2012
02.24

救急外来で使用する検査項目~D-Dimer

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 現段階の救急外来でD-Dimerが大きな意義を持つのは、以下の2点と思われます。

・大動脈解離の否定
・肺塞栓の否定


 大動脈解離について見てみましょう(1)。発症24時間以内に大動脈解離を疑われた患者でD-Dimerの値0.5をカットオフとした場合、感度96.6%、特異度46.6%であり、尤度比を計算するとLR+1.8、LR-0.07となります。これは除外に非常に有用。思いっきり疑っていた場合は、この検査が帰ってくる前に腎機能が悪くても造影CTを行うことが救命に必要な作業で、仮に空振りでも許されるでしょう。しかし、それほど疑っていないという状態で、造影CTまでするかな…?と思っているのであれば、このD-Dimerの値を見て決めて良いと考えます。検査前確率を10%と仮定すると、D-Dimer<0.5であれば検査後確率が1%未満になります(それでもゼロにはならないと言う事実は大事ですが)。この研究では、キットはBiosite社のものを使用しています。

 ただし、このD-Dimerは偽腔閉塞型の解離では上昇しづらいということが知られています。否定できなければ、やはり造影CTが決め手になると言うことは認識しておきましょう。ついでですが、大動脈解離を疑っているのに造影CTで空振りの時は、大動脈の分枝(腹腔動脈や上腸間膜動脈など)にも目を凝らしましょう。そこが解離している時もあります。また、単純CTや胸部Xpで解離を疑う画像所見としては、カルシウムサインというものがあります。動脈の石灰化に着目したサインで、それが血管の内腔に見えるということは、血管内膜が内腔側に寄っていると言うこと、つまりは解離を示唆すると言うことです。

 肺塞栓に関してはWells criteriaが有名。Wellsの通常版/simplified版とGenevaの通常版/simplified版の4つのスコアリングの精度は同等なので(2)、皆さんのよく知っているWellsのsimplified版を使うのが良いかと思います(simplified版は、Wellsの各項目を1点扱いとし、総得点が1点以下ならPE unlikelyとします )。それでunlikelyとなり、かつD-Dimerが基準値に入っていれば、否定に持って行きます。スコアリングのみで否定した場合、15%を見落とすとされており、D-Dimerを組み合わせることで誤診率を0.5%程度に下げられます。どちらか片方のみでは除外が難しいというのは覚えておきましょう。

 D-Dimerのみの場合は、2004年にシステマティックレビューが出ています(3)。ELISA法もしくはquantitative rapid ELISA 法での解析がダントツに優れており、0.5をカットオフとして、肺塞栓に対してLR-0.13となりLR+は1.5-2.5でした。Wellsでlikely、すなわち検査前確率が高いと推定された場合、このLR-を以てしてもなかなか安全な除外には結びつきません。疑い出すとキリがない、と言われてしまいそうですが。。。

 最近はSMA閉塞に代表される急性腸管虚血(acute mesenteric ischemia)にもD-Dimerが応用されてきています。2009年に発表されたある研究では感度94.7%、特異度78.6%と示され、LR+は4.4で微妙なラインですが、LR-が0.07くらいであり、Rule outにはとても有用(4)。用いた検査キットはbioMérieux社のものですが、この著者らはカットオフを3.17という高値に設定していました。

 とあるシステマティックレビューでは3件の論文を解析して、急性腸管虚血に対する感度89%、特異度40%とされ、LR+1.48でありLR-0.3でした(5)。LR-0.3という数字を見ると除外にも向かない検査かもしれないと思ってしまいます。

 新しいレビューでは感度が96-100%ではあるものの特異度が低く、またカットオフをどこに設定するかで検査特性が異なるとの記載があります(6)。

 個人的には、急性腸管虚血の中でもNOMI(Non-Occlusive Mesenteric Ischemia)は血栓閉塞性ではなく有効循環血漿量の低下で生じるものなので、これについてはD-Dimerは弱いのかと思います。もちろんNOMIでも時間が経てば炎症と凝固の両者がどんどん亢進するのでD-Dimerも上昇するでしょうが、閉塞タイプよりは早期に上昇しにくいのではないかと思います(偽陰性となりやすい?)。そして、急性腸管虚血は非常に診断が難しいもので、リスクファクターと病歴が何よりも重要になってきます。“他に診断が思いつかず、症状は悪くなる一方、D-Dimerや乳酸などの検査値も悪化していく”という時間軸を加味してのっぴきならない事態であれば、疑わしきは罰するという態度をとらざるを得ないというのが実情かも知れません。ちなみに、現在研究が行われていて有用であろうとされている検査項目にはD-lactate、 GST、そしてi-FABPというのがあります。

 D-Dimerは総じて疾患特異的でありません。ただし、思いっきり上がっていたら「??」と思って病歴を取り直すという態度は必要です。何かの見落としが浮かび上がることも経験されるでしょう。そしてD-Dimerも色々とキットがあり、それぞれカットオフが異なってきますから、困ったものだなと思います。名大病院は積水メディカルのナノピア®というラテックス凝集法を用いるキットを使っており、これだとカットオフが1.0になります。ただ、他社のカットオフと同等というのは完全に保証されてはいないというのが難しいところ。


☆参考文献
1) Diagnosis of Acute Aortic Dissection by D-Dimer. Circulation. 2009; 119: 2702-2707
2) Clinical Decision Rules for Excluding Pulmonary Embolism: A Meta-analysis. Ann Intern Med. 2011 Oct 4;155(7):448-60.
3) D-Dimer for the Exclusion of Acute Venous Thrombosis and Pulmonary Embolism: A Systematic Review. Ann Intern Med April 20, 2004 140:589-602
4) The correlation of the D-dimer test and biphasic computed tomography with mesenteric computed tomography angiography in the diagnosis of acute mesenteric ischemia; Am J Surg. 2009 Apr;197(4):429-33.
5) Systematic review and pooled estimates for the diagnostic accuracy of serological markers for intestinal ischemia; World J Surg. 2009 Jul;33(7):1374-83.
6) Current status on plasma biomarkers for acute mesenteric ischemia; J Thromb Thrombolysis. 2012 May;33(4):355-61.
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