2012
01.25

診断推論 Starter & Booster:第10回~まだあるミスの原理

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 各ステップと尤度比の説明が終わったところで、ミスの種類を2つお話しします。以前挙げたものは、“主訴を取り違えてしまう”というものと“想起しない”というものでした。”想起しない”っていうのは、「主訴から想定しづらい臓器がある」こと、「臓器別ではない鑑別疾患がある」ことの2点でしたね。残りの2つをこれから説明します。

 1つは“鑑別に挙げた以降の間違い”です。これは“鑑別に挙げた疾患を容易に切ってしまう、もしくはそれに飛びついてしまう”という2点に分解されます。なぜそのような失敗を侵してしまうのか?

 大きな要因としては、鑑別疾患の臨床経過や診察や検査の特性を知らないことで、その結果に振り回されてしまうことが挙げられます。せっかく主訴・患者背景から鑑別順位を付けたものの、さほど重要でない症状から「この疾患だ!」と考えてしまったり、重要な症状があるのに「この疾患じゃなさそうだ」と切ってしまったり。各疾患の典型的/非典型的なコースを知っておかないと、自分の知っている疾患像からちょっと外れただけで除外してしまう、少しでも疾患像に似ていたら飛びついてしまう、ということがあります。また、診察や検査の力を過大評価してしまい、その前の段階での確率が高くても所見なし=疾患除外、確率が低くても所見あり=疾患確定という見方をとってしまうことが言えます。自分の行う診察、検査についてはどんな有用性と限界性を持っているのかを知り、かつ適切な前確率を設定する、これが鑑別を適切に行う大切な心構え。

 例えば、昨日から頻尿と排尿時痛があって高熱も出ていて尿も濁っている患者さん。ぶるぶる震えています。診察ではCVA tendernessが陰性でした。腎盂腎炎ならCVA tendernessがあると思い込んでいたら、この所見が出ないことで腎盂腎炎の鑑別順位をかなり下げちゃうかもしれませんね。

 尤度比はもちろん大事で、それを意識した患者背景獲得・病歴聴取・診察・検査を行うことで診断に到達します。しかし、これまで何度も言っているように、それだけを見て物事を決めてはいけません。問診なり診察なり検査なり、それをする1歩手前の鑑別疾患群の確率を適切に位置づける、このことがあって初めて尤度比は生きてきます。診断というのは積分的なものの見方が必要です。検査値1つで揺らいでしまう微分的な考えはよろしくありません。

 もう1つのミスは“言葉の取り違え”です。診察前確率のところでも出てきていましたが、ここで改めて。

 以前にお話ししたように、患者さんは患者さんの日常の世界を生きており、私たちは私たちの日常の世界と医学の世界の2つを生きています。患者さんからもたらされる症状の数々は、私たちの2つの世界により整理されます。そして私たちはまた必要な問診事項を患者さんの世界へ投じます。その繰り返しによって、患者さんの持っている像が描けてきます。この一連の作用を失敗してしまう、すなわち

・専門語で情報を交換しようとする
・日常語の多義性をとらえ損ねる

のであれば、こちらも正しい情報を手に入れることが出来ません。こちらに十分な疾患の知識があっても、それを患者さんに分かる言葉で聞くことが出来なければ、そしてその言葉の多義性を理解しなければ、その知識を生かせません。また、患者さんの言葉を適切に医学の世界に変換できなければ、疾患の知識と結びつきにくくなります。特に病歴においては、患者さんと私たちとの“あいだ”、そして私たちの中にある“あいだ”の2つを理解しましょう。

 自分のいう感覚的確率アプローチは、主訴と患者背景・病歴・診察・検査というステップを意識し、それぞれにおける鑑別疾患の確率を大まかにとらえることです。大まかにとらえるというのは、あらかじめ知識として持っている疾患そのものの典型的/非典型的な像、つまりは顔つきと、こちら側が患者さんから引き出した情報との照らし合わせです。昨今はエビデンスエビデンスと言われてはいますが、なかなか全てが数値としては出てきません。そこは我々の感覚が重要となってくるのです。その感覚の精度を上げるためには、敵の顔を十分に知っておかねばなりません。疾患そのものを知るという最も基本的な事柄が重要になってくるのです。この疾患の顔というのは、先人たちが記してきた経験。Evidence Based Medicineな部分とExperience Based Medicineな部分、両方の“EBM”を用いながら疾患を知っていきましょう。そして、患者さんから上手く情報を引き出すため、問診の精度を上げることも大事です。それには、“あいだ”を意識しましょう。疾患の知識を土台にして、適切な問診能力がその上に乗ることが、感覚的確率アプローチの基礎となります。

 ここで例を1つ。胸痛と冷や汗を訴える中年の男性患者さん。心筋梗塞を疑って12誘導心電図を取ってトロポニン-Tを測って、両方空振りだったので安心して帰宅させたら、実は。。。というのはパターンとして有名です。これは12誘導心電図とトロポニン-Tの特性を知らないため、陰性結果ということに大きく揺さぶられてしまったという事が言えます。心筋梗塞に対する12誘導心電図は、初回では50%ほどが正常心電図を示すとも言われているため、疑ったのなら何度もとって波形の変化が出てこないかを見るのが大切。トロポニン-Tは心筋梗塞の発症早期では陰性となることが多いということがあります。発症3時間以内では感度55.2%、特異度95.7%とされているので、LR+12.8、LR-0.47となります。この陰性尤度比を見ると、全く除外には向かないことが分かりますね(陽性になった場合、検査前確率を50%以上と見積もっていたら検査後確率は90%を超えます)。

 まとめると、ミスの原理と言うのは以下の様になります。”鑑別に挙げた以降の間違い”を2つに分解したので、ここでは5つあげています。



 こいつらを意識して勉強することが、ミスの少ない診断に近づく方法になります。びしっと意識してみましょう。そして、自分が間違えたとき、その原因を探りながらこの原理を見返してみてください。
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