2012
02.24

感染症診療 Starter & Booster:第13回~感染症診療の原則とは?-1

目次→コチラ

 ここまで色々とお話をしてきました。臨床微生物学、抗菌薬、そして真菌と抗真菌薬についても。ようやく感染症診療の総論とも言える、原則についてです。

 青木先生や大曲先生が仰っているように、論理的に以下の段階を踏んで診療に当たることが大事です。これは絶対に外さないこと。大曲先生の著書(感染症診療のロジック)から抜粋して少しだけプラス。

①患者背景を理解する
 ・年齢や基礎疾患
 ・曝露
 →微生物を推定する
②感染臓器を考える
 ・診断過程が進めやすくなる
 ・重症度を把握できる
 ・どのような微生物が原因か予測できる
 ・経過観察に役立つ
③原因微生物を探す
 ・微生物の推定:患者背景、感染臓器から
 ・微生物の同定:適切な検体提出、グラム染色や培養検査などで微生物の絞り込み
④抗菌薬を選択する
 ・特徴の理解:スペクトラム、臓器移行性を考慮
 ・自分のいる地域の抗菌薬感受性パターンを知る
 ・empiric:ターゲットを推定し、それに対して有効な抗菌薬を投与
 ・definitive:起因菌と感受性結果により抗菌薬を再選択
⑤適切な経過観察
 ・各疾患の自然経過の理解
 ・的確な臓器特異的マーカーを使う
 ・よくならない場合の仕切り直し、対処法
⑥自分自身にフィードバック
 ・実際の臨床で得られる手応えをしっかり得る


 これがポイントになります。

 感染症診療が得意という医師は、オールラウンドな医師でもあるんです。それ何故でしょうか?思うに、この原則がカギなのではないでしょうか。もう少し感染症っぽさを取り除いてエッセンスを抽出すると


背景を捕えて鑑別疾患の初期ランクを設定し、症状の原因となる臓器/疾患を問診・診察・検査により把握し、適切な治療方法と経過を理解することで患者さんを治癒の方向へ持っていく


こうなります。この流れは、私が診断推論でお話しした原則、全科に共通した原則でもあるのです。医療の原則とも言えるかもしれません。この大切なことを、少し詳しく見ていくことにしましょう。

1)患者背景の理解
 患者背景を理解することで、どの部位が感染しやすいか、原因微生物の種類などを考える際に可能性の重みづけが出来ます。肺炎でもCOPDや気管支拡張症の既存症がある、大酒家であるなどによって原因菌の可能性ランキングが変わってきます。また、高齢者は症状が非特異的で診察もはっきりしないという情報を知っていれば、ある程度の検査が必要だなとなってきます。先ほどの真菌ではやたらとリスクファクターが出てきましたが、こういう背景をきちんと得ておくことが非常に重要となってきます。どんな基礎疾患があるのか、性別や年齢、ライフスタイルなどは言うに及びません。前医で抗菌薬を使用されていたら、それがどの様な抗菌薬で、投与期間や投与量がどのくらいであったというのも有用な情報になります。

 患者さんの生活する場も重要で、それによりまずは市中感染か院内感染(より広く言うと、医療関連感染)かに大きく分けられることになります。院内感染はやはり特殊で、尿路や肺、カテ、オペ部位が感染部位として多くなり(これらで8割を占めると言われます)、他には偽膜性腸炎なども目にしますね。原因菌も院内感染では複雑になります。常にP. aeruginosaやMRSAなどに目を配らねばいけません。

 患者背景を丁寧に拾うことで、鑑別疾患や原因微生物のランク付けが出来るようになります。ここをおろそかにすると、考えなければいけない疾患が膨大になり、かつ判断のミスにつながってしまいます。
 
 患者背景には随分と特殊なものがあります。これは別個に覚えておきましょう。以下のようなものが挙げられます。

a)皮膚や粘膜のバリア障害(ルート、外傷/手術/熱傷、NGチューブ、化学療法など)
b)管腔の通過障害(腹部手術、がんによる閉塞、誤嚥など)
c)好中球減少と貪食能や遊走能の低下
d)細胞性免疫低下
e)液性免疫低下


c)~e)に関しては、単に免疫不全と一括りにするのではなく、免疫のどの機能が障害を受けているのかを調べましょう。実際の患者さんではどれか単独と言う訳ではなく、好中球減少と皮膚のバリア障害など、複数の要素が絡んできます。また、一部のがん患者さんでは易感染状態が時間とともに変化していきます。特に造血幹細胞移植ではくっきりと分かれている傾向にあるので、それを知っておくと感染の原因微生物の見当がつきます。

