2012
02.02

診断推論 Starter & Booster:第11回~疾患そのものを知るという大前提

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 最後に、これまでお話ししたところから、救急外来のセッティングですが診断への流れを以下に示します(せっかくなので、クリックで拡大)。



 この流れが、感覚的アプローチを俯瞰することになります。図の説明を少ししてみましょう。

☆病歴前確率
 ここから勝負が始まるので、十分な情報を得ておきましょう。適切な主訴・患者背景から鑑別疾患群が想起されます。主訴からは鑑別臓器をヒントに見逃してはいけない疾患と良くある疾患を思い浮かべます。想起しづらい鑑別疾患は個別に暗記しておくのが良いでしょう。そして、それらにおける4つの要素(緊急性・有病率・年齢・個別性)という軸を以て順位付けします。この中には尤度比が分かっているものもあるので、それは知っておいて損はないでしょう。主訴と患者背景では、犯人のアウトラインを被害者からある程度聞き出しておくと言えますね。これらはすべて、この段階での鑑別疾患群の基礎知識があってなされることで、その基礎知識を元に、実際に患者さんから情報を引き出し、考え、また引き出し、ということを繰り返して鑑別の確率をより確かにしていきます。図で言う基礎知識との照合ということになります。この照合は繰り返すという意識が大事なので、矢印はすべてのステップで双方向にしています。

☆診察前確率
 次は現病歴。これも闇雲に聞くのではなく、鑑別疾患群の典型的/非典型的な経過を頭に入れておかねばなりません。全部を知りつくすのは大変ですし、不可能でしょう。ある症状の有無には特定の疾患に特徴的なものがあります。尤度比で表現すると、この症状があること/ないことがこの疾患に対してどのくらいの尤度比を持つのかを知っておく、ということです。これを目標に疾患の勉強を。病歴の聴取では、研修医1年のうちは出来ればOPQRSTに則るのが聞き漏らしも少なくなると思います。特にOとTは見逃してはいけない疾患を考慮する上では念入りに聞きます。容疑者の顔の違いを整理して十分に知っておく、そして犯人のより細かな特徴を聞き、鑑別の順位付け、そしてさらに聞く。病歴で順位付けする、とは言いますが、実際これはかなり動的なもの。一回聞いて終わりではなく、聞いてる中でも順位の変動が頭の中で起こり、それによって聞く内容も変わってきたりします。絶えず照らし合わせ。それによって細かな違いも患者さんから聴取できます。図で言う経過知識との照合という奴です。

☆検査前確率
 診察も同様です。鑑別疾患群がそれぞれどういう診察項目で陽性・陰性となるのかを知っておきましょう。しかも、その診察結果がどのくらいのパワーを持つのか、換言すればどのくらいの尤度比を持っているのか、これを知ることです。特に救急外来ではTop to Bottomで診察というのは原則として行いません。鑑別となる疾患同士で違いが浮き彫りになるような項目を絞って行います。診察の所見いかんで、更にこの診察も追加、これはしなくても良い、などがわかってきます。診察知識との照合ですね。

☆検査後確率
 検査もそうですね。ついつい検査というのは結果が目に見えたり数字で出たりするので過信してしまい、また尤度比も病歴や診察に比べて研究されています。ですが、これまで積み重ねて出てきた検査前確率を無視せず、積分的な考えをしましょう。尤度比は、それのみを見るのではなく、一歩手前の確率と相談して行うべきもの。いくら尤度比が高い項目が引っかかっても、それまでの前確率が低ければ十分な根拠となりません。そして、検査項目の結果次第では、鑑別の順位が変わったり、更に検査が必要になったり、ということも起きます。これが検査知識との照合。

