2012
04.02

栄養療法 Starter & Booster:第2回~栄養の投与経路は?

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 前回は患者さんの栄養状態の評価についてお話ししました。実際に栄養療法をしよう!となった場合、栄養の投与経路というものを考えましょう。点滴で入れればダイレクトに行き渡るから、やっぱ点滴と考えるかもしれませんが、ここで大原則。

“食べられる人には食べさせよう!腸が使えるなら腸を使おう!”

 何事も生理的なものに一番近いというのが身体に良いので、あえてそのシステムに歯向かうこともなかろうということです。ただ、食欲がわかないという患者さんもいます。原因は多岐にわたるので、一度マニュアルなどで食欲不振の項目を見ておくことをお勧めします。何か食欲が上がらないなぁという人には、食欲を上げるお薬を使うこともあり、ミルタザピン(リフレックス®/レメロン®)、オランザピン(ジプレキサ®)が代表選手(両者とも睡眠誘発、制吐作用を併せ持ちます)。漢方では六君子湯や人参湯が例として挙げられます。場合によってはこういうものも使いながら、食べさせていきましょう。人参湯は少し甘くて美味しい。

 胃腸は栄養が入っても大丈夫な状態だけど、ちょっと食べられんなぁという患者さんには、経腸栄養となります。6週間というのを目安にして、6週間未満で経口摂取に戻れると予想できればNGチューブ、それ以上かかりそうなら胃瘻(胃と腹壁の間に瘻孔をつくって胃の中に直接栄養を入れる)や腸瘻(胃瘻の腸バージョン)を原則として選択します。そもそも胃腸もちょっと使えない、例えば腸閉塞や吻合がちょっと怪しいのでそっとしておいた方が良い術後患者さんの一部などでは、経静脈栄養となります。ここでは2週間を目安にして、それ未満で経腸に戻れそうなら末梢静脈栄養、無理なら中心静脈栄養を原則として選択。

 腸を使おう腸を使おうと言うには訳があり、いろんな所で理由として挙げられているのがBacterial Translocationです。人間が腸を使わず放置していたら、腸は動かなくなり微生物の異常増殖と細菌叢の変化が生じます。分泌型IgAの不足が起こり、GALTやMALTといった腸管免疫システムが維持できなくなり、炎症があれば腸管浮腫や腸粘膜細胞の脱落、更に腸管にいる細菌や毒素が体内に侵入してしまいます。これは避けたい。他にも、腸を使わなければ胆嚢が働かず胆汁うっ滞になったり、はたまた静脈栄養でのリスク(刺入部からの感染や著しい高血糖など)になったりも。

 ということで、やっぱり腸を使うのは大事。とは言うもののNGチューブも胃瘻も100%安全というわけには行かず、それなりに侵襲がある方法。NGチューブでは嚥下困難になったり、喉頭に浮腫が起こったり、肺へ入れてしまうという手技の失敗、副鼻腔炎や中耳炎の発症、何より違和感抜群です。経腸栄養といえば胃瘻ですが、これにも感染や気腫とか胃潰瘍などなど、危険性はもちろんあります。更に誤解もあるのですが、胃瘻をしただけでは誤嚥性肺炎の完璧な予防にならないということなんです。これも意外なのが、腸瘻でも安心できる予防にならないこと。入れる栄養剤の速度を落としたり、栄養剤を液体からちょっと固体にしてみたり、患者さんの上半身を挙げてみたり、いろいろしているんですが決定的な予防は難しい。こちらが管理しやすいから胃瘻にするというのはもちろんいけません。こちらの提供できる客観的なデータ、そして患者さんとご家族の意見、きちんと議論の場を設けてこれらを加味しながら栄養ルートを考えるべきなんでしょうね。というようなことを述べるにとどめておきます。この問題は深すぎて。。。

 静脈を使った栄養では、絶えず感染のリスクが付きまといます。末梢静脈では栄養剤の浸透圧の関係から投与できるカロリーに上限がありますが、それでも大きな武器。後で述べますが、水分制限の必要のない患者さんであれば、アミノ酸製剤と脂肪乳剤を使った末梢静脈での栄養で1000kcal/day以上稼げるんですよ。侮りがたし、末梢静脈。しかし静脈炎や血管痛が起きることもあり、なかなか難しい。抹梢静脈から投与可能な輸液の浸透圧は700mOsm/kg程度が限界。ブドウ糖濃度だと10-12%ですが、多くの患者さんは10%でも厳しい。ビーフリード®などのアミノ酸製剤のブドウ糖濃度は7.5%になっているものが多いですが、これでも痛くて無理!という人も多く、末梢静脈栄養の限界が見えてきます。それよりも何よりも経静脈栄養は生理的でないというのがやっぱりデメリットですね。

