2012
01.21

感染症診療 Starter & Booster:第9回~抗菌薬について知っておくこと-8

第9回目次→コチラ

8)良すぎる使い勝手、キノロン系
 乱用が問題視されているキノロン。細胞内のDNA合成酵素に働きかけるので、濃度依存性です。昔々のいわゆるオールドキノロンの代表がナリジクス酸ですが、耐性が多くなりすぎて今は使いません。これを第1世代とすると、第2世代以降が今使われているニューキノロン。代表例を挙げると第2世代がシプロフロキサシン(シプロキサン®)、第3世代がレボフロキサシン(クラビット®)、第4世代がモキシフロキサシン(アベロックス®)となります。世代の分け方は色んな先生が色んな事を言っているので、決まっているわけではありません。ちなみに2011年1月からレボフロキサシンの静注製剤が販売になりました。そして本当にどうでも良い知識ですが、クラビット®の名前の由来は「CRAVE(熱望する、切望する)IT」からCRAVITとし、待ち望まれた薬剤であることを表現したそうです。キノロンは色んな薬剤が開発されてますが、どれも似たり寄ったり。基本は上記の第2-4世代の3剤にして、他は覚えなくて(使わなくて)良いと思います。

 第1世代のスペクトラムはGNRでしたが、世代を経るごとにGPC、果てはBacteroides fragilis groupの嫌気性菌にまで広げて行ったという経緯があります。広げ方はセフェムと逆のパターンですね。ニューキノロンは何と言ってもP. aeruginosaに効くというのがポイント。これだけでも乱用すべきものでは決してないということが分かります。そして、結核に効いてしまうというのもあります。ニューキノロンを肺炎治療で使う時は、必ず結核を否定してからにしましょう。さもなければ中途半端に結核を治療することになってしまいます。感染症の専門医以外は、肺炎(疑い)の患者さんにはキノロンを”使わない”という方法を持つことが大切です。

 補:結核の診断前にキノロンを使用してしまうことで、結核患者さんの結核死亡リスクが上昇するという報告が出ました。培養や塗抹が陰性となってしまうようで、早期に見つかりにくくなることが原因(Fluoroquinolone exposure prior to tuberculosis diagnosis is associated with an increased risk of death; The International Journal of Tuberculosis and Lung Disease, Volume 16, Number 9, 1 September 2012 , pp. 1162-1167(6))。記事にしましたので、リンクはコチラから。

 どの様な細菌をターゲットにするかと言うのを大雑把に表すと

第1世代:GNR(腸内細菌科)
第2世代:GNR(緑膿菌含む)、細胞内寄生菌
第3世代:GNR(緑膿菌含む)、細胞内寄生菌、GPC(肺炎球菌)
第4世代:GNR(緑膿菌含む)、細胞内寄生菌、GPC(肺炎球菌)、嫌気性菌


 この様に発展しますが、第1世代のナリジクス酸を使うことは全くないと思います。各菌に対して見ていきましょう。

 P. aeruginosaへの活性の強さは、第2世代のシプロフロキサシンがキノロンの中では最強です。次点に第3世代のレボフロキサシン。GNRでは腸内細菌科はほぼカバーしますが、E. coliが最近は耐性を持ち始めていて怖いところ。他にH. influenzaeや、GNRの分類で出てきた「外部から侵入し消化管内に感染症を起こすGNR」つまりは細菌性腸炎にも効きます。しかし最近はよそ者のGNRもキノロン耐性を獲得してきているので、難しくなっていますStenotrophomonas maltophiliaには残念ながら効きません。

 細胞内寄生菌、特にLeginonellaに有効でこれは第一選択。MycoplasmaChlamydophila pneumoniaeもO.K.ですが、他の薬剤で治せるため無駄にキノロンは使わないようにしましょう。シプロフロキサシンは、STDを起こすChlamydiaにはあんまり効かないと言われています。

 GPCで言えば、MSSAもある程度カバーしますが、キノロンで治療するものではありません。そしてMRSAには効きません。腸球菌では、尿路感染なら良いかもしれませんが血流感染では使用を控えましょう。特に第4世代のモキシフロキサシンは尿への移行が悪いので、腸球菌によるものであれ何であれ、尿路感染に使用してはいけません。第3世代以降はS. pneumoniaeをカバーするのでレスピラトリーキノロンなんて言われますが、S. pneumoniaeを狙って出すものではないということは覚えておきましょう。他に良い薬があります。ま、総じてGPCを狙って使うものではありません、キノロンは。

 嫌気性菌は第4世代がカバーしているものの、それ単独で叩きにいけるかは分かりません。自分は嫌気性菌狙いで第4世代を使ったことはなく、少し怖いところ。というか第4世代自体使用経験ありません(モキシフロキサシンは肝障害の報告がありますね)。

 他には、MoraxellaNeisseria(髄膜炎菌、淋菌)に効果があります。しかし、淋菌は恐ろしいほどキノロン耐性が増えてしまい、ポンと簡単に治療は出来なくなってきています。

 E. coliが耐性を持ち始めている、とお話ししました。そこで1つ言いたいんですが、膀胱炎に対する治療。キノロン、特にクラビット®は膀胱炎にホイホイ出されすぎています。原因菌はE. coliが圧倒的に多く、結構この耐性には気を付けたいところ。更に現在の耐性もそうですが、将来的なことも考えるとたかが膀胱炎にクラビット®を使うのは「うーん」と思ってしまいます。S. pneumoniaeをカバーする必要もないですし。自分はST合剤(バクタ®)やホスホマイシン(ホスミシン®)を使っています。

 飲み方の注意としては、制酸剤(H2ブロッカーやPPI以外のもの)、Mgの下剤、鉄剤、牛乳などと一緒に飲むと効果が落ちるので注意。投与の間隔を2-3時間くらい空けましょう。副作用で有名なのは高齢者の中枢神経症状やアキレス腱断裂。相互作用もあり、QT延長やNSAIDsとの併用で生じうる痙攣など、使用薬剤のチェックを怠らないこと。特にワーファリンを使っている患者さんには注意しましょう。妊婦、授乳婦、小児には基本的に禁忌扱いです。2012年には、キノロン服用中の患者さんは網膜剥離のリスクが有意に高まるという論文が出ました(Oral Fluoroquinolones and the Risk of Retinal Detachment. JAMA 2012;307(13):1414-1419.)。眼には注意してなかったですね。。。

 補:キノロンが重篤な不整脈を引き起こすかもしれないという論文が出ています(Fluoroquinolones and the Risk of Serious Arrhythmia: A Population-Based Study; Clin Infect Dis. (2012) 55(11): 1457-1465)。この中では、ガチフロキサシンがダントツで、次にモキシフロキサシン、シプロフロキサシンが続きます。日常で使用する分には大丈夫でしょうが、薬剤相互作用は知らず知らずのうちに…ということもあるので注意が必要かもしれません。三環系うつ薬なんかはQTを延長させますしCYPも広範囲に阻害しますから、その併せ技で一本取られない様に。。。

 キノロンはカルバペネムと同様にスペクトラムが広く、使い勝手が良いと思われがちです。しかし、スペクトラムが広いということは、それだけ無駄が多いと言えなくもありません。どんどん使われてしまった結果、多くの菌がキノロン耐性になってきています。将来まで使えるように、使う状況を絞っていくことが大事です。カルバペネムにも同じことが言えますけどね。効く抗菌薬が適切な抗菌薬というわけでは決してありません。これは絶対に覚えておきましょう。
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