2012
04.03

栄養療法 Starter & Booster:第3回~必要なエネルギー量って?

目次→コチラ

 第2回までで、栄養が必要かどうかを評価して投与経路も考えた。では、実際に栄養のエネルギー必要量を設定してみましょう。

 まずは基礎エネルギー消費量(BMR)というもの。私たちはボーッとベッドの上に横になっていてもエネルギーを使っています。その超省エネ状態において、生命維持のためにどのくらい必要か?というのがBMR。

 1日の生活をする上で、どれくらいエネルギーが必要か。このエネルギーの求め方には、広く使われているものに3つあります。

 1つは聞いたことがあるかもしれませんが、Harris-Benedict(ハリス・ベネディクト)の式です。ちょっと見てみましょう。

基礎代謝量(kcal/day)
男性:66.47 + 13.75×体重+5.0×身長-6.75×年齢 
女性:655.1 + 9.56×体重+1.85×身長-4.68×年齢 

 基礎代謝量(BEE)は基礎エネルギー量(BMR)と同じ意味と考えて下さって良いです。が、この数値は何なんでしょうね。。。

 このBEEに活動係数(AI)とストレス係数(SI)をかけると1日のその人のエネルギー必要量が分かるという仕組み。

エネルギー必要量(kcal/day)
BEE×AI×SI

 AIは寝たきりやベッド上安静などで異なります。意識低下状態での寝たきりでは1.0、覚醒状態での寝たきりでは1.1、ベッド上安静では1.2、ベッド外活動では1.3-1.4、一般職業従事者なら1.5-1.7となります。

 SIは飢餓状態で0.6-0.9、小手術なら1.2、大手術なら1.3-1.5、他には多発外傷や敗血症、熱傷などでもそれぞれ数値がありまして、侵襲が大きくなればSIも高くなる設定になっています。

 しかし、大きな問題点として、このハリス・ベネディクトの式は本当に正しいのかよく分からない(何と!)というのがあります。こんなに訳分からないかけ算をして結局出てきた数字の妥当性が問われるとは…。かつ、このAIやSIも科学的な裏付けは全くなく、本や論文でも数値が微妙に異なります。

 しかも、大きな侵襲の下では“異化”という名の下に内因性のエネルギー供給が行われます。ストレスホルモンとサイトカインによりなされるこの内因性のエネルギー供給は、筋たんぱくの分解でできたアミノ酸を使った糖新生と脂肪組織からの脂肪酸放出が原動力。この異化は栄養療法(外因性エネルギー供給)によって抑制することが出来ません。なので、異化を無視して栄養療法で全てを賄おうとすると、もしくは抑えられないはずの異化を抑えようとしてたくさん栄養をあげると、異化分のエネルギーが余ってしまい、過剰栄養(overfeeding)となってしまうことが指摘されています。

 また、SIというのは侵襲が大きくなるにつれて高い数値に設定されますが、ICUに入る様ないわゆるCritically ill patientの状況ではこの高くなるSIという考え方は非常に怪しいもので、異化を考慮していないのです。このところは“Permissive underfeeding”という概念が広まり、サイトカインの嵐の真っ只中にあり異化が亢進している患者さんにおいては栄養投与量を少なくしようという動きになっています。SIとは逆の方向になっているのは知っておきましょう。ハリス・ベネディクトも特に重症患者さんでは用いない方が良いと言われます。

 何だかハリス・ベネディクトがめった打ちにされている感じがありますね。。。最初の一歩ですら“何となく”感がものすごく強いこの栄養療法。。。こんなこともまだまだ明確化できないというのが現状なんです。

 先ほど、エネルギー必要量の求め方には3つある、と言いました。残りの2つを見てみましょう。

 1つは、簡易法と呼ばれるもの。これは至ってシンプルで、以下の式です。

エネルギー必要量(kcal/day)
25-30kcal/day×体重

 これだけ。本によっては係数を“25-35kcal/day”としているのもあります(35はちょっとやり過ぎだと思います)。ずいぶんとハリス・ベネディクトから削いだ感じがしますね。この簡易法もエビデンス無しですし、先ほどのCritically ill patientの異化を考慮してないため、注意が必要。ハリス・ベネディクトとどちらが優れているかも不明とされています。。。

 更に大きな問題として、簡易法にしろハリス・ベネディクトにしろ、計算式に代入する体重の数値を理想体重にするか実測体重にするか、というものがあります。同じ身長170cmでも、体重が120kgや45kgでは随分と違います。彼らの必要エネルギー量をいきなり理想体重で求めて良いのか?過少栄養(underfeeding)や過剰栄養(overfeeding)になりはしないか?と言う問題があります。こんなのも科学的根拠が無く、実測体重が理想体重よりも大きく(これもどのくらい大きくなのか…)異なれば、実測を用いておこうと言う人もいます。しかし、肥満患者さんにおいて馬鹿正直に25kcal/kg(実測)/dayで行くか、となると恐ろしいエネルギーを投与しなければならなくなってしまいます。肥満はサイトカインの嵐とは言わないまでも雨の中にいるような状態ですから、投与する量は絞った方が良いんでしょうね。アメリカさんなんかはBMI30超えの患者さんの議論をしてますから、日本の肥満は可愛いものかも知れませんが。。。痩せも著しいと、後述のRefeeding syndromeを発症する危険性があります。

