2012
03.07

救急外来で使用する検査項目~インフルエンザ迅速診断キット

目次→コチラ

 冬はインフルエンザのシーズンです。症状と身体診察ではなかなか特異的なものがなく、除外も診断も難しいのが実情。有名なJAMAのRational Clinical Examinationを引っ張り出してみましょう(1)。そこでは、陽性尤度比の高い所見はなく、陰性尤度比だと

発熱:LR-0.4
咳嗽:LR-0.42
鼻閉:LR-0.49

という程度。あまり役立ちません。60歳以上の患者に限定すると、発熱と咳嗽と急性発症の3点セットで陽性尤度比5.4、発熱と咳嗽のセットで陽性尤度比5.0となるので、まぁまぁ役立ちます。

 これもインフルエンザ関連では参考文献として良く出される別のシステマティックレビューでは、rigor(たぶん、いつもより症状がひどい・辛いという意味)の陽性尤度比が7.16となっており有用(2)。でもこんなものです。

 一言で言うと、難しい。。。季節(インフルエンザ流行期)と患者さん周囲の状況(曝露歴)で事前確率を決めざるを得ないのが実情でしょうか。Rigorに関連した経験では、救急外来の待合いのソファでたまらずぐたっと横になっていたり、崩れ落ちそうな感じで待っていたり、となっている患者さんを見ると「お、インフルかな」とシーズン中は思っていました(意外と当たる)。

 そんなこんなでとりあえずインフルエンザの検査、となりますが、キットの力はどのくらいあるのか見てみましょう。

 2012年のAnnals of Internal Medicineに掲載されたメタ解析を参考にします(3)。そこでは159の研究を解析しており、それらでは26のrapid influenza diagnostic tests (RIDTs:迅速インフルエンザ検査)が評価され、35%はH1N1パンデミック中に施行されています。これら研究を総合的に解釈すると、感度と特異度、尤度比は以下のようになりました。

感度62.3% (95% CI, 57.9%-66.6%)
特異度98.2% (CI, 97.5%-98.7%)
陽性尤度比34.5 (CI, 23.8-45.2)
陰性尤度比0.38 (CI, 0.34-0.43)

 陽性であればほぼRule inですが、陰性の時は自信を持ってRule outできないという結果。大事なのは、患者の年齢とインフルエンザのタイプによって感度が異なっていること。成人では低感度 (53.9% [CI, 47.9%-59.8%])で小児(<18歳)では少し高感度 (66.6% [CI, 61.6%- 71.7%])となり、インフルエンザAに対して高感度 (64.6% [CI, 59.0%-70.1%)とインフルエンザBに対する低感度 (52.2% [CI, 45.0%-59.3%)となりました。

 不十分なデータながらも、検体の違いでは正確性に差は無かったとしています(ただし、鼻咽頭から採取することが多くのガイドラインで勧められています)。サブグループ解析の結果は以下のようになりました。

Nasopharyngeal aspirate:感度66.6%、特異度97.8%
Nasopharyngeal swab:感度61.6%、特異度99.1%
Nasopharyngeal wash:感度50.7%、特異度98.1%
Nasal swab:感度65.9%、特異度99.2%
Throat swab:感度54.9%、特異度90.0%

 検体を採取する時間は、発症から24-48時間がもっとも検査に適しているとされました。発症初日では感度がだだ下がりなところは周知の通りですね。

スライド1


☆参考文献
(1) Does This Patient Have Influenza? JAMA.2005;293(8):987-997.
(2) A systematic review of the history and physical examination to diagnose influenza. J Am Board Fam Pract. 2004 Jan-Feb;17(1):1-5.
(3) Review: Accuracy of Rapid Influenza Diagnostic Tests: A Meta-analysis. Ann Int Med. February 21, 2012, 156 (4)

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☆インフルエンザの診断に光?

 この項目は検査所見ではないですが、インフルエンザ診断に有用そうなのでここに追加で記載します。

 上述のように、インフルエンザの診断に有用な症状や診察所見は乏しく、なかなか難しい。。。ですが、日本プライマリケア連合学会の英文誌(日本の論文雑誌だけど英語)に掲載された下の論文がちょっと話題になっています。

Posterior Pharyngeal Wall Follicles as Early Diagnostic Marker for Seasonal and Novel Influenza
General Medicine 2011; 12: p.51-60 .

 インフルエンザでは、喉の奥にイクラが張り付いている、というのです。そのイクラとは、咽頭後壁に出現するリンパ濾胞でして、名前がinfluenza follicleと付けられています。

 何とそれは、新型インフルエンザに対する感度100%、特異度97%という、眼を疑うような数字。季節性インフルエンザ(A/H3N2、A/H1N1、B)については2003年から2009年のものをretrospectiveに調べ、感度95.46%、特異度98.42%と、これも素晴らしいですね。

 しかもinfluenza follicleは発症早期から認められる様でして、ほとんどが初診時(発症から7.8±5.3時間)に認められたそうです(新型インフルエンザの初診時にのみ限定すると、感度95.2%、特異度91.3%)。迅速診断キットの初診時感度がこの論文では80%だったそうですから、いかにこの咽頭所見が早期に出るかが分かりますね。

 しかし、リンパ濾胞があれば良いと言う訳でなく、特異的なものと非特異的なものとがあるようです。論文では3タイプ挙げられています(論文中に画像があるので、是非見て下さい)。

1) Definitive influenza follicles
 半球状で、それぞれが孤立しており境界明瞭。直径1-2mmでサイズは殆ど同じ。Yamada/Fukutomiの胃ポリープ分類のII型のような形。濾胞は赤紫(マゼンダ)色でイクラのよう。インフルエンザ感染の初期に見られる。

2) Probable influenza follicles
 濾胞は時に癒合し、細長い感じ。Y/F分類のI型に相当。見た目は半透明で、3日間ほど続く。周囲の咽頭後壁粘膜よりも赤みが強い。濾胞は時に癒合する。これらの濾胞はインフルエンザ感染の中期(発症から数日後)に観察できる。

3) Non-specific follicles
 濾胞はしばしば互いに癒合し、大きくなって多形性を示す。Y/F分類ではII型からI型に変化すると言える。濾胞は境界明瞭で周囲がくびれていて白みがかった赤で、赤紫色から白に変化する。インフルエンザ感染の後期にみられることがあるが、特異的ではない。

 周囲よりも赤くて形が同じようなもので癒合に乏しい、というのがポイントの様です。要は、イクラっぽければインフル。時間が経つと赤みが消えてきて癒合し平坦気味になる、と言えそうです。観察には明るさ控えめLEDの白色光がオススメとのこと。

 気になる点としては、そんなに咽頭所見を上手く見極められるかしら??というのと、ゴールドスタンダードを迅速検査陽性→PCRで確定としているため、迅速検査の偽陰性があるかもしれない点(感度が下がる?)、そして、この論文の対象になった患者さんは多くが若者で高齢者がいなかったため、この所見が高齢者でも出るかどうか、というところでしょうか。後は母集団が少ないと言うのもありますね。

 でもインフルエンザの診察項目で有用なものがない現在、これはかなり期待して良い、というか期待してしまう所見。咽喉を見るのは大切なんですね。改めて教えられました。

 インフルエンザ、と診断する際は、”見逃してはいけない疾患”をRule outする考えを捨てずにいましょう。インフルエンザ流行期は完全に思考が停止してしまいます。何でもインフルエンザに見えてしまいますし、インフルエンザという診断で済ませてしまいたくもなります。

 c,f, 論文から引っ張って来ましたが、典型的なfollicleはこんな感じのものらしいです↓
nodo.jpg

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