 以下にa)~e)の各要素を具体的に見て行くこととします。

a)皮膚や粘膜のバリア障害
 バリア障害があれば、当然そこからの侵入が予想されます。皮膚バリア障害では皮膚の常在菌が原因となりやすく、また、外界の菌が侵入しやすい状況なので、GPCや医療施設内にいるP. aeruginosaなどにも注意が必要。粘膜バリア障害では、溶連菌や嫌気性菌といった口腔内常在菌が問題となります。粘膜障害に伴う痛みのために嚥下障害が起こり、誤嚥による呼吸器感染を引き起こすこともあります。

b)管腔の通過障害
 これがあれば、その”閉塞”が原因となり感染症を引き起こします。最初の方にお話しした、GNRの感染形態でしたね。抗菌薬のみならず、その閉塞の解除を行うことが必要になります。

c)好中球減少と貪食能や遊走能の低下
 一般に、炎症となる部位にはまず好中球が集まってきて、患者さんには症状が出ます。好中球減少はその第一線の防衛が崩れていることになるので、症状が乏しくなり得ますし、免疫不全の中でも要注意。好中球減少の原因としては、血液疾患、化学療法、薬剤などが挙げられ、この状況で発熱すると発熱性好中球減少症ということになります。この疾患は大まかな特徴があり、発熱してから5日間と言う日数が1つの区切りになります。発熱して5日未満で大きな問題になるのが、P. aeruginosaなどのGNR、そしてMRSAやMRSEといった多剤耐性のGPCです。治療を行っても、発熱が5日以上続けば一部の真菌感染、特にCandidaAspergillusの2種類も考慮に入れなければ行けません。まとめると、以下の図になります(「がん患者の感染症診療マニュアル」より)。

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 ただし、固形がんの場合は好中球減少の期間が短いとされるため、真菌のことを過剰に心配する必要はないと言われます。好中球の貪食能低下は放射線治療、化学療法、ステロイド使用、糖尿病、腎不全、肝不全などによりもたらされます。原虫やウイルスは後述の細胞性免疫により駆逐されるものなので、好中球の障害では感染症の原因とはなりにくいことが分かるかと思います。

d)細胞性免疫低下
 細胞内に寄生する微生物に対し、好中球や抗体、補体などは効果的な攻撃手段を持ちません。こういう時に出番なのが、マクロファージやTリンパ球、NK細胞と言った細胞性免疫となります。この細胞性免疫低下では、やはり細胞内寄生をする微生物が問題になることが多く、その原因は、悪性疾患や感染症、医療行為などが挙げられます。前者には移植や急性リンパ性白血病、悪性リンパ腫、腎不全、肝不全、糖尿病、ウイルス感染そのものなど。後者にはステロイドや免疫抑制剤の投与などがあります。

 細胞性免疫低下の状態で感染を起こす原因菌は多岐にわたります。細菌でもListeriaNocardiaLegionellaといった変わり種や結核、真菌、ウイルス、そして原虫などなど、非常に多いのが特徴。以下に図としてまとめましょう(「がん患者の感染症診療マニュアル」より)。

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 好中球減少と比べると原因菌の同定に時間と手間とがかかってきますが、すぐに患者さんの命を奪うことは少ないので、腰を据えて鑑別していきましょう。細胞内寄生微生物の住みつきやすいリンパ節や骨髄の生検などが、侵襲的ではありますが診断のため重要となってきます。

e)液性免疫低下
 B細胞と抗原となる微生物との反応、免疫グロブリンを産生する形質細胞への変化などを指します。細胞外の細菌除去として機能します。脾臓は多くの抗原が通過し、また免疫グロブリンを産生し、免疫グロブリンが微生物に作用すし、免疫グロブリンによりオプソニン効果を受けた微生物を排除する場所です。また、莢膜を持つ細菌やグロブリンが結合していない微生物を除去します。よって、脾臓の機能障害や摘出は液性免疫にとっては屋台骨を失いかねない事態なのです。

 液性免疫低下の原因は、成人では多発性骨髄腫や慢性リンパ性白血病、造血幹細胞移植、HIV感染、脾臓の摘出や機能低下が挙げられます。特に脾臓の摘出、機能低下を来たしている患者さんの感染症は緊急事態です。摘出歴や機能低下を来たす疾患があれば、大事に扱いましょう。

 感染症の原因微生物には、莢膜を持つS. pneumoniaeH. influenzaeが多くを占め、3番目に重要なものとしてN. meningitidisが挙げられます。その他、Salmonellaや腸内細菌科、Bacteroides、イヌとの接触があればCapnocytophaga canimorsusというGNRも考慮。ウイルスではエンテロウイルス、原虫ではGiardiaなども可能性として浮上してきます。

2)感染臓器と微生物の理解
 感染臓器は、患者背景から得た知識と、問診と診察との組み合わせで多くの場合は知ることが出来ます。もちろん、必要な場合は検査をします。全てを問診と診察で済ませるのは無理なので、適切に検査を使います。この適切というのが難しいんですけどね。。。注意点は、検査結果はこれまでの情報から推測されるべきもので、予想外の結果が出たら必ず問診と診察に立ち返るということです。検査結果を盲信すると、振り回されてしまいます。また、どんなに頑張って感染臓器を検索しても見つからない時は、自信を持って「分からない」と言いましょう。青木先生の言うとおり、分からないことは、通常の感染症ではないことを示します。これは”不明”熱だなと定義することで、次の一歩を踏み出せます。

 微生物については、これまでの説明で大まかな理解が出来たかと思います。まずはどの菌がどこに常在しているかを知る必要があります。そしてどの様な臓器に感染を起こすのが得意かを知り、症状や診察、検査の所見なども併せて理解しておきましょう。特に患者背景と感染臓器とをセットにすることで、原因微生物との関係性がより色濃く見えてきます。

 次回が永らく続いた感染症診療の最終回ですが、検体の理解から入っていこうと思います。
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