 必要エネルギーの予測式すらアテにならない。本当に分からないことだらけなのが栄養療法なんです。最近の流れとして、特に重症患者さんにはこれまでは過剰栄養でやってきてしまったなという反省が見えてきています。上の2つの式をそのまま重症患者さんに当てはめないことが重要。

 さて、最後の1つは“間接熱量計”と呼ばれる機械を使って算出するもの(間接熱量測定法)。安静時エネルギー消費量(REE)を酸素消費量と二酸化炭素産生量とを用いて算出するという、Wierの簡便式を示します。

Wierの簡便式
安静時エネルギー消費量REE
{3.941×酸素消費量(mL/min)+1.106×二酸化炭素産生量(mL/min)}×1.44

 栄養素の代謝過程では、酸素が消費され消費して二酸化炭素と水、熱が産生されます。間接熱量測定法ではこの原理に基づいてエネルギー消費量を算出する、らしいです。

 酸素消費量と二酸化炭素産生量は、呼気ガス分析装置を用いて測定。ちなみに、REEはBEE×SIなので、エネルギー必要量を求める時にはREEにAIをかけることになります。

 間接熱量測定を施行する際には、条件があります。1つとして、8時間以上の絶食。これは、食事による代謝の影響を除くためと言われます。姿勢なども決まりがあり、仰臥位か半座位として、測定中はテレビとか読書とかは避けてもらいます。測定する時は息が漏れたり過呼吸にならないように注意。

 色々と難しそうな間接熱量測定ですが、呼吸商(RQ)が出るというのが強みでもあります。呼吸商、懐かしい用語。。。脂肪、たんぱく質、糖の呼吸商はそれぞれ0.7、0.8、1.0でしたね。呼気ガス分析装置で測定した呼吸商が1に近ければ糖を多く使った代謝だと分かりますし、0.7に近ければ脂質の燃焼や代謝が栄養のメインになっているんだなと分かります。すなわち、1を超えたら糖質が脂質合成に使われており、0.7以下なら脂肪からの糖新生が生じていると評価。呼吸商が脂肪に傾いているのが分かると、エネルギー摂取不足や異化亢進状態であるなと判断できるわけです。1を超えたら逆にエネルギー余剰状態。こんなことに呼吸商が利用できるとは、高校生の時は考えもしませんでした。

 こういった方法で、患者さんの必要なエネルギー量というのを決めていきます。間接熱量計が最も正しそうに見えてきますが、大きな問題としては、どこの病院にもポンポン置いてあるわけではない、というもの。基本的には簡易法などで求めて、患者さんの状態の推移をしっかり眺めるというのがスタンスになります。しかもICUに入る急性期の患者さんでは、“異化”ということを考慮するとこの3つの方法全てが不正確になってしまうと言われます。間接熱量計が推奨されていますが、それを用いても過剰栄養(overfeeding)になりがち。この異化についてはまた後で少しお話しします。

 最後に1つ注意点ですが、慢性的な低栄養状態にある患者さんに対しては実測体重にしろ理想体重にしろ、普通の患者さんと同じように栄養療法を開始するとRefeeding syndromeという病態に陥ってともすると命を落としてしまいかねません。

 Refeeding syndromeは、慢性低栄養患者さんにブドウ糖をドカンと投与した時に生じる代謝性合併症。ヘロヘロな患者さんでは代謝が異化(内因性のエネルギー供給)になっており、エネルギー源が脂肪とたんぱく質になっています。脳はグルコースが使えなくなっているのでケトン体を燃やしてエネルギーにします。肝臓では筋蛋白の消費を最低限にするため糖新生が抑制。そうなると細胞内のミネラルがどんどんと消費されてしまいます。そこに糖が急激に入ってくると、インスリンの上昇とグルカゴンの減少が生じ、糖質・たんぱく質・脂質は全て分解される方向にシフトします。この時、KとかMgが細胞内に取り込まれて低K血症やMg血症になり不整脈へ。さらにATP産生のためPが使われて、低P血症となって貧血、痙攣、横紋筋融解が起こって呼吸機能低下へ。ビタミンB1も大事で、慢性低栄養患者さんはビタミンB1が不足しています。栄養の投与で糖代謝がガンガン回って、そのためビタミンB1が消費されます。

 Refeeding syndromeは色んなものが一気に枯渇してしまうため、非常に怖い病態です。命取りとなってしまうので、神経性無食欲症や他の理由で食べられないことがずっと続いている患者さんでは、常にこれを頭に置いておきましょう。ルーチンの採血の他にMgやPをモニタリング!そして栄養投与はゆっくりと!最初は5-10kcal/kg/dayくらいから開始して、一週間程度かけて15-20kcal/kg/dayまで増やしていきましょうと言われています。栄養投与により上記のものの値が下がってくるので、適宜補うことが大事になります。慎重に行きましょう。
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