 背景情報、病歴、診察、検査。これらには尤度比の分かっていないものも数多くあります。そこをどう詰めるかが、感覚的確率アプローチでの“感覚”の要素でもあります。1つ前の項目でお話ししましたが、このアプローチではExperienceとEvidenceの両面から疾患を知るということが重要になってきます。鑑別に挙がる容疑者たちの顔をきちんと知らずして犯人を捕まえられるはずがないのです。これをいい加減にしか知らないと、最初に鑑別に挙げたとしても病歴や診察や検査で「違うかな」と弾いてしまったり「これだ!」と飛びついてしまったりすることになってしまいます。病名は知っているけどどういう病像をとるかあんまり良く知らない、というのでは全く役に立ちません。患者さんの話からとある容疑者の名前が想定された。でも、その容疑者の顔を知らなければ、患者さんに聞きようがないですね。患者さんは顔を表現することは出来ますが、その犯人の名前は知りません。“胸痛”という主訴から“自然気胸”という疾患名を鑑別として挙げても、「あなたの病気は自然気胸ですね?」と患者さんに聞いたって分かりません。捜査をするこちら側が、自然気胸について詳しく知っておく必要があるんです。

 診察前確率のところでお話ししましたが、各鑑別疾患の典型/非典型なコースを知っておき、それらの特徴の違いをはっきりさせておく、かつ“あいだ”としての問診を意識することが、適切な確率の配分へとつながります。診察前確率を大きく誤ると、いくら診察と検査の特性に熟知していても的確に診断に結びつきにくくなってしまいます。知っておくべきものは、有病率・緊急性・年齢・個別性を意識した病歴前情報、OPQRSTで整理された病歴、かつ有用な尤度比が得られている症状、これらです。鑑別に挙がる疾患がどういう病像を取りやすいのかは言うに及ばず、頻度は低いけれども取りうる病像も、特に「見逃してはいけない疾患」については熟知しておかねばなりません。そして、問診の際にはきちんと言葉の多義性を意識しましょう。日常語と専門語の意味を十分に知っておくべきです。その次に来るのが、先ほどもお話しした、正しい診察と検査の知識。

 私たちは似顔絵捜査官であるという例えをしました。容疑者である鑑別疾患群から犯人を探すには、それらの大きな特徴から理解し大まかに切り落としをし、詰めの作業を細部の特徴で行うことに尽きます。鑑別の対象になる疾患たちの像というものをどれだけそれらの間の差を意識して覚えておくかが、診断の鍵となるんです。結局は疾患の勉強か、と思うかもしれません。ですが、それを知らずして正しい病歴聴取は不可能ですし、勉強する部分も生きた知識が必要になってきます。鑑別疾患群の中に生まれる差をとらえましょう。

 感覚的確率アプローチとは、これまで述べたように、自分が鑑別に挙げた疾患の診断についての情報と、患者さんから引き出す情報との照合度合いを見るもので、お互いの情報をより詳しく知ることがその確率を上げる大きな要素となってきます。その中で、尤度比が出ているものについてはそれを適正に利用していきましょう。なので、疾患の情報についても正確に知っておき、患者さんからも上手く情報を引き出し、科学的な視点が得られているものの正しい知識を持っておく、この3点がとっても大事です。これらが噛み合わさって、診断が導かれてくると考えましょう。そして疾患の情報は、鑑別に挙がるものたちの間で、その違いを意識して覚えることが大事。

 図を見て分かるように、医者と患者さんをつないでいるのは知識です。これがあって初めて相互作用がなされていくんです。診断への道に素晴らしいファンタスティックな方法はありません。知識というのはとても大事なものなんですよ。その知識も、このレクチャーで述べたように整理をしながら体系だてていく。ごちゃごちゃした知識は役に立ちにくいので、自分なりに工夫をして臨床に役立つようにまとめることが肝心。

 最後に、医者の神様であるOsler先生の言葉を紹介します。


He who studies medicine without books sails an uncharted sea, but he who studies medicine without patients does not go to sea at all.
患者を診ずに本だけで勉強するのはまったく航海に出ないに等しいと言えるが、本を読まずに疾病の現象を学ぶのは海図を持たずに航海するに等しい


 
 この言葉付け加えるならば、その海図も正確なものであるべき、ということ。分かりにくい海図はかえってミスリードになります。正確な海図を持つことが、安全な航海に。その海図の重要性や着目点が、このレクチャーで少しでも分かってもらえたらと思います。

 ここでお話ししたことはあくまで総論。即戦力とはならないでしょう。しかし、各論のみ覚えて医療に当たるならば、それはその場しのぎの知識となってしまいます。総論で一本のスジを通して、その上に各論の知識を積み上げていく。この様なイメージが良いと思います。

 これで診断推論のお話はおしまいです。お疲れ様でした。
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