 栄養療法を開始するのであれば、腸が使えるなら腸を使い、また最終的には経口摂取に持っていきたいなという気持ちを忘れずに行うことが重要です。
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コメント
はじめまして、いつも楽しく拝見させて頂いています。

当方ジプレキサ、六君子湯のお話非常に興味深いのではないかと思っています。

先生にご質問なのですが、制吐作用や食欲増進はやはりグレリン分泌増加の影響でしょうか?

またグレリン分泌増加が高血糖を引き起こしてくると考えて宜しいでしょうか。
新米病院薬剤師dot 2012.04.14 14:29 | 編集
>新米病院薬剤師先生 

はじめまして。コメントありがとうございます。
ジプレキサの制吐作用は様々な受容体にくっつくことによる、と言われていまして、主に中枢のH1、5-HT3、ACh、D2の受容体をブロックする複合的な効果です。
同じくジプレキサの体重増加、高血糖はH1や5-HT2Cに結合することがまずは言われています。しかしこれだけでは、体重増加を来さないにもかかわらず血糖値だけ上昇する患者さんもいることを説明できません。最近は膵臓の5-HT1Aやα2をブロックすることも関与しているのだろう、とする知見が出てきています。
オランザピンとグレリンとの関連はここのところスポットライトが当たり始めたようですが、グレリンの血中濃度との関連性はコンセンサスが得られていないというのが実情です(第14回日本臨床精神神経薬理学会では低下するという意見と上昇するという意見が出ていました)。
グレリン単独でヒトの制吐・体重増加・高血糖を説明は出来ないようです。なかなかヒトの身体は複雑ですね。。。もちろん、グレリンが病的に高値であればインスリン分泌を抑制し高血糖が持続するというのは事実です。
六君子湯による制吐作用や食欲増進はグレリンを上昇させることによるところが大きいと考えて良いかと思います(漢方は色んな成分が入っているので、グレリン上昇以外にも何か他の作用があり増強しているかもしれませんが)。
この様な回答でよろしかったでしょうか???
m03a076ddot 2012.04.14 18:35 | 編集
早速のお返事ありがとうございました。

オランザピンとグレリンとの関連にはコンセンサスが得られていないのですね。

近頃面白い文献を読んだのですが、CDDP投与後の脳下垂体のセロトニン受容体のmRNA発現を検討したものなのですが、5-HT2Cのみ発現増加だったようです(てっきり5-HT3が増加すると思っていました)。末梢の検討がなかったので何とも言えないとは思うのですが、制吐作用(特に悪心)においては5-HT3<5-HT2Cなのかとも考えたりしております(CDDP投与において5-HTが分泌され続ける文献も見当たらず、逆に分泌は数時間、即代謝される)。

そうならばCDDP投与時に六君子湯を使うように、悪心抑制と食欲増進を目的としたオランザピンはありなのではないかと考えている今日この頃です。

長々なってしまい申し訳ございません。いつも先生のBlogで勉強させて頂いております。




新米病院薬剤師dot 2012.04.18 18:36 | 編集
オランザピンとグレリンについては、Pubmedで調べても増える/減るの両方の結果が出ていまして。メカニズム的には減るんでしょうけど、どこかでタガが外れてフィードバックが上手くいかなくなり、増える患者さんもいるのかと思います。そういう患者さんが著しい肥満になるのかもしれませんね。
CDDPについては、小腸粘膜からセロトニンを放出させるようで、それが嘔吐中枢の5-HT3に働きかけることが急性嘔吐メカニズムの柱のようです。遅発性嘔吐にはサブスタンスPとNK1受容体が絡むようで、セロトニン系を抑えても効果は乏しいとなっています。
5-HT2Cは摂食系がメインですが、ひょっとしたら嘔吐の方でも何らかの作用をしているかもしれませんね。そういった意味では、薬剤師先生の仰るように様々な受容体に結合するオランザピンは効果が期待できる印象です。

勉強になるような内容ばかりではありませんが、暇つぶしくらいに読んでいただければ幸いです。
m03a076ddot 2012.04.19 13:27 | 編集
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