしましょう、となっています(Use of Intensive Insulin Therapy for the Management of Glycemic Control in Hospitalized Patients: A Clinical Practice Guideline From the American College of Physicians. Ann Intern Med. 2011 Feb 15;154(4):260-267.)。血糖値の変動も重要でして、重症患者さんでは変動幅と死亡率が関連するとも言われています(Glucose variability is associated with intensive care unit mortality. Crit Care Med. 2010 Mar;38(3):838-42.)。速効型インスリン皮下注によるスライディングスケールだとガッタンガッタン血糖値が上下し、変動幅が大きいと血管内皮細胞が障害され、アポトーシスが進むようです。なのでスライディングスケールは用いず、持続静注を上手く使うのがクール。

 これで3大栄養素の配分が決まりました。ここで、NPC/N比をもう一度お話。NPC/N比は、投与したアミノ酸以外の栄養素、つまりは糖質と脂肪によるエネルギー量を、投与したアミノ酸に含まれる窒素量(g)で割った比のことでした。この窒素量は、投与したアミノ酸に0.16をかける(6.25で割る)と出てきます。これを見ることで、アミノ酸がキチンとたんぱく質の材料になるかを確認します。通常は、適切なNPC/N比は静脈栄養で150-200、経腸栄養で120-150と言われます。敗血症や大手術後など、ストレスの大きい患者さんでは体内でのたんぱく分解が進むので、栄養でもたんぱくを多めに補うのが良いとされています。その際のNPC/N比は100くらいまで下げる方が適切かも知れないと言われています。腎不全があると逆にNPC/N比を上げねばなりません。

 結局投与カロリーを最初に決めても、NPC/N比を考慮する段階で少し計算を修正しなければならないんですね。

 NPC/N比も考慮した3大栄養素の配分が決まったら、他に水分を考えます。もちろん、配分を決める前に水分量を設定しても大丈夫。どちらでも良いと思います(水分量を先に決める人が多いですね)。人間、生きていくには水分が必要不可欠でして、適切な量を投与するのが大事。その適切量を探るのが難しいんですけどね…。

 必要な水分量は、以下の4つの方法で決められます。

・30mL×体重(kg)
・1mL×栄養摂取量(kcal)
・1500mL×BSA(m2)
・尿量(予想尿量1mL×体重(kg)×24hrs)+600mL

 どれが優れているかは不明。。。これに嘔吐下痢ですとかドレーン排液などを考慮に入れて、1日水分量を決めます。経腸栄養剤ですと、投与量の80%が水分という構成。大事なのは、一度水分量を決めてもほったらかしにしないで毎日考えることです。1回でクリーンヒットすることはまずないでしょう。大きく外さないことが重要で、そこから軌道修正を何回も何回もかけて理想に近づけていくことが大事。これは次の電解質についても言えますし、窮極を言ってしまえば全ての医療に共通すること。

 水分も決まったら、お次は電解質です。1日に必要な電解質は?

Na:60-80mEq
K:30-60mEq
Cl:80-100mEq
Ca:4-10mEq
Mg:8-20mEq
P:12-20mmol

 これを基準にすることが多いです。多くの製剤には、最初から必要量が含まれていますね。患者さんによっては、例えば腎不全でKを嫌う時はもちろんこれを含まないように作りますし、SIADHで低Na血症になっている患者さんに漫然とこの量のNaを投与していたらいかんですよ。

 残りは前に述べたビタミンと微量元素。これを追加して栄養メニューは終了になります。随分と長い旅でした。

 こうして、うんうんと考え抜いて作った自分オリジナルの中心静脈用の栄養剤。この努力の結晶が、出来合いのキット製剤と酷似していることはままあることです。その時のショックはなかなか忘れられないのですが、一度自分で最初から考えてみることが大事かなと思います。それがキットとどう似ているのか、どう違うのか、答え合わせではないですが、見てみると良いですよ。

 次回は栄養剤について少しだけ触れて、その次に急性期極期の患者さんへの栄養についてお話して、栄養療法のレクチャーを終了したいと思います。
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コメント
北海道にシーベリーと言う果実があります。(学名ヒッポファエ)フィトケミカルと抗酸化作用の強い不飽和脂肪酸Ω3,6,7,9を多く含みます。北海道では最も抗酸化作用が強いロシア種オビルピーハが栽培されています。ソ連時代より研究されロシアでは現在皮膚疾患薬等になっています。果汁を果肉、皮ごと飲むでいます。血糖値、体内脂肪が減少、良く寝れ疲れが無くなります。すごい果実が北海道にありますよ。
よしだdot 2012.04.08 16:26 | 編集
>よしださん 
コメントありがとうございます。
北海道に生まれ育っていながら、その果実を知りませんでした。。。
シーベリーは果実なのに脂質、しかも重要な脂肪酸が豊富なんですね。
医学のお薬も天然由来のものが多く、漢方薬はその典型例でしょうか。こういったところからより良いお薬や栄養剤が出来てくると良いですね。
貴重なご意見ありがとうございました。
m03a076ddot 2012.04.08 20:01 | 